知らなかった借金を相続放棄できる?できるケースの条件や手続・対処法について弁護士が解説
更新日:2024/11/05
はじめに
家族が亡くなってから数年経ち、突然その家族が抱えていた借金の督促状・請求書が届いた……。
こんな相談は、実は多数寄せられます。ご家族が亡くなった際、めぼしい財産がなければ、遺産分割手続もせず、かといって相続放棄手続もせずに過ごす方が多いのではないでしょうか。特に、別居していて長く一緒に生活をしていなかったり、関係が希薄になっていたりした家族が亡くなった場合には、生前の生活状況が分からないことから、亡くなった方がどの程度の借金をしていたか、知るよしがありません。このような場合には、相続税の申告さえしないことが大半でしょう。
このような状況が理由となり、借金を抱える家族が亡くなったにもかかわらず、相続放棄をしないままで居る方もいらっしゃるのです。以下では、相続放棄についてご説明をします。
1.知らなかった借金を相続放棄できる?
さて、結論からすると、知らなかった借金を相続放棄することができるケースがあります。相続放棄に関しては、民法に以下のように定められています。
(相続の放棄の方式)
第938条 相続の放棄をしようとする者は、その旨を家庭裁判所に申述しなければならない。
(相続の承認又は放棄をすべき期間)
第915条第1項 相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。ただし、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。
(相続の放棄の効力)
第939条 相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす。
このため、相続人としては、「自己のために相続の開始があったこと」、つまり、①被相続人死亡の事実と、②自分が被相続人の相続人である事実の2つを知ってから3か月以内に、家庭裁判所に対して相続放棄の申述(申立て)をすることで、初めから相続人でなかったと扱われることとなるのです。
このように、相続放棄をすることで、相続人でなくなり、亡くなったご家族の資産も負債もいずれも相続しないでいることができます。
ちなみに、ご相談にいらっしゃる方の中には、「家族に対して相続放棄して遺産を受け取らなかったから、相続放棄は既にしました。」とお話しになる方が多いです。しかしながら、上述したとおり、家庭裁判所に対して相続放棄の申述をしないと正式な相続放棄をしたことになりませんから、注意してください。
2.期限を過ぎた後の相続放棄が認められるケースの条件
さて、それでは相続放棄が認められるケースの条件について、確認しましょう。
・亡くなってから3か月以内
当然ではありますが、上記のとおり、ご家族が亡くなったこと・自分がそのご家族の財産を相続する立場にあることを知ってから3か月以内であれば、相続放棄は認められます。
但し、ご家族が亡くなってから3か月以内であっても、法律上、相続を単純に承認したとみなされる行為を行ってしまうと、相続放棄ができなくなってしまいます(民法920条)ので、注意が必要です。例えば、亡くなったご家族の預貯金をおろして使うなどの相続人の財産に変動をもたらす行為や、亡くなってからご家族の負債を代わりに払ってあげる行為などがこれに当たり得る行為です。
このような行為をすると、相続放棄ができなくなってしまう可能性があります。亡くなったご家族に借金があるかもしれないとお感じになった場合は、早急に弁護士にご相談いただき、どういった対応をとるべきかご検討いただくべきです。
・借金が全くないと信じていた
ちなみに、法律上定められている3か月の期間を過ぎた場合であっても、相続放棄が認められる場合があります。
この点については、最高裁判所の判例により、上記事実を知ってから3か月経過後であっても、「3か月以内に……相続放棄をしなかったのが、被相続人に相続財産が全く存在しないと信じたためであり、かつ、被相続人の生活歴、被相続人と相続人との間の交際状況その他諸般の状況からみて当該相続人に対し相続財産の有無の調査を期待することが著しく困難な事情があって、相続人において右のように信ずるについて相当な理由があると認められる」ときには、相続放棄を認めるべきであるという判断が下されています。
つまり、①亡くなったご家族に相続するような財産が全くないと信じており、かつ、②亡くなったご家族との交流の有無等から、相続財産の有無の調査を期待できず、相続財産が存在しないと信じるような相当な理由があるといえる場合には、期間経過後の相続放棄も認められる可能性があるのです。ちなみに、ここでいう「相続財産がないと信じる相当な理由」については、様々な事情を裁判所に伝えて裁判官に判断をしてもらうこととなります。
ぜひ、相続放棄の期間が過ぎてから知らなかった借金が発見された方も、諦めることなく、まずは弁護士にご相談なさるべきといえます。
3.相続放棄の手続と注意点
次に、相続放棄の手続と注意点についてご説明します。
・基本的な相続放棄の流れ
基本的な相続放棄の流れは、以下のとおりとなります。
- ① 相続放棄申述書の作成・必要書類の入手
※亡くなったご家族との血縁関係やご自身が相続人であることを示すために、亡くなったご家族等の戸籍謄本類を多く集めることになります。 - ② 相続放棄申述書の家庭裁判所(※亡くなった方の最後の住所地を管轄する家庭裁判所)への提出
