相続放棄とは?手続きの流れと注意点について弁護士が解説
更新日:2024/11/11
「財産より借金が多い」
「相続のトラブルに巻き込まれたくない」
「個人と疎遠なため相続に関わりたくない」
このような場合には、無理に相続するのではなく「相続放棄」という手段も検討する必要があります。
相続放棄とは
相続放棄とは、法律的な観点から言うと、自分自身が相続人としての権利を手放す行為を指します。
まず「相続」とは、人が亡くなった際、その方が生前に持っていた財産や責任を、一定の近親関係にある別の人が引き継ぐことを指します。
亡くなられた方を「被相続人」と呼び、その方の権利や義務を引き継ぐ人を「相続人」といいます。そして、相続人が被相続人の財産や責任を受け継ぐことを「相続する」と表現します。
人が亡くなった瞬間をもって、その人を被相続人として「相続が開始された」といいます。
相続放棄の話に戻りますが、相続放棄とは、相続人としての権利を手放すことを意味します。したがって、この手続きは相続人でなければ行えません。
そのため、被相続人が存命中に相続放棄を行うことはできず、亡くなってから相続放棄の手続きを進めることが可能となります。
相続放棄の手続きの流れ
相続放棄の手続きは、一般に以下の流れで行います。
- 1. 相続放棄をするかどうかの判断
- 2. 必要書類の収集
- 3. 管轄裁判所の確認
- 4. 相続放棄申述書の作成
- 5. 管轄裁判所に申述書と添付資料を提出
- 6. 裁判所からの照会書へ回答
- 7. 相続放棄受理通知書の受領
相続放棄の手続きの1から5までのプロセスは、相続開始を知った時(被相続人の死亡を知った時)から3ヶ月以内に行わなければなりません。
ただし、どうしてもこの期間に必要な調査を済ませることができないような場合には、家庭裁判所に対して期間伸長審判の申し出を行うことで、この期間を伸ばすことができる可能性があります。
1. 相続放棄の手続きを行うか判断
相続放棄は、積極財産(預貯金などのプラスの財産)と消極財産(借金などのマイナスの財産)を比べて、後者の方が多い場合、あるいは多いことが見込まれる場合に合理的な手段となります。
明らかに後者が多いような場合は必要ありませんが、財産の状況が一切分からないような場合には、相続放棄を行うかどうかを判断するために相続財産の状況を調査する必要があります。
2. 相続放棄手続きの必要書類の収集
必要となるのは、被相続人の死亡の事実、死亡日及び最後の住所地が分かる資料と、申述者の相続人たる地位を裏付ける資料です。
一般には、被相続人の除籍謄本、被相続人の住民票除票(あるいは戸籍附票)と、関係戸籍一式がこれに該当します。
配偶者や第一順位相続人(子)が相続放棄を行う場合、関係戸籍は現在戸籍のみで済みますが、第二順位相続人(直系尊属)や第三順位相続人(兄弟姉妹)が相続放棄を行う場合には、先順位者の不存在を裏付ける戸籍や相続放棄受理証明書の収集が必要となります。
また、代襲相続人が相続放棄を行う場合は、自身の親が相続開始に先立って死亡している事実を裏付ける資料(戸籍・除籍全部事項証明書等)が必要となります。
3. 管轄裁判所の確認
相続放棄の手続は、家庭裁判で行う必要があります。家庭裁判は全国に存在しますが、どの裁判所でも行うことができるわけではなく、法律によって管轄が決まっています。
相続放棄に関する管轄裁判所は、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判です。また、各家庭裁判には支部が存在しており、住所地次第では支部での手続が求められます。
裁判所の管轄と支部の割振りについては、以下のページをご覧ください。
https://www.courts.go.jp/saiban/tetuzuki/kankatu/index.html
4. 相続放棄の申述書を作成する
相続放棄申述書の書式は、家庭裁判所から取り寄せるか、以下のページよりダウンロードできます。
https://www.courts.go.jp/saiban/syosiki/syosiki_kazisinpan/syosiki_01_13/index.html
