遺言書の保管

遺言書の保管

遺言書の保管

第1 自筆証書遺言の保管制度

1 自筆証書遺言の保管制度を設ける必要性

数ある遺言方式の中でも現実的に用いられているものは、公正証書遺言と自筆証書遺言が大半です。このうち、公正証書遺言は、公証役場で厳重に保管されますが、自筆証書遺言は遺言者自身の責任で保管しなければならないため、遺言者の死後に相続人らに発見されないままとなる危険や、他人による偽造・変造・滅失の危険が常に付きまとっていました。
こうした自筆証書遺言のデメリットを払しょくするために設けられたのが、2018年の民法改正に伴い制定された遺言書保管法(正式名称「法務局における遺言書の保管等に関する法律」)に基づく法務局による自筆証書遺言の保管制度です。

2 制度の概要

(1)保管機関

自筆証書遺言の保管機関は、法務局です。具体的な管轄は、遺言者の住所地もしくは本籍地、あるいは、遺言者が所有する不動産所在地を管轄する法務局とされています。

(2)保管の申請者

保管の申請者は、遺言者本人に限られ、その申請方式も遺言者自身による法務局への出頭に限られています。保管の申請に他者の関与を法が認めていないのは、遺言者以外の者による遺言書の偽造・変造防止という法の制定趣旨を貫徹するためです。

(3)保管される遺言書と保管の方法

保管対象と認められる遺言書は、自筆証書遺言のうち、法務省令で定める様式に従って作成された無封のもののみです。

法務局の遺言書保管官は、申請を受けると、遺言の方式要件の具備を審査し、適合しているもののみを保管します。こうした遺言保管官の関与を通じ、方式違反による無効の危険という自筆証書遺言特有の最大のリスクも払拭することができます。もっとも、遺言書保管官が審査できるのは、方式要件の具備という形式面のみであり、内容に関する審査権限まではありません。遺言事項が公序良俗違反に該当する危険を孕むものであっても、遺言書保管官はその有効性を審査する能力も権限もありませんので、形式要件を満たす限り保管を受け容れることとなります。

遺言書は、遺言書保管官がその原本を遺言書保管所の施設内で保管するとともに、その遺言書に係る情報をデジタルデータとして別途複製して保管します。これは、東日本大震災等の経験を通じ、物理的な保存方法の限界を立法が認識し、デジタルデータを活用した保存方法を併用することを政策的に採用したものです。

(4)遺言者による遺言書の返還・画像情報等消去請求(「保管の申請の撤回」)と閲覧請求

遺言者は、遺言書を保管している法務局に対し、いつでもその閲覧を請求することができます。また、遺言書の返還や画像情報等の消去についてもいつでも請求できます。ただし、これらの請求は、遺言者自らが当該法務局に出頭してしか行うことができません。

他方、遺言者であっても、保管されている自筆証書遺言のコピーや記載内容の証明書の発行を求めることはできません。遺言はいつでも撤回することができる不安定な法律関係にあるところ、その記載内容が世に出回ることで無用の紛争が発生することを回避するためとされています。

(5)遺言者以外の者の権利

遺言者以外の者の権利として、遺言書保管法は3つのものを定めています。①遺言書保管事実証明書の交付請求権、②遺言書の閲覧請求権、③遺言書情報証明書の交付請求権の3つです。

①の遺言書保管事実証明書の交付請求権とは、遺言書保管官に対し自己に関する遺言書保管の有無の照会を依頼し、該当する遺言書が存在する際は、その遺言書の作成年月日やその遺言書が保管されている遺言書保管所の名称・保管番号等の情報が記載された証明書(遺言書保管事実証明書)の交付を請求できるという権利のことです。この権利は、遺言者の生前でも認められます。

②の閲覧請求権は、遺言者の相続人や遺言書上で受遺者と記載された者、遺言書で遺言執行者と記載された者(これらの者を「関係相続人等」と呼びます。)に認められるものであり、該当遺言書の保管所に対し、遺言書の閲覧を求める権利のことです。遺言書保管官は、これらの権利者のうち一部の者に閲覧させた際は、他の該当者に対しても、遺言書保管の事実を通知する義務を負います。この権利は、遺言者の死亡後に初めて行使し得るものです。

③の権利は、関係相続人等に認められるものであり、遺言書保管所に対し、遺言書の記載事項を証明する書面(遺言書情報証明書)の交付を請求する権利です。遺言書情報証明書の交付請求は、遺言書原本を保管する遺言書保管所の保管官に限られず、全国の遺言書保管官に対して行うことができます。この権利も、閲覧請求権と同様、遺言者の死亡後に初めて行使することができるものです。相続関係人等の一部に対して遺言書情報証明書の交付が行われた場合、遺言書保管官が他の相続関係人等に対して遺言書保管の事実を通知する義務を負う点も閲覧請求の場合と同様です。

(6)検認の不要

遺言書保管制度が利用された自筆証書遺言では、検認の手続は不要とされます。官公署による遺言書の保管を通じ、遺言書の現状保全(証拠保全)の必要性が低下するためです。

第2 遺言公正証書の保管

遺言公正証書は、公証役場で保管されます。

遺言公正証書が作成された場合、公証役場は、遺言者に対して遺言公正証書の正本と謄本を交付します。また、推定相続人等の利害関係人には、当該遺言の閲覧請求権と謄本の交付請求権が認められますが、これらの権利を行使できるのは遺言者の死亡後に限られます。この点は、遺言書保管制度の場合と類似しています。従前、この閲覧請求や謄本の交付請求は遺言書が保管されている公証役場に出頭の上で行う必要がありましたが、現在では郵送による謄本の交付請求が認められています。

また、自身に関する遺言が作成されているか否かが分からない場合は、公証役場が作成している遺言検索システムを用いて該当遺言の有無を調査することができます。

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