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相続放棄は、戸籍の取り寄せを決められた期間以内に行う必要があり、
そのような手続きを慣れていない方にとっては容易ではないと思います。

ご心配な部分がある方は
弁護士にご相談ください

相続放棄を考えている方へ

相続放棄を一言で言うと

相続放棄とは、一言で言うと、相続人が故人(被相続人)の相続人の地位を放棄する手続です。ポイントは、個別の遺産に対する権利の放棄ではなく、「そもそも相続人ではなくなる」ということです。これにより、相続にまつわる権利も義務も全て取得せず、負担もしないこととなります。特定の遺産だけを対象に相続放棄を行うことはできません。

相続放棄のメリット

相続放棄のメリットとしては、故人(被相続人)の借金などの債務を引き継がなくてよくなることです。また、遺産分割のトラブルからも解放されます。遺産分割協議は、相続人たちにとってとても大きなストレスになりがちですが、そうしたストレスから逃れることができます。当初から相続放棄をすることを決めている場合、負担の大きな遺産調査や債務の調査を行う必要もなくなります。

相続放棄のデメリット

相続放棄のデメリットは、故人(被相続人)に債務を超える財産があった場合に損をするかもしれないということです。プラスの財産が100万円あって、借金が90万円あると言うような場合、差し引きすると10万円のプラスが遺産として残ります。こういった場合は、相続放棄しなければ、残った差額のプラス財産について法定相続分に応じた利益を受け取ることができますので、相続放棄すれば損となります。
※遺言が存在しないことを前提に説明しています。

相続放棄の手続(必要な書類と提出の流れ、申立ての期限)

相続放棄の手続を行う際は、家庭裁判所に相続放棄の申立てを行います。

家庭裁判所は、各都道府県ごとに存在していますが、故人(被相続人)の最後の住所地を管轄する裁判所に申し立てる必要があります。また、各都道府県の中には、本庁の他に支部が存在して事件の割り振りを決めています。支部に提出する必要があるかどうかは、各都道府県ごとの家庭裁判所ごとに確認する必要があります。

この際に、申立てを行う方が、相続人の地位を裏付ける資料(戸籍謄本など)を準備する必要があります。他の方が相続放棄したことによって初めて相続人になったと言う方は、相続放棄を行なった方の相続放棄受理証明書を取得して添付する必要があります。

相続放棄の申立ては、相続開始から3カ月以内に行わなければなりません。何もしないままこの期間が過ぎると相続を「単純承認」したものと扱われてしまいますので気をつけてください。

相続放棄は一度行った場合、事後に撤回することができないのが原則ですが、特殊な事情があれば後から取り消すことができる場合があります。

注意点!相続放棄をする前に知っておくべきこと

相続放棄には期限があります。期限は3ヶ月です。何もしないままこの期限を過ぎた場合、基本的に相続放棄を行うことはできませんので注意が必要です。

では、この3ヶ月の期限がいつからスタートするかですが、法律上は「自己のために相続の開始があったことを知った時」とされています(民法915条1項)。分かりづらい表現ですが、原則は、故人(被相続人)の死亡を知った時とされています。ただし、先順位の相続人が相続放棄したことによって後順位の方が相続人の地位に立つような場合(例えば、被相続人の子が相続放棄し、直系尊属が存在しないため被相続人の兄弟姉妹が相続人となるような場合)は、先順位者が相続放棄したことを知った時が「自己のために相続の開始があったことを知った時」になります。

相続放棄と税金

相続放棄を行った場合、相続放棄を行なった方は、相続開始時にさかのぼって相続人でなかったことになります。

そのため、税法上も、相続放棄を行なった相続人は、相続税を負わないことになります。当然、申告義務もありません。ご安心ください。

相続放棄を弁護士に依頼するメリット

相続放棄を法律の専門家である弁護士に依頼するメリットとして次のような点が挙げられます。

  • そもそも相続放棄すべきかという点から助言を受けられる。
  • 期限管理や必要資料の取得から申述まで必要な手続の全てを代行してくれるので安心。
  • 相続放棄に派生するトラブルや紛争にも援助を求めることができる(他の相続人や債権者からのクレームないし法的主張など)。
  • 複雑な相続関係の場合でも問題なく対処できる。

相続放棄でグレイスが選ばれる
4つの理由

手厚いサポート

 相続放棄では、関係戸籍の収集、管轄裁判所の確認、相続放棄申述書の作成・提出、裁判所から指示があれば親族関係図の作成、熟慮期間内の手続不能の際は期間伸長審判の申立てなど行うべき事柄が色々あります。

 弁護士法人グレイスでは、ご依頼いただければこれらの手続すべてを責任を持って行います。

 不明な点があれば、いつでも電話・メールにてご説明差し上げますのでご安心いただくことができます。

高い専門性

 弁護士法人グレイスには相続事件に精通した弁護士が複数在籍し、各弁護士が1件1件責任を持った対応を行っています。

 相続放棄は、間違いが行った際のリスクが極めて高い手続ですが、そうしたミスが万に一つも発生することがないよう、我々は万全の体制で各事件にあたっております。

簡単な手続

 簡単な面談の上、ご依頼をいただくだけで後はすべて弁護士法人グレイスが対応いたします。

 面談は、直接ご来所いただく必要はなく、ZoomやLINEによるビデオ通話面談で行うことができます。

 契約手続もEメールを通じた電子契約が可能ですので、手続自体がとても簡単です。

スピーディーに対応

 弁護士法人グレイスでは迅速な仕事を心がけております。

 少しでも早くクライアントにご安心いただけるよう、契約後直ちに仕事に着手いたします。

相続放棄の弁護士費用

着手金
一律11万円
報酬金
相続放棄完了者×1万1000円

「相続放棄」は、初動の対応を誤ってしまうと
予期せず多大な損害を被りかねません。
少しでも相続放棄をご検討中の方は
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相続放棄の基礎知識

相続放棄とは

 相続放棄とは、法律的に言えば、相続人としての地位を自ら放棄する行為といえます。

 そもそも「相続」とは、人が死亡した場合、その亡くなった方が生前に持っていた権利や義務を、その方と一定の近親関係にある別の人が引き継ぐことをいいます。

 亡くなった方を「被相続人」、その方の権利や義務を引き継ぐ方を「相続人」と言い、相続人が被相続人の権利・義務を引き継ぐことを「相続する」と呼ぶのです。

 そして、人が亡くなった時点をもって、その人を被相続人とする「相続が開始した」といいます。

 相続放棄の話に戻りますが、相続放棄は相続人の地位を放棄することですので、相続人しか行うことができません。また、「相続人」かどうかは相続が開始するまで、つまり被相続人が亡くなるまで分かりません。そのため、相続放棄は、被相続人が亡くなる前に行うことはできません。

相続放棄の方法

 相続放棄は、管轄の家庭裁判所に相続放棄の申述を行います。管轄を誤った場合は、受理されない可能性があるため注意が必要です。

 相続放棄の管轄家庭裁判所は、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所となります。各地の管轄裁判所は、こちらから確認することが可能です。
https://www.courts.go.jp/saiban/tetuzuki/kankatu/index.html

 管轄家庭裁判所が分かったら、次は、相続放棄申述書を準備する必要があります。
相続放棄の申述は口頭で行うことが認められておらず、書面を提出する必要があるからです。
相続放棄申述書は、こちらからダウンロードすることが可能です。
相続放棄申述書(pdfファイル)はこちら

