生前贈与は遺産分割にどう影響?特別受益の仕組みと計算方法を完全解説

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更新日:2025/09/05

生前贈与は遺産分割にどう影響?特別受益の仕組みと計算方法を完全解説

2025.09.14

生前贈与は遺産分割にどう影響?特別受益の仕組みと計算方法を完全解説

10年ルール・不動産ケースと持ち戻し計算を弁護士が徹底解説

「兄だけが生前に家をもらっていたら、相続はどうなる?」

「昔の贈与まで計算に入れられて、不利になるのは納得できない…」

 そんな悩みを抱えている方に向けて、この記事では以下のポイントをわかりやすく解説します。

  • 生前贈与が遺産分割に影響する仕組みと「特別受益」の考え方
  • 贈与が古くても、計算から外れることはない?10年ルールの落とし穴
  • 不動産や現金の贈与があった場合の具体的な計算方法

 相続では、過去に受けた贈与が遺産分割に影響することがあります。

 とくに兄弟姉妹間で金額や資産に差がある場合、その扱いをめぐってトラブルになるケースが多く見られます。

 「うちも揉めそう…」と感じている方は、今のうちに正確な知識を整理しておくのが安心です。

 この記事を読むことで、特別受益の基本から損をしないための計算方法まで、相続の不公平を防ぐポイントが一通りわかります。

 最後まで読んで、ご自身のケースにあてはめながら整理してみてください。

この記事でわかること

  • 生前贈与と特別受益の関係と遺産分割への影響
  • 「10年ルール」の正しい理解と時効の有無
  • 不動産を含む生前贈与の持ち戻し計算の流れ
  • 証拠として有効な資料とその取得方法
  • 協議・調停・審判までの平均的な解決スケジュール

生前贈与と特別受益の関係を3分で理解

 生前贈与とは、被相続人(亡くなる方)が生前に、相続人や将来相続人となる予定の人などに財産を与える行為を指します。

 相続人の中で、特別に多くの財産を受け取っている場合、そのままでは公平な相続にならないことがあります。そこで登場するのが「特別受益」という仕組みです。

 特別受益とは、相続人の中で特別に多くの利益を受けた人がいる場合に、その分をあらかじめ遺産から差し引いて、相続人全員が公平になるよう計算し直す制度です。

 たとえば、3人きょうだいのうち、長男だけが生前に1,000万円の住宅購入資金を親から受け取っていたとします。

 その後、親が亡くなり、残った遺産が2,000万円だった場合、この1,000万円を特別受益として扱い、「2,000万円+1,000万円=3,000万円」を全員で分けます。

 相続分が3分の1ずつの場合、各人の取り分は1,000万円となり、長男はすでに1,000万円を受け取っているため、新たに受け取る遺産は0円になります。

 民法は、原則として相続人に平等な相続分を保障しています。しかし、生前に多額の贈与を受けていた相続人がそのまま相続分をもらえば、他の相続人との間に不公平が生じます。

 こうした贈与分を「すでに遺産の一部を先に取得したもの」とみなし、遺産全体のバランスをとるのが特別受益の考え方です。

 なお、被相続人が「持戻しをしない」意思を示していた場合などは、計算に含めないこともあります。

特別受益となる可能性が高い財産の例

 以下のような財産は、一般に特別受益として取り扱われる可能性があります。

  • 自宅購入費用として1,000万円の援助を受けた
  • 親名義の土地を譲り受け、名義変更をした
  • 結婚費用や事業の開業資金として多額の支援を受けた

特別受益とならない可能性がある財産の例

 一方、次のようなケースでは、特別受益と評価されない可能性があります。

  • 子どもの学費を兄弟姉妹全員に同程度支援していた
  • 親が日常的な食費や交通費を一部負担していた
  • 同居していた子に、食事の準備や買い物など日常生活の支援をしていた

 贈与された内容が「特別」かどうかを判断するには、金額の大きさ・他の相続人との比較・目的などが重視されます。

よくある誤解:税法と民法はココが違う

 贈与税には「相続開始前3年以内の生前贈与は相続財産に含む」というルールがあり、この「3年」という期間は、2024年1月1日以降、3年から7年へ延長されました。

 これと混同しやすいのが、民法上の特別受益です。

 特別受益については、この「3年以内」という期間制限はなく、贈与が相続開始の何十年も前であっても、相続人間の公平を図る必要があれば考慮されることがあります。

「10年ルール」と時効の本当のところ

 「贈与から10年以上たっているから、もう関係ない」と考える人は多いですが、それは正しくありません。

相続分計算と遺留分計算で異なる時効の扱い

 相続分を決める際に用いられる「特別受益の持戻し」については、法律上の期間制限はありません。

 そのため、30年前の贈与であっても、証拠や事実関係が確認でき、特別受益と認められれば相続分の計算に含まれる可能性があります。

 一方、遺留分侵害額の請求は、民法上「相続開始から10年」または「侵害する贈与又は遺贈を知った時から1年」のいずれか早い方が期限(除斥期間)とされています(民法1048条)。

 この違いは非常に重要です。特別受益の持戻しと遺留分侵害額請求を混同すると、期限切れにより本来守られるはずの権利を失ってしまうおそれがあります。

20年以上前の贈与が問題になった判例・当所事例

 当事務所が扱った事例でも、25年前の不動産贈与が特別受益として認められたケースがあります。
相続開始よりも相当以前にされた不動産の生前贈与も遺留分減殺請求権の対象とし、遺留分に相当する不動産を取得することに成功した事例

 古い贈与でも「相続人間の不公平感」が大きく、登記記録や近隣住民の証言などで実質的な贈与と判断されたのです。

特別受益の持ち戻し計算ステップ【現金・不動産】

 特別受益の持ち戻しとは、特定の相続人が生前に多額の贈与を受けていた場合に、その分を相続財産に加えた上で相続分を計算し直す仕組みです。

 以下のステップで計算が進みます。

 例えば、相続財産が3,000万円あり、兄が生前に1,000万円の贈与を受けていたケースを例に考えます。相続人は兄と妹の2人です。

 ① 遺産総額に特別受益を加えて「みなし相続財産」(計算上の相続財産額)を出す

 3,000万円(遺産)+1,000万円(贈与)=4,000万円

 ② みなし相続財産を法定相続分で割って、本来の取り分を出す

 4,000万円 × 1/2(兄)=2,000万円
 4,000万円 × 1/2(妹)=2,000万円

 ③本来の取り分から特別受益分を差し引き、残額が実際の取得分となる

 兄:2,000万円 − 1,000万円(既に贈与済)=1,000万円
 妹:2,000万円 − 0円 =2,000万円

 このように、兄はすでに1,000万円を受け取っていたため、最終的な相続取得額は妹の方が多くなります。

 これが、過去の贈与を考慮して相続人間の公平を保つための「特別受益の持戻し」の仕組みです。

不動産の場合:代償分割シミュレーション

 固定資産税評価証明書や不動産鑑定などを用いて、贈与時の評価額、または相続開始時点での評価額を明らかにしたうえで、他の相続人に金銭で精算する方法を「代償分割」といいます。

 代償分割は、特別受益の持戻しに限らず、不動産など現物を分けにくい財産の分割方法としても活用されます。

 例として、相続人が兄と妹の2人で、法定相続分がそれぞれ1/2の場合を考えます。

 兄が生前贈与で土地(評価額1,200万円)を取得していたケースでは、次のように計算します。

 兄が既に取得した不動産:1,200万円

 法定相続分:兄1/2、妹1/2

 兄妹それぞれの本来の取得分:1,200万円 × 1/2 = 600万円

 妹が受け取るべき金額(代償金):600万円

 この場合、兄は既に1,200万円分の財産を取得しているため、妹に現金600万円を支払えば、法定相続分に基づく公平な相続が成立します。

 実務では、この計算に基づき、現金での支払いか、他の資産との組み合わせによる分割案を話し合って決定します。

必須5資料チェックリストと取得方法

 特別受益を主張するためには、証拠が必要です。

 口約束だけでは主張が認められにくいため、資料の確保が非常に重要です。

有効な資料5点

資料名 説明 取得方法
通帳コピー 贈与時の出金履歴 金融機関で過去の取引履歴を開示請求
贈与契約書 贈与の合意書面 家庭内保管、または作成した事務所に確認
登記簿謄本 不動産贈与の事実確認 法務局で取得可能(オンライン申請可)
固定資産評価証明書 不動産の金額を証明 市区町村役場で取得(評価年度に注意)
証言(陳述書) 当時を知る親族や第三者の証言 公証人役場で公正証書化も可能

「持ち戻し免除」を覆すときの証拠戦略

 相手方から「これは持戻し免除のつもりだった」と主張されるケースもあります。

 民法上、持戻し免除の意思表示は書面によらなくても成立しますが、実務上はその事実を証明するのは非常に困難です。

 持戻し免除の意思表示があったことを争う場合(=意思表示の有無を否定する場合)には、贈与前後のやり取りや発言内容、贈与の目的を示す資料、周囲の証言など、複数の証拠を集めて総合的に反証する必要があります。

 そのため、贈与や相続に関する重要な意思は、後日の紛争を避けるためにも、可能な限り書面で残すことが望ましいといえます。

協議 → 調停 → 審判・訴訟のロードマップ

 遺産分割の手続きは、話し合いがスムーズにまとまるケースと、そうでないケースで大きく分かれます。以下に、手続きの標準的な流れと、それぞれの段階で取るべき対応をまとめます。

協議段階

  • 相続人全員で自由に遺産の分け方を話し合う段階
  • 特別受益の主張や評価について合意できれば、この段階で解決
  • 第三者(弁護士)を間に入れることでスムーズに進みやすい

調停段階

  • 協議がまとまらない場合、家庭裁判所に調停を申し立てる
  • 裁判所が選任した調停委員が間に入り、双方の主張を整理
  • 特別受益の有無や持ち戻しの金額を法的に検討する段階

審判段階

  • 調停でも合意に至らない場合、審判(裁判官による判断)に移行
  • 証拠と法律に基づいて相続分が決定される
  • 当事者の意思では結果を左右できないため、リスクもある

 実際の解決までの平均的な期間は以下のとおりです。

フェーズ 平均期間 備考
協議 約3か月 弁護士介入で早期解決も可能
調停 約7か月 申立てから複数回の期日を経て合意形成
審判 6か月以上 判決による強制的な解決

 時間と労力を最小限に抑えたい場合は、協議段階での専門家のサポートが鍵となります。早めに弁護士に相談しておくことで、証拠の整理や交渉の方向性を整えやすくなります。

遺留分侵害額請求の要件と進め方

 特別受益としての調整とは別に、相続人が最低限受け取る権利として「遺留分」があります。 遺留分を侵害された場合、一定の条件を満たせば金銭での請求が可能です。

遺留分の対象と請求期限

  • 請求できるのは法定相続人(配偶者・子・直系尊属)
  • 期限は「相続開始および贈与の事実を知ったときから1年以内」

 たとえば、生前に兄が1,500万円の不動産を譲り受けていたことがわかった場合、他の相続人が遺留分を侵害されているなら、その金額に応じた請求ができます。

 請求の際には、法的な書面による通知(内容証明郵便など)と金額の根拠を明示する必要があります。

弁護士と司法書士の違いを徹底比較

 生前贈与や特別受益が問題になる相続では、調停・審判までを見越した対応が求められます。このようなケースでは、司法書士よりも弁護士の関与が効果的です。

項目 弁護士 司法書士
相続人間の代理交渉 ×
家庭裁判所の調停・審判代理 ×
相続登記などの書類作成
トラブルの解決 △(助言まで)

 複雑な相続や争いが想定される場合には、最初から弁護士に相談することをおすすめします。

成功事例で見る“勝ち筋”

 このように、古い贈与や口頭ベースのやりとりでも、資料と法的主張を組み合わせて交渉が可能です。

対話テンプレートと第三者介入のタイミング

 相続はお金の問題であると同時に、人間関係の問題でもあります。生前贈与があると、「もらった・もらっていない」「不公平だ」と感情がこじれやすくなります。

 特に、親からの贈与は、長年の家族関係の中で積み重なってきた感情や立場の違いが噴き出すきっかけになりやすいです。

 そこで重要なのが、感情的にならずに冷静な対話を始めるための“入り口”のつくり方です。

対話テンプレート:実用的な声かけ例とその理由

  • 「この話を一緒に整理できると助かる」
     → 自分のためではなく“お互いのため”という姿勢を示すことで、相手の警戒心をやわらげます。

  • 「当時のこと、どう思っていたのか聞かせて」
     → 過去の事情や気持ちを一方的に責めるのではなく、相手の立場を理解しようとする姿勢が伝わり、対話の扉が開きやすくなります。

  • 「今後、子ども同士にも影響が出ないようにしたい」
     → 次世代への配慮を示すことで、当事者同士の利害対立を超えた“共通のゴール”を持ちやすくなります。

 これらの言葉は、責めるのではなく“共に解決を目指す”というスタンスを相手に伝える効果があります。

 言い方ひとつで、話し合いが平行線になるか、歩み寄りが生まれるかが大きく変わるのです。

 どうしても話し合いが難しいときは、弁護士などの第三者が入ることで、対話のトーンが落ち着き、建設的な交渉がしやすくなります。

 専門家が関与することで、感情的な対立を避けつつ、論点を整理して相続分の調整が進められます。

よくある質問(FAQ)

Q1. 生前贈与がある場合、遺産分割にどんな影響がある?
→ 生前贈与が相続人間の公平を害すると認められる場合、民法上の「特別受益」として考慮されます。その場合、贈与を受けた相続人の実際の取り分が減る可能性があります。

Q2. 10年以上前の贈与も対象になりますか?
→ 特別受益の持戻しには時効がなく、贈与時期にかかわらず考慮される可能性があります。ただし、遺留分侵害額請求の場合は別途時効(相続開始から10年など)があるため、区別が必要です。

Q3. 通帳が見つからない場合はどうする?
→ 金融機関に対して、相続人として取引履歴の開示を請求できます。また、不動産登記情報や第三者の証言、贈与契約書なども証拠として活用できます。

Q4. 兄が「持戻し免除があった」と主張してきた場合?
→ 民法上、持戻し免除の意思表示は書面でなくても有効ですが、立証は難しいのが実務です。発言記録、書面、贈与目的を示す資料、第三者の証言などを集め、意思表示の有無を総合的に検討します。

Q5. 弁護士費用はいくらぐらいかかる?
→ 案件の内容や規模によって異なりますが、遺産分割事件では着手金30万円〜が目安とされることがあります。当事務所では初回相談を無料で行っていますので、費用面も含めてご相談いただけます。

まとめ|格差を防ぎ、公平な相続を実現しよう

 生前贈与が関係する遺産分割は、証拠の有無や過去の経緯によって複雑になりがちです。

 放置をすると「もらった側だけが得をして終わる」ような不公平な結果になることもあります。

 特別受益の持ち戻し計算や証拠の収集には、法的な知識と準備が欠かせません。

 「兄だけが贈与を受けていた」「贈与された土地の価値が不明」といった状況に不安を抱えている方は、一人で悩まず専門家に相談してください。早めの対応が、公平で納得のいく相続につながります。

 当事務所では、生前贈与・特別受益に関する相続トラブルの相談を数多く扱っています。証拠の集め方や交渉の進め方まで、実績ある弁護士が丁寧にサポートします。

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【著者情報・監修者情報】


家事部 熊本県弁護士会 (弁護士登録番号:50567)

2011年 熊本大学法学部 卒業

2013年 九州大学法科大学院 修了

2013年に司法試験に合格し、福岡県内の法律事務所を経て、2022年より弁護士法人グレイスにて勤務

 

遺言作成や相続紛争、相続放棄の申し立てに携わっている。
再婚家庭での分割協議や調停など、トラブル回避策を提案してきた実績がある。

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免責事項
本記事は一般的な情報提供を目的とした内容です。個別の事情で法的手続きや判断が異なるため、正確な対応を希望する場合は必ず専門家へ相談してください。状況によって提出先や必要書類が変わる可能性もあります。

