紛争を回避するために

投稿日:
更新日:2019/01/31

紛争を回避するために

紛争を回避するために

相続に特化した弁護士として日々、皆さまの紛争に立ち会う中でよく伺う言葉の中に「昔はあんなに仲が良かったのに・・・なんでこうなってしまったんだろう。」という言葉があります。過去にどんなに仲の良い兄弟姉妹であっても、長い年月を重ねる中で、結婚、病気、介護、認知症の発症、事業での失敗等の大きな出来事をきっかけに一気に険悪な仲になりかねません。

紛争を100%回避することはできませんが、事前の対応で限りなく100%に近づけることは可能です。以下、いくつかの有効な手段を紹介させていただきます。

1. 遺言

被相続人が事前に何らの定めもなく死亡した場合、どの財産をどのように分割するかについて紛争となるケースが数多くあります。そのような事態を防ぐ為、事前に遺産分割の対象とする財産と遺産分割の方法を定める手段として、いわゆる「遺言」があります。

一般的によく利用される遺言の種類としては、遺言者が、遺言書の全文、日付及び氏名を自分で書き、押印して作成する方式の「自筆証言遺言」と、遺言者が遺言の内容を公証人に伝え、公証人がこれを筆記して公正証書による遺言を作成する方式の「公正証書遺言」があります。

いずれの遺言も、方式と要件を具備している限り有効ですが、後々の紛争のリスクを抑える為には、「公正証書遺言」の方がより適切であると考えます。

ただし、複数の相続人がいるにもかかわらず、その1名のみに遺産の全てを相続させるような内容の遺言は、他の相続人の遺留分を侵害するものとなり、後に遺留分減殺請求訴訟当の紛争の原因になりかねません。

2. 成年後見制度

紛争になりがちなケースとして、被相続人の判断能力が低下し始めてから亡くなるまでの間に、「被相続人の生活費」といった名目で多額の使途不明金が発生するような場合があります。

成年後見人が選任されると、成年被後見人の財産は、裁判所の監督の下、成年後見人が管理することとなります。その為、お金の流れが明確になり、使途不明金が発生する可能性は極めて低くなります。

その結果、成年被後見人が亡くなられた後の使途不明金をめぐる紛争を防止することになります。

3. 任意後見契約

法定の成年後見制度は、一般的に本人の判断能力の低下が見え始めた後に、利害関係等の申し立てによって成年後見人が選任されていきます。もっとも、必ずしも申立人が成年後見人に選任されるわけではなく、また、成年後見人の義務や権限が法律上に規定されている為、柔軟な運用が期待できません。

これに対し、任意後見契約を利用すれば、本人の判断能力が低下し始める前に、本人の意思で、誰を後見人に選任し、どのような範囲まで後見人に委託するのかという点を厳密に詰めていくことができます。

遺産相続における紛争の多くは、被相続人本人の意向が明らかでないことから、各々が自身にとって都合の良い主張を繰り広げる為に発生します。その為、被相続人の意思を明らかにすることができ、かつ柔軟な対応が可能な任意後見契約は、紛争防止の手段としても非常に効果的なものです。

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【著者情報】


家事部 部長 福岡県弁護士会(弁護士登録番号:45028)

2007年 慶應義塾大学法学部 卒業

2009年 慶應義塾大学法科大学院法務研究科 修了

2010年に司法試験に合格し、東京都内の法律事務所を経て、2014年より弁護士法人グレイスにて勤務

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