遺産相続で嫌がらせをしてくる兄弟姉妹への対処法

遺産相続で嫌がらせをしてくる兄弟姉妹への対処法

2022.07.21

遺産相続で嫌がらせをしてくる兄弟姉妹への対処法

兄弟姉妹間でよくある遺産相続をめぐるトラブルパターン

相続権(相続人となる法的な地位)は、被相続人の親族のうち一定の方にだけ認められる権利です。法は、被相続人の親族に対して順位を設けており、前の順位の親族がいない場合に初めて後の順位の親族が相続権を得ます。その順位は、1位が「子」、2位が「直系尊属(親や祖父母など直列関係で先祖に当たる者)」、3位が「兄弟姉妹」です。

このうち、最も多いのは「子」が相続人となるケース(被相続人に法律上の子がいる場合)です。そして、「子」が複数の場合、つまり兄弟姉妹がいる場合が相続でのトラブルが頻発する典型例です。

具体的にどういったトラブルが起こりがちか見て行きましょう。

【トラブル1】 兄弟姉妹の1人が・・・親の介護を理由に遺産を独り占めしようとする

よくあるトラブルの1つが亡くなった親(被相続人)の介護に纏わるものです。他の兄弟姉妹が実家を離れる中、兄弟姉妹の内一人だけが家に残り、親と同居して、親を介護しながら面倒を看ていたといったケースです。

こういったケースでは、親の介護を行っていた方は、他の兄弟姉妹よりも多くの苦労を背負って被相続人(親)の人生に貢献したとして、被相続人の遺産について自分が有利な扱いを受けなければ兄弟姉妹間の扱いとして不公平であると考えることが多いです。こうした心情は、遺産について自身の取り分が増えるべきである、あるいは、遺産はすべて自身がもらうべきものであるといった法的主張となって表れます。

では、こうした主張は認められるのでしょうか。

この問題を考えるには、まず、「親の介護」が相続に際してどのような意味を持つのかを知る必要があります。親の介護は、状況次第で、遺産分割の中で「寄与分」という問題として考慮されます。「寄与分」とは、被相続人の財産の維持・増加に特別の寄与をした者(相続人)が、その寄与を理由として特別に与えられる相続財産への持分です。寄与分は、当然に認められるものではなく、家庭裁判所に対し、寄与分を認める旨の審判を申し出て、裁判所がこれを認める審判が出すことで初めて権利が発生します。寄与分が認められれば、遺産全体から寄与分部分が除かれて寄与者の取り分とされ、残りの部分を遺産分割協議の対象とすることになります。

もっとも、親の介護を理由として「寄与分」が認められるケースは多くありません。理由は、寄与分という制度が本来的に遺産の維持・増加に対する「寄与」を根拠とする制度であるところ、子による介護の有無と遺産の維持・増加の関係は必ずしも明らかでないためです。子の一人が介護に当たったことで、本来支払わければならなかった介護費用が大幅に減った等の明確な事情がなければ、遺産の維持・増加に寄与したものと認められない可能性が高いです。

また、子は本来的に親に対して扶養義務を負っているため、親の介護は扶養義務の履行に過ぎないと評価されがちです。寄与分として財産的利益を受けるには、扶養義務の履行を超えるような特別の寄与、たとえば、親の介護のため会社を退職せざるを得ず、自身の収入を犠牲にして同居の上でつきっきりの介護に当たった等の事情が求められます。

寄与分を認める際の具体的な基準を定めた法律はなく、判例と呼べる程の確立した先例もありません。実際には、寄与分の審判申し出を受けた担当裁判官の裁量による部分が多くなりますが、介護を理由とした寄与分の内容として遺産すべてが寄与者に与えられる事例はかなり少ないように思われます。このことは、遺産の額が高額であればある程当てはまるでしょう。

皆さんの身近に、親の介護に当たられていた兄弟姉妹の方が、そのことを理由として遺産すべてを取得する旨主張されているケースがあれば、法的には妥当でない主張の可能性が高いのでお気を付け下さい。

【トラブル2】 兄弟姉妹の1人が・・・遺産を開示してくれない

よくあるトラブル事例として、亡くなった親(被相続人)と同居して、親の財産を管理していた兄弟姉妹の一人が、親の死亡後も遺産の開示を拒むケースがあります。このような場合、その方は、資料を一切開示しないまま遺産の目録を配り、「遺産はこれだけだからこの分割を協議しよう」と言って、遺産分割協議をリードしようとすることが多いです。