- ③ 裁判所からの相続放棄者への意思確認
- ④ 相続放棄の可否の判断
このような流れを経て相続放棄が認められた場合には、裁判所から、相続放棄受理証明書といった名称の証明書が発行されます。これらを借金の督促等をしてきた債権者に示すことで、借金の支払を免れることができます。
なお、相続放棄をしたことは、戸籍に記載される事項ではなく、裁判所が発行する証明書以外に公的な証明がありませんので、ご注意ください。
・遅れた理由を記述する事情説明書の提出が必要
ちなみに、上述したような相続放棄のための期間経過後に相続放棄の申述をする場合には、申述が遅れた理由を記述する事情説明書の提出が必須となります。ここで、上記判例記載の事情について細やかな説明をしなければ、裁判所が相続放棄を認めてくれる可能性はほとんど無くなってしまいます。また、この事情説明書には、例えば亡くなったご家族との別居期間を示す資料(住民票等)や、音信が途絶えていたことを示す資料などを、事細かに揃えて添付するべきです。
このように相続放棄のための期間を経過した後に相続放棄の申述をする際には、事情説明書の作成と的確な資料提出が必要となります。ご自身で手続をとって相続放棄が認められなかった場合、一度認めないという結論となってしまっている以上、これを覆すことはほとんど期待できません。ご自身でお悩みになる前に、ぜひ相続に慣れた弁護士にご相談・ご依頼ください。
・具体的な照会内容が必要となる場合
また、亡くなったご家族との関係がある程度良好で生前の交流があったり、そもそも同居していたりすると、「借金がないと信じたことに理由があるのだろうか?」と裁判所に疑念を持たれてしまいます。
このような場合には、例えばご家族の死後、具体的に亡くなったご家族に借金がなかったか、相続人としての調査・照会活動を行ったことを示す必要があります。そうすることで、裁判所に、「あぁなるほど。ここまで調査したけど見つからなかったのであれば、相続財産がないと信じたとしてもやむを得ないな。」と認定してもらうのです。
このためには、ご家族が亡くなった際には、たとえ財産がなさそうだと思っても、借金の有無だけでも調査を尽くしておくべきといえるでしょう。
4.借金があるか調べる方法
ちなみに亡くなったご家族の借金の有無を調べる方法としては、以下のような手段・方法があります。
・信用情報機関へ開示請求
まずは、信用情報機関への開示請求が考えられます。生前に借金があった場合、通常は、本人の死亡によって未払が発生し、信用情報機関に情報が掲載されることとなります。メジャーな信用情報機関はとして以下の3種類がありますので、これらの信用情報機関に、相続人の立場で開示請求をすると、借金の有無が概ね判明します。
- ①CIC(株式会社シー・アイ・シー)
- ②JICC(株式会社日本信用情報機構)
- ③KSC(全国銀行個人信用情報センター)
それぞれ、クレジットカード会社、消費者金融会社、銀行・信用金庫など、得意とする情報が異なりますので、上記の3種類全ての団体宛てに照会をかけることが必要となります。手数料は安価ですが、照会までに日数がかかるのでご注意ください。
なお、本人の死亡前ですと、個人情報保護の観点から、たとえ家族であっても信用情報機関へ開示請求しても情報が開示されませんので、ご留意ください。
・口座の取引履歴を調べる
次に有効なのが、預貯金口座の取引履歴を調べる方法です。借金・借入れがある場合、通常は、生前に毎月借金の返済がなされているはずです。毎月決まったところへの口座引落し・送金がないかご確認ください。
個人の方や、小さな業者からの借入れはこの方法によって判明することが多いです。また、預貯金口座に銀行名が記載されていたり、クレジットカードの利用料と思われる記載があったりすることで、新たな借金の把握ができる場合もあります。
・郵便物や遺品などを調べる
最後の手段としては、郵便物や遺品などを調べる方法が挙げられます。
上述したとおり、ご家族が借金をしていた場合には、その死亡によって未払が発生しますから、通常は郵便による支払の督促・請求が届くはずです。仮にご家族が最後に住んでいた賃貸物件を明け渡す場合であっても、例えば1年程度本人宛ての郵便物の転送をしてもらうようにするなど工夫をすることで、借金の早期発見ができる場合があります。
また、個人からの借入れがなされている場合には、もしかしたら借用書や返済確認表が作成されているかもしれません。1枚限りの紙だけだったりしますから、遺品整理時には注意が必要といえます。
5.期限を過ぎた後の相続放棄を弁護士に依頼すべき理由
以上のとおり、知らなかった借金を相続放棄できるかという点について、相続放棄のための期間を過ぎた場合も視野にいれながらご説明しました。ご家族が亡くなってから3か月といいますと、まだまだ悲しみ癒えない時期ですが、相続放棄について検討・準備をしなければならない重要なタイミングでもあります。ご家族が借金を抱えている場合には、早急な対応をご検討ください。この際には、弁護士に手続を委ねてしまうのも良いでしょう。
また、上述しましたとおり、相続放棄のための期間を過ぎている場合に相続放棄を認めてもらうためには、専門家である弁護士の助けが必要不可欠です。ぜひ、相続に慣れていて、それでいて信用のおける弁護士をお探しください。当事務所には、相続に関する経験豊富で、温かみのある弁護士が多数在籍しております。相続放棄にお悩みの皆さまからのご相談・ご依頼を心待ちにしております。