 相続放棄の申述は、この相続放棄申述書に800円分の収入印紙を貼り、添付資料として次のものを添えて提出する必要があります。
・被相続人の死亡日と最後の住所地が分かる資料(住民票除票など)
・相続関係図
・相続関係図の裏付けとなる戸籍関係資料一式
・切手
 このうち、戸籍関係資料は、あなたの相続人たる地位を証明するためのものです。
 相続関係図は相続関係が簡単な場合は不要とされることもあります。
 裁判所に予納する切手の金額は各家庭裁判所ごとに異なるため、厳密には事前に確認する必要がありますが、84円分を求める裁判所が多いように思います。

相続放棄はいつまでにすればよいか

相続が開始されたことを知った時から3ヶ月以内

 相続放棄ができる期間は、相続が開始されたこと、つまり被相続人が亡くなったことを知ったときから3ヶ月以内です。1日でも過ぎた場合、相続放棄の申述は無効となりますので注意が必要です。

申述期間を延ばすこともできる

 相続放棄の初動が遅れる、あるいは、複雑な相続関係であるため時間を要するなどの理由から3ヶ月以内に申述の準備が整わないこともあります。

 そうした場合でも諦める必要はありません。合理的な理由がある限り、管轄家庭裁判所に対して申述期間の伸長審判を申し出ることで申述期間を1~3ヶ月程度延ばすことが可能です。

 伸長審判の申立ては、申立書に800円分の収入印紙を貼り、予納郵券を納めて行います。予納郵券の額は各裁判所によって異なりますが、84円分が求められることが多いです。

相続放棄をすると相続税はどうなるか

原則として相続税は負わなくてよい

 相続放棄をした場合、その人は相続税を負担せずに済みます。相続放棄の法的効果は、相続開始時(被相続人の死亡時)に遡ってはじめから相続人でなかったことになる、というものです。はじめから相続人でない以上は相続税も負担する理由がない、ということになるのです。

相続税の申告もしなくてよい

 先程のとおり相続放棄を行った方には、相続税の納付義務がありません。そのため、相続税については税務署への申告も行う必要がありません。

相続放棄しなかった相続人への影響

 相続税の税額を決める計算では、「基礎控除」と呼ばれる一律の控除基準が存在します。
 基礎控除は、「3000万円+600万円×法定相続人の数」で計算されます。
 例えば、法定相続人の数が3人の場合、3000万円+600万円×3人=4800万円までの相続財産であれば、そもそも相続税は発生しないこととなります。

 相続放棄との関係では、放棄者が出るとこの基礎控除額が減るんじゃないかと考える方がいますが、それは誤りです。
 基礎控除の計算は「法定相続人」の数に応じて行うので、実際の相続人が何名いたかとは関係ありません。法定相続人の一部が相続放棄して実際には相続人でなくなったというケースでも基礎控除の額には影響がないのです。

 もっとも、相続放棄者が出た場合、他の相続人の相続税額は増えます。
 これは、基礎控除が減るからではなく、相続放棄によって相続人が減った結果として他の相続人の取り分が増えたことに対応する結果です。

みなし相続財産に関する例外

 もっとも、例外的に相続放棄者が相続税の納税義務を負う場合があります。それは、相続放棄者が死亡保険金などの「みなし相続財産」を受け取り、かつ、その金額が基礎控除額を超える場合です。

 まず、そもそも相続放棄者が死亡保険金を受け取れるのかという問題がありますが、これは受け取ることが可能です。
 死亡保険金は、保険料の対価として支払われるものであり、相続財産とは異なる保険金受取人の固有の権利(財産)だからです。
 しかし、被相続人の死亡を原因として発生している点は他の遺産と共通するため、相続税法上は、相続財産と「みなし」て課税するという決まりになっているのです。

 したがって、相続放棄をされた方でも、みなし相続財産を受け取り、かつ、その額が基礎控除額を超える場合は相続税額を申告し、納税を済ませる必要があります。

相続放棄をすると滞納税も払わなくてよい?

滞納税は払う必要なし

 近親者が亡くなりあなたがその相続人となった場合、後になって被相続人(亡くなった方)が税金を滞納していることが判明することがあります。 こういった場合、あなたはその滞納税を払う必要があるでしょうか。

 相続放棄を考えている限り、その答えはNOです。相続放棄の法的な効力は、相続開始時点(被相続人が亡くなった時点)まで遡ってあなたが最初から相続人でなかったことにする、というものです。

 したがって、はじめから相続人でないあなたには、被相続人の滞納税を支払う義務はありません。

相続税の申告もしなくてよい

 先程のとおり相続放棄を行った方には、相続税の納付義務がありません。
そのため、相続税については税務署への申告も行う必要がありません。

安易に滞納税を払ってはいけない

 ここで注意して欲しいのは、単に支払う義務がないということだけでなく、支払ってはいけないということです。
 なぜなら、被相続人の債務の弁済行為は、法的には、相続の単純承認と扱われてしまうからです。
 「単純承認」という言葉に聞き覚えがないかもしれませんが、要するには、被相続人を相続する意思をあなたが対外的に表明する行為を取ったと扱われてしまうということです。

 一度単純承認を行うと、その後に相続放棄の申述を行っても無効というのが法律上の扱いです(単純承認行為を行っていたことがばれるかどうかという問題はありますが)。

 30万円の税を支払ったばかりに、何百万円もの私的な債務を背負わされる可能性もあります。

 相続放棄を考えている状況下では、安易な滞納税の支払いは決して行わないようにしましょう。

「相続放棄申述受理通知書」と「相続放棄申述受理証明書」の違いは何?

「相続放棄申述受理通知書」と「相続放棄申述受理証明書」

 「相続放棄申述受理通知書」は、相続放棄受理申述が家庭裁判所によって受理された場合に家庭裁判所から申立人に対して交付される書類です。相続放棄は、申述から受理までにタイムラグがあります。「相続放棄申述受理通知書」は、裁判所が申述の結果を申立人に伝えるための書面です。

 一方、「相続放棄申述受理証明書」は、申立人本人、あるいはその利害関係人が相続放棄の事実を証明するため管轄の家庭裁判所に申請することで取得できる証明書です。

 たとえば、相続順位第1位である子が相続放棄をしたことにより第2順位の直系尊属が相続人となる場合、法務局に対する登記申請や銀行での預金の払戻しのためには子が相続放棄を行っていることを証明する必要があります。この場合、直系尊属は、利害関係人として家庭裁判所に子の「相続放棄申述受理証明書」の発行を求めることができるのです。

「法定単純承認」とは何か

相続の承認は撤回できないのが原則

 この記事では、相続における「法定単純承認」が何かを説明します。

 その前に、相続の「単純承認」の効果を知る必要があります。相続が発生した場合、相続人は①単純承認、②放棄、③限定承認のいずれかを選択することとなります。①は文字通り相続を受け容れること、②は相続人となることを拒否すること、③はプラスの財産がマイナスの財産(債務)を上回る場合に限定して相続を承認するというものです。パッと見では③の限定承認が最も合理的なように見えますが、手続が非常に煩雑なためほとんど利用されていません。なお、「単純承認」とは、「限定承認」のように条件を限定することなく被相続人の権利・義務一切を包括的に引き継ぐことを指しています。

