遺留分侵害請求という制度があることを知らなかった。相続から1年以上経過したが、遺留分侵害請求は可能か。

投稿日:
更新日:2024/09/30

遺留分侵害請求という制度があることを知らなかった。相続から1年以上経過したが、遺留分侵害請求は可能か。

遺留分侵害請求という制度があることを知らなかった。相続から1年以上経過したが、遺留分侵害請求は可能か。

(疑問点)

遺留分侵害請求という制度があることを知らなかった。相続から1年以上経過したが、遺留分侵害請求は可能か。

(回答)

遺留分侵害額請求権は、遺留分を請求する権利を有する人が、相続の開始および遺留分を侵害する贈与等があったことを知ったときから1年間行使しないときは時効消滅してしまいます。

制度の不知等によりこの期間を経過してしまった場合、争う方法としては、「遺留分を侵害する贈与等」があることを知らなかった、もしくは「贈与等の事実は知っていたが、それが遺留分を侵害するようなものだとは知らなかった」として、この時効期間のスタート地点を争う方法がありえます。

ただ、前者のようにそもそも贈与の事実自体を知らなかった場合は争いやすいですが、後者の場合、「その贈与等が遺留分を侵害する程度のものなのかもしれない」という程度の認識があれば時効期間はスタートするというのが実務上の取り扱いですので、この後者の主張はなかなか通りづらいかもしれません。

近いケースとして、「その贈与等が無効だと思っていた」という場合において、「民法一〇四二条にいう「減殺すべき贈与があったことを知った時」とは、贈与の事実及びこれが減殺できるものであることを知った時と解すべきであるから、遺留分権利者が贈与の無効を信じて訴訟上抗争しているような場合は、贈与の事実を知っただけで直ちに減殺できる贈与があつたことまでを知っていたものと断定することはできないというべきである(大審院昭和一二年(オ)第一七〇九号同一三年二月二六日判決・民集一七巻二七五頁参照)。しかしながら、民法が遺留分減殺請求権につき特別の短期消滅時効を規定した趣旨に鑑みれば、遺留分権利者が訴訟上無効の主張をしさえすれば、それが根拠のない言いがかりにすぎない場合であっても時効は進行を始めないとするのは相当でないから、被相続人の財産のほとんど全部が贈与されていて遺留分権利者が右事実を認識しているという場合においては、無効の主張について、一応、事実上及び法律上の根拠があって、遺留分権利者が右無効を信じているため遺留分減殺請求権を行使しなかつたことがもつともと首肯しうる特段の事情が認められない限り、右贈与が減殺することのできるものであることを知っていたものと推認するのが相当というべきである。」とした判例があります(旧法下の事案 最二小判昭和57・11・12民集36巻11号2193頁)。そのため、遺留分を侵害する権利を有する人が、単にその贈与等を無効だと思い込んでいたというだけで、その主張は通らないことになります。

上記のとおり、この遺留分侵害額請求権の1年間の期間制限はかなり厳格に扱われている関係上、時効期間の起算点を後にずらすという争い方はなかなか厳しいです。そのため、この争い方が難しい場合、遺留分を侵害する贈与や遺言自体を無効にしてしまうしか争い方がない場合があります。贈与や遺言の無効は、被相続人のその当時の判断能力の程度であったり、その当時の言動からして「そのような贈与や遺言をするはずがない」といえる状況証拠的な事実を収集したうえ丁寧に取り上げる必要があります。

いずれにしても、専門的な知識が必要な争いになってくる可能性が高い類型ですので、お困りのことがあれば弁護士へのご相談をお勧めします。

関連する記事はこちら

【著者情報】


家事部 部長 福岡県弁護士会(弁護士登録番号:45028)

2007年 慶應義塾大学法学部 卒業

2009年 慶應義塾大学法科大学院法務研究科 修了

2010年に司法試験に合格し、東京都内の法律事務所を経て、2014年より弁護士法人グレイスにて勤務

プロフィールはこちら>>