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金融機関によって多少異なりますが、一般的に以下の書類が必要です。 被相続人(故人)の除籍謄本、戸籍謄本(出生から死亡までのもの) 相続人全員の戸籍謄本 払戻しを希望する相続人の印鑑証明書 払戻しを希望する相続人の本人確認書類(運転免許証など) 【正式】遺産をすべて受け継ぐための「相続手続き(凍結解除)」  仮払い制度は、あくまで緊急的な資金需要に応えるためのものです。  故人の預金を全額引き出すためには、正式な相続手続きを行い、口座凍結を完全に解除する必要があります。  この正式な手続きは、相続人全員の合意のもとで進めるのが原則です。  次は、この「相続手続き(凍結解除)」の具体的な手順を、誰にでもわかるように4つのステップで詳しく解説します。 第3章:【完全ガイド】銀行口座の相続手続き(凍結解除)の全手順  ここからは、凍結された口座を完全に解除し、預金を払い戻すための正式な手順を解説します。具体的なステップに分けて説明します。 まずは全体像を把握!凍結解除までの4ステップ  銀行口座の相続手続きは、大きく分けて以下の4つのステップで進みます。 STEP1:銀行への連絡と必要書類の確認 STEP2:公的書類の収集 STEP3:【ケース別】必要書類の準備 STEP4:銀行窓口への書類提出と払い戻し  この流れを頭に入れておくだけで、次に何をすべきかが明確になります。それでは、各ステップを詳しく見ていきましょう。 STEP1:銀行への連絡と必要書類の確認  最初に、故人が口座を保有していた銀行の取引支店へ電話で連絡します。その際は「先日、父の〇〇が亡くなりまして、口座の相続手続きについてお伺いしたいのですが」というように、口座名義人が亡くなった事実と、相続手続きを進めたい旨を明確に伝えてください。  連絡をすると、銀行から相続手続き専用の依頼書や、必要書類の一覧が郵送されてきます。  この一覧が、今後の手続きの道しるべになります。まずは内容をしっかり確認し、どのような書類が必要なのかを把握しましょう。  また、この時に故人の口座の「残高証明書」の発行も依頼してください。  残高証明書は、遺産分割協議や相続税の申告の際に、遺産総額を正確に把握するために不可欠な書類です。 STEP2:公的書類の収集  相続手続きの中で、最も時間と労力がかかるのが、この公的書類の収集です。  特に重要なのが「被相続人(故人)の出生から死亡までの連続した戸籍謄本・除籍謄本・改製原戸籍謄本」です。  法的に有効な相続人を確定するために絶対に必要な書類です。  故人が結婚や転籍などで本籍地を何度も変更している場合、そのすべての市区町村役場に請求をかけ、戸籍謄本を取り寄せなくてはなりません。  例えば、故人が「東京で生まれ、結婚して大阪へ、退職後は福岡へ」という経歴だった場合、その都度、本籍を移している場合には、東京、大阪、福岡の各市区町村役場へ戸籍謄本を請求する必要があります。  このほか、相続人全員の現在の戸籍謄本と、印鑑証明書(発行後3ヶ月または6ヶ月以内のもの)も必要です。ご兄弟など他の相続人にも早めに連絡を取り、書類の準備を依頼しましょう。 STEP3:【ケース別】必要書類の準備  公的書類の収集と並行して、遺産の分け方を確定させ、銀行に提出する書類を準備します。  必要書類は、遺言書の有無や遺産分割協議の状況によって、主に3つのパターンに分かれます。以下の表を参考に、ご自身の状況に合った書類を準備してください。 必要書類 パターンA:遺言書がある パターンB:遺産分割協議書がある パターンC:法定相続人が1人 銀行所定の相続届 ● ● ● 遺言書 ● ― ― 遺産分割協議書(相続人全員の実印押印) ― ● ― 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本等 ―(※1) ● ● 被相続人の死亡が確認できる戸籍謄本 ● ― ― 相続人全員の戸籍謄本 ―(※2) ● ― お金を受け取る相続人の戸籍謄本 ● ― ● 相続人全員の印鑑証明書 ―(※2) ● ― お金を受け取る相続人の印鑑証明書 ● ― ● お金を受け取る相続人の実印・通帳・キャッシュカード ● ● ● (※1) 金融機関によっては、遺言書があっても相続人確定のために提出を求められる場合があります。 (※2) 遺言執行者がいる場合は、遺言執行者の印鑑証明書のみでよい場合があります。  遺言書がなく、相続人が複数いる場合は「パターンB」に該当します。  相続人全員で話し合い、「誰がどの財産をどれだけ相続するか」を決定し、その内容を「遺産分割協議書」という正式な書類にまとめ、全員が実印を押印します。 STEP4:銀行窓口への書類提出と払い戻し  すべての書類が完璧に揃ったら、銀行の窓口に提出します。書類の量が多くなるため、事前に来店予約をしておくとスムーズです。提出された書類は銀行内で審査され、不備がなければ手続きは完了です。  通常、書類を提出してから2週間〜1ヶ月半ほどで、相続届に記入した代表相続人の口座に、故人の預金が全額振り込まれます。これで、一連の口座凍結解除手続きは終了です。 第4章:口座凍結の解除までにかかる期間と費用の目安  「この面倒な手続き、一体いつ終わるんだ…」  「結局、費用はどれくらいかかるんだろう?」  ここでは、多忙なあなたが最も気になるであろう「期間」と「費用」のリアルな目安をお伝えします。 手続き完了までの期間はどれくらい?  手続き完了までの期間は、ケースバイケースですが、一般的な目安はあります。全体では2ヶ月〜3ヶ月程度を見ておくと、余裕をもったスケジュールを組めます。 STEP1:銀行への連絡と書類の取り寄せ目安:1週間〜2週間 STEP2:公的書類の収集目安:1ヶ月〜2ヶ月(故人の転籍回数による) STEP3:遺産分割協議目安:1ヶ月〜(相続人間でスムーズに合意できた場合) STEP4:銀行の審査と払い戻し目安:2週間〜1ヶ月半  最も時間がかかるのは「公的書類の収集」と、「遺産分割協議」です。特に、相続人同士が遠方に住んでいたり、意見がまとまらなかったりすると、期間はさらに長引きます。 かかる費用の内訳は? かかる費用は、「自分で手続きする場合」と「専門家に依頼する場合」で大きく異なります。 自分で手続きする場合の実費 自分で手続きを進める場合、必要になるのは書類の発行手数料などの実費のみです。 戸籍謄本:1通 450円 除籍謄本・改製原戸籍謄本:1通 750円 印鑑証明書:1通 300円程度(自治体による) 残高証明書発行手数料:1通 1,000円程度(金融機関による) 郵送料など すべて合わせても、数千円から1万円程度に収まることがほとんどです。 専門家(弁護士・司法書士など)に依頼する場合の報酬  面倒な手続きを専門家に代行してもらう場合、上記の実費に加えて専門家への報酬が必要です。  報酬体系は事務所によって異なりますが、一般的には「得られた利益の〇%」という成功報酬が多いです。 第5章:将来の家族のために。今からできる口座凍結への生前対策  今回、あなたが相続手続きで経験されたご苦労を、将来ご自身の家族にさせないために、今から準備できることがあります。  ご自身のもしもの時に、配偶者やお子様が困らないための3つの対策をご紹介します。 対策①:遺言書を作成しておく  遺言書を作成しておくことは、最も有効な対策の一つです。遺言書で「妻に全財産を相続させる」などと指定しておけば、相続人同士で遺産の分け方を話し合う「遺産分割協議」が不要になります。  これにより、相続手続きが格段にスムーズになり、家族間の争いを未然に防げます。特に、法的に有効で信頼性の高い「公正証書遺言」の作成をおすすめします。 対策②:生命保険に加入しておく  生命保険の死亡保険金は、原則として受取人固有の財産とみなされ、遺産分割の対象にはなりません。  つまり、口座が凍結されていても、受取人に指定された人が単独で、かつ迅速にまとまった現金を受け取れます。葬儀費用や当面の生活費に充てるための資金として、非常に有効な手段です。 対策③:家族信託(民事信託)を設定しておく  家族信託とは、ご自身の財産の管理・運用・処分を、信頼できる家族に託す制度です。  例えば、「自分が認知症になったり死亡したりした後は、この信託口座の管理を長男に任せる」という契約を生前に結んでおきます。  この信託契約を結んだ財産は、個人の資産とは切り離されるため、死亡後も凍結されません。資産の凍結を防ぐだけでなく、認知症対策としても注目されています。 第6章:相続と口座凍結に関するよくある質問(Q&A)  ここでは、相続と口座凍結に関して、本文では触れきれなかった細かいけれどよくある質問について、Q&A形式で簡潔にお答えします。 Q. ネット銀行の口座はどうなりますか? A. ネット銀行の口座も、実店舗のある銀行と全く同じように凍結されます。  手続きの流れも基本的には同じです。まずは、各ネット銀行のカスタマーサポートに電話やメールで連絡し、相続が発生した旨を伝えてください。その後の手続きは、郵送やオンラインでのやり取りが中心になります。 Q. 故人が複数の銀行に口座を持っていたら? A. 残念ながら、各銀行で個別に相続手続きを進める必要があります。  ただし、手続きに必要となる戸籍謄本などの公的書類は、基本的にどの銀行でも同じです。戸籍謄本などの原本は1セットしかありませんが、「原本還付」という方法で対応できます。  これは、窓口で原本とコピーを提示し、銀行に原本を確認してもらった後、原本を返却してもらう手続きです。これにより、1セットの原本で複数の金融機関の手続きを進められます。 Q. 故人に借金がある場合は? A. 故人にプラスの財産(預貯金など)よりもマイナスの財産(借金など)が多い場合、「相続放棄」を検討すべきです。  相続放棄とは、家庭裁判所に申し出ることで、プラスの財産もマイナスの財産も一切相続しないという選択です。この相続放棄には「自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内」という厳格な期限があります。  預金を1円でも引き出してしまうと、相続放棄ができなくなる可能性がありますので、借金の存在が疑われる場合は、絶対に預金に手をつけず、速やかに弁護士などの専門家に相談してください。 Q. 手続きに期限はある? A. 銀行口座の凍結解除手続きそのものに、法律上の明確な期限はありません。  しかし、相続に関連する他の手続きには期限があります。代表的なものが相続税の申告・納付で、これは「相続の開始があったことを知った日の翌日から10ヶ月以内」と定められています。  口座凍結解除の手続きを放置していると、相続税の納税資金が用意できず、期限に間に合わなくなる可能性があります。手続きは計画的に、早めに着手しましょう。 第7章:手続きが困難な場合は、弁護士への相談も選択肢に 「仕事が忙しくて、平日に役所や銀行に行く時間を確保できない」 「兄弟との関係が昔からあまり良くなく、遺産の話を切り出しにくい」 「戸籍を集め始めたが、複雑すぎて手に負えない」  もし、あなたがこのように感じているなら、一人ですべてを抱え込む必要はありません。相続の専門家である弁護士に相談することも、有効な選択肢の一つです。 弁護士に依頼するメリットとは?  相続手続きを弁護士に依頼すると、あなたにとって多くのメリットがあります。 時間と手間の大幅な節約  最も煩雑な戸籍謄本の収集から、金融機関とのやり取り、遺産分割協議書の作成まで、すべての手続きをあなたに代わって進めてくれます。 精神的負担の軽減  相続人同士が直接話し合うと感情的になりがちな場面でも、弁護士が代理人として間に入ることで、冷静かつ円満な解決を目指せます。 法的な正確性と安全性の確保  法律の専門家として、あなたの状況に合った最適な手続きを提案し、後々トラブルにならないよう法的に不備のない書類を作成してくれます。 こんな場合は相談を検討  以下の項目に一つでも当てはまる場合は、一度弁護士への相談を検討してみることをおすすめします。 相続人同士で意見が対立している、またはその可能性がある 相続人の数が多い、または中に行方不明や連絡が取れない人がいる 平日に役所や銀行へ行く時間をどうしても作れない 故人に借金がある可能性が少しでもある 遺産分割協議書の作り方がよくわからない 相続財産の種類が多い、または不動産などが含まれていて評価が難しい  今回は、相続による銀行口座の凍結について、その影響から具体的な手続きまでを解説しました。最後に、この記事の重要なポイントを振り返ります。 口座凍結は相続トラブルを防ぐための措置です。凍結前の安易な引き出しは、相続放棄ができなくなるなどの大きなリスクを伴います。 葬儀費用など緊急のお金が必要な時は「預貯金の仮払い制度」を利用できます。 正式な凍結解除には、戸籍謄本の収集や遺産分割協議など、計画的な準備が必要です。 手続きが複雑な場合や親族間での話し合いが難しい場合は、弁護士への相談が有効な解決策になります。  相続手続きは、多くの方にとって初めての経験です。まずはこの記事全体をもう一度見直し、ご自身の状況で「次に何をすべきか」を整理してみてください。  一番大切なのは、一人で抱え込まず、焦って独断で行動しない点です。  もし少しでも手続きに不安を感じたり、ご兄弟との話し合いが難航しそうだと感じたりした時は、迷わず専門家へ相談しましょう。  故人が遺してくれた大切な財産を、円満な形で未来へ繋いでいきましょう。

2025.09.14

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【完全版】遺贈の税金|基礎控除は使える?2割加算とは?弁護士が徹底解説