 そして、この承認や放棄は、一度行えば撤回できないのが原則です(民法第919条1項)。

法定単純承認とは

 「法定単純承認」とは、相続の「単純承認」がったものとみなすと法律が定めた行為のことです。

 法律(民法921条)は、

  1. 相続人が相続財産の全部又は一部を「処分」したとき
  2. 相続人が「熟慮期間内」に限定承認又は相続の放棄をしなかったとき
  3. 相続人が、限定承認又は相続の放棄をした後であっても、相続財産の全部若しくは一部を隠匿し、私にこれを消費し、又は悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったとき
は、単純承認したものとみなすとしています。

 たとえば、相続財産として金庫の中にあった現金を勝手に使ったり、相続開始を知った時から3ヶ月以内に相続放棄の申述を行わなかった場合は、相続を単純承認したものと扱われます。

 単純承認があったものとされると、その後の相続放棄は原則としてできなくなります。被相続人に借金などの債務がある可能性が存在する場合、相続開始後の行動には十分にご注意下さい。

相続人全員が相続放棄するとどうなるの?

相続放棄するとはじめから相続人でなかったことになる

 相続放棄は、相続人が相続人でなくなるための手続です。相続放棄を行った場合、相続開始時点つまり被相続人が亡くなった時点までさかのぼって最初から相続人でなかったこととなります。

相続の順位

 相続では、遺言の有る無しが最初に問題となります。遺言があれば原則的に遺言に従った相続がなされます。他方、遺言がない場合には法律の定めた順番で相続人が決まります。相続には法律が定めた「順位」というものがあるのです。

 法律が定めた順位は、1位から3位までです。1位は「子」、2位は「直系尊属」(親や祖父母など系譜上の祖先に当たる直系の血族)、3位は兄妹姉妹です。全て被相続人から見た関係を指しています。ちなみに「配偶者」は存在する最上位の相続人と同順位となります。子がいれば子と同順位、子がおらず直系尊属が相続人となる際は直系尊属と同順位といった具合です。

 後順位者は、先順位者がいない場合に初めて相続人となります。ですので、子・直系尊属・兄弟姉妹の全員が相続開始時点で生存している場合、第1順位である「子」が相続人となり、第2順位の「直系尊属」や第3順位の「兄妹姉妹」は相続人になりません。逆に、相続開始時点で被相続人に「子」がいなかった場合、「直系尊属」がいれば直系尊属が、直系尊属もいなければ「兄妹姉妹」が相続人になります。

 なお、先ほど触れたとおり、相続放棄をすれば最初から相続人でなかったことになります。そのため、子が相続放棄をすれば直系尊属が相続人に、直系尊属も相続放棄をすれば兄妹姉妹が相続人となります。

相続人全員が相続放棄した場合どうなるか

 では、「子」「直系尊属」「兄妹姉妹」のすべてが相続放棄を行った場合、どうなるのでしょうか。結論からいえば、相続人が誰もいない状態になります。いわゆる「相続人不存在」の状態です。

 相続人が存在しないこと自体は珍しくありません。例えば、兄妹がいない人が結婚せず子ももうけないまま高齢に達し、両親・祖父母は既に他界している中で死亡した場合、法定相続人である「子」「直系尊属」「兄妹姉妹」がいずれも存在しないこととなります。このように相続人不存在という現象は決して珍しいものではありません。世の中には常に一定の割合でこの現象が起こります。

相続人不存在の場合の法律関係

 相続人不存在の場合、その後の法律関係はどうなるのでしょうか。例えば、被相続人に対してお金を貸していた人が返済を受ける前に相続が開始された場合(被相続人が死亡した場合)、お金を貸した人は何もできなくなってしまうのでしょうか。

 答えはノーです。被相続人に財産がある限り、お金を貸した人は、家庭裁判所に対して相続財産清算人の選任を申し立てることによって、返済を受けることができます。

 相続財産清算人とは、令和5年4月1日施行の法改正以前は「相続財産管理人」と呼ばれていました。被相続人が生前保有していた財産(プラスの財産だけでなく、借金などのマイナスの財産も含まれます。)は「相続財産法人」という形態を取り、家庭裁判所から選任された相続財産清算人がその財産を管理します。十分な財産がある場合、債権者がいれば彼らに弁済し、特別縁故者がいる場合には家庭裁判所の審判で定められた額を特別縁故者に分与し、それでも残りがある場合は国庫に帰属させます。国庫に帰属させる場合でも、不動産のような有体物については可能な限り換価(売却)して現金化を試みるのが通例です。

 なお、相続財産清算人は、何もせずに勝手に選任されるものではありません。「利害関係人」(被相続人の債権者、特定遺贈を受けた者、特別縁故者など)または検察官から、家庭裁判所に対し、相続財産清算人の選任申立てがされ、これに応じて裁判所が審判を下すことで初めて選任されます。

被相続人の子が被相続人の保証人になっている場合、相続放棄するとどうなるか

相続放棄の効果

 相続放棄の効果は、初めから相続人でなかったことになるというものです。
 そのため、相続放棄をした人は、相続を承認してれば相続人として得られた権利を得ることができず、逆に義務(「相続債務」といいます。)を一切負わないこととなります。

相続債務と保証債務

 では、被相続人の子が被相続人の保証人になっている場合、その子が相続放棄した際の法律関係はどういったものになるのでしょうか。

 この問題を理解する上で大事なのが「相続債務」と「保証債務」の違いです。
 相続債務とは、被相続人自身が負っていた債務のことです。被相続人の債務は相続を通じて相続人に承継されるため「相続債務」と呼ばれています。

 他方、「保証債務」とは、保証人個人の債務です。
 たとえば、被相続人が銀行からお金を借りる際、その子どもが保証人となっている場合、銀行に対し、被相続人は主債務を負い、その子どもは保証債務を負います。その後、被相続人が死亡すると「主債務」は相続債務となりますので、子が相続放棄すれば子がこれを承継することはありません。他方、保証債務は、子自身が銀行に対して約束して負担した債務ですので、相続の有無によって影響を受けることはありません。相続を承認しようが放棄しようが、保証債務が消えることはありません。

 したがって、被相続人の子が被相続人の保証人になっている場合にその子が相続放棄した際の法律関係は、被相続人の主債務は相続しないが子自身の保証債務が依然として存在するため、子はその保証債務を履行しなければならないこととなります。

 ただし、保証債務というのは、あくまでも主債務が履行されない場合に初めて自身が履行しなければならないものです。他の相続人が相続を承認し、主債務を履行した場合は、保証人に過ぎない子は保証債務を履行する必要がなくなります(連帯保証の場合は、主債務と区別することなく、保証債務の履行をいきなり請求される可能性があります)。

騙されて相続放棄してしまった場合、相続放棄を撤回できるか

1度行った相続放棄は取り消せないのが原則

 相続放棄は、重要な法律関係に関する意思表示です。第三者の利害関係に大きく関わる問題ですので、安易な撤回は認められません。これは、簡単に想像できる結論と思います。

 法律上も、熟慮期間(相続開始を知った時から3ヶ月間)内であっても1度相続放棄を行った場合、それを撤回することはできない旨が明記されています(民法919条1項)。逆に、一度相続を承認した場合、相続放棄の場合と同様、それを事後的に撤回することはできないのが原則です。

