相続放棄後の管理義務は免除できる?土地や不動産の適切な対応を弁護士が解説【保存義務とは】

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更新日:2025/01/22

相続放棄したのに管理義務、どうして発生するの?
相続放棄すれば、すべて解決すると思ってたのに。

不動産を放置すると、近隣トラブルや法的責任が生じる場合があります。

相続放棄をしても、場合によっては土地や不動産を含む相続財産に対して一定の管理義務が課されることがあります。特に、2024年に民法が改正されたことで、不動産の管理義務(保存義務)の範囲や内容が大きく変更されました。

今回は相続放棄した後の土地や不動産の管理義務とその対応法について紹介します。

この記事で分かること!

  • • 相続放棄後の義務内容
  • • 2024年民法改正の変更点
  • • 管理義務の免除について
  • • 管理を怠った場合のリスク

1. 相続放棄による法的効果と管理義務の概要

相続放棄とは

相続放棄とは、被相続人の遺産(プラスの財産とマイナスの財産の両方)を一切受け継がない意思を正式に表明し、法律上の手続きを行うことを指します。

相続放棄を行うと、その効果は相続開始時(被相続人の死亡時点)に遡り、最初から相続人ではなかったものとみなされます。

これにより、被相続人の負債を引き継ぐリスクを回避できるため、多くの人がこの選択を検討します。

相続放棄後にも残る管理義務とは

相続放棄を行えば全ての責任から解放されると思われがちですが、法律上は一定の場合において管理義務が発生します。この管理義務は、被相続人が遺した土地や不動産が関係するケースで特に問題となることが多いです。

2. 相続放棄後の管理義務の法的根拠:旧法と新法の比較

2024年4月1日に施行された民法改正により、相続放棄後の管理義務の内容が変更されました。この改正によって、管理義務が発生する条件が明確化され、実務上の取り扱いも変化しています。

相続放棄後の管理義務についての旧民法940条の規定

旧民法940条1項では、相続放棄をした者が他の相続人や相続財産管理人が管理を開始するまで、相続財産を「自己の財産と同様の注意をもって管理」する義務があるとされていました。たとえば、以下のようなケースで問題が生じることがありました。

  • 土地の放置によるトラブル:
    放置された土地が雑草や不法投棄の温床となり、近隣住民から苦情を受ける。
  • •不動産の損壊リスク:
    崖地が崩落し、隣接地に被害を与えた場合、管理義務違反として損害賠償を請求される可能性。

このように、旧法では管理義務が広範囲に課されており、相続放棄者にとって大きな負担となっていました。

相続放棄後の管理義務についての新民法940条の規定

2024年の改正後、新民法940条1項では、管理義務が以下の条件に限定されました。

  • •現に占有している場合のみ:
    相続放棄を行った時点で相続財産(例:土地や不動産)を「事実上支配している」ときに限り管理義務が生じる。
  • •管理義務の終了時点:
    相続財産を他の相続人や清算人に引き渡すまで。

たとえば、被相続人名義の不動産に相続放棄者が住んでいる場合、「現に占有」しているとみなされ、その不動産について保存義務を負います。一方で、自身が占有していない財産に関しては一切の責任がなくなります。

また、民法改正に合わせて「管理義務」から「保存義務」へと呼称が変わりました。

3. 土地や不動産の管理義務における新民法での「現に占有」とは?

新民法における「現に占有」という概念は、相続放棄後の管理義務が発生するか否かを判断する重要な基準となります。

「現に占有」とは

「現に占有」とは、相続財産を事実上支配している状態を指します。これには、不動産に住んでいる、土地を使用している、またはその鍵や管理権限を持っている状況が含まれます。

具体例

  • 1.被相続人の自宅に住んでいる場合
  • 2.放置された土地を一時的に利用している場合
  • 3.不動産の鍵を所持しているだけの場合

占有していない場合の免責

一方で、相続放棄者が相続財産に触れていない、または管理権限がない場合には管理義務は発生しません。たとえば、被相続人の遠方の土地や不動産に対して何ら関与していない場合には、その財産についての責任は免除されます。