【完全版】遺贈の税金|基礎控除は使える?2割加算とは?弁護士が徹底解説

 お世話になった方からの遺贈。感謝の気持ちと同時に、「私は相続人ではないけど、税金はどうなるの?」「相続税の基礎控除は使えるのだろうか?」といった不安を感じていませんか。  ご安心ください。この記事では、遺贈の税金に関する疑問に弁護士がすべてお答えします。 【この記事でわかること】 あなたの相続税がゼロになるか、具体的な納税額 相続人以外に特有の「2割加算」の仕組み 損やトラブルなく手続きを終えるための全知識  まず結論からお伝えしますと、遺贈でも相続税の基礎控除は適用されます。  その仕組みと、ご自身のケースで何をすべきかを、さっそく確認していきましょう。 【遺贈の基本】法定相続人以外が財産をもらう仕組みとは? 故人の想いを受け取る第一歩として、まずは基本的な仕組みを正確に理解しましょう。 「遺贈」とは?相続・贈与との違いを1分で解説  「遺贈(いぞう)」とは、遺言によって、ご自身の財産を無償で他人に譲り渡す法律行為をいいます。この点については、民法第964条に次のように規定されています。  (包括遺贈及び特定遺贈)  第964条 遺言者は、包括又は特定の名義で、その財産の全部又は一部を処分することができる。  つまり、遺言によって財産を引き継がせる方法の一つが「遺贈」です。  「遺贈」と似た用語に「相続」や「贈与」がありますが、それぞれ意味が異なります。 相続:法律上定められた相続人が、被相続人(亡くなった方)の財産を引き継ぐことをいいます。遺言がなくても法律に基づいて自動的に発生します。 贈与:生きている間に、自分の財産を無償で他人に与える契約をいいます。贈与契約が成立することで効力が生じます。 遺贈:遺言によって、自分の死後に財産を無償で譲り渡すことをいいます。相続人だけでなく、相続人以外の人や団体に対しても行うことが可能です。  このように、「遺贈」は遺言によって初めて効力を持つ点で、相続や贈与とは異なる制度です。 項目 遺贈 相続 贈与 効力発生時期 遺言者の死亡時 相続開始時(死亡時) 当事者の合意時 財産を渡す方法 遺言(単独行為) 法律の規定 契約(合意) 財産をもらう人 誰でもよい 法定相続人 誰でもよい 【最速結論】法定相続人以外でも、相続税の「基礎控除」は使えます  法定相続人以外の方が遺贈を受けた場合でも、相続税の基礎控除は適用されます。  相続税は、まず被相続人(亡くなった方)の遺産全体に基礎控除を差し引いたうえで課税価格を計算し、次に各取得者の取得額に応じて税額を按分して算出する仕組みです。  基礎控除額は次の計算式で求められます。  基礎控除額 = 3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数  この基礎控除は、遺贈を受けた人が法定相続人であるかどうかにかかわらず、遺産全体に対して一律に適用されます。  したがって、たとえ遺贈によって財産を取得した場合であっても、被相続人の遺産総額が基礎控除額以下であれば、相続税は課税されません。  なお、法定相続人以外の方が遺贈を受けた場合、配偶者控除や相続人固有の税額控除などの特例は原則として使えないため、同じ金額を取得しても法定相続人より税負担が重くなるケースがあります。 遺贈は2種類|種類によって権利と義務が変わる(特定遺贈・包括遺贈)  遺贈には「特定遺贈」と「包括遺贈」の2種類があり、いずれに該当するかによって受遺者(遺贈を受ける人)の権利や義務が異なります。 特定遺贈とは  「A銀行の預金500万円を渡す」「自宅の土地と建物を渡す」といったように、特定の財産を指定して遺贈する方法です。  この場合、受遺者は指定された財産のみを取得し、被相続人の借金などマイナスの財産を引き継ぐ義務はありません。 包括遺贈とは  「全財産の3分の1を渡す」「全財産を渡す」といったように、財産の割合や全体を包括的に指定して遺贈する方法です。  包括遺贈を受けた人は、相続人と同じような立場となり、プラスの財産だけでなく、借金などのマイナスの財産もその割合に応じて引き継ぐ義務が生じます。 種類 特定遺贈 包括遺贈 内容 特定の財産を指定 財産の割合を指定 借金の承継 原則、承継しない 指定された割合で承継する 遺産分割協議 参加不要 参加が必要 放棄の方法 いつでも可能(意思表示) 3ヶ月以内に家庭裁判所で手続き  ご自身がどちらの遺贈を受けたのかは、遺言書の内容を確認してください。 私の相続税はゼロ?納税義務がわかる3分シミュレーション  ご自身のケースで相続税がかかるかどうか、3つのステップで簡単に確認できます。  必要な情報を準備して、一緒に計算してみましょう。 STEP1:故人の「遺産総額」を把握する  まず、亡くなった方が遺した財産の総額を把握します。  相続税の対象になる財産には、以下のようなものがあります。 預貯金:普通預金、定期預金など 不動産:土地、建物(自宅、アパートなど) 有価証券:株式、投資信託など その他:自動車、貴金属、生命保険金(非課税枠超過分)など  これらのプラスの財産から、借金や未払いの税金といった「マイナスの財産」を差し引きます。その金額が、相続税を計算する上での「遺産総額」になります。 STEP2:「法定相続人」の人数を確認する  次に、法律で定められた相続人である「法定相続人」が何人いるかを確認します。法定相続人になれる人には順位があり、上の順位の人がいる場合、下の順位の人は相続人になりません。 常に相続人:配偶者 第1順位:子(子が亡くなっている場合は孫) 第2順位:直系尊属(父母、祖父母) 第3順位:兄弟姉妹(兄弟姉妹が亡くなっている場合は甥・姪)  例えば、故人に配偶者と子2人がいる場合、法定相続人は3人です。故人に子がいない場合は、第2順位の父母が相続人になります。 STEP3:基礎控除額を計算し、納税義務を判定  遺産総額と法定相続人の人数がわかったら、基礎控除額を計算します。  相続税の基礎控除は、相続税法第15条に定められており、計算式は以下のとおりです。 計算式:3,000万円 +(600万円 × 法定相続人の人数)  この計算式で算出した基礎控除額と、STEP1で把握した遺産総額を比較します。 判定①:遺産総額が基礎控除額以下 → あなたの相続税は0円です。 この場合、原則として相続税の申告も納税も必要ありません。 判定②:遺産総額が基礎控除額を超える → 相続税がかかります。 次の章で、具体的な税額の計算方法を見ていきましょう。 【図解】遺贈の相続税はこう計算する!計算手順と特有のルール  遺産総額が基礎控除額を超えた場合の、相続税の計算方法を解説します。少し複雑ですが、ステップごとに順番に進めれば、どなたでも理解できます。 相続税計算の全体像(全6ステップ) ステップ1 課税遺産総額を算出  遺産総額から基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)や各種非課税枠を差し引き、課税対象となる遺産額を求めます。 ステップ2 法定相続分で仮に按分  課税遺産総額を、法律で定められた相続分(法定相続分)に従って相続人ごとに仮に分けます。 ステップ3 各人の仮の税額を算出  ステップ2で計算した各相続分に対して、相続税の速算表を用いて仮の税額を計算します。 ステップ4 相続税の総額を合計  ステップ3で求めた各人の仮の税額を合計し、相続税の総額を確定します。 ステップ5 実際の取得割合で税額を按分  相続人や受遺者が実際に取得した財産の割合に応じて、相続税の負担額を振り分けます。 ステップ6 2割加算などを適用し納税額を確定  法定相続人以外の方が遺贈を受けた場合には、原則として相続税額が2割加算されます。このため、法定相続人と同じ金額を取得しても、納税額が重くなる点に注意が必要です。 ステップ1~4:相続税の「総額」を求める  まず、相続税が全体でいくらかかるのか、「相続税の総額」を計算します。ここでのポイントは、「もし法定相続人が法律の定めどおりに財産を分けたら」と仮定して計算を進める点です。 具体例 遺産総額:5,000万円 法定相続人:2人(故人の弟A、弟B) あなたの取得財産:500万円(特定遺贈) ステップ1:課税遺産総額の算出  遺産総額から基礎控除額を差し引きます。  5,000万円 – {3,000万円 + (600万円 × 2人)} = 800万円 ステップ2~4:相続税の総額を計算  課税遺産総額800万円を、法定相続分で仮に分け、それぞれの税額を計算して合計します。  弟AとBの法定相続分は各2分の1なので、それぞれ400万円ずつ取得したと仮定します。  相続税の税率は以下のとおりです。 法定相続分に応ずる取得金額 税率 控除額 1,000万円以下 10% – 3,000万円以下 15% 50万円 5,000万円以下 20% 200万円 弟Aの仮の税額:400万円 × 10% = 40万円 弟Bの仮の税額:400万円 × 10% = 40万円 相続税の総額:40万円 + 40万円 = 80万円 ステップ5:あなたの「取り分」を按分する  次に、算出した「相続税の総額(80万円)」を、実際に財産を取得した割合に応じて、それぞれに割り振ります。 遺産総額のうち、あなたが取得した割合 500万円 ÷ 5,000万円 = 10% あなたが負担する相続税額(按分後) 80万円 × 10% = 8万円 ステップ6:【最重要ルール①】あなたの税額に「2割加算」を適用する  被相続人の配偶者・直系尊属(父母)・直系卑属(子)以外の者が相続または遺贈により財産を取得した場合、その人の相続税額は算出税額に20%相当額を加算した金額となります。  これは、相続税法第18条第1項に定められたルールです。 (相続税額の加算)第十八条 相続又は遺贈により財産を取得した者が当該相続又は遺贈に係る被相続人の一親等の血族(当該被相続人の直系卑属が相続開始以前に死亡し、又は相続権を失つたため、代襲して相続人となつた当該被相続人の直系卑属を含む。)及び配偶者以外の者である場合においては、その者に係る相続税額は、前条の規定にかかわらず、同条の規定により算出した金額にその百分の二十に相当する金額を加算した金額とする。  この「2割加算」は兄弟姉妹や孫など、法定相続人であっても被相続人の配偶者・親・子以外である場合に適用される点に注意が必要です。  (※被相続人の子が死亡して代襲相続人となった孫は加算対象外です)。  先ほどの具体例では、あなたは相続人ではないため2割加算の対象です。最終的な納税額は以下のようになります。  8万円(按分後の税額) × 1.2 = 9万6,000円 【最重要ルール②】相続人なら使える「各種控除」が適用できない  遺贈を受けた方が法定相続人ではない場合、相続税を軽減する以下の特例や控除が適用されません。 死亡保険金・死亡退職金の非課税枠  法定相続人には「500万円 × 法定相続人の人数」の非課税枠がありますが、相続人以外は利用できません。 小規模宅地等の特例(原則)  一定の要件を満たすと、土地の評価額を最大80%減額できる特例ですが、適用対象者が限られます。 未成年者控除、障害者控除など  相続人が未成年者や障害者である場合に適用される税額控除も、相続人以外の方は対象外です。  これらの控除が使えないことも、税負担に影響を与える要因となります。 相続税だけじゃない!遺贈で発生するその他の税金と手続き  遺贈で財産を受け取った場合、相続税以外にも税金がかかるケースがあります。  また、手続きには厳しい期限がありますので、注意が必要です。 【不動産の場合】不動産取得税・登録免許税がかかる  不動産を遺贈された場合、特に注意が必要なのが「不動産取得税」と「登録免許税」です。 不動産取得税  相続人が相続(又は特定遺贈)によって不動産を取得した場合、不動産取得税は非課税です。一方、法定相続人以外の第三者が、特定遺贈で不動産を取得した場合には、不動産取得税が課税されます(固定資産税評価額の4%、土地・住宅の場合は軽減措置により3%)。  なお、包括遺贈による不動産取得については、受遺者が相続人か否かを問わず不動産取得税の非課税対象となります。 登録免許税  不動産の名義変更(所有権移転登記)に係る登録免許税について、受遺者が法定相続人である場合は原因を「相続」として登記できるため税率は0.4%(1000分の4)です。  しかし、受遺者が法定相続人以外の場合は登記上の原因が「遺贈(その他の原因)」となり、登録免許税の税率は2.0%(1000分の20)に上がります。  これは遺贈による取得者が法定相続人か否かで税率が異なることを意味します。 【手続きの期限】申告と納税は「知った日の翌日から10ヶ月以内」が鉄則  相続税の申告と納税には、厳格な期限が定められています。  「被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10ヶ月以内」に、被相続人の最後の住所地を管轄する税務署に申告・納税を完了させなくてはなりません。  この期限を過ぎると、本来の税額に加えて「無申告加算税」や「延滞税」といったペナルティが課される可能性があります。期限は非常に重要ですので、早めに準備を始めましょう。 【手続きの進め方】申告・納税までの具体的な流れ  遺贈を受けてから納税が完了するまでの、一般的な流れは以下のとおりです。 1.遺言書の確認 2.財産調査と評価 3.相続人の確定 4.相続税申告書の作成 5.申告と納税 遺贈の隠れたリスク!損とトラブルを回避するための2大知識  税金の計算以外にも、遺贈には注意すべき法的なリスクが存在します。  特に「遺留分」と「納税資金」の問題は、事前に知っておくべきです。 【法的トラブル回避】法定相続人からの「遺留分侵害額請求」に備える  「遺留分(いりゅうぶん)」とは、兄弟姉妹を除く法定相続人に、法律上保障されている最低限の遺産の取り分をいいます。  たとえ遺言で「全財産を特定の人に遺贈する」とされていても、遺留分を有する相続人の権利が侵害されることは許されません。  遺言や生前贈与によって遺留分が侵害された場合、遺留分を持つ相続人は、遺贈や贈与を受けた人に対して、侵害された分の金銭を支払うよう請求できます。これを「遺留分侵害額請求」といいます。  請求は金銭で行うのが原則であり、不動産や株式など特定の財産を返還してもらえるわけではありません。  遺留分侵害額請求には、行使できる期間が法律で定められています。相続の開始と遺留分侵害を知った時から1年以内に行使しなければ、時効により権利が消滅します。  また、たとえ知らなかった場合でも、被相続人の死亡から10年が経過すると請求権自体が消滅します(除斥期間)。 【金銭トラブル回避】どうやって払う?「納税資金」の準備を忘れずに  遺贈された財産が現金や預貯金であれば、そこから納税資金を準備できます。  しかし、不動産や非上場株式など、すぐに換金できない財産を遺贈された場合は注意が必要です。相続税は原則として現金で一括納付しなくてはなりません。納税額が数十万、数百万円になることもあります。  いざ納税という時に「手元に現金がない」という事態に陥らないよう、あらかじめ納税資金をどう準備するかを考えておく必要があります。  どうしても現金での納付が難しい場合は、分割払いである「延納」や、不動産などで納める「物納」という制度もありますが、利用には厳しい要件があります。 【補足知識】円満な遺贈のために知っておきたいこと  ここでは、遺贈をされる側だけでなく、する側にとっても重要な知識を解説します。  円満な財産承継のために、ぜひ参考にしてください。 なぜ重要?トラブルを防ぐ「遺言執行者」の役割  遺言執行者とは、遺言の内容をスムーズに実現するために、必要な手続きを行う権限を持つ人です。遺言執行者がいると、遺贈された財産の名義変更や解約手続きなどを単独で進められます。  特に、法定相続人と、遺贈を受けた方の関係が疎遠な場合、遺言執行者は両者の間に入って手続きを進める潤滑油のような役割を果たします。  相続人との余計な接触を避けたい場合、遺言執行者の存在は非常に大きな助けになります。遺言執行者は遺言で指定できますので、遺贈を考える方は信頼できる専門家などを指定しておくとよいでしょう。 【遺贈する方へ】想いを確実に届ける遺言書作成の3つのコツ  想いを確実に届けるためには、遺言書の作成に工夫が必要です。 「公正証書遺言」で作成する  自筆の遺言書は、形式の不備で無効になったり、紛失や改ざんのリスクがあります。公証役場で作成する公正証書遺言は、そのようなリスクがなく、最も確実な方法です。 遺言執行者を指定する  上記のとおり、手続きを円滑に進めるために遺言執行者を指定します。 「付言事項」を活用する  遺言の最後には、法的な効力はありませんが、家族への感謝の気持ちや、なぜそのような遺言内容にしたのかという想いを記せます。付言事項があることで、残された相続人間の争いを防ぐ効果が期待できます。 介護やお世話への感謝を形に「特別寄与料制度」という選択肢も  遺言がない場合でも、相続人ではない親族が、亡くなった方に対して介護や看病などを無償で行い、特別に貢献した場合には、相続人に対して金銭を請求できる制度があります。  これを「特別寄与料制度」といい、2019年7月の民法改正により新設されました。  特別寄与料を請求できるのは、次の要件を満たす人です。  被相続人(亡くなった方)の 6親等内の血族又は3親等内の姻族、ただし相続人ではない人に限られます。  典型的な例としては、義理の親の介護を長年担ってきたお嫁さんなどが挙げられます。  従来は、相続人でない親族がどれだけ介護や看病に尽くしても、法的には報われないケースが多くありました。特別寄与料制度は、そのような方々の貢献に報いるために設けられた仕組みです。 遺贈のよくある質問(Q&A)  最後に、遺贈に関して多くの方が抱く疑問について、Q&A形式でお答えします。 Q1. 税金が高すぎる…遺贈を「放棄」することはできますか? A1. はい、放棄できます。 特定遺贈 の場合 受遺者は、いつでも相続人や遺言執行者に対して放棄の意思を伝えれば足ります。 包括遺贈 の場合 相続放棄と同じ手続が必要です。つまり、包括遺贈があったことを知った時から3か月以内に家庭裁判所へ申述しなければなりません。 Q2. 遺贈と「死因贈与」、何が違う?税金は変わる? A2. 遺贈(遺言による処分)も死因贈与(贈与契約)も、いずれも相続税の課税対象であり、基本的な計算方法も同じです。 ただし、不動産に関しては次のような違いがあります。 死因贈与で不動産を取得する場合 登記原因が「贈与」となるため、 不動産取得税:固定資産評価額の4% 登録免許税:固定資産評価額の2% が課税されます。 遺贈で不動産を取得する場合 受遺者が法定相続人である場合 → 登記原因を「相続」とでき、 登録免許税:0.4% 不動産取得税:非課税 受遺者が法定相続人以外の場合 → 死因贈与と同様に取得税4%、登録免許税2%が課税されます。  このように、死因贈与は契約であるため確実性のメリットがある一方、税負担面では遺贈より不利になる場合があります。 Q3. 受遺者(自分)が先に亡くなった場合、遺贈はどうなりますか? A3. 原則として、その遺贈は効力を失います。  民法994条1項では、遺贈は、遺言者より先に受遺者が死亡した場合には効力を生じないと定められています。  ただし、遺言書に「受遺者が先に死亡した場合には、その子に遺贈する」といった予備的な定めがあれば、その内容に従います。定めがなければ、その財産は相続人に承継されます。 Q4. 申告に、会ったこともない法定相続人の協力は必須ですか? A4. 直接の協力は不要ですが、法定相続人の情報は必須です。  相続税の申告書には、法定相続人全員の氏名・続柄などの情報を記載しなければなりません。そのため、故人の出生から死亡までの戸籍謄本を取り寄せて、法定相続人を確定する作業が必要です。  この作業は、遺言執行者がいれば遺言執行者が行います。遺言執行者がいない場合は、受遺者自身や依頼した専門家(弁護士・税理士など)が行います。  したがって、必ずしも法定相続人に直接会って協力を求める必要はありません。 8. まとめ  今回は、法定相続人以外の方が遺贈を受けた場合の税金と基礎控除について解説しました。  最後に、この記事の最も重要なポイントを振り返ります。 遺贈でも相続税の基礎控除は使える 遺産総額が基礎控除額以下なら相続税はゼロ 税金がかかる場合、被相続人の配偶者・親・子以外は税額が2割加算 不動産取得税など相続税以外の税金にも注意が必要 申告と納税の期限は「知った日の翌日から10ヶ月以内」  遺贈は、故人があなたに託した最後の大切な想いです。  税金に関する正しい知識を身につけることが、その想いをトラブルなく、晴れやかな気持ちで受け取るための何よりの準備となります。  もし、ご自身のケースで判断に迷う場合や、手続きに不安が残る場合は、一人で抱え込まずに税理士や弁護士などの専門家へ相談してください。