例外:民法総則等による取消し

 一方、法律は、やむを得ない理由で誤った判断を行ってしまった者を救済する道を残しています(民法919条2項)。具体的には、詐欺・錯誤・強迫などによって誤って承認・放棄を行ってしまった場合です。

 「詐欺」や「強迫」は分かり易いと思います。騙された場合や、脅されてやむなく相続放棄させられた場合のことです。「錯誤」というのはあまり聞きなれない言葉からもしれませんが、ごく簡単にいえば「勘違い」です。借金しかないと勘違いして相続放棄したものの、実際には大金が相続財産として存在していたといったような場合です。

 しかし、これらの取消しは、本人が「脅された」、「強迫された」、「勘違いだった」というだけで認められるものではありません。あくまでも法律で定められた要件を満たした場合に限って取消しが認められます。

 取消しが認められるか否かは法律判断そのもので、相応の知識と経験を要します。特に、錯誤(勘違い)を理由とする取消が認められるか否かは、過去の裁判例とその後の法改正の経緯などもあり、非常に高度な知識と経験を要することとなり、一般の方が合理的な見通しをつけるのは難しいかと思います。


 ここまで説明したとおり、一度行った相続放棄や相続の承認は原則として撤回できませんが、取消しができる場合があります。
 もし、誤って相続放棄・承認を行い悩まれている方がいれば、一度、弁護士に相談されてみることをお勧めします。

未成年者の相続放棄

未成年者は単独で相続放棄できない

 私法上の意思表示(財産等に関する意思表示)は、行為能力を備えている必要があり、それは、相続放棄の場合も同様です。

 未成年者は民法上、行為能力を備えていない者(制限行為能力者)であるため、未成年者が単独で相続放棄を行うことはできません。

親権者が法定代理人として代わりに相続放棄の意思表示を行う。

 では、どうすれば良いのかというと、法定代理人である親権者が未成年者に変わって相続放棄を行います。両親が既に他界しているなどして親権者がいない場合は、家庭裁判所が選任する未成年後見人が法定代理人として相続放棄を行う権限を持ちます。

利益相反行為の禁止と特別代理人

 親が子どものために法定代理人親権者として子の相続放棄の手続を行う際の注意点として、「利益相反行為」の禁止があります。親権者は、自らの利害と対立する行為について子を代理できないということです。また、子が2人以上いる場合、この子らの利害が対立する場合にはその全員について代理することができません。こういった場合は、家庭裁判所の審判を経て、他の適当な人物を「特別代理人」として選任してもらい、この特別代理人が子の法定代理人として子のために子に変わって意思表示を行うこととなります。

 利益相反行為に当たるか否かは問題となる行為を外形から見て形式的・客観的に判断します。父が死亡し、その妻である母と子2人の計3人が法定相続人となります。この場合、母が子2人の法定代理人親権者として子2人の相続放棄を行うことは原則的には利益相反行為に該当します。子が相続権を失うことによって母自身の法定相続分が増えて利益を得てしまうためです。しかし、母自身もこれと同時もしくはそれ以前に相続放棄を行なっている場合には、子2人の相続放棄によっても母が相続人となることはないため、母と子の利益が相反することはありません。したがって、この場合、母の行動は利益相反に該当せず、特別代理人を必要とすることなく子らの相続放棄の手続を行うことができます。

 このように、親自身が既に相続放棄を行なっている場合、利益相反には該当しないというのが原則的な考え方です。

限定承認とは

限定承認について

 限定承認とは、承認・相続放棄の他に存在する相続人の地位の承継自体に対する意思表時のことです。相続が開始されると、法定相続人たちは、①承認・②相続放棄・③限定承認のうちいずれかの態度を選択することとなります。「選択する」と言っても、原則は承認ですので、途中で遺産の処分行為を行ったり何もしないまま熟慮期間を過ぎてしまった場合は、承認したものと法律上取り扱われます。

限定承認はほとんど利用されていない

 さて、承認・相続放棄・限定承認という3つの手続ですが、限定承認は、承認・相続放棄と比べ、利用されている数が著しく少ないと言われています。

 この一つの理由は、その手続の煩雑さにあると言われています。まず、限定承認は、相続人全員で共同して家庭裁判所に申述する必要があります。つまり、一人でも連絡がつかない人や協力的でない人がいれば、限定承認は行うことができません。次に、熟慮期間内に財産調査を行い、財産目録を作成して家庭裁判所に提出する必要があります。その財産目録に悪意で財産の一部を記載しなかった場合には法律上単純承認したものと扱われることになります。

 限定承認の申述を行った者はその5日以内にすべての相続債権者及び受遺者に対して限定承認したことと2ヶ月以内に請求申出の催告を公告しなければなりません。

 こうした手続的な負担が限定承認を利用しづらくさせていると言われています。

 少し古いデータですが、平成26年の日本全国の裁判所が受け付けた相続放棄の数が18万2089件であるのに対し、限定承認はわずか770件だけでした。

 統計に照らしても、限定承認が相続放棄と比べてほとんど利用されていない手続であることが分かります。

限定承認の効果

 限定承認の法的効果は、簡単にいうと、遺産のうちプラスの財産(預貯金や不動産)でもってマイナスの財産(債務)を清算し、それでも余っている財産があればその範囲に限定して相続するというものです。

 つまり、マイナスの財産(債務)についてプラス財産の限度でのみ弁済を行うため、相続人本人の財産が損なわれることがないというのがこの制度の特徴です。


 限定承認を利用する際も弁護士にご依頼いただくことがほとんどかと思いますが、限定承認は調査事項が多く手続も長期に渡るため弁護士費用が高額になるケースが多いです。

 プラスの財産の方が多い時だけ相続できる、というのは表面的にはとても合理的に聞こえるのですが、手続負担が大きく、実際には経済的でないことが多いのです。

財産分離とは

財産分離について

 財産分離とは、相続財産と相続人の固有財産とが混在することによって債権者等がその債権の回収について不利益を被ることを防止することを目的とした制度です。相続債権者、受遺者、相続人債権者など法律が認める者の請求により、相続財産が相続人の固有財産と分離して管理され、その後清算が行われます。

 財産分離は、家庭裁判所の審判手続によって行われますが、申立ての相手方は相続人となります。

 財産分離が行われると、相続財産については相続債権者(被相続人対する債権者)や受遺者が相続人債権者(相続人に対する債権者)に対して優先して弁済を受けることができ、逆に、相続人の固有財産については、相続人債権者が相続債権者や受遺者に対して優先して弁済を受けることができます。

 また、マニアックな話ではありますが、財産分離が行われると、相続人が被相続人に対して有した権利義務も消滅しなかったものと扱われます(通常、相続人が被相続人に対して有する権利義務は相続によって消滅します。)。

限定承認との違い

 財産分離は、一見すると限定承認と非常によく似た制度です。しかし、限定承認は、清算の対象が相続財産に限定され、相続債務・遺贈の弁済を相続人の固有財産から行うことがない点で財産分離と異なります。