申述人のことや被相続人のこと、相続放棄の理由、相続財産の概略など、必要事項の記入を終えたら800円の収入印紙を貼ります。
5. 管轄裁判所に申述書と添付資料を提出
作成した申述書と添付資料を管轄の家庭裁判所に提出します。窓口に持参するか、郵送によって提出することで申立てを行います。
申立て時に郵券(切手)の予納を求められます。予納すべき郵券額は、裁判所ごとに異なるため事前で電話して確認する必要があります。
6. 裁判所からの照会書へ回答
裁判所から、被相続人の死亡を知った経緯、相続放棄の理由、相続放棄が自分の意思なのかどうか等を確認するための照会書が届きます。
必要事項を記入し、裁判所に対して返送します。なお、相続開始を知った時として、申述書の提出時期より3ヶ月以上前の時点を記入すると相続放棄が受理されない可能性があるため注意が必要です。
7. 相続放棄受理通知書の受領
相続放棄に関する裁判所の事務処理が終わった時点で、申述者に対して、「相続放棄受理通知書」が郵送されてきます。
これは、相続放棄が無事受理されたことを通知するものです。
もっとも、相続放棄受理通知書は、相続放棄の有効性を保証するものではありません。相続放棄の無効原因(例えば、単純承認)などがあれば、相続債権者から事後的に相続放棄の無効が主張される可能性は依然として残ります。
相続放棄をすると相続税はどうなるか?
原則として相続税は負わなくてよい
相続放棄をした場合、その人は相続税を負担せずに済みます。相続放棄の法的効果は、相続開始時(被相続人の死亡時)に遡ってはじめから相続人でなかったことになる、というものです。はじめから相続人でない以上は相続税も負担する理由がない、ということになるのです。
相続税の申告もしなくてよい
先程のとおり相続放棄を行った方には、相続税の納付義務がありません。そのため、相続税については税務署への申告も行う必要がありません。
相続放棄しなかった相続人への影響
相続税の税額を決める計算では、「基礎控除」と呼ばれる一律の控除基準が存在します。
基礎控除は、「3000万円+600万円×法定相続人の数」で計算されます。
例えば、法定相続人の数が3人の場合、3000万円+600万円×3人=4800万円までの相続財産であれば、そもそも相続税は発生しないこととなります。
相続放棄との関係では、放棄者が出るとこの基礎控除額が減るんじゃないかと考える方がいますが、それは誤りです。
基礎控除の計算は「法定相続人」の数に応じて行うので、実際の相続人が何名いたかとは関係ありません。法定相続人の一部が相続放棄して実際には相続人でなくなったというケースでも基礎控除の額には影響がないのです。
もっとも、相続放棄者が出た場合、他の相続人の相続税額は増えます。
これは、基礎控除が減るからではなく、相続放棄によって相続人が減った結果として他の相続人の取り分が増えたことに対応する結果です。
相続放棄の注意点!相続税の納税義務を負う例外
もっとも、例外的に相続放棄者が相続税の納税義務を負う場合があります。それは、相続放棄者が死亡保険金などの「みなし相続財産」を受け取り、かつ、その金額が基礎控除額を超える場合です。
まず、そもそも相続放棄者が死亡保険金を受け取れるのかという問題がありますが、これは受け取ることが可能です。
死亡保険金は、保険料の対価として支払われるものであり、相続財産とは異なる保険金受取人の固有の権利(財産)だからです。
しかし、被相続人の死亡を原因として発生している点は他の遺産と共通するため、相続税法上は、相続財産と「みなし」て課税するという決まりになっているのです。
したがって、相続放棄をされた方でも、みなし相続財産を受け取り、かつ、その額が基礎控除額を超える場合は相続税額を申告し、納税を済ませる必要があります。
相続放棄の手続きに不安な方は弁護士へご相談
相続放棄は、財産より借金が多い場合やトラブルを避けたいときに有効な手段です。ただし、手続きは被相続人の死亡を知った日から3ヶ月以内に行う必要があり、裁判所への申請や書類の準備が欠かせません。
もし具体的な手続きに不安があれば、専門的なサポートの元に手続きを行うをおすすめいたします。私たちの弁護士法人グレイスでは、相続放棄に関するご相談を随時受け付けています。ぜひお気軽にお問い合わせください。