こういったケースでは、被相続人の生前に同人の財産を管理していた子の一人が、何らかのやましい行動を取っている可能性があります。具体的には、生前に被相続人から多額の贈与を受け取っていたり、被相続人の財産を勝手に使い込んでいたりしたことを隠す意図が疑われます。

このような場合、他の相続人において遺産の調査を行うことで、真相に近づくことができます。具体的には、被相続人名義の預金の取引明細や、生命保険の契約情報、証券や不動産の情報等を調べることで、生前の被相続人名義の財産に不審な動きがないかを調べることができます。

なお、法的には、被相続人が相続人の一部に多額の贈与を行ったケースと、相続人の一部が相続人の生前に勝手に同人の財産を使い込んでいたケースとで扱いが変わって来ます。前者のケースは、いわゆる「特別受益」の問題として、遺産分割手続の中で贈与相当額を遺産に持ち戻すことができるかという論点になり、後者については、被相続人が使い込みを行った相続人に対する損害賠償請求権(不法行為を理由とするもの なお、不当利得構成も可能が遺産を構成も可能)の問題として扱われます。これらの詳細は、この後の【トラブル3】、【トラブル4】の中で解説します。

いずれにせよ、被相続人の財産を同人の生前に管理していた相続人が、遺産に関する資料の開示を拒む場合、何らかの隠蔽意図があることが伺われます。ご自身で調査することも可能ですが、弁護士に頼めば、心当たりのある財産一式を調査することも可能です。

【トラブル3】 兄弟姉妹の1人が・・・生前に親から多額の援助を受けていた

兄弟姉妹の一人が、生前に親から多額の援助(贈与)を受けていた場合、それが特別受益と評価されれば、遺産分割の場面で調整がなされることとなります。具体的には、遺産分割における各相続人の取分(具体的相続分と言います。)を定める際、被相続人の死亡時に残存していた財産に、被相続人が相続人の一部に対して行った援助(贈与)の額(貨幣価値や物の価格変動している場合は、相続開始時の時点の価値として換算されます。)を持ち戻して遺産を観念します(みなし相続財産と言います。)。例えば、被相続人の間に子が2人おり、その1人に対しては生前に時価1億円の不動産の贈与し、被相続人死亡の時点での財産が預金1000万円しか残っていなかった場合、この1000万円のみを兄弟で2等分するのでは、あまりにも不公平です。このようなケースでは、「婚姻」「縁組」「その他生計の資本として」贈与された財産は、言わば遺産一部の前渡しであると評価され、遺産分割に際して、分割対象となる遺産にその贈与額を持ち戻して計算しなければならなくなります。このような持ち戻しの対象となる贈与のことを「特別受益」と呼ぶのです。先ほどの例では、被相続人の死亡時点で現実に存在するのは預金1000万円だけですが、先だって行われた時価1億円の不動産の贈与は「生計の資本としての」贈与に当たり、特別受益として持ち戻しの対象となります。その結果、持ち戻し後の遺産(みなし相続財産)は、1000万円+1億円で合計1憶1000万円となります。これを2人で等分することになりますので、二人の取り分はそれぞれ5500万円です。特別受益を受けている相続人の具体的相続分は、この5500万円から特別受益額1憶円を控除した額となるので、このケースでは-4500万円となります。他方、特別受益を受けていない方の相続人の具体的相続分は、そのまま5500円となります。この場合、この相続人は、現実の遺産として残されている預金1000万円をまず取得し、不足する4500万円について特別受益を得ている相続人に対して請求できることになります。

ですので、この記事をご覧の方のご兄弟が、生前に被相続人から多額の援助を受けていることが明らかなケースであれば、まずもってこの特別受益の主張を検討されるべきと言えます。

ただし、生前贈与があれば、常に特別受益に当たる訳ではありません。親は子に対して扶養義務を負っているところ、金銭を援助することは扶養義務の範囲内のこととして正当化されることが多いためです(「生計の資本としての贈与」に当たらない、つまり遺産の前渡しとは認められないと理解されることが多いです)。よく問題となるのは、大学の学費です。兄弟のうち一部の者だけ大学の進学費用を親が負担し、他の兄弟は自分で奨学金を得て進学した、あるいは進学せずに就職したという事案において、親による当該学費の支弁が特別受益に当たるとして争われるケースです。これも、確立した判例があるわけではありませんが、下級審判例(主として家庭裁判所)の大きな傾向として、大学の学費は扶養義務の履行の範囲内で行われたものであり特別受益には当たらないと解釈する方向にあります。そこに多少の不公平があっても、昨今の大学の進学率を考慮すれば大学進学の際の親の援助は、扶養義務の履行に留まるものであって、遺産の前渡しとまで評価することはできない(被相続人が遺産の前渡しの趣旨で学費を支払ったとは推測できない)というのが理由のようです。