 財産分離では、相続人の固有財産も相続債務・遺贈の引当てとなり、この点で制度的に大きく異なります。

 なお、財産分離の申立てを行う権限のある者は、相続人が相続放棄や限定承認を行った場合であっても、財産分離の申立てを行うことができます。

第1種財産分離と第2種財産分離

 財産分離のうち、相続債権者または受遺者の請求によってされるものを「第1種財産分離」と言います。請求期間は、相続開始の時から3ヶ月です。

 他方、財産分離のうち、相続人債権者の請求によってされるものを「第2種財産分離」と言います。請求期間は、相続人が限定承認をすることができる期間または相続財産が相続人の固有財産と混合しない間です。

財産分離制度の現状

 財産分離制度が用いられることは極めて稀です。限定承認も稀ですが、財産分離はそれに輪をかけて利用されることの少ない制度です。少し古いデータですが、最高裁判所の司法統計によれば、平成19年から平成28年度の10年案における利用者は全国の家庭裁判所を対象としても年間0〜4件と極少です。内容が非常に複雑なことと、相続財産が債務超過に陥っている場合には、別途「相続財産の破産制度」があるため、財産分離制度による必要がないことが理由とされています。

熟慮期間が過ぎてからの相続放棄

熟慮期間とは

 熟慮期間とは、相続が開始した後、相続人が相続を①承認するか、②相続放棄するか、あるいは③限定承認するかといった態度を決めるための期間として法律が認めるものです。熟慮期間は、原則として相続開始を知った時から3ヶ月間です。相続は承継するのが原則であるため、この期間中に相続放棄を行うか、限定承認を行うかしなければ、自動的に承認したものと扱われます。

 熟慮期間中に態度を決めることができず、そのことに合理的な理由がある場合は、管轄の家庭裁判所に熟慮期間の伸長審判を申し立てることで期間の延長を認めてもらうことができます。

原則 ~熟慮期間経過後の相続放棄は認められない

 では、熟慮期間を過ぎてしまった後に相続放棄を行うことはできるのでしょうか。忙しい現代人であれば、しなきゃしなきゃと思いつつも目の前の仕事に追われるうちにいつの間にか3ヶ月を過ぎてしまっていた、なんてことあり得ますよね。

 しかし、残念なことに熟慮期間を過ぎてしまってからの相続放棄は認められないのが原則です。それを認め出せば、法律で定めた期限の意味がなくなってしまいますので、これはある意味しかたのない結論ですよね。

例外 ~一定の要件を満たせば相続放棄できる

 ただし、最高裁判所の判例は、一定の要件のもとで相続人の保護を図っています。

 すなわち、昭和59年4月27日付けの最高裁判所第2小法廷判決(民集38巻6号698頁)は、「相続人が上記各事実を知った場合であっても、上記各事実を知った時から三か月以内に限定承認又は相続放棄をしなかったのが、被相続人に相続財産が全く存在しないと信じたためであり、かつ、被相続人の生活歴、被相続人と相続人との間の交際状態その他諸般の状況からみて当該相続人に対し相続財産の有無の調査を期待することが著しく困難な事情があって、相続人において上記のように信ずるについて相当な理由があると認められるときには、相続人が上記各事実を知った時から熟慮期間を起算すべきであるとすることは相当でないものというべきであり、熟慮期間は相続人が相続財産の全部又は一部の存在を認識した時又は通常これを認識し得べき時から起算すべきものと解するのが相当である。多額の被相続人名義の債務が後日判明し,その存在を知っていれば当然相続放棄するのが通常と思われる場合には、相続人が相続財産の全部または一部の存在を認識したとき、または認識すべき時から進行する」と判示したのです。

 一般の方には少し分かりづらい表現かもしれませんが、要するに、相続人が、被相続人には相続財産(債務を含む)がまったく存在しないと信じ込み、双方の生活状況に照らして相続人が被相続人の財産状況を調査することがかなり難しく、プラスもマイナスも何もないと信じたとしてもやむを得ないよねと言える事情があれば、熟慮期間は、債務の存在を知ったときから起算されると判示したのです。

 最高裁が挙げたような事情がある際は、負債の存在を知った時から3ヶ月以内であれば、熟慮期間を過ぎていたとしても相続放棄を行えることになります。


 相続放棄しないまま過ごしていたところ、後から多額の借金が発覚したというような危機的状況についての最高裁判例を紹介しました。この判例のポイントは、「相続財産がまったくないと信じていた」という点です。1000万円の預金を相続した後、3000万円の負債が発覚したというようなケースには当てはまりませんのでご注意ください。

相続放棄と登記

相続放棄の効力

 今回は、相続放棄と登記についてです。今回の記事はかなりマニアックな内容で、民事保全の話も少し入って来ます。ですので、法律家でなければイメージを沸かせるのがなかなか難しいかもしれません。

 まず、相続放棄の基本的な効力は、相続開始時(被相続人の死亡時)にさかのぼって相続人の地位を失うというものです。相続放棄は、熟慮期間すなわち相続が開始されたことを知った時から3ヶ月以内に家庭裁判所に対して相続放棄の意思表示を行うことで行いますが、そこから相続開始時まで時間を遡って効力が生じる(相続人でなかったことになる)というがポイントです。こういった、時間を遡って法的効果が生じることを「遡及効」と呼びます。

相続放棄をすれば普通は登記の問題は起こらない

さて、相続放棄の基本的効力をおさらいしたところで、ここからは本論に入ります。

この記事のテーマは「相続放棄と登記」ですが、専門家でもこのタイトルに違和感を持つ方は少なくないと思います。相続放棄は遡及的に相続人の地位を失うものなので、遺産の中に不動産が存在しても相続登記(相続を原因とする所有権移転登記)を行うことがないからです。

しかし、相続放棄を行った相続人に対して債権を持つ債権者がいる場合には、民事保全との関係で相続放棄と登記(物権変動)を巡る法律上の論点が発生します。

相続放棄者に対して債権を持つ債権者と他の相続人との関係

 具体的な事例として、被相続人にA・B・Cという3人の相続人がいて、遺産の中には価値のある不動産があったとします。遺言がないため、その不動産はA・B・Cの3人名の相続人の遺産共有状態にありますが、3人のうちAのみが相続放棄をしたとします。Aに対して債権を有するXは、Aが相続放棄したことを知らないまま、Aに代位してその不動産についてAの持ち分3分の1の持ち分移転登記手続を行い(不動産登記法59条7号)、その持分を差し押さえました。これを受けて驚いた他の相続人BとCは、「Aは相続放棄によって相続人の地位を失っている以上、その相続登記は無効だ!」と主張しました。これに対し、Xは、「相続放棄も物権変動の一種である以上、登記(対抗要件)を具備しない限り第三者(G)に対抗できない」と主張して反論しました。さぁ、どっちの言い分が正しいですかというのがこのテーマです。

 理解できますでしょうか。B・Cの主張は比較的明確ですが、Aの主張は分かりづらいかもしれませんね。これは、物権の争いは登記の先後で決着するという主張であり、要するに、B・CとしてはAの相続放棄を理由としてすぐにでも自分たちが持分2分の1ずつを有するという相続登記を行うことのできる地位にあったにもかかわらずそれを行わずに漫然としていたのであるから、先にAの持ち分登記を行ったXに対して自身の物権を主張することはできないという意味です。