2025.09.14

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遺言書の効力は大丈夫?有効な遺言書の書き方と無効例・対処法を解説

遺言書の効力は大丈夫?有効な遺言書の書き方と無効例・対処法を解説

「遺言書ってちゃんと効力があるの?」「親が高齢なんだけど、書いた内容が無効にならないか心配…」 そんな不安を感じて検索している方も多いのではないでしょうか。 この記事では、次のような疑問に答えていきます。 有効な遺言書を作成するために必要なルールとは 無効と判断される典型的なケースとその対処法 自筆・公正証書など、遺言書の種類ごとの注意点 遺言書は、書き方や形式を少し間違えるだけで、法的な効力を持たなくなることがあります。家族のために残したつもりの内容がトラブルの原因になるのは避けたいですよね。 「自分で調べても難しくてよく分からない…」「専門家に相談するタイミングが分からない…」と感じている方もいるかもしれません。 でも大丈夫です。この記事では、法律の知識がない方でも理解できるように、ひとつずつ丁寧に説明していきます。 この記事を読むことで、遺言書を有効に残すための基本的なルールと、将来の相続トラブルを防ぐための準備が明確になります。 まずはここから、一緒に確認していきましょう。 遺言書とは?効力と法的にできる内容・無効になるケースも解説 法的に有効な「遺言事項」とは 遺言書とは、本人の死後に法的な効果を発生させる文書です。 遺言書に書ける内容は、民法であらかじめ決められています。これを「遺言事項」と呼びます。 民法第960条では、「遺言は、民法に定められた方式に従ってしなければ、その効力を生じない」と明記されています。つまり、内容が正しくても形式が不備なら効力が発生しません。法的に有効とされる主な遺言事項は、以下のようなものです。 相続分の指定 遺産分割方法の指定 推定相続人の廃除とその取消し 遺贈(相続人以外に対する財産の付与が典型だが、相続人に対しても行える) 認知(婚外子などの父であると認める意思表示) 遺言執行者の指定 未成年後見人・後見監督人の指定 信託の設定 例えば、「長女に自宅を相続させる」「内縁の妻に預金の一部を遺贈する」といった指定は、いずれも法的効力を持つ内容として有効です。 一方で、「息子には家業を継いでほしい」「親族は仲良くしてほしい」といった希望や感情は、法的な拘束力はありません。こうした内容は「付言事項」として書くことはできますが、法的効果はないと理解しておくべきです。 遺言書が効力を持つには、まずこの「遺言事項」に該当する内容を意識して記載する必要があります。 遺言書とエンディングノートの違い エンディングノートと遺言書は、どちらも人生の終盤に準備する書類ですが、役割はまったく異なります。 エンディングノートは、家族に向けた自分の気持ちや希望を書き残すもので、法的な拘束力はありません。自由な形式で書けるため、病歴や葬儀の希望、SNSの扱い、連絡してほしい人のリストなど、内容は人それぞれです。 遺言書は、相続や財産処分をめぐる紛争を防ぐための法的文書です。前述のとおり、民法で決められた方式と内容に従わなければ無効になります。どれだけ丁寧に書かれていても、エンディングノートに「自宅は娘に渡したい」と書いても、法的な効果は生じません。 以下に両者の違いをまとめます。 比較項目 遺言書 エンディングノート 法的効力 あり(方式に従う必要あり) なし 書き方 民法で定められた方式が必要 自由に記載可能 主な内容 財産分与・遺贈・相続廃除など 葬儀の希望・想い・日常情報など 目的 相続トラブルの防止 家族への意思伝達 家族に自分の思いを伝えたいならエンディングノートも有効ですが、相続や財産の分配を正確に指示したい場合は、必ず法的に有効な遺言書を作成する必要があります。 遺言書でできる主な8つのこと 遺言書で実際に実現できる内容は、以下の8つが代表的です。これは実務でも頻繁に扱う項目です。 相続分の指定(民法902条) 遺産分割方法の指定(民法908条) 遺贈の指示(民法964条) 推定相続人の廃除(民法893条) 認知の意思表示(民法781条) 未成年後見人の指定(民法839条) 遺言執行者の指定(民法1006条) 信託の設定(民法985条以下) 例えば、「自宅は長男に、預金は次男と長女で等分」といった内容は、遺言書で明確に指定することで、将来の争いを防ぐ効果が期待できます。 また、家族ではない第三者に財産を遺したい場合(例えば長年介護してくれた知人など)も、遺言書による「遺贈」という形で実現できます。 これらの項目は、エンディングノートや口約束では実現できません。効力のある遺言書に正確に書き残すことが求められます。 遺言書の効力が及ぶ範囲と発生タイミング 効力の対象となる事項(財産・身分など) 遺言書の効力が及ぶ範囲は、主に「財産に関する事項」と「身分に関する事項」の二つに分類されます。どこまで効力が及ぶのかを理解しておくことは、誤解や無効を防ぐうえで重要です。 民法では、遺言によってできる内容が具体的に列挙されています。代表的なものを簡潔に整理すると、以下の通りです。 【財産に関する事項】 相続分の指定や変更 遺産分割方法の指定 特定の人への遺贈(遺産を相続人以外に与える) 財産の信託設定 担保責任の指示など 【身分に関する事項】 推定相続人の廃除またはその取消し 非嫡出子(婚外子)の認知 未成年後見人や後見監督人の指定 例えば、「全財産を長女に相続させる」と書いた場合、これは遺産分割方法の指定として効力があります。 逆に「長男とは絶縁したい」という記述では、相続廃除の要件(民法第893条)を満たしていない限り、効力は発生しません。 有効な遺言書にするには、こうした「効力が及ぶ内容」と「希望を書いても効力が生じない内容」を明確に分ける意識が必要です。 遺言の効力が発生するタイミングと有効期間 遺言書の効力が実際に発生するタイミングは、「遺言者の死亡時」です。生前には一切の効力を持ちません。これは民法第985条に基づく原則です。 例えば、生前に「遺言書を作ったから、もう自宅は長男のものだよ」と本人が話していたとしても、その時点では法的には何の効力も発生していません。相続人が財産を正式に取得するのは、遺言者の死亡後になります。 また、「有効期間」について誤解されがちですが、遺言書に有効期限は存在しません。何年経っても、死亡時に有効な方式で作成された遺言書であれば効力を持ちます。 ただし、遺言書は後から何度でも撤回できます。新しい遺言書が見つかれば、それが原則として優先されます(民法第1023条)。 よって、古い内容のままで不都合がある場合は、適切な時期に書き直す必要があります。 複数の遺言書がある場合の優先順位 遺言書が2通以上存在する場合、原則として「日付が新しいもの」が有効とされます。これは民法第1023条第2項に定められています。 例えば、以下のようなケースを想定してください。 2019年作成の自筆証書遺言では「長女に自宅を渡す」と書かれていた 2023年に作成された公正証書遺言では「全財産を次男に相続させる」となっていた この場合、後から作成された2023年の公正証書遺言が有効とされ、2019年の内容は撤回されたと見なされます。 ただし、内容が重複していない場合は、両方が併存することもあります。 また、日付が不明確な遺言書があると、無効になる可能性が高くなります。 自筆証書遺言では日付を「◯年◯月◯日」と明確に書く必要があります。 さらに、同一日に2つの遺言書が存在する場合は、方式によって判断されたり、証拠能力や意思の一貫性などが問われたりすることになります。 このようなトラブルを避けるには、古い遺言書の「撤回意思」を明記した上で、新たな遺言を作成するのが安全です。 遺言書の種類とそれぞれの特徴 遺言書には複数の種類があり、それぞれ作成方法や安全性、手続きの手間に違いがあります。どの方式を選ぶかによって、有効性のリスクや費用も変わってきます。 ここでは代表的な3種類の遺言書と、特別な場面で使われる特別方式遺言について説明します。 自筆証書遺言|費用ゼロだが要件に注意 自筆証書遺言とは、遺言者が全文を自分で書いて作成する遺言書です。費用がかからず、自宅でいつでも作成できることが大きなメリットです。 しかし、形式上の要件が厳格に定められており、ひとつでも欠けると無効になるリスクがあります。民法第968条第1項では以下の要件が定められています。 遺言の全文を自筆で書くこと 作成日を自筆で記載すること(例:2025年7月10日) 氏名を自筆で記載すること 押印をすること(認印でも可だが実印が望ましい) また、訂正する場合は、訂正箇所に押印したうえで訂正方法を欄外に明記する必要があります。これも民法968条第2項で定められています。 例えば、「相続人の名前を間違えたので二重線で消して書き直した」という対応は、方式を満たしていない可能性があり、無効とされるおそれがあります。 自筆証書遺言を作成する場合は、できる限り法務局の「自筆証書遺言書保管制度」を利用しましょう。 この制度を使えば、遺言書の原本を安全に保管でき、死亡後の検認手続きも不要になります。 公正証書遺言|最も信頼性が高い方式 公正証書遺言は、公証人が関与して作成される最も安全性の高い遺言書です。 遺言者が口頭で内容を伝え、公証人が文書を作成します。民法第969条に定められている方式で、以下の手順が必要です。 証人2人以上の立ち会いがあること 遺言者が遺言内容を公証人に口述すること 公証人が内容を筆記し、遺言者と証人に読み聞かせること 全員が正確であることを確認した上で署名・押印すること この方式では、公証人が方式や内容をチェックするため、形式不備による無効のリスクがほぼありません。 また、原本は公証役場に保管されるため、遺言書が紛失・改ざんされる心配もありません。 デメリットとしては、作成費用がかかることが挙げられます。相続財産の額によって異なりますが、財産が2,000万円程度であれば数万円の手数料が一般的です。 また、証人が必要なため、完全に秘密で作成することはできません。 それでも、相続人間での争いを防ぐうえでは非常に有効な手段です。 秘密証書遺言・特別方式遺言の活用場面 秘密証書遺言は、内容を誰にも見せずに遺言書を作成したい場合に使われる方式です。遺言書の本文は自筆でもワープロでも構いませんが、民法第970条に定められた以下の手続きが必要です。 遺言書に署名・押印すること 封筒に封をして、印鑑で封印すること 公証人1名と証人2名以上の前で、「自分の遺言書である」と申述すること 公証人がその旨を封筒に記載し、署名押印すること ただし、方式が複雑で、実務ではあまり使われていません。公証人も積極的には推奨していないケースが多く、内容の確認がされないため無効になるリスクもあります。 一方、「特別方式遺言」は、危篤状態や離島・災害時などの特殊な状況下で作成する方式です。例えば、死亡直前で公証人を呼べないようなときに「危急時遺言」として作成することがあります(民法976条)。ただし、特別方式遺言は証人による家庭裁判所への申立てが必要であり、原則として20日以内に検認を受けなければ効力が生じません。 このように、秘密証書遺言や特別方式遺言は、「どうしても事情がある場合」のみに検討すべき方法です。一般的には、自筆証書遺言または公正証書遺言のいずれかを選ぶのが現実的です。 有効な遺言書を作成するためのポイント 遺言書を作成する際に、最も重要なのは「無効にならないように、正しい方式を守ること」です。形式上の不備があると、どれだけ想いを込めて書いても、法的な効力が認められません。 ここでは、自筆証書遺言を中心に、有効と認められるための作成要件や注意点を整理します。 法律で定められた5つの要件(自筆・日付・署名・押印など) 自筆証書遺言には、民法第968条で明確に要件が定められています。以下の5つをすべて満たしている必要があります。 遺言の全文を遺言者が自筆で書くこと 日付を自筆で明記すること(例:2025年7月10日) 氏名を自筆で記載すること 押印すること(認印も可だが、実印が望ましい) 財産目録を添付する場合、目録はワープロ可だが、各ページに署名と押印が必要 特に「日付の記載」は見落とされがちですが、「令和7年7月吉日」のような表現では無効とされる可能性があります。日付は「◯年◯月◯日」と正確に記載しましょう。 署名や押印についても、「フルネームでの署名」および「印鑑の明確性(かすれていない)」が求められます。こうした基本要件を外すと、家庭裁判所での検認手続きの際に無効と判断されるリスクが高まります。 加筆・訂正時の正しい手続き 遺言書を一度書いたあとに、内容を修正したくなる場合もあります。このとき、「訂正箇所に二重線を引いて書き直す」だけでは法律上の方式を満たしません。 民法第968条第2項では、訂正には以下の手続きが必要とされています。 訂正箇所に印を押すこと(通常は訂正印) 欄外に「◯行目の◯字を訂正して△△と書き換えた」旨を記載 その欄外注記にも署名を入れること この手続きは非常に細かく、ひとつでも抜けると無効扱いになる可能性があります。 実際、裁判例でも「訂正方法に不備がある」という理由で遺言全体が無効とされたケースがあります。訂正が必要な場合は、手書きの訂正ではなく、最初から新しい遺言書を書き直す方が確実です。公正証書遺言を利用すれば、誤記や訂正リスクを回避できます。 財産目録の添付と保管制度の活用(法務局) 自筆証書遺言において、財産目録はワープロやコピーでも問題ありません。ただし、すべてのページに自署と押印が必要です(民法968条第2項)。 財産目録の書き方には明確な決まりはありませんが、以下のような内容を記載するのが一般的です。 【財産目録の記載例】 土地・建物:住所・地番・登記情報 預貯金:銀行名・支店名・口座番号 株式:銘柄・保有株数 負債:借入先・金額・返済状況 なお、2020年から始まった「自筆証書遺言書保管制度」を利用すれば、法務局で原本を預かってもらえます。この制度には以下のメリットがあります。 死亡後の家庭裁判所での検認が不要 紛失や改ざんのリスクを防げる 保管したことを家族に知らせる通知制度がある 申請時には、本人が法務局に出向く必要がありますが、制度の利用は全国どこの法務局でも可能です。 遺言書が無効になる5つの原因と防ぐための作成ポイント 遺言書は、作成しても形式や内容に不備があれば無効になります。「書いておけば安心」と思い込んでいた結果、裁判で争いが生じるケースも多く見られます。 ここでは、遺言書が無効とされる代表的な5つの原因と、それを防ぐための具体的な対策を解説します。 遺言能力が認められない場合 まず、遺言者に「遺言能力」がないと判断された場合、遺言は無効です。民法第961条では、「満15歳に達した者は、遺言をすることができる」とされており、年齢以外に精神的な判断能力があることが必要です。 認知症や脳血管疾患などで判断能力が著しく低下していた場合、遺言能力が否定されるおそれがあります。実際の裁判でも、「遺言書作成当時の判断力」が争点になるケースが多く、医師の診断書や日記、面談の記録などが証拠として提出されます。防ぐためには、次のような対策が有効です。 作成時の健康状態を診断書で残す 遺言作成中の様子を録音・録画する 公正証書遺言を選択し、公証人による確認を経る 特に高齢や入院中の方は、法的リスクを避けるためにも、公証人の関与がある方式を選んだ方が安心です。 自筆・日付・押印などの形式不備 前章でも述べたとおり、自筆証書遺言では形式不備があると無効です。以下のようなミスが代表例です。 日付を「吉日」と表現した 押印がない、または不鮮明 署名がフルネームでない 本文の一部がパソコンや代筆による記載だった 例えば、「自宅は長男に相続させる」と内容は明確でも、日付が「令和7年7月吉日」では家庭裁判所で無効と判断される可能性があります。また、署名と押印が異なる印鑑だった場合にもトラブルの火種となります。 このような初歩的なミスは、作成前に民法の要件を確認するか、専門家に確認を依頼することで防げます。 加筆・訂正時のルール違反 加筆や訂正を誤った方法でおこなうと、遺言書全体が無効とされるおそれがあります。民法第968条第2項では、訂正の際に次の3点を求めています。 訂正箇所に押印する 欄外に訂正の内容を明記する 訂正注記にも署名を入れる 例えば、遺言書の中で「次男」と書くべきところを「長男」と誤記し、二重線で消して「次男」と上書きしても、上記手続きがなければ方式違反となり、無効とされます。加筆・訂正が必要になった場合は、できるだけ新しい遺言書を一から作成し直す方法を取りましょう。 公序良俗・遺留分の侵害 遺言の内容が公序良俗に反すると判断された場合、その遺言は無効とされる可能性があります。 例えば、「長男が介護をしなかったため、一切の財産を相続させない」といった、感情的な理由のみを根拠に特定の相続人を排除する旨の記載があったとしても、それが単なる意思表示にとどまる場合には、公序良俗違反に直ちに該当するとは限りません。 しかし、その内容や表現が極端で、社会通念に照らして著しく不相当と評価される場合には、無効とされるおそれがあります。 また、遺留分の侵害にも十分注意が必要です。民法第1042条により、直系尊属・子・配偶者などの「遺留分権利者」は、最低限の財産を確保するための請求権(遺留分侵害額請求権)を有しています。 たとえ「すべての財産を内縁の妻に遺贈する」といった内容の遺言を残した場合でも、法定相続人から遺留分侵害額請求を受ければ、受遺者はその分を金銭で返還する義務が生じます。 なお、かつての「遺留分減殺請求」と異なり、現在の制度では、遺留分の補償は原則として金銭による調整となっており、不動産や預貯金などの現物を直接返還することは想定されていません。 