なお、特別受益による持ち戻しを行うか否かは、被相続人の意思が最も尊重されます。被相続人が持ち戻しを免除する意思を遺言によって明記しているようなケースでは、たとえ特別受益と認められる生前贈与であったとしても、遺産分割協議の中で持ち戻しを行うことは認められなくなります。特別受益による持戻しは、客観的な相続人間の公平性の実現よりも、被相続人の意思を優先させる制度と言えます。

【トラブル4】 兄弟姉妹の1人が・・・生前に親の財産を勝手に使い込んでいた

これもトラブル3で述べた遺産の非開示から始まって、事後、遺産の調査を行って発覚することが多い事例です。例えば、高齢になった親(被相続人)の財産を管理していた長男が、親に代わって同人の財産を管理しており、その中で、親の承諾なく同人の財産を使い込み、長男自身やその妻・子の私費に当てているといったケースです。

この場合、「親の承諾を得ていない」という点で、【トラブル3】のような贈与の事例と異なります。そのため、遺産分割における特別受益の問題として処理されることにはなりません。では、このような勝手な使い込みは、法的にはどのように整理されるのでしょうか。

高齢の親の財産が、同人の生前に、本人の承諾なく勝手に使い込まれていた場合、これは、窃盗ないし横領の問題となります。完全な他人が行えば刑事罰の対象となりますが、一定の親族には「親族相盗例」という刑法上の規定が適用されるため刑が免除されます。この場合は、民事上の問題が残るのみです。先ほど挙げた長男が親の財産を使い込んだ事例でも、長男にはこの「親族相当例」が適用されるため、刑事処罰を求めることはできません。しかし、長男は、本人の承諾なく親の財産権を侵害したことになりますので、不法行為を理由に被相続人に対して損害賠償義務を負い、逆に、親は長男に対して損害賠償請求権を有することになります。この請求権は、窃盗・横領行為を行った時点から発生する具体的な金銭債権(財産)です。そのため、その後、その親が死亡した時点で、相続の対象となります。また、この損害賠償請求権は、可分債権(数額的に分割することが可能な債権)であるため、遺言による特別の定めがない限り、遺産分割を待たずに相続開始(被相続人の死亡)と同時に、各相続人が法定相続分に応じて承継することとなります。

例えば、長男が、高齢の母の預金から、本人の承諾なく1000万円を勝手に引き出して長男自身の遊興に当てていたとします。その後、その母が死亡したため、同人を被相続人とする相続が開始します。相続人は長男・二男・長女・二女の4名で、遺言はないため、各相続人たちは4分の1ずつの法定相続分に従って、被相続人の遺産を承継することとなります。この場合、被相続人の遺産には、長男に対する1000万円の損害賠償請求権が含まれますが、この損害賠償請求権は、先ほど述べたとおり可分債権であるため、遺産分割協議という手続を踏むことなく、相続が開始した時点(被相続人が死亡した時点)で自動的に250万円ずつ相続人に割り振られることになります。その結果、二男・長女・二女の3名は、長男に対してそれぞれ250万円ずつの支払いを請求できる権利を得ます(長男本人は混同によって債務が消滅します。)。この場合、長男がおとなしく支払いに応じないようであれば、地方裁判所に対して支払いを求める訴訟を提起し、確定勝訴判決をもって長男の財産に対して強制執行を行うことで支払いを実現することができます。

ここでのポイントは、損害賠償請求は、家事審判事項ではなく、訴訟事項だという点です。遺産分割は家事審判事項であるため、原則としてこの損害賠償請求の問題を扱うことはできません。あくまでも、遺産分割とは切り離された訴訟という手続で解決されることが求められます。もっとも、相続人全員が、遺産分割の手続の中で、この使い込みによる損害賠償請求の問題を取り扱うことを同意した際は、例外的に遺産分割手続の中で同使い込みの問題を議論することが可能となります。

現実には、損害賠償請求する側、される側の双方ともが、家裁と地裁で分けて2つの事件を係属させることを嫌がるため、家庭裁判所で扱う遺産分割手続の中でこれを扱うことに同意し、一回的解決を目指すことが多いです。

兄弟間の相続争いを弁護士に依頼するメリット

兄弟間の相続争いでは、遺産隠しや兄弟間の不公平等、おかしな状況になっていることが多いです。相続の分野は、法律が込み入っており、一般の方々だけでは対処が難しいケースが多々存在します。

泣き寝入りすることがないよう、兄弟間の相続で少しでも悩んだら、当事務所宛にご連絡下さい。

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