 これは、法律的に整理すると、相続放棄にまつわる物権変動の利害対立を対抗問題として処理すべきか否かという論点です。この問題については、最高裁判例が存在しており、判例は、「民法が承認、放棄をなすべき期間(同法915条)を定めたのは、相続人に権利義務を無条件に承継することを強制しないこととして、相続人の利益を保護しようとしたものであり、同上所定期間内に家庭裁判所に放棄の申述をすると(同法938条)、相続人は相続開始時に遡ぼって相続開始がなかったと同じ地位におかれることとなり、この効力は絶対的で、何人に対しても、登記なくしてその効力を生ずる」と述べました(最高裁昭和42年1月20日民集21巻1号16頁)。要するに、相続放棄に関する物権の対立では対抗問題として処理しないと述べたのです。

 この判例に照らせば、先の事例におけるXの主張は失当ということになります。つまり、他の相続人B・Cの2名は、Xに対して抹消登記を求め、自分たちの2分の1ずつの持ち分登記を行う権利を持つことになるのです。

遺産を相続したくない場合、どうすれば良いですか。

 最もシンプルな方法は、相続放棄という手続をとることです。
 相続放棄を行うことで、あなたは初めから相続人でなかったことになります。
 遺産分割協議の必要もなくなり、相続税の納付義務も負いません。当然、被相続人の債務をあなたが払う必要もなくなります。

 その他に考えられる手段として、「相続分の譲渡」や「相続分の放棄」というものもあります。

 相続分の譲渡とは、自分の相続分を相続人や相続人以外の第三者に譲ることを言います。この譲渡は、有償・無償のどちらでもかまいません。相続分を譲渡した後は、自己の相続分がなくなりますので遺産分割協議に参加する必要はなくなります。相続放棄との違いは、相続人の地位が残るか否かという点です。相続放棄は相続開始時点に遡って相続人の地位を失いますが、相続分の譲渡は、相続人の地位を前提としてその相続分(持分)を譲るため、相続人の地位に由来する法律問題を残します。それが、相続債権者(被相続人に対して債権を有していた債権者)との関係です。相続分の譲渡が行われた場合、譲渡人と譲受人は、相続債権者に対して併存的債務引受を行ったとみるのが通常です。したがって、相続分の譲渡を行った譲渡人は、譲受人と連帯して、相続債権者に対して弁済を行う義務を負います。

 相続分の放棄とは、相続人が自己の相続分を放棄することです。相続放棄と名称が似ていますが、両者は、明確に異なる法律行為です。
 先に述べたように相続放棄は、相続開始時に遡って相続人の地位を失うものですが、相続分の放棄は、あくまでも相続人の地位を前提として自らの相続分のみを放棄するものです。したがって、上で説明した相続分の譲渡と同様、相続債権者に対する責任は依然として残ってしまいます。
 なお、相続分の譲渡と相続分の放棄は、相続分を特定の第三者に譲渡するか放棄するかの違いです。相続分の譲渡の場合、特定の第三者に自己の相続分をそのまま承継できますが、相続分の放棄の場合、放棄された相続分は法定相続分の割合に応じて他の相続人に再分配されます。

これら3つの手段のうちどれを選択するかは遺産を相続したくない理由によるかと思いますが、もし、負の遺産(被相続人の借金など)を相続したくないという点にあるのであれば、相続放棄が最も妥当な選択になるかと思います。

相続放棄の手続の流れ

 相続放棄は、一般に以下の流れで行います。

1 相続放棄をするかどうかの判断
2 必要書類の収集
3 管轄裁判所の確認
4 相続放棄申述書の作成
5 管轄裁判所に申述書と添付資料を提出
6 裁判所からの照会書へ回答
7 相続放棄受理通知書の受領

 このうち1から5までのプロセスは、相続開始を知った時(被相続人の死亡を知った時)から3ヶ月以内に行わなければなりません。
 ただし、どうしてもこの期間に必要な調査を済ませることができないような場合には、家庭裁判所に対して期間伸長審判の申し出を行うことで、この期間を伸ばすことができる可能性があります。

1 相続放棄をするかどうかの判断

 相続放棄は、積極財産(預貯金などのプラスの財産)と消極財産(借金などのマイナスの財産)を比べて、後者の方が多い場合、あるいは多いことが見込まれる場合に合理的な手段となります。
 明らかに後者が多いような場合は必要ありませんが、財産の状況が一切分からないような場合には、相続放棄を行うかどうかを判断するために相続財産の状況を調査する必要があります。

2 必要書類の収集

 必要となるのは、被相続人の死亡の事実、死亡日及び最後の住所地が分かる資料と、申述者の相続人たる地位を裏付ける資料です。
 一般には、被相続人の除籍謄本、被相続人の住民票除票(あるいは戸籍附票)と、関係戸籍一式がこれに該当します。配偶者や第一順位相続人(子)が相続放棄を行う場合、関係戸籍は現在戸籍のみで済みますが、第二順位相続人(直系尊属)や第三順位相続人(兄弟姉妹)が相続放棄を行う場合には、先順位者の不存在を裏付ける戸籍や相続放棄受理証明書の収集が必要となります。また、代襲相続人が相続放棄を行う場合は、自身の親が相続開始に先立って死亡している事実を裏付ける資料(戸籍・除籍全部事項証明書等)が必要となります。

3 管轄裁判所の確認

 相続放棄の手続は、家庭裁判で行う必要があります。家庭裁判は全国に存在しますが、どの裁判所でも行うことができるわけではなく、法律によって管轄が決まっています。
 相続放棄に関する管轄裁判所は、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判です。また、各家庭裁判には支部が存在しており、住所地次第では支部での手続が求められます。
 裁判所の管轄と支部の割振りについては、こちらをご覧ください。

4 相続放棄の申述書を作成する

 相続放棄申述書の書式は、家庭裁判所から取り寄せるか、こちらからダウンロードできます。
 申述人のことや被相続人のこと、相続放棄の理由、相続財産の概略など、必要事項の記入を終えたら800円の収入印紙を貼ります。

5 管轄裁判所に申述書と添付資料を提出

 作成した申述書と添付資料を管轄の家庭裁判所に提出します。窓口に持参するか、郵送によって提出することで申立てを行います。
 申立て時に郵券(切手)の予納を求められます。予納すべき郵券額は、裁判所ごとに異なるため事前で電話して確認する必要があります。

6 裁判所からの照会書へ回答

 裁判所から、被相続人の死亡を知った経緯、相続放棄の理由、相続放棄が自分の意思なのかどうか等を確認するための照会書が届きます。必要事項を記入し、裁判所に対して返送します。なお、相続開始を知った時として、申述書の提出時期より3ヶ月以上前の時点を記入すると相続放棄が受理されない可能性があるため注意が必要です。

7 相続放棄受理通知書の受領

 相続放棄に関する裁判所の事務処理が終わった時点で、申述者に対して、「相続放棄受理通知書」が郵送されてきます。
 これは、相続放棄が無事受理されたことを通知するものです。
 もっとも、相続放棄受理通知書は、相続放棄の有効性を保証するものではありません。相続放棄の無効原因(例えば、単純承認)などがあれば、相続債権者から事後的に相続放棄の無効が主張される可能性は依然として残ります。