4. 相続放棄後に土地や不動産の管理義務が発生する条件・ケース

相続放棄をしても、特定の条件を満たす場合には土地や不動産に関する管理義務が生じます。この章では、どのような場合に管理義務が発生するのか、具体的なケースを挙げながら解説します。

管理義務が発生する条件

管理義務が発生するのは、以下の2つの条件を満たす場合です。

1.相続放棄の時点で相続財産を占有している

占有がある場合には、相続財産を他の相続人または相続財産管理人に引き渡すまで、その財産を適切に保存する義務が生じます。

2.相続財産が保存の必要性を伴う

土地や不動産のような財産は、適切な管理が行われなければ第三者に損害を与える可能性があります。このような場合には、管理義務が課されます。

相続放棄後に管理義務が発生する具体的なケース

1. 被相続人名義の不動産に住み続けている場合

相続放棄をしても、被相続人が所有していた自宅に住んでいる場合、その不動産は「現に占有」されているとみなされます。この場合、以下の義務が発生します。

  • •建物の老朽化防止
  • •鍵や重要書類の管理
  • •他の相続人や管理人への引き渡し準備

2. 被相続人の土地を一時的に利用している場合

相続放棄をしたにもかかわらず、その土地を駐車場や物置として利用している場合も、管理義務が課されます。この際、土地の損壊や第三者への迷惑行為を防ぐ責任を負います。

3. 放置された土地が第三者に影響を及ぼす場合

たとえば、被相続人が所有していた崖地が崩落の危険をはらんでいる場合、占有の有無にかかわらず、一時的な管理義務が問われるケースがあります。近隣住民への安全確保は特に重要です。

4. 相続財産に関与する責任を一部負っている場合

鍵や重要書類を所持している、管理を他人に委託している場合も、管理義務が発生する可能性があります。

相続放棄後の管理義務を免除する方法

管理義務は、一定の手続きを経ることで免除される場合があります。土地や不動産の管理に関する責任を完全に解放されるためには、適切な対応が必要です。

1. 管理人への引き渡しを行う

管理義務を免除する最も確実な方法は、相続財産を他の相続人または相続財産管理人に引き渡すことです。以下の手続きが一般的です。

  • •不動産の鍵や関連書類を管理人へ渡す。
  • •引き渡しの事実を記録するために書面を交わす。
  • •必要に応じて法務局で登記変更手続きを行う。

引き渡しを完了することで、相続放棄者は管理義務から解放されます。

2. 管理義務の範囲を明確化する

法律上の義務が明確になっていない場合、トラブルを回避するために専門家に相談し、管理義務の範囲を確認することが重要です。弁護士や司法書士のアドバイスを受けることで、責任の範囲を明確化し、余計なトラブルを防ぐことができます。

3. 管理業務を第三者に委託する

不動産の管理に関する責任を負うことが難しい場合、不動産管理会社に業務を委託する方法があります。これにより、実務的な管理義務を専門家に任せ、リスクを回避することが可能です。

4. 早期に法的手続きを進める

管理義務は、相続財産の引き渡しが遅れることで長期化する場合があります。手続きを迅速に行い、引き渡しを完了することで責任を早期に解消することができます。

相続放棄後の管理義務を怠った場合のリスク

相続放棄後に課される管理義務を怠ると、法的および社会的に多くのリスクを負う可能性があります。ここでは、具体的なリスクについて詳しく解説します。

1. 賠償責任を負う可能性

管理義務を怠った結果、第三者に損害を与えた場合には、賠償責任を負うリスクがあります。

•例:土地の崩落

崖地を放置し、崩落によって隣接地に被害が及んだ場合、修復費用や損害賠償を請求される可能性があります。

•例:建物の劣化

空き家の不適切な管理により、火災や不法侵入が発生した場合、周囲に与える被害に対して責任を問われることがあります。

2. 近隣住民とのトラブル

土地や不動産を放置することで、近隣住民との関係が悪化する可能性があります。たとえば、以下のような事例が挙げられます。

  • •雑草やゴミの放置による苦情
  • •不法占拠者が発生した場合の地域環境への悪影響

3. 信用の低下

管理義務を怠ることは、社会的信用の低下にもつながる可能性があります。不動産が公共の安全に関わる場合、地域社会や行政からの指導や罰則を受けるリスクも存在します。

4. 法的手続きの遅延による負担増

適切な管理を行わなかった場合、他の相続人や関係者から法的措置を取られる可能性があります。この場合、訴訟費用や和解金の負担が生じる可能性があるため、早期対応が重要です。