このリスクを防ぐには、 遺留分を侵害しない範囲で分配を考える 分配理由や事情を付言事項に記載する 弁護士と相談しながら調整する といった対策が有効です。 有効に残すために押さえておくべき作成ルール 遺言書を有効に残すには、以下の点を意識することが重要です。 作成方式ごとの法的要件を守る(特に自筆証書遺言) 健康状態に問題がある場合は、証拠を残す 相続トラブルを避けるための文言や遺言執行者の指定を検討する 内容に矛盾が生じないように、定期的に見直す また、「最新の日付の遺言書」が有効になるため、以前の遺言書を破棄せずに保管していると、複数が見つかり混乱を招く可能性があります。作り直した場合は、古い遺言書は明確に破棄したことを記すと安全です。 財産目録・保管制度の活用法 財産の内容や所在が曖昧だと、遺言書があっても相続人が戸惑います。財産目録を明確に記載しておくことで、遺言の実行性が格段に高まります。目録には以下を記載しましょう。 不動産:登記簿からわかる情報、所在地、地番、家屋番号 預金:銀行名、支店名、口座番号 株式:証券会社名、銘柄、株数 借金:金融機関名、借入額 また、2020年から始まった自筆証書遺言書保管制度(法務局)を利用すれば、保管時に形式要件がチェックされるため、無効リスクを大幅に減らせます。検認も不要になるため、相続手続きの負担も軽減できます。 家庭の事情・体調・関係性に応じた遺言作成アドバイス 遺言書は「誰に・どのように財産を残すか」だけでなく、「どのような状況で作成するか」も非常に重要です。高齢・病気・再婚など、家庭の背景や体調に応じて適切な方式を選ばなければ、無効になったり、相続トラブルの原因になったりするおそれがあります。 ここでは、家庭事情や体調別に注意すべきポイントを弁護士の視点でご紹介します。 高齢・寝たきりでも作成できる遺言書とは 高齢や病気で寝たきりの方でも、遺言能力(判断力)が残っていれば、遺言書を作成することは可能です。ただし、身体が不自由な状態での自筆は負担が大きく、誤記や形式不備のリスクも高まります。 このような場合には、公正証書遺言を選ぶのが現実的です。 公正証書遺言では、公証人が病室や自宅に出張してくれる制度もあります。出張の際は、医師の診断書や身分証明書などが必要になりますが、本人の意思が確認できれば、法的に有効な遺言が残せます。公正証書、遺言の出張には2人以上の証人も同席が必要となります。 例えば、2024年7月に脳梗塞で倒れた70代男性が、妻に財産を遺したいと希望し、弁護士の同席のもとで病室にて公正証書遺言を作成したケースでは、適法かつ明確な遺言が成立しています。判断能力が不安な場合には、医師の診断書を取得し、公証人の判断も得ることで、無効とされるリスクを最小限に抑えられます。 子どもがいない/再婚している夫婦の注意点 子どもがいない夫婦や再婚した家庭では、兄弟姉妹や前婚の子どもが法定相続人になるため、意図しない相続が発生しやすい状況にあります。 例えば、夫婦の間に子どもがいない場合、夫が亡くなると、妻だけでなく夫の兄弟姉妹にも法定相続分が発生します(民法第889条第1項3号)。 このような状況で、夫が「全財産を妻に残したい」と考えるなら、遺言書で明確に指定しておかなければ実現できません。 また、再婚で前妻との間に子どもがいる場合、その子どもは法定相続人です。現配偶者やその連れ子に財産を渡したい場合は、「遺贈」として明記する必要があります。 こうした家庭構成では、以下の点に注意してください。 相続人が誰かを正確に把握する(家系図の作成がおすすめ) 法定相続と異なる分配を希望するなら遺言書で明示する 遺留分の侵害にならないように専門家に確認する 複雑な家族関係においては、公正証書遺言+専門家のサポートが特に有効です。 代筆・代理相談が必要なときの進め方 本人が病気や障害などで話せない・動けない場合、家族が代理で相談するケースもあります。ただし、遺言書の作成そのものは代理人にはできません。 遺言は本人の「最終意思」を法的に確認する文書であり、民法第960条の原則に従い、「本人の意思で作成される必要」があります。 代筆も基本的には認められていません。どうしても自書が困難な場合は、次のように対応する方法があります。 口述で作成する→公正証書遺言 出張による作成支援→公証人による病院・自宅訪問 弁護士への同席・事前相談→本人の判断力を確保した状態で進行 本人の負担を減らすには、事前に家族が法務局・弁護士・公証役場に問い合わせをして、必要な書類や流れを確認しておくことが大切です。 高齢や病気など、特殊な事情がある場合の遺言方法 一般的な遺言方式(自筆証書・公正証書)以外にも、「特別方式遺言」と呼ばれる制度があります。これは、死亡が迫っている場合や、公証人を呼べない特殊な事情があるときに認められる方式です(民法第976条以下)。 【特別方式の一例】 危急時遺言:死亡が近く、公証人を呼べないときに口頭で遺言 隔絶地遺言:船舶内や離島での作成など、通信が困難な状況下での遺言 これらの遺言は、一定期間内に家庭裁判所の確認が必要となります(20日以内など)。 方式は限られており、実務でも利用頻度は低いですが、どうしても通常方式が間に合わないときの「緊急策」として理解しておくと安心です。 もめない遺言書にするための工夫 相続トラブルの多くは「遺言書の内容が原因」と言っても過言ではありません。誰に何を相続させるかはもちろん、その理由が伝わっていないことや、形式的なミスが火種になるケースもあります。 ここでは、法律上の有効性だけでなく、家族間での「納得感」も意識した遺言書作成の工夫を弁護士の視点から紹介します。 遺留分や相続人の感情に配慮する 遺言書で「長男にすべてを相続させる」といった偏った指定をすると、他の相続人から不満が出やすくなります。特に、子どもや配偶者には民法1042条で認められた「遺留分」があるため、完全に相続分をゼロにすることはできません。 遺留分を侵害された相続人は、遺留分侵害額請求を通じて金銭の支払いを求めることができます。結果的に、遺言書の内容が裁判で争われることにもつながります。 トラブルを防ぐには、以下のような配慮が有効です。 遺留分を考慮して分配額を調整する 生前贈与や介護実績などの理由がある場合は付言事項で補足する 相続人に事前に内容を伝えておく(できる範囲で) 相続は「公平感」が重視されます。法律の枠組みだけでなく、感情面のケアも意識しましょう。 付言事項の活用と家族への事前共有 遺言書には、法的効力をもたない「付言事項」を記載することができます。 付言事項とは、相続人に向けたメッセージや、相続の意図、家族への感謝などを自由に書ける部分です。例えば、以下のような内容が考えられます。 「長男に自宅を相続させるのは、長年一緒に住んでくれたからです」 「生前、長女には学費の援助を多くしたため、相続では配分を少なくしています」 「家族みんなが仲良く暮らしていけるように願っています」 こうしたメッセージは、相続人が遺言内容を受け入れるきっかけになります。理由が示されていれば、たとえ配分に差があっても「納得」が生まれることがあるからです。 また、事前に「こういう内容で遺言を書いている」と家族に伝えておくことで、遺言書の存在が疑われたり、無効と争われたりするリスクを減らすことができます。 遺言執行者の選任とその役割 遺言執行者とは、遺言書の内容を実際に実現するために行動する人物です。 民法第1006条により、遺言者が自由に指定することができ、指定がなければ相続人の協議または家庭裁判所の選任によって決まります。 遺言執行者には、以下のような役割があります。 相続人に代わって遺産の名義変更・分配を進める 不動産の登記や預金の解約などを代行する 相続税の申告や納付に関わる手続き 遺言執行者を指定しておくと、相続人同士での調整が不要になるため、手続きがスムーズになり、争いを防げる効果があります。信頼できる親族を指定してもよいですが、第三者として弁護士・司法書士を遺言執行者に指定する方法もあります。 相続財産が多い場合や、相続人同士の関係が希薄な場合には、専門家を指定するのがおすすめです。 公正証書を選ぶべき理由とメリット 「せっかく遺言書を残したのに、相続人が信じてくれない」 「無効だと主張されて争いになった」 このようなリスクを避けるなら、公正証書遺言を選ぶのが最も安全です。 公正証書遺言には以下のようなメリットがあります。 公証人が内容と方式を確認するため、形式不備のリスクがほぼゼロ 原本が公証役場に保管されるため、紛失や改ざんの心配がない 遺言者の意思が明確に残るため、無効主張に対抗しやすい 死亡後に家庭裁判所での検認手続きが不要で、相続手続きが早く進められる 作成には証人2人と数万円の手数料が必要ですが、相続人間の争いを防ぐ「保険」としては非常にコストパフォーマンスが高い手段です。迷ったときは、まずは弁護士や公証役場に相談して、公正証書遺言が向いているかを確認してみましょう。 遺言書をめぐるトラブルへの対処法 遺言書が存在しても、相続の現場ではトラブルが起こることがあります。内容をめぐって相続人が対立したり、無効を主張されたりするケースも珍しくありません。 ここでは、トラブル発生時に取るべき対処法と、手続きを進める際の実務的なポイントを解説します。 家庭裁判所での検認とその手続き 自筆証書遺言や秘密証書遺言が見つかった場合、家庭裁判所で「検認」手続きを行うことが義務付けられています。 これは、遺言書の内容を実現するための前提条件であり、民法第1004条に根拠があります。 【検認の流れ】 1.管轄の家庭裁判所へ「検認の申立て」を行う 2.他の相続人に通知される(全員が検認に立ち会うこともある) 3.遺言書の現物を確認・開封し、方式・状態などを記録する 4.検認調書が作成される(遺言の有効性そのものは判断しない) 注意点として、検認は「遺言書が有効かどうか」を判断する手続きではないことを理解しておきましょう。ただし、検認調書の内容が後の相続や裁判の資料として使われるため、書面の内容や押印・日付の記載状況は非常に重要です。 なお、公正証書遺言は検認が不要です。そのため、スムーズな相続手続きを希望するなら、公正証書方式を選ぶメリットは大きいといえます。 遺言無効確認訴訟が必要なケース 遺言書に疑問点があり、「無効ではないか」と相続人が主張する場合、家庭裁判所ではなく地方裁判所での訴訟(遺言無効確認訴訟)が必要になります。よくある訴訟理由は以下のような内容です。 遺言者に遺言能力がなかった(認知症・意識障害など) 内容に矛盾や不合理な点がある 作成日時が不明確、または偽造・変造の疑いがある 他の相続人が強要・詐欺に関与した可能性がある 訴訟になると、診療記録や証人の供述、筆跡鑑定などが証拠として争点になります。 裁判所は遺言者の意思能力や方式違反の有無などを総合的に判断して、有効・無効を決定します。 万が一こうした訴訟に発展しそうな場合は、すみやかに弁護士に相談して、証拠保全や主張整理を進めることが非常に重要です。 遺言書を勝手に開封・悪用された場合の対応 遺言書を発見した人が、相続人や関係者に知らせずに勝手に開封したり、内容をもとに遺産を動かしたりする行為は、重大な問題になります。 民法第1005条では、封印された遺言書を家庭裁判所の検認を経ずに開封してはならないと定められています。 勝手に開封しても遺言書が直ちに無効になるとは限りませんが、他の相続人から不信感を持たれ、トラブルに発展する原因になります。また、内容を改ざんしたと見なされれば、遺言書偽造等の刑事責任(私文書偽造罪など)を問われることもあります。 こうした事態に直面した場合、以下の対応が有効です。 検認を受けていないことを指摘し、家庭裁判所への申立てを促す 弁護士を通じて内容の検証と証拠保全を進める 必要に応じて民事・刑事両面で対応を検討する 最悪の事態を防ぐためにも、「遺言書を見つけたら勝手に開封せず、家庭裁判所に連絡する」ことが基本です。 トラブル回避のための専門家との連携方法 遺言書をめぐるトラブルは、専門知識の不足や手続きの誤解が原因になることが多いです。最初の段階から弁護士・司法書士・税理士などと連携することで、トラブルの芽を早期に摘むことができます。 【専門家に相談すべき典型例】 遺言書の形式が不明確な場合(日付・押印・訂正など) 相続人間の関係が悪く、対立が想定される場合 認知症や脳梗塞など、遺言能力に不安がある場合 相続財産が複雑(不動産・株式・債務など)な場合 他の相続人が不誠実な対応をしている場合 弁護士に相談することで、検認・遺言執行・調停・訴訟まで一貫してサポートを受けられます。専門家との連携は、「防衛」だけでなく「予防」の観点からも有効です。 弁護士・司法書士に相談するタイミングと費用相場 遺言書は個人でも作成できますが、「本当にこの内容で大丈夫?」と不安になる方も多いはずです。誤った形式や内容で作成してしまうと、家族が争う原因になります。 そうしたリスクを避けるために、専門家に相談する判断基準と、費用の相場について詳しく解説します。 専門家に相談すべきケースとは? 次のような状況にあてはまる場合は、専門家への相談を強くおすすめします。 自筆証書遺言を書いたが、形式に自信がない 相続人が複数いて、相続トラブルの不安がある 子どもがいない、再婚している、認知症の家族がいるなど、家庭事情が複雑 遺産に不動産・株式・債務など評価が難しい資産が含まれる 相続人以外(内縁関係者や福祉施設など)に財産を残したい 付言事項の書き方や文言に迷っている 専門家は、遺言内容の合法性や実行性を事前に確認し、無効となるリスクを抑える支援を行います。特に弁護士であれば、将来的な争いが予想される場合にも、訴訟対応まで一貫して任せられる点が強みです。 出張・非対面相談も可能? 体が不自由で外出できない方や、入院中の方でも、公証人や弁護士による出張相談・出張作成支援を受けることができます。このようなサービスは法律上も認められており、公正証書遺言の作成にも対応しています。 【出張相談の対応例】 自宅への訪問 病院・介護施設への出張 寝たきり・車椅子の方への配慮 本人が話せない場合は、筆談や補助器具を使った意思確認 また、初回のヒアリングや家族からの代理相談などは、オンライン(Zoom・電話)で対応している事務所も多数あります。 ただし、遺言書そのものは本人の意思で作成する必要があるため、本人と直接会って意思確認を行う段階では、対面または訪問が必要になります。 費用の目安と無料相談の活用法 相談や作成にかかる費用は、内容の複雑さや依頼内容によって変動します。以下に代表的な費用の目安をまとめます。 内容 弁護士費用(目安) 補足情報 初回相談(60分程度) 0円〜1万1,000円程度 初回無料対応の事務所も多い 自筆証書遺言のチェック 3万〜5万円前後 法的観点からのアドバイスを含む 公正証書遺言のサポート 5万〜15万円前後 公証人との調整・文案作成含む 遺言執行者への就任・手続き代行 30万円〜(遺産額により変動) 遺言執行が複雑な場合は増額あり 出張対応費 5,000円〜2万円程度 地域・距離により異なる 【無料相談を活用するには】 初回無料で対応している事務所に問い合わせる 「相続・遺言無料相談会」など地域イベントを活用する 市区町村の法律相談窓口をチェックする 費用が不安な方でも、最初は無料相談で概要を掴んだ上で、必要に応じて部分的な依頼をするという段階的な進め方が可能です。 まとめ|有効な遺言書を残すために今すぐできること 遺言書は、将来の相続トラブルを未然に防ぐ最も有効な手段のひとつです。 しかし、形式が正しくなかったり、内容に不備があると、その効力は失われてしまいます。 最後に、この記事で紹介したポイントをふまえながら、読者が今すぐ実行できるアクションを3つに絞って整理します。 まずは正しい形式で作成し、家族と共有を 最初の一歩は、「法的に有効な方式」で遺言書を作成することです。 自筆証書遺言であれば、全文自筆・日付・署名・押印の4要素を確実に満たしてください。財産目録を添付する場合は、各ページに署名・押印をすることも忘れずに。 書いたあとは、家族に「遺言書を残した」という事実だけでも共有しておくと安心です。 保管場所や作成日時が不明だと、せっかく書いた遺言書も発見されず、無視されるおそれがあります。 不安がある場合は専門家への早めの相談を 「これで正しいのか分からない」「家族構成が複雑」「相続人が揉めそう」 こうした不安が少しでもある場合は、弁護士・司法書士・公証人などの専門家に相談するのが安心です。費用が気になる方は、無料相談を利用してみましょう。 そのうえで、自分に合った部分だけを依頼する、という柔軟な進め方も可能です。 専門家のサポートを受ければ、無効リスクを大幅に減らせるだけでなく、「相続手続きが円滑になる」「家族が安心できる」という副次的なメリットも得られます。 遺言書は、自分の意思を反映し、家族の相続トラブルを防ぐための大切な手段です。 今回の記事では、遺言書の有効性を保つために押さえておくべきポイントを詳しく解説しました。特に以下のような点が重要です。 自筆・公正証書など形式ごとの違いと正しい作成方法 遺言能力・形式不備・遺留分侵害などによって無効になるケース トラブルを避けるための付言事項や遺言執行者の工夫 弁護士・司法書士への相談タイミングと費用相場 「家族に迷惑をかけたくない」「きちんと準備しておきたい」と感じている方にとって、遺言書の正しい知識は欠かせません。この記事を参考に、まずは有効な方式で遺言書を作成し、必要に応じて専門家のサポートも検討してみてください。 弁護士に相談すれば、形式の確認から公正証書遺言のサポート、相続トラブルへの対応まで一貫して支援を受けられます。 不安を残さず、安心して未来に備えるためにも、早めの準備を始めましょう。

