相続放棄しても生命保険金は受け取れる?受け取る条件と注意点を解説【非課税枠と税金は?】

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更新日:2024/11/12

相続放棄をしても生命保険金を受け取ることができますが、一定の条件では受け取ることができない場合もあります。

そのため、生命保険の受取条件を正確に理解することが不可欠です。

たとえば、「受取人が誰に指定されているか」や「保険契約の約款」によって取り扱いが異なります。また、非課税枠や税金のルールも複雑なため、受け取り前に確認しておきましょう。

この記事では、安心して手続きができるよう相続放棄と生命保険金の関係をわかりやすく解説いたします。

契約内容や手続きのポイントを理解し、スムーズに進めるための参考にしてください。

この記事でわかること

  • ・相続放棄後でも生命保険金を受け取れる場合の条件
  • ・保険金が受け取れないケースとその理由
  • ・解約返戻金の扱いやリスクについての注意点
  • ・生命保険金を受け取る際の税金と非課税枠の仕組み
  • ・生命保険金の受け取り手続きの流れと必要書類
  • ・専門家に相談すべきタイミング

相続放棄とは?生命保険金との関係性

「相続放棄」とは、亡くなった人(被相続人)のプラスとマイナス両方の財産を引き継がないことを選ぶ手続きです。相続人は、家庭裁判所に手続きを行うことで正式に放棄の意思を示します。相続放棄をすると、不動産や預貯金だけでなく、借金などの負債も引き継がなくて済むため、借金を回避する目的で利用されることが多いです。

しかし、「生命保険金」は通常の相続財産とは異なり、受取人に支払われる場合がほとんどです。このため、相続放棄をしたからといって必ずしも生命保険金を受け取れないわけではありません。ただし、受取人の指定や契約内容によっては例外もあるため、事前の確認が必要です。

相続放棄後でも生命保険金を受け取れる場合

相続放棄をした場合でも、生命保険金を受け取れるケースがいくつかあります。これは、生命保険金が受取人の「固有の財産」として扱われるためです。以下の条件に該当する場合、相続放棄をしても保険金は問題なく受け取れます。

1. 保険金受取人が相続人として指定されている場合

生命保険の契約書に「受取人が相続人」と明記されている場合、受取人は亡くなった人の遺産とは無関係に、保険会社から保険金を受け取る権利があります。これは、保険金が受取人の固有の財産と見なされるためです。

具体例:
たとえば、「長男が相続人」として受取人に指定されている場合、仮に長男が相続放棄を行ったとしても、生命保険金は遺産ではないため、受け取りに影響しません。

2. 特定の個人が受取人として指定されている場合

保険契約で「妻」や「長男」などの特定の人物が受取人に指定されている場合も、保険金はその人の固有財産となります。この場合、受取人が相続放棄を行っても保険金を受け取ることに問題はありません。

3. 受取人の指定がなく、約款で「相続人に支払う」とされている場合

保険契約に明確な受取人の指定がない場合、保険会社の約款によって「相続人に支払う」と規定されていることがあります。このケースでも、相続放棄をした人も含め、受取人として保険金を受け取る権利を持つと解釈されることが一般的です。

相続放棄後に生命保険金を受け取れない場合

一方で、契約内容によっては、相続放棄を行うことで生命保険金を受け取れなくなるケースも存在します。以下はその代表的な例です。

1. 被相続人自身が保険金受取人として指定されていた場合

保険契約において、被相続人(亡くなった方)が受取人として指定されている場合、その保険金は相続財産に組み込まれます。相続放棄をした場合、その相続財産に対する権利も放棄することになるため、保険金を受け取ることはできません。

具体例:
父親が受取人として指定されていた生命保険契約がある場合、父親の財産に組み込まれた保険金を子供たちは相続放棄後に受け取ることはできなくなります。

2. 解約返戻金が発生する場合

生命保険の中には、契約を解約したときに戻ってくるお金(解約返戻金)があるものがあります。解約返戻金は、相続放棄をした場合、相続財産の一部とみなされます。そのため、相続放棄を行った相続人は、解約返戻金を受け取る権利を失います。

生命保険金の非課税枠と税金のポイント

生命保険金は、相続税や贈与税の対象となることがありますが、特定の非課税枠も設けられています。以下のポイントを押さえることで、税金に関するトラブルを避けましょう。

1. 非課税枠のルール

生命保険金には、「500万円 × 法定相続人の数」という非課税枠が適用されます。たとえば、法定相続人が3人いる場合、1,500万円までの保険金が非課税となります。