これらのリスクを回避するためには、管理義務が発生する条件を正しく理解し、適切に対処することが求められます。土地や不動産の管理に不安がある場合には、早めに専門家へ相談することをおすすめします。

まとめ

相続放棄を行った後でも、特定の条件下では土地や不動産に関する管理義務が発生する可能性があります。特に、2024年の民法改正により、相続放棄者が負う責任の範囲が明確化されました。「現に占有」している財産に限られることで、以前より負担は軽減されましたが、それでも管理を怠ると賠償責任や近隣トラブルなど多くのリスクが生じる可能性があります。

この記事では、以下のポイントを解説しました:

  • •管理義務が発生する条件:占有の有無が重要なポイント。
  • •管理義務を免除する方法:迅速な引き渡しや第三者への委託が有効。
  • •管理義務を怠った場合のリスク:損害賠償や信用低下の可能性。

相続放棄を検討する際は、土地や不動産の管理責任について十分理解し、適切に対応することが重要です。少しでも不明点や不安がある場合は、専門家に相談することでトラブルを未然に防ぎましょう。

相続放棄の管理義務についてのよくあるご質問

Q1: 相続放棄をした場合、すべての財産から解放されるのですか?

A: 原則として、相続放棄を行うことで被相続人の財産や負債から解放されます。しかし、相続放棄の時点で土地や不動産を「現に占有」している場合は、その財産に対して一定の保存義務を負います。この保存義務は、財産を引き渡すまで続きます。

Q2: 管理義務を免除するための具体的な手続きは何ですか?

A: 管理義務を免除するには、相続財産を他の相続人や相続財産管理人に速やかに引き渡すことが必要です。不動産の場合は、鍵や関連書類を引き渡し、可能であれば引き渡しの事実を記録する書面を交わすことが望ましいです。

Q3: 管理義務を怠った場合、どのようなペナルティがありますか?

A: 管理義務を怠ると、近隣住民や相続債権者から賠償請求を受ける可能性があります。また、行政から改善命令や罰則を課される場合もあります。適切な管理を行い、トラブルを防ぐことが重要です。

Q4: 自分が占有していない土地や不動産も管理義務が発生しますか?

A: 自分が占有していない相続財産については、管理義務は発生しません。占有とは、財産を物理的または事実上支配している状態を指します。

Q5: 専門家に相談するメリットは何ですか?

A: 弁護士や司法書士に相談することで、管理義務の範囲や免除の手続きについて正確なアドバイスを受けることができます。また、早期に対応することで不要なトラブルやリスクを回避することが可能です。

最後に

相続放棄は、被相続人の負債を回避する有効な手段ですが、放棄後に残る管理義務についても十分理解しておくことが大切です。

特に土地や不動産は、放置することで法的な問題や近隣トラブルを引き起こす可能性があるため、迅速かつ適切な対応が求められます。

相続問題は家族間の関係や財産状況により複雑化しがちです。疑問点や不安を解消し、スムーズに手続きを進めるためにも、法律の専門家に相談することをおすすめします。

適切なアドバイスを受けることで、あなたの不安を軽減し、最良の選択をサポートします。

【著者情報】


家事部 部長 福岡県弁護士会(弁護士登録番号:45028)

2007年 慶應義塾大学法学部 卒業

2009年 慶應義塾大学法科大学院法務研究科 修了

2010年に司法試験に合格し、東京都内の法律事務所を経て、2014年より弁護士法人グレイスにて勤務

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