2025.09.14

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家族信託とは?メリット・デメリット・手続きの流れをわかりやすく解説

家族信託とは?メリット・デメリット・手続きの流れをわかりやすく解説

「家族信託って、どう進めればいいの?」 「必要性は知っているけれど、費用やリスクが不安です……」 家族信託のしくみと主な流れ 契約時に想定される費用や税金の目安 失敗を防ぐための対策や注意点  早いうちから家族信託を考えるのは、有益な選択です。  認知症リスクや相続トラブルに備えるには、事前に動いておく姿勢が助けになります。  とはいえ、親族の財産管理に関する話し合いは気が重いですよね?  この記事を読むと、具体的な進め方が明確になり、専門家への相談がスムーズになります。ぜひ最後までお読みください。 本記事の目的 家族信託の基本的な仕組みやメリット・デメリットを知りたい方 親が認知症になる前に備えたい、相続トラブルを防ぎたい、他の制度との違いを確認したい方 自分で手続きを進めるか、専門家へ依頼するか検討している方  早い段階で将来の資産管理を考えようとすると、家族信託が候補に上がる場面があります。成年後見制度や遺言書では解消しきれない問題を回避するには、家族信託の仕組みを理解して活用する方法が適しています。  家族が協力しながら財産を管理できる形に整備すると、親が認知症になっても資金を動かせる可能性が高まります。  兄弟姉妹や義理の親族とも意見が割れずに済むかどうか、初期費用はいくらくらいになるか、そのあたりを知っておくと安心です。  当解説では基本のステップを順番にまとめ、どこで専門家に相談すると良いかも示します。本人の判断力がある段階で相談を始めれば、後悔を減らせるでしょう。  家族信託によってメリットを得るためにも、早めの準備や丁寧な話し合いが必要です。反面、思わぬデメリットも含まれるため、安易に飛びつくと混乱を招く危険もあります。  複数の制度との比較を踏まえたうえで、自分の家庭環境や親族の意見を考慮する流れが大事です。 家族信託の基本概要 家族信託の定義と仕組み  家族信託とは、家族間で財産管理を任せる契約です。委託者が所有している預貯金や不動産を、受託者に管理・処分する権限を与える形になります。  受益者は、その財産から生まれる収益や利益を受け取る立場です。委託者と受益者が同一になる例が多いですが、別に設定して財産を受け取る人を分ける事例もあります。 委託者:財産を持つ人 受託者:契約で定められた財産を管理・運用する人 受益者:利益を得る人  たとえば、親が「委託者」および「受益者」となり、子が「受託者」として財産の管理・処分を担う形式が一般的に想定されます。契約内容によっては、受託者である子に不動産の売却権限が与えられることもあります。  そのため、親の判断能力が低下した後でも、あらかじめ取り決めた内容に基づき、円滑に資産の整理や処分を進めることが可能となります。 なぜ「家族」間で信託契約を結ぶと便利なのか  家族間で信託契約を締結する最大のメリットは、「安心感」と「柔軟性」です。信頼関係のある家族が受託者となることで、親の意向を理解したうえで、きめ細やかに対応できる可能性が高まります。  一方、判断能力が低下した場合に利用される制度としては成年後見制度がありますが、同制度では家庭裁判所の監督が入り、資産の運用や処分に一定の制約が生じることがあります。 家族信託が注目される理由 高齢化・認知症リスクの増加  近年の高齢化の進行に伴い、認知症を発症するリスクが高まっています。認知症になると、本人名義の預金口座が凍結されたり、不動産の売却手続ができなくなったりする可能性があります。たとえ子どもが代理で対応しようとしても、手続きが複雑で時間を要するケースが多く見られます。 成年後見制度や遺言書だけではカバーしきれない問題  成年後見制度は、本人の判断能力が低下した際に、後見人が代理人として財産管理などを行う制度ですが、財産の処分や使途については家庭裁判所の許可が必要となる場合も多く、迅速かつ柔軟な対応が難しい場面があります。  また、遺言書は基本的に「死亡後の財産の分け方」を定めるものであり、「生前の財産管理」や「認知症に備えた制度」としては十分ではありません。こうした成年後見制度と遺言書の隙間を補う仕組みとして、家族信託が活用されつつあります。 家族間で柔軟な財産管理ができるメリット  家族信託は、契約内容を当事者間で柔軟に設計できるのが大きな特徴です。たとえば、複数の資産をまとめて管理することや、将来の状況変化を見越して段階的に管理内容を変更するような条項を盛り込むことも可能です。  受託者が子どもであれば、日々の生活費や介護費用を親の口座からスムーズに支出できる体制を整えることができ、実務的な負担も軽減されます。また、将来の相続発生後における不動産の共有によるトラブルを、事前に回避する設計も可能です。 家族信託のメリット・デメリットを徹底解説 家族信託の代表的なメリット 認知症リスクによる財産凍結を回避  親が認知症になっても、受託者が契約書にもとづいて預金や不動産を扱えます。成年後見人を付けるより自由度が高い契約にしやすく、スピーディーな対応が見込めます。医療費や介護費用を確保しやすいのも利点です。 成年後見制度より柔軟な財産管理が可能  成年後見制度では、大きな投資や財産処分を実行する際に制限がかかる事例が多いです。家族信託なら契約時に処分権限を定めておけるので、売却や資産運用を親の希望に沿って進めやすいです。 遺産分割協議をスムーズにし、相続トラブルを軽減  相続の段階で、不動産や預金が複数の相続人間で共有状態になると揉めるリスクが高まります。家族信託なら委託者が存命中に財産の承継先をある程度指定できるため、死亡後の争いを減らせる可能性があります。 不動産共有リスクの回避  共有名義が生じると、一人でも反対意見が出た際に売却手続きが止まりがちです。信託契約で受託者に売却権限を付けておけば、素早く決断しやすくなります。 家族信託の主なデメリット 節税効果は基本的に期待できない  家族信託はあくまで財産管理の仕組みであり、税制上の優遇措置があるわけではありません。相続税や贈与税については、通常の課税関係が適用されるため、「節税目的」での利用には適していません。信託の設計にあたっては、税理士等と連携して税務面の確認を行うことが重要です。 受託者の責任・管理負担が大きい  受託者は信託財産の管理者として、収支の管理、帳簿の作成、関係者への報告、重要書類の保管など、多岐にわたる義務を負います。家族内の信頼関係があっても、実務的な負担は軽視できません。受託者を引き受ける際には、その責任の重さを十分に理解したうえでの判断が求められます 親族間の理解不足で不公平感を生む可能性  家族信託は、契約当事者である委託者・受託者・受益者の間で成立しますが、他の親族が関与していない場合、「知らないうちに財産が動かされた」といった誤解が生じる可能性があります。特に兄弟姉妹が複数いる家庭では、事前の説明や合意形成を丁寧に行わないと、将来的な遺産分割時のトラブルにつながるおそれがあります。 身上監護権がない(成年後見制度との併用を検討)  家族信託は財産管理に特化した制度であり、身上監護(介護方針の決定、施設入所の契約、医療同意など)の権限は含まれません。判断能力が低下した場合に、生活面の意思決定を行うには、別途、成年後見制度を併用する必要があります。信託と後見を併せて検討することで、法的保護の範囲を補完できます。 契約書作成、公正証書化、登記などの初期費用がかかる  契約書の作成、公正証書化、不動産がある場合の登記手続きなどが必要となります。これらに伴い、公証役場での手数料、専門家(弁護士・司法書士・税理士等)への報酬、登録免許税などの初期費用が発生します。資産規模や内容に応じて費用が異なるため、事前に見積もりを取り、必要な費用を把握しておくことが大切です。 家族信託はこんな方におすすめ 認知症・高齢の親の財産管理を考えている 成年後見より柔軟に運用したい方に向いています。 兄弟姉妹・義理の親族との相続トラブルを避けたい 不動産や預金を事前に分割しやすいので、亡くなる前から対策できるでしょう。 不動産や株式など多様な資産を管理・運用したい 信託契約に含めれば、複数の財産を一元管理しやすいです。 成年後見制度や遺言書だけでは不安がある 判断力低下から死亡後まで、幅広くカバーする形を整備可能です。 遠方在住でも親の財産をスムーズに管理したい 子が別の地域や海外に住んでいても、受託者として資産を扱いやすい形を作れます。 家族信託の手続きと流れを図解で解説 ステップ1. 事前準備・家族間での合意形成  誰が委託者・受託者・受益者になるかを最初に決めます。さらに、どの財産を対象にするか明確にすることが必須です。以下のようにまとめてみましょう。 委託者:財産をもつ親 受託者:財産を管理する子 受益者:利益を得る親 対象財産:不動産、預貯金、株式など(具体的にリスト化)  家族全員が納得していないと、後から「聞いていない」と言われてトラブルになるかもしれません。家族会議などで目的を共有しておけば、不公平感を減らしやすいでしょう。 ステップ2. 信託契約書の作成・公正証書化  契約書は、信託法に基づく要件を満たす形で書く必要があります。記載項目に抜けがあると無効になる可能性があるため慎重に進めるべきです。条文を一つひとつ確認するには専門知識が要るので、司法書士や弁護士へ依頼する方が安心だといえます。 必須事項の例 委託者、受託者、受益者の情報 信託する財産の種類と範囲 信託の目的(認知症対策や財産承継など) 信託の終了条件や変更手続き  公正証書にするなら、公証役場へ委託者と受託者が出向いて手続きを進めます。実印や印鑑証明などを準備し、数万円程度の費用を支払う形が一般的です。公正証書にしておけば、後から改ざんを疑われる心配が減るでしょう。 自分で作成するときのリスクと専門家に依頼するメリット  家族信託の契約書は、自力で作成することも可能であり、その場合には専門家への報酬が不要となるため、費用を抑えられるというメリットがあります。しかし、信託契約は法的に複雑な内容を含むことが多く、作成方法によっては「無効」や「不完全」と判断されるリスクも否定できません。特に、後日トラブルが発生した際には、契約内容の不備が争点となるケースもあります。  弁護士などの専門家に依頼すれば、手数料はかかるものの、法律や相続の観点から適切な内容になるようサポートを受けることができます。不明点が生じた際にも気軽に相談できるため、安心して手続きを進めやすいという利点があります。 ステップ3. 信託財産の名義変更・信託口口座の開設  契約書の作成が完了したら、次に信託財産の名義変更や管理口座の開設を行います。  不動産を信託財産とする場合は、法務局で「信託登記」の手続きを行います。この際、不動産の名義は「○○(受託者)信託」といった形式に変更されます。登録免許税として、不動産の評価額に対して原則0.4%の税率が適用されます(2025年8月現在)。  預貯金については、信託専用の「信託口口座(しんたくぐちこうざ)」の開設を金融機関に申請します。この口座は、受託者が管理・運用するための専用口座であり、将来、委託者が認知症を発症した場合でも、受託者が適切に資金を取り扱うことが可能になります。 ステップ4. 信託の運用・管理開始  信託の運用を始めたら、受託者には定期的な報告が求められる場面があります。預金残高や不動産賃貸の収入などを、委託者や他の家族へ共有するとトラブルを予防しやすいでしょう。財産が増えたり減ったりした際は、契約書を見直す手順を検討する必要が出るかもしれません。追加の財産を信託に組み入れる時は再度書面を作るなど、状況に合わせた柔軟な対応が必要です。  受益者が変更になる場面では、誰が次の受益者かが契約で定められていればスムーズです。場合によっては専門家に相談して条項を修正し、追加の登記を行う流れを取ることもあります。 家族信託にかかる費用と税金 契約関連費用  契約関連費用として、まず公正証書作成費用や印紙税が挙げられます。公証役場に支払う額は、文案の長さや財産額によって数万円から十数万円程度になる可能性があります。司法書士や弁護士へ依頼するなら、手数料として数十万円かかる事例もあるため、事前に見積もりを比較すると良いでしょう。 