具体例:
受取保険金が1,000万円の場合、法定相続人3人の非課税枠1,500万円内に収まるため、相続税は発生しません。

2. 税金の課税パターン

生命保険金の課税については、契約者・被保険者・受取人の関係によって異なる場合があります。

  • 相続税:保険契約者(被保険者が同一)が亡くなり、保険金受取人が相続人である場合、保険金は相続税の対象となる可能性があります。
  • 贈与税:契約者と被保険者が異なる場合、受取人が第三者であると贈与税が課税される可能性があります。
  • 所得税:法人契約の保険金が支払われた場合、所得税の対象となることもあります。

相続放棄後の生命保険金の受け取り手続き

保険金を受け取るためには、必要な手続きと書類の準備が欠かせません。一般的な内容として、以下のものがあげられます。

1. 必要書類の準備

  • 保険証券:契約内容の確認に必要です。
  • 死亡診断書:被相続人の死亡を証明するための書類です。
  • 受取人の本人確認書類:運転免許証やパスポートが一般的です。

2. 手続きの流れ

  • 1. 保険会社に連絡し、保険金の請求を申請します。
  • 2. 指定された必要書類を保険会社に提出します。
  • 3. 書類審査後、指定口座に保険金が振り込まれます。

専門家への相談が必要なケース

相続放棄後の生命保険金に関する問題は、契約内容によって複雑化することがあります。そのため、以下のような場合には、弁護士や税理士などの専門家に相談することをお勧めします。

  • ・保険契約が複雑で受け取り条件がわかりにくい場合
  • ・税金や相続の手続きに不安がある場合
  • ・家族間でトラブルが発生しそうな場合

まとめ:相続放棄後も生命保険を受け取れるケースを理解して安心の手続きを

相続放棄後でも、生命保険金を受け取れるケースは多くあります。ただし、契約内容や受取人の指定によっては受け取れない場合もあるため、事前の確認が重要です。また、非課税枠や税金の取り扱いについても理解しておくことで、手続きをスムーズに進め、トラブルを防ぐことができます。相続放棄をした後も、家族のために必要なお金を確保するためには、適切な判断が欠かせません。

専門家のサポートを受けることで、複雑な法的問題や税務リスクに対応でき、家族間のトラブルも未然に防げます。安心して手続きを進めるためには、事前に生命保険の契約内容や約款を確認し、必要があれば弁護士や税理士に相談することが大切です。

よくある質問(FAQ)

1. 相続放棄をしたら、他の相続人に生命保険金が渡りますか?

いいえ。生命保険金の受取人が特定されている場合、その人の固有の財産とみなされるため、他の相続人には渡りません。ただし、受取人が被相続人自身だった場合は、その保険金が相続財産として扱われ、放棄によって他の相続人に渡ることになります。

2. 受取人に指定されていたが、相続放棄後に保険金を拒否できますか?

受取人が指定されている場合、相続放棄とは無関係に受け取る権利が発生します。ただし、保険金を受け取るかどうかは個人の判断に委ねられ、「支払いの拒否」を保険会社に申し出ることは可能です。

3. 保険金の非課税枠を超えた場合、どうなりますか?

非課税枠(500万円×法定相続人の数)を超える部分については、相続税が課されます。受け取る金額が大きい場合は、専門家のアドバイスを受け、節税対策を検討することが推奨されます。

4. 解約返戻金をめぐるトラブルが発生した場合、どうすればいいですか?

解約返戻金は相続財産の一部とされるため、相続放棄を行った人は受け取れません。しかし、家族間でトラブルが発生した場合は、弁護士を通じて話し合いの仲介を依頼するか、調停を申請するのが効果的です。

最後に

相続放棄をした場合でも、生命保険金を受け取れるかどうかは契約内容に依存します。受取人の指定や約款の確認を怠らず、必要に応じて専門家のサポートを受けましょう。特に、解約返戻金や税金の取り扱いは複雑で、誤解が生じやすい部分です。

今後のトラブルを避け、家族の生活を守るためにも、冷静な判断と計画的な準備を心がけてください。

【著者情報】


家事部 部長 福岡県弁護士会(弁護士登録番号:45028)

2007年 慶應義塾大学法学部 卒業

2009年 慶應義塾大学法科大学院法務研究科 修了

2010年に司法試験に合格し、東京都内の法律事務所を経て、2014年より弁護士法人グレイスにて勤務

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