相続放棄の必要書類

 相続放棄には、一般に以下の書類を管轄の家庭裁判所に提出することが必要となります。

1 相続放棄申述書(印紙が貼られたもの)
2 被相続人の除籍全部事項証明書
3 被相続人の住民票除票(もしくは戸籍附票)
4 申述者の相続人たる地位を裏付ける資料
5 予納郵券(切手)

1 相続放棄申述書

 相続放棄の意思表示を行う最も重要な書類です。書式は、家庭裁判所から取り寄せるか、こちらからダウンロードできます。提出に際しては、800円分の収入印紙を貼付している必要があります。

2 被相続人の除籍全部事項証明書

 被相続人の死亡の事実と死亡日を証明する資料です。

3 被相続人の住民票除票(もしくは戸籍附票)

 被相続人の最後の住所地を証明する資料です。
 なお、最後の住所地が住民票上の住所と異なる場合は、別途、最後の住所地を証明する資料を提出する必要があります。例えば、賃貸借契約書などがこれにあたります。

4 申述者の相続人たる地位を裏付ける資料

 関係戸籍一式がこれに当たります。配偶者や第一順位相続人(子)が相続放棄を行う場合、関係戸籍は現在戸籍のみで済みますが、第二順位相続人(直系尊属)や第三順位相続人(兄弟姉妹)が相続放棄を行う場合には、先順位者の不存在を裏付ける戸籍や相続放棄受理証明書の収集が必要となります。また、代襲相続人が相続放棄を行う場合は、自身の親が相続開始に先立って死亡している事実を裏付ける資料(戸籍・除籍全部事項証明書等)が必要となります。

5 予納郵券(切手)

 申立て時に郵券(切手)の予納を求められます。予納すべき郵券額は、裁判所ごとに異なるため事前で電話して確認する必要があります。

山林しかない相続財産がない場合、相続放棄は行うべき?

 相続財産としてめぼしい財産が存在せず、かといって借金もなさそう。あるのは山林だけというようなケースでは、相続放棄を行った方がよろしいでしょうか。

 山林の価値自体が異なりますので一概には言えませんが、一般論としては相続放棄を行った方がメリットになる可能性が高いと思います。
 現代社会において山林は資源としての活用価値が乏しく、不動産としての市場価値がつかないものがほとんどです。「ただでも良いから貰ってくれ」といってもなかなか引き取り手が現れないというケースがほとんどかと思います。
 一方、相続を通じてひとたび山林を所有した場合、その後毎年固定資産税の支払いを負担するほか、その山林に起因して何か問題が起きた場合には賠償責任が問われる可能性が生じます。例えば、相続した山林の木が台風によって倒れ、道を塞いでしまった場合、倒木を処分する費用を所有者(別途占有者がいる場合は占有者)が負担しなければならなくなります。田んぼの納屋に木が倒れて納屋やその中にしまわれていた農機具を破損させた場合、その賠償も行わなければならなくなります。
 所有している崖が地滑りを起こし、崖下の民家を破壊したといった場合には目も当てられない状況になりかねません。

 こうした不動産保有に伴うリスクに鑑みれば、市場価値がほとんどない山林しか相続財産がないようなケースでは、負債(借金)の有無にかかわらず相続放棄を検討すべきかと思います。

生命保険の死亡保険金受取人は相続放棄をできるのか

 被相続人が相続人の一人を保険金受取人とする生命保険(死亡保険)をかけている一方、被相続人に多額の債務が存在するケースがあります。
 では、保険金受取人と指定された相続人は、相続放棄を行なった上で死亡保険金のみを受け取りのみを行うことはできるのでしょうか。

 結論から言えば、できます。
 生命保険の保険金は、受取人として指定された者の固有の権利であって、相続財産(遺産)ではないからです。
 相続放棄の手続によって放棄されるのは、「相続財産」(遺産)に限られ、相続人の固有財産には影響を与えません。したがって、相続人が相続放棄を行なったとしても、相続人の固有の権利である死亡保険金請求権は依然として保有し続けることができます。

相続放棄を行なった相続人に相続財産を管理義務はあるのか

 相続放棄の効果は、相続開始時点(被相続人の死亡時点)に遡って当初から相続人でなかったことになるというものです。
 では、相続放棄を行なった者は、相続財産に対して一切の責任を負わずに済むでしょうか。

 原則的にはYESですが、一部の場合には相続財産の管理義務が残ってしまいます。

 この点は、近似の法改正によって扱いが異なっています。
 すなわち、2023年3月31日までに適用されていた旧民法940条1項では、以下のような規定となっています。

旧民法940条 1項
相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない。

 この規定によれば、相続放棄を行なった者も、他の相続人が相続財産を管理し始めるまでの間は、引き続き相続財産を管理すべき義務があると規定されています。すなわち、たとえば遺産の中に崖地があり、崖が崩れて崖下の民家を破壊したという場合には、管理義務違反として賠償請求を受ける可能性がありました。

 もっとも、民法940条1項は法改正が行われ、2024年4月1日に新法が施行されています。新民法940条1項の内容は、以下のようなものです。

新民法940条1項
相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人又は第九百五十二条第一項の相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意を持って、その財産を保存しなければならない。

 現在施行されている新たな法律では、相続放棄を行なった者が相続財産について責任を負うのは、「放棄の時に…現に占有しているとき」だけに限定されました。「現に占有」というのは、事実上支配していることを指します。たとえば、被相続人名義の自宅に相続人の一人が住んでいるような場合には、当該不動産を事実上支配しているため「現に占有」という要件を満たします。その場合、たとえ相続放棄を行なったとしても、当該財産に対する保存義務を負います。したがって、その自宅の鍵を他の相続人や相続財産清算人に渡すことなく家を出た後、第三者が自宅に侵入して中の財産を窃盗したり、建物を棄損したような場合には、相続放棄を行なった相続人は、保存義務違反による賠償請求を他の相続人や相続債権者から受ける可能性があります。

 他方、自分が占有していない相続財産について、相続放棄を行なった者は何らの責任も負いません。したがって、相続財産にまつわる一切の責任から解放されることとなります。

多額の生前贈与を受けた者が相続放棄を行うのは許される?

 相続放棄は、プラスの相続財産もマイナスの相続財産も含めて相続財産を失う行為です。
 そうしますと、プラスの財産は相続人が被相続人から生前贈与を受け、マイナスの財産だけ残して被相続人が亡くなった場合、相続人はとても得をすることになります。

 では、そのようなことが許されるのでしょうか。
 結論から言えば、相続放棄自体は有効となりますが、生前贈与の方は、後から取り消される可能性がある、ということになります。

 相続放棄と生前贈与は、互いに独立した法律行為であり、それぞれに対して有効性が問題となります。相続放棄自体は、生前の行為に関わらず行うことができるため、冒頭のようなプラスの財産全てを受け取って借金のみを残して相続放棄を行う、といったような極端なケースでも形式的には有効です(信義則や公序良俗違反といった一般条項によって裁判所が無効と判断する可能性は残りますが、過去の裁判例で知られているものはありません。)。

 他方、生前贈与の有効性については別論です。その生前贈与を行うことで債権者を害することを知った上で被相続人や相続人が生前贈与を行った場合、それは424条の詐害行為取消の対象となる可能性があるからです。被相続人の死期が近いことを悟った上で、相続人と通謀してプラスの財産の大半を生前贈与し、相続人がその後相続放棄を行った、というようなケースでは、当該生前贈与行為は詐害行為と評価され、取消の対象となる可能性が高いです。
 生前贈与が取り消された場合、受益者である相続人は、贈与を受けた財産を被相続人(相続財産清算人)に返還する必要があります。なお、取消債権者が金銭の支払いを求める場合には、取消債権者は直接的に受益者から金銭を受領して自己の債権の弁済に充てることができます。