公正証書作成費用の目安:数万円〜 専門家への報酬:財産総額やサービス範囲で変動 印紙税:契約書に貼る印紙が数千円ほどかかる例が多い  専門家にすべて任せると高くつくと思うかもしれませんが、書面の不備を防いで後日トラブルが起こるリスクを減らす意味ではメリットがあるといえます。特に不動産が多い場合や株式が含まれる場合など、複雑になりやすい状況はプロに任せたほうが無難です。 登記・税金 不動産の信託登記時の登録免許税  不動産を信託に組み入れる場合は、法務局で信託登記を実施します。その際に登録免許税がかかり、一般的には不動産評価額の0.4%がかかる形が多いです。例えば、土地や建物の評価額が1,000万円なら4万円程度の税が想定されます。 不動産取得税が非課税になる場合も  家族信託で不動産を受託者名義に変える際、通常の不動産取得税がかからないケースもあります。特定の条件を満たせば非課税扱いになるため、事前に自治体の窓口や専門家に問い合わせると安心です。 相続税・贈与税の基本的な考え方(節税効果は限定的)  家族信託では、財産そのものの所有関係が変わるわけではなく、あくまで管理を任せる形です。贈与にならないよう契約内容を組むことが多いため、節税面でのメリットは期待しにくいです。結果として、相続税や贈与税は通常通りに課される場面が多いでしょう。法定相続人が複数いる家庭だと、早めに全体像を把握しておくと混乱を防ぎやすいです。 実際の相談事例から学ぶ 事例1. 海外在住の娘と90歳の父 背景:父が認知症初期の疑い、すぐに成年後見手続きをしたくない  ご相談者は、海外在住の娘様。高齢の父親が軽度の認知症の兆候を示していたものの、すぐに成年後見制度を利用することには抵抗があるとのご意向がありました。父親の財産管理を家族内で柔軟に行いたいとの希望から、家族信託を活用する方向で検討を始められました。  父親の体力を考慮し、長時間の面談や打ち合わせが難しい状況であったため、娘様が一時帰国中に短期間で信託契約を締結する必要がありました。司法書士と事前に契約書案の準備を行い、公証役場の予約も滞在中に合わせて確保。約1か月の滞在期間内で、契約締結から信託口口座の開設までを目指して計画を立てられました。 ポイント:短期間(1ヶ月)で契約を進める必要/遠方在住の受託者でも管理しやすい体制づくり 短期間での書面づくり 限られた滞在期間の中でスムーズに手続きを進めるため、事前に契約書のドラフトを作成し、公正証書化の日程を確定。父親の体調に配慮し、無理のない時間帯・場所で公証役場を手配するなど、現実的なスケジュール調整が重要なポイントとなりました。 遠方在住者への業務委任 海外に居住している受託者が今後の管理を担うため、日本国内の名義変更や銀行手続きは司法書士・行政書士に委任し、効率的に進めました。契約締結後はインターネットバンキングを活用し、遠隔でも資金を適切に管理できる体制を整えました。 認知症が深刻化する前に行動 父親はまだ契約内容を理解できる初期段階であったため、家族信託の締結が可能でした。症状が進行していれば契約そのものが無効とされるリスクもあるため、本件は「適切なタイミングでの決断」が成功の鍵となった好事例です。 事例2. 認知症の母の資産を兄弟で分けたい 背景:母名義の不動産・金融資産を母存命中に売却・分割希望  認知症を発症した母親の資産(不動産・金融資産)について、兄弟間で協議し、母の介護費用を確保しつつ、残余の不動産を売却して資金を分けたいという希望がありました。  当初は家族信託の活用を検討されていましたが、すでに母親の判断能力が大きく低下しており、契約内容の理解が困難な状態に。最終的には、家族信託ではなく成年後見制度の利用を前提に手続きを進める方針となりました。 ポイント:判断能力がすでに低下している場合は家族信託が難しいケースも/成年後見制度との比較検討 本人の契約意思が必要  家族信託を有効に成立させるには、委託者本人が契約内容を理解し、同意することが前提となります。すでに重度の認知症を発症していた場合、その意思能力が認められない可能性が高く、信託契約は成立しない、あるいは無効となるおそれがあります。 成年後見が適する場合もある  本人の意思確認が困難であり、生前に不動産を売却したいという目的がある場合は、成年後見制度の利用を検討する必要があります。成年後見制度では、家庭裁判所の監督下で後見人が財産管理・売却手続を行うことが可能です。家族信託ではカバーできない「身上監護(介護・医療・施設契約等)」にも対応できるという利点があります。 早い段階からの対策が重要  母親の判断能力が低下する前に家族信託を組んでいれば、より柔軟な資産管理と家族による対応が可能だったかもしれません。この事例は「判断能力があるうちに準備しておくことの重要性」を強く示しています。 家族信託 vs 成年後見制度 他制度との比較・併用方法  家族信託は認知症対策や相続準備に有益ですが、万能ではありません。成年後見制度や遺言書、生前贈与などと併せて検討すると全体像が見えやすいです。それぞれの特徴を理解したうえで、必要な要素を組み合わせるのが好ましい場面も多いです。 成年後見制度:身上監護が必要な場合  成年後見制度では、判断力が低下した人の代理人として後見人が生活面の決断なども担当します。家族信託には身上監護の効力がありません。介護施設への入所手続きや医療契約などを代行してほしい場合は後見制度が有力です。 遺言書:死亡後の財産承継のみカバー、認知症対策は難しい  遺言書は死亡後の資産配分を指定する手段です。生きている間の財産管理や認知症対策は含まれないので、「認知症リスクを回避したい」「売却などの生前行為を調整したい」といった場面には向きません。 生前贈与・遺留分との関係:早期贈与が有効な場合/家族信託だけでカバーできない場合も  生前に子へ財産を贈与してしまえば、委託者の手元財産が減ります。ただし、贈与税や遺留分を巡る問題が絡むかもしれません。家族信託と生前贈与を併用する例もありますが、制度ごとの利点と不利な面を理解しながら進めるのが無難です。 併用のポイント:認知症進行時の身上監護は後見制度、財産の管理は家族信託…など  介護面は成年後見人へ任せ、資産の運用や売却は受託者へ委ねる形もあり得ます。複数の制度を活用する場合、混乱を避けるため書面化が欠かせません。主治医や専門家を交えて話し合う姿勢が大切です。 失敗・後悔しないための注意点 親族間トラブルの防止  家族信託を進めるなら、兄弟姉妹や義理の親族へ詳しい説明をすることが望ましいです。特定の人だけが決めたと見られると、後から「勝手に名義を変えられた」と不満が出る懸念があります。財産管理の方針や最終的な受益者がどうなるのか、見える形で共有すると不信感を減らしやすいです。 説明資料の作成  簡易的な家系図や財産目録を用意して、誰が何を担当するか整理。口頭だけでなく、紙ベースで見せるほうが誤解を防げます。 全員での打ち合わせ  可能なら専門家を交え、親族全員が集まって話す場を設けると納得感が高まります。時間が取れないなら、オンライン会議を活用して意見を確認する方法も考えられます。 受託者の責任とリスク管理  受託者は、預かった財産を管理・運用する義務を背負う立場です。報告を怠ると、ほかの家族から疑念を抱かれる可能性があります。金銭トラブルが大きくなると、訴訟問題に発展する危険も否定しにくいです。加えて、受託者が突然亡くなったり長期入院になったりするケースも考慮が必要になります。 財産管理義務の範囲・報告義務  受託者は、信託財産の収支や残高を定期的に開示したほうが平穏に進められます。書類や通帳を整理し、必要に応じて第三者に監査を依頼するケースもあります。 受託者が亡くなった場合や交代する場合の想定  代替の受託者を契約書で指定しておくと、スムーズに引き継ぎが可能です。後継受託者を一人に限定しないで、2〜3人を候補に挙げる手段も考えられます。 タイミングを逃さない  家族信託の契約が有効になるには、委託者の判断力が確保されている必要があります。認知症が深刻化したあとでは締結できない場面が多いです。突然の入院や病気で判断力が低下するリスクを想定し、元気なうちに動くほうが負担が軽くなります。 認知症の進行具合に注意  医師の診断を受けて軽度の段階と判断されるなら、早めに手続きを検討。本人が十分に理解できる時期が残されていなければ後見申立てに移る流れになりやすいです。 家族全体での早期会議  「いつか必要になりそう」と感じたら、親に遠慮せず情報共有に踏み出す姿勢も大事です。事前に準備した人ほどスムーズに進む傾向があるといえます。 家族信託は自分でやる?専門家に依頼する? 自分で家族信託をするメリット・デメリット メリット:費用削減、家族間で完結しやすい  契約書を独力で作れば、専門家への報酬を減らせます。家族内で意見交換しながら進めるので、ほかの人に詳しく知られずに済むと考える方もいます。 デメリット:契約書の不備リスク、トラブル時の対処困難、手間や時間がかかる  法律的な誤りがあると契約自体が無効扱いになりかねません。親族間で意見対立が生じた時に仲裁を頼む存在がいないと困る場面があります。加えて、書類の作成から公証役場の手続きまでを全て自分たちで進めるのは大変です。 専門家に依頼するメリット スムーズで安全な手続き  弁護士や司法書士は、家族信託の実務や相続のルールに通じているため、最適な条項を提案しやすいです。公正証書化や登記の手続きを円滑に進めるノウハウを持っています。 責任やリスクを事前に最小化できる  契約の不備や親族トラブルの予兆を早期に察知し、修正をすすめる助言が期待できます。費用は高めになりがちですが、後から揉めるリスクを抑えたい場合は専門家が頼もしい存在となるでしょう。 遠方在住・多忙でも実行しやすい  親と受託者が離れて暮らしている場合でも、オンラインで面談を重ねながら段取りする事例が増えています。専門家が書類を取りまとめてくれると、当事者が集まる回数を減らすことが望めます。 家族信託に関するよくある質問(Q&A) Q1. 家族信託は認知症になった後でも契約できる?  契約を理解し、意思表示をする力が残っていれば可能なことがあります。重度になっているなら無効とされる恐れがあるため注意が必要です。 Q2. 家族信託で不動産を売却する場合、受託者だけで進められる?  契約時に処分権限を明記しておけば、受託者のみで売却を実施するシナリオが考えられます。内容が曖昧だと追加書面が必要になる場合があります。 Q3. 家族信託には本当に節税効果がないの?  大幅な節税策ではありません。基本的には通常の相続税や贈与税と同様に処理されるため、家族信託だけで税額が減る場面は少ないです。 Q4. 他の相続人に内緒で家族信託契約されていた場合、どうすればいい?  まずは契約書の写しを取り寄せ、法的に妥当な記載かを専門家へ相談。取り消し要件を満たしていれば、修正や中止を検討する余地があります。 Q5. 成年後見制度や遺言書と、どのように組み合わせたらいい?  介護や医療契約を視野に入れるなら成年後見、死後の承継を明確にしたいなら遺言書と併せるなど、ケースごとに組み合わせが変わります。専門家に相談しながら最適なセットを考えると安心です。 まとめ|早めの準備で安心を手に入れよう  家族信託は、認知症対策や相続トラブルの回避に活用しやすいしくみです。高齢になった親の財産を無理なく管理し、本人の希望を反映する意味でも意義は大きいでしょう。  早めの検討を始めるほど、委託者が冷静に判断できる段階で話をまとめられます。成年後見制度や遺言書などとも照らし合わせ、最適な組み合わせを探すと、より安全に将来を見すえられるでしょう。  最終的には家族間での合意と、専門家の意見がポイントになります。不明点があれば無料相談や専門家検索サイトなどを活用し、疑問を解消することが役立ちます。家族会議を開き、納得できるかたちを探る努力が重要といえます。  家族信託をうまく利用すれば、親族の負担や争いを減らしながら資産の管理を進めやすくなるはずです。親と子が安心して暮らせる道を作るため、早めに情報収集を始めてみてください。 まとめ文 家族信託は、財産管理や相続を家族内で柔軟に進めるための契約 認知症リスクや不動産の共有問題を軽減できる反面、身上監護は含まれない 受託者の責任や初期費用の負担を踏まえ、親族への十分な説明が欠かせない 成年後見制度や遺言書との比較検討が重要で、早い段階から準備を始めるほど安心  まずは専門家への相談や家族間の話し合いをスタートしてみてください。  家族信託を活用すれば、認知症対策や相続トラブルの不安を軽減しながら、大切な資産を守りやすくなります。家族や親族が納得できる形を見つけるためにも、情報収集と早めの検討を意識してみましょう。