被相続人の兄弟が相続放棄を行う必要があるのはどういうときか

 借金をたくさん抱えていそうな兄弟姉妹がお亡くなりになった場合、少し心配な気持ちになりますね。自分も相続放棄をしなければならないのではないかと不安に思われる方もいらっしゃると思います。

 では、被相続人の兄弟姉妹が相続放棄を行わなければならない場合とはどういったケースでしょうか。
 兄弟姉妹が相続放棄を行わなければならないのは、被相続人の子や直系尊属が存在しない場合、あるいは相続放棄を行っている場合です。
 法定相続人には順位という概念があり、1位は子、2位が直系尊属、3位が兄弟姉妹となっています。2位の者は1位の者が存在しないか、あるいは相続放棄を行っている場合に初めて相続人の地位に立ち、3位の者は1位及び2位の者が存在しないか、あるいは相続放棄を行っている場合に初めて相続人の地位に立ちます。ちなみに配偶者は、常に相続人となります。
 したがって、兄弟姉妹が相続放棄を行う必要があるのは、被相続人が死亡した時点において被相続人の子や直系尊属が存在しない(そもそも出生していない場合のほか、死亡を含みます。)か、存在したが相続放棄を行った場合ということになります。

相続放棄と代襲相続の関係

 代襲相続とは、被相続人が死亡する以前(つまり、相続開始以前)に、相続人となるべき者が死亡していたり、一定の事由によって相続権を失ったりしていた場合に、相続権を失った者の子で被相続人の直系卑属に当たる際、この者が相続権を失った親に代わって同順位で相続人の地位に立つことを言います。

 では、相続放棄に関して代襲相続はどういった関係があるでしょうか。

 まず、親が相続放棄を行った場合にその子が代襲相続人となるかという問題がありますが、結論として代襲相続は起こりません。例えば祖父母が多額の借金を残して死亡した場合、親が相続放棄を行えば、子が親に代わって祖父母の借金を引き継ぐことはありません。子が何らかの手続を取る必要もありません。

 次に、親が死亡した際に子が親の相続について相続放棄を行った場合、祖父母を代襲相続することができるかという問題があります。
 これは、親と祖父母の死亡の前後関係によって変わります。親が先に死亡している場合、子は祖父母を代襲相続できます。一方、祖父母が先に死亡している場合、子が親の相続について相続放棄を行えば、子は祖父母の遺産を承継できません。まず、親が先に死亡している場合、代襲相続という問題になりません。代襲相続とは、あくまでも相続人となるべき者が被相続人よりも先に死亡している場合に起きるものだからです。祖父母が死亡し、その後に親が死亡するという状況は「数次相続」と呼ばれ、親の財産の一部に祖父母の財産に対する相続権が含まれることになります。子が親の財産について相続放棄を行えば、放棄の対象となる相続財産には親が祖父母から承継した相続財産を含みますので、子は親の財産だけでなく親が有していた祖父母の相続財産に対する権利も放棄することになるのです。このことは、相続放棄の時点で親が他の相続人との間で遺産分割協議を済ませていたか否かによっても変わりません。

相続放棄を行った場合、お墓はどうなるの?

 相続放棄を行った場合、被相続人が入るお墓はどうなるのでしょうか。
 先祖代々受け継いだ墓や仏壇を親が所有して管理していたが、多額の借金があるため、相続放棄を行いたいが、その場合、墓や仏壇の所有権はどうなるでしょうか。

 そんなお墓や仏壇に関する疑問をお持ちの方もいらっしゃるかと思います。

 結論から言えば、相続放棄を行ったとしてもお墓や仏壇を承継することは可能です。
 墓や仏壇その他の仏具は、民法上「祭祀財産」と言われ、通常の相続財産とは異なる扱いを受けます。相続財産は相続人によって承継されますが、祭祀財産は、慣習に従って祖先の祭祀を主宰する者が承継すると定められています(民法第897条)。
 したがって、相続放棄を行ったとしても祭祀財産の所有権の帰属には影響が及びません。相続放棄を行った者が慣習に従い祖先の祭祀を主宰する者と呼べる立場にあれば、お墓や仏具を承継することができ、当然、被相続人のお骨をその墓に埋葬したり、仏壇を自宅において故人を弔うことも可能です。

相続放棄を行った場合、遺族年金は受給できる?

 多額の借金を残して親族が死亡し、自分が相続人となった場合、まず考えるのは相続放棄かと思います。
 では、相続放棄を行った場合、遺族年金は受け取れるのでしょうか。

 結論から言えば、受け取れます。
 遺族年金は、国民年金法などの法律に基づいて、被保険者が死亡した場合にその遺族に対して支給される年金のことですが、これは遺族の生活保障を目的に、相続とは別の理屈に基づき、法律によって認められた遺族の固有の権利と理解されています。したがって、相続放棄を行った場合でも、受給することができるのです。
 同様の理屈により、未支給年金についても、相続放棄に関わらず受給できます。

葬式費用を遺産から支払った場合、相続放棄はできないの?

 相続放棄を考えている場合、葬式費用を遺産(相続財産)から支払ってはいけないという話を耳にされた方もいらっしゃるかと思います。
 では、その話は本当でしょうか。

 結論としては、半分本当、半分グレーといったものかと思います。
 相続放棄を行う際は、単純承認と評価され得る相続財産の処分行為を行ってはなりません。相続財産の費消行為は、単純承認と評価される可能性があるため、相続放棄を考えるのであればまず避けるべきであり、その点で先ほどの話は当たっております。他方、過去の裁判例では、葬式の規模や内容に相当性があるものであれば、単純承認に当たらないとした例が複数あります。葬式の規模・内容としてどの程度まで相当なのかという点は不明確であり、葬式費用を相続財産から支出しても単純承認とみなされない規模・内容が不明確という点で依然としてリスクは残るため、半分はグレーという結論になります。

 なお、そもそも葬儀費用は誰が負担すべきものなのか、という点も問題となるため少し触れます。まず、葬儀費用の負担者を定めた法律はありません。つまり、解釈に委ねられるということになります。
 この問題は、まず、葬儀社との契約を誰が行っているかという点で状況が異なります。被相続人が生前に葬儀社と契約を行っていた場合には、葬儀社への支払債務は被相続人自身が負うものと考えられるため、葬儀費用は相続財産から支出されるべきものとなります。他方、被相続人が生前にそのような契約を結んでおらず、遺族の誰かが葬儀社と契約して葬儀を行った場合には、その契約者(喪主)が葬儀費用の負担者となります。他の相続人が任意で支払いを申し出たり、遺産分割協議の中で相続財産の中で清算することが決まれば事後的に喪主の負担は軽減しますが、そうでない場合は、喪主が最終的に単独で負担することとなります(香典は喪主への個人的な贈与となります。)。過去の高等裁判所の裁判例でも同様の結論が示されています(名古屋高等裁判所平成23年(ネ)968号・平成24年3月29日判決)。