2025.09.14

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親族による預貯金使い込みを取り戻す完全マニュアル【弁護士監修】

親族による預貯金使い込みを取り戻す完全マニュアル【弁護士監修】

「父の口座から百万円が消えた…どう動けばいいの?」 「通帳を握った兄に返金させたいが手順がわからない…」 この記事でわかる三つのポイント 親族でも成立する預貯金使い込みの違法ラインと返還請求の基礎 銀行取引履歴やATM映像をそろえる証拠集めの手続き 交渉→調停→訴訟までの時期別フローと費用の目安 結論、証拠を早く固めて時効を止め、資力を確認したうえで交渉か調停へ進むルートが最も損失を抑えられます。理由は、証拠と時効が返還額の成否を左右し、準備が早いほど交渉で主導権を握れるからです。 預金が消えた現実に戸惑い、家族を傷つけたくない気持ちもありますよね? この記事を読めば、必要な書類、費用、成功率まで一気に把握でき、不安を具体的な行動計画に変えられます。 まずは流れを確認し、取れる一手を選びましょう。 使い込みは「生前」か「死後」かで手続きが変わる 証拠の核心は《通帳+取引履歴+領収書》の3点セット 時効は「知った日」から5年(最長10年)――一刻も早く催告・調停でストップ 勝訴後の差押え手続きまで見据えて資力調査を並行する 再発防止には成年後見・家族信託・口座モニタリングを活用 親族でも罪になる?預貯金使い込みの法的ライン 横領・背任が成立する3つの条件 親族が被相続人の預貯金を使い込んだ場合でも、法的には「業務上横領罪(刑法253条)」や「背任罪(刑法247条)」が成立する可能性があります。特に以下の3つの条件を満たすと、刑事責任を問われます。 他人の物(被相続人名義の預貯金)であること 委任や信託など、委託信任関係に基づいて管理していたこと 自己または第三者の利益のために不法に処分したこと 被相続人の口座名義がそのままの場合は、「他人の物」として扱われやすく、無断で引き出した行為が「横領」と見なされます。 仮に介護や生活費の名目であっても、本人の同意や法的根拠がなければ違法行為と判断されます。 業務上横領罪が成立すれば、刑法253条により「10年以下の懲役」に処されます。親族関係に甘え、あいまいな形で預金を処分することは極めてリスクが高い行為です。 民事手段:不当利得返還・損害賠償の基礎 刑事責任だけではなく、民事上の責任も発生します。代表的な請求手段は「不当利得返還請求」と「損害賠償請求」です。 区分 根拠条文 必要要件 時効 不当利得返還請求 民法703条 ①相手が利益を得た②本人が損失を被った③両者に因果関係がある 原則10年(知った日から5年) 損害賠償請求 民法709条 故意または過失により権利を侵害した 被害を知った日から3年 不当利得とは、「正当な理由なく得た利益」を意味します。親族が本人の同意なく預金を引き出して使用した場合は、返還請求の対象になります。 また、明らかな不法行為であるときは損害賠償請求も可能です。刑事告訴と民事訴訟は並行して進めることができ、交渉を有利に進める材料になります。 使い込みを疑う4つの兆候とパターン 生前“こっそり引き出し”パターン 被相続人が生存中に預貯金が不自然に減っていた場合、以下のような兆候が見られることがあります。 介護名目での生活費が月々高額 ATMからの出金場所が施設最寄りではなく親族の自宅近辺 認知症の進行などで判断能力が低下している時期に集中して引き出しが行われている このようなパターンは、本人の意思に基づかない使途である可能性があり、後にトラブルへと発展する要因となります。 死後“遺産隠し”パターン 被相続人の死亡後、正式な遺産分割前に行われる不正な資金移動も典型例です。 口座凍結前の短期間で高額の払戻しがある 死亡届提出前にネットバンキングで複数の送金がある このような行為は、相続人間の信頼関係を損ねるだけでなく、法的に返還請求の対象になります。 成年後見・信託“内部不正”パターン 後見人や受託者による不正も問題視されます。以下の点が確認されると、職務逸脱が疑われます。 家計簿や領収書の開示を拒否 受託者名義の口座へ不審な振替がある 信託契約や成年後見制度は本来、財産を守る制度ですが、監視が行き届かない場合には不正の温床になります。 相続人以外による名義預金パターン 相続人ではない親族による資金の不正流用も見逃せません。 「管理を頼まれた」と主張し、第三者名義へ資金を移す 孫や兄弟名義の口座で不自然な入出金が見られる 名義預金は税務調査でも追及される対象です。疑わしいと思ったら、次章の手順に従い、すぐに事実確認と証拠保全を始めましょう。 調査と証拠収集の具体手順 銀行・ゆうちょ取引履歴の取得方法【書式DL】 預貯金の使い込みを立証するためには、まず取引履歴の取得が基本となります。 以下の書類を用意し、各金融機関の窓口や郵送で申請しましょう。 相続関係説明図(戸籍謄本・住民票などをもとに作成) 取引履歴開示請求書(銀行所定の様式または本記事のDLリンクから入手) 本人確認書類(運転免許証やマイナンバーカードのコピー) 費用と期間の目安 金融機関 費用 開示までの期間 メガバンク 1口座 3千円〜1万円 約2〜4週間 ゆうちょ銀行 1口座 1千円 約3週間 必要に応じて、相続人代表の立場での申請も可能です。 ATM映像・窓口伝票で裏付けるコツ ATMでの出金が不正だった場合、その映像は重要な証拠になります。ただし、保存期間は短いため、早急な対応が求められます。 映像保存願を支店長宛に提出 同時に払戻請求書・振込伝票などの筆跡鑑定を検討 映像や筆跡を併用することで、出金者の特定につながる証拠となります。 証券口座・暗号資産・海外送金も追跡 預貯金以外の資産も使い込み対象となることがあります。以下のような手続きで調査可能です。 証券会社へ「残高証明書」「取引報告書」を請求 暗号資産は取引所への照会書を送付(利用履歴やアドレス情報が取得可) 海外送金は「SWIFTコード」をもとに送金先銀行へ情報照会 資産がどこへ流れていったのか、追跡する視点が重要です。 税務署・自治体への照会で資産移動を掴む 公的機関からの情報収集も有効です。 税務署:国外送金等調書・法定調書の開示で高額贈与の有無を確認 自治体:固定資産課税台帳の閲覧で不動産の名義変更や取得状況を把握 明らかに収入と乖離した財産取得があれば、使い込みの証拠として活用できます。 使い込みチェックリスト 調査時は以下のチェック項目を活用しましょう。 出金の時期と被相続人の健康状態との照合 平均的な生活費・介護費と出金額の比較 解約された定期預金や株式の換金先の特定 証拠保全の段階で漏れを防ぐため、リスト形式で整理しておくと効果的です。 預貯金を取り戻す全手続き 交渉 交渉は、最も迅速かつ感情的負担の少ない方法です。以下のような示談書を作成し、合意に至った内容を文書化します。 示談書に必須の記載内容 返還額 支払期日 遅延損害金(例:年5%) 担保(例:連帯保証人や不動産の仮登記) 示談書は公正証書にすることで、強制執行が可能になります。 遺産分割調停の流れと費用 任意での交渉がまとまらない場合は、家庭裁判所での遺産分割調停を行います。 もっとも、生前の出金に関しては、地方裁判所で争うように指摘される場合もありますので、ご注意ください。 ステップ 申立先 費用 期間目安 申立書提出 家庭裁判所 収入印紙1,200円+郵券代 約2週間 期日調整 – – 約1〜2ヶ月 調停期日(平均3回) – – 約3〜6ヶ月 不当利得返還/損害賠償訴訟の進め方 交渉や調停でも解決しない場合、地方裁判所での民事訴訟による請求が可能です。 訴訟の基本構造 原告:返還請求額+利息を主張 被告:介護費だった・贈与だったなどの反論 原告:施設の領収書や診断書などで再反論 被告の主張に対し、具体的な証拠を積み重ねることで勝訴に近づきます。 時効の起算点と“中断”テクニック 民法166条により、使い込み発覚から一定期間が過ぎると時効が成立します。 以下の方法で時効の中断(正確には「完成猶予」)が可能です。 手続き 効果 費用 注意点 内容証明郵便 6ヶ月の時効停止 約3千円 相手の受領日が起算点 調停申立て 時効停止+不成立後6ヶ月延長 印紙+郵券代 秒読み状態では即提出 仮差押え 担保確保+時効中断 申立手数料5千円+保証金 資力調査と同時実施が望ましい 勝訴後に確実に回収する方法 預金・給与の差押え 勝訴判決が出た後は、強制執行手続に移行します。代表的な差押え手段は以下のとおりです。 金融機関宛:債権差押命令申立書を地方裁判所に提出 勤務先宛:給与取立書を送達し、給与の一定割合を差押え 判決の確定を待たずに、仮執行の申立ても可能です。 不動産・動産の仮差押え 不動産や車両、貴金属などの差押えも有効です。 不動産:登記簿から所有名義を確認 → 仮差押 → 本差押申立て → 競売 動産:執行官による現地調査・差押 → 評価 → 売却 手続きには一定の費用がかかるため、弁護士と事前に打ち合わせましょう。 資力調査サービスの選び方 加害者に資産があるか不明な場合は、以下のような調査を検討します。 調査対象 方法 費用 預金残高 銀行照会・探偵業者 10万〜20万円/口座 不動産 登記簿・評価証明書 1千円〜 暗号資産 ブロックチェーン解析 30万円前後 費用対効果を考慮しながら選択しましょう。 税務・特別受益・相続放棄*丸ごと整理 名義預金がバレたときの相続税リスク 名義預金とは、実質的に被相続人の財産でありながら、形式上は他人(多くは親族)名義の預金のことです。 相続発生後、税務署の調査で名義預金と認定されると、以下のようなペナルティが課されます。 本来申告すべき相続税額に加え、過少申告加算税(10〜15%)が課される 名義人に対し贈与税も課税され、相続税との「二重課税」が生じるリスクがある ただし、誤って申告していた場合は、速やかに修正申告することで過少申告加算税を軽減または回避できます。隠すよりも早期に専門家に相談する方が賢明です。 相続放棄・限定承認で負債リスクを避ける 使い込みをめぐるトラブルに巻き込まれたくない場合や、借金などの負債が多い場合は、「相続放棄」や「限定承認」を検討すべきです。 相続放棄:相続開始を知った日から3ヶ月以内に、家庭裁判所へ申述書を提出 限定承認:相続人全員が共同で申述する必要があり、手続きが複雑 判断には慎重さが求められるため、弁護士への相談が推奨されます。 再発防止:後見・家族信託・モニタリング 後見制度の選択基準と申立て手順 判断能力が低下した高齢者の財産を守る制度が「成年後見制度」です。主に以下の2種類があります。 区分 判断能力 主体 監督 費用 任意後見 低下前 本人 家裁選任の監督人 契約公正証書1〜2万円 法定後見 低下後 家裁 同上 申立費 約1万円 本人の意思が明確な段階であれば、任意後見契約を結ぶ方が自由度が高く、将来の紛争を予防しやすくなります。 家族信託の設計ポイントと費用感 柔軟性を求めるなら「家族信託」も有効です。高齢者が自らの財産を信頼できる受託者(多くは子や専門職)に託し、管理・運用・処分を任せる仕組みです。 受託者は原則、信頼できる親族や専門家を選定 費用は、公正証書作成に5万円〜、信託登記に7万円〜が一般的 認知症リスクを想定して設計することで、長期的な資産防衛になります。 定期モニタリング&アラートサービス比較 預金の不正出金を未然に防ぐためには、金融機関や民間サービスのモニタリングを活用する方法があります。 サービス 料金 機能 銀行メール通知 無料 1取引ごとの即時通知 FinTech家計簿アプリ 月額500円前後 複数口座一括監視 信託銀行の資産モニター 年3万円前後 総資産レポート+専門相談可 ご家族で情報共有しながら管理することで、不正の早期発見に役立ちます。 実例で学ぶ:3つの相談ケース 名義預金を義兄娘口座に移されたケース 経緯 被相続人(父)の預金が、義兄の娘(孫)の名義口座に移されていたことが発覚。義兄は「学費目的で預かっただけ」と説明したが、他の相続人が不審に感じ問題化。 対応 相続人間で話し合いの場を設けた上で、示談交渉を開始。内容を整理した示談書を公正証書として作成し、計400万円を一括で回収した。 将来の支払い遅延に備え、「違約金年10%」の条項を盛り込み、強制執行にも対応できる形に整備した。 株7,800万円が消えたケース 経緯 父名義の証券口座から、相続開始の直前に株式7,800万円分が売却・出金されていた。記録上、相続人ではない人物の関与が疑われた。 対応 証券会社や税務署を通じて詳細な取引履歴を取得し、流出経緯を特定。不当利得返還請求の訴訟を提起し、6,500万円を差押・回収した。 残る1,300万円は分割払いでの返済に合意し、文書化された合意書を締結。将来的な履行確保のため、連帯保証も付けた。 成年後見人と父の対立ケース 経緯 長男が父の成年後見人に就任後、金銭の使途をめぐり父との間でトラブルが発生。これにより、他の親族の不信も強まり、家族間の関係が悪化した。 対応 家庭裁判所が後見監督人を選任。以後、後見人専用口座を開設し、すべての支出を裁判所の許可制に変更した。 葬儀費用・医療費などの出金も透明化され、親族間の金銭管理に関する信頼回復につながった。 よくある質問(FAQ) Q:使い込み額がわからないときの推計方法は? A:取引履歴に空白期間がある場合、その期間における平均的な生活費や支出傾向をもとに推計します。一定の合理性があれば、不明部分の説明責任は被告側に移る可能性もあります。 Q:相手が不正を認めないとき、どのような証拠が有効ですか? A:筆跡鑑定や診断書、LINEなどのメッセージ履歴などを組み合わせて提出することで、証拠の信頼性と立証力が高まります。複数の証拠を併用することが重要です。 Q:金融機関から取引履歴を取得するには、どれくらいの時間と費用がかかりますか? A:大手銀行の場合、取得までに平均2〜3週間を要します。手数料は、1口座あたり3,000円〜1万円程度が一般的です(金融機関・期間によって異なります)。 Q:すでに時効が成立している場合でも請求できますか? A:特別な事情がある場合、信義則違反を理由に請求が認められた裁判例も存在します。時効の中断や例外が適用される可能性もあるため、できるだけ早く弁護士に相談することが重要です。 Q:加害者に資力(支払能力)がない場合、どうすればよいですか? A:次のような対応策があります。 分割払いの合意を取り、内容を公正証書にする 退職金や生命保険金に対する差押え 支払い能力のある第三者(親族など)を連帯保証人に設定 いずれの方法も、法的手続きを通じて確実性を高めることが肝心です。 まとめ 親族による預貯金の使い込みは、刑法上の横領罪や民法上の不当利得・損害賠償請求の対象になります。 介護名目や委任管理中の出金などでも、委任の範囲を逸脱すれば違法行為と見なされる可能性があります。 使い込みの兆候が見られた場合は、取引履歴やATM映像、税務調査資料などを用いて速やかに証拠を収集しましょう。 示談交渉・遺産分割調停・訴訟・強制執行と、回収の手段は時期や状況に応じて選択できます。 相続税・特別受益・後見制度なども含め、再発防止まで含めた総合的な対策が重要です。 もし「親族間だから言いにくい」と感じても、事実確認と権利保全はできるだけ早く始めましょう。時効対策・証拠保全・資産調査など、着実な一歩が結果を大きく左右します。 問題が深刻化する前に、まずは弁護士や法テラスの無料相談を活用し、専門的なアドバイスを受けることをおすすめします。

2025.09.14

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限定承認とは?相続放棄・単純承認との違いとメリット・デメリットを徹底解説

限定承認とは?相続放棄・単純承認との違いとメリット・デメリットを徹底解説

「親の借金がどれくらいあるかわからないけど、家は引き継ぎたい…どうしたらいい?」 「相続放棄だと実家も失う?限定承認って聞いたけど、仕組みがよくわからない」 この記事でわかること 限定承認と相続放棄・単純承認のちがいと判断の分かれ目 限定承認の手続きの流れと必要な書類・費用・期限 限定承認を選ぶべきケースと避けた方が良いケース 限定承認は、相続で受け取る財産の範囲内で負債を清算し、それでも余った財産だけを受け取る制度です。相続する資産と借金のバランスが見えないときに、リスクを抑えて大切なものを守れます。 「家は手放したくないけど、借金だけ背負うのは絶対に避けたい」と思いますよね? この記事を読むことで、限定承認の仕組みと進め方がわかり、自分や家族にとって最適な判断ができるようになります。 最後まで読んで、後悔のない相続を目指しましょう。 限定承認とは?相続放棄・単純承認との違い 限定承認の定義と法律根拠(民法922条) 限定承認は相続で得たプラス財産の範囲内で、マイナス財産を返済し、残余のみ取得する制度です。 単純承認・相続放棄との違い早見表 分類 プラス財産 マイナス財産 同意要件 典型的リスク 単純承認 すべて取得 すべて負担 不要 借金背負う可能性 限定承認 残余のみ取得 プラス枠内のみ返済 全員必須 税負担増 相続放棄 取得ゼロ 負担ゼロ 不要 家も受け取れない 限定承認のメリットとデメリット【5項目ずつ】 【メリット】借金より多く負債を負わないで済む 限定承認を選択すれば、相続で取得したプラスの財産の範囲内でしか債務の返済義務を負いません。たとえ後から債務額が増えた場合でも、返済の上限は取得した財産の評価額までに限定されます。 そのため、想定外の請求が家計を直撃することがなく、教育費や住宅ローンといった資金計画を守れる点が、限定承認の大きな安心材料です。 【メリット】実家や家業など残したい財産を確保できる 実家や工場など、どうしても手放したくない資産がある場合、限定承認を選ぶことで「先買権」を行使し、評価額でその財産を取得することが可能です。 相続放棄では一切の財産を手放さなければなりませんが、限定承認なら思い出の詰まった住まいを守りながら、債務整理を進めることができます。 取得にかかる費用についても、リフォームローンなどを活用し、金融機関と連携して資金を調達する事例が増えています。 【メリット】連帯保証債務を整理できる 被相続人が他人の借入の連帯保証人となっていた場合、単純承認をすると相続人が無限の返済責任を負うことになります。 これに対して限定承認を選べば、保証債務も含めて「プラスの相続財産の範囲内」で処理されるため、不意の高額請求に備えることができます。 また、金融機関との対応も弁護士を通じて一括して行えるため、精神的な負担も大きく軽減されます。 【メリット】資産売却益で債務を弁済できる可能性 限定承認では、相続財産を売却・現金化し、その範囲内で債務を返済していきます。 不動産や有価証券を時価で売却することにより、債務の完済が可能となり、余剰金が出れば相続人に分配されます。 実際に、郊外の賃貸物件を売却して借入金を完済し、さらに生活資金を手元に残せた成功例も報告されています。 【メリット】負債の全体像を把握しやすい 限定承認には、官報による公告と債権者への催告が義務付けられています。この手続きを経ることで、公告期間内に申し出のなかった未知の債権については、弁済義務を免れる「除斥効」が生じます。 そのため、相続後に突然の督促を受けるリスクが大幅に低下し、将来の家計設計が立てやすくなります。教育費や介護費といった長期的な支出にも、安心して備えることができます。 【デメリット】相続人全員の同意が必須 限定承認は、共同相続人全員がそろって申述しなければ成立しません。兄弟姉妹が遠方に住んでいる場合などは、意思確認や書類手続きに時間を要し、熟慮期間ぎりぎりまで調整が続くケースもあります。 合意形成をスムーズに進めるためには、早い段階から費用シミュレーションや法的メリットを整理した資料を共有し、説得材料として活用することが有効です。 【デメリット】手続きが複雑で時間・手間がかかる 限定承認には、財産目録の作成、官報公告、資産の換価、債務の弁済など、多段階の手続きが必要です。役所や金融機関とのやり取りが平日日中に限定されるため、勤務形態によってはスケジュール調整が不可欠です。 弁護士など専門家へ一括で依頼すれば手続き負担は軽減されます。 【デメリット】みなし譲渡所得税が発生する場合がある 相続財産のうち、不動産や株式を換価(売却)する際、税務上は「譲渡があったもの」とみなされ、譲渡所得税(原則20.315%)が課税される場合があります。 取得費がきわめて低い地方の不動産などを売却した場合、課税額が膨らみやすく、結果として相続人の手元に残る資産が目減りするおそれがあります。 【デメリット】相続税の減税特例が受けられない 限定承認を行うと、「小規模宅地等の特例」や「配偶者控除」など、主な相続税の軽減制度が適用対象外となるケースがあります。結果として、相続税の納税額が増加するリスクがあるため、手続きに入る前に税理士と連携し、影響額の見積もりを確認しておくことが重要です。 【デメリット】公告・換価・弁済など追加コストがかかる 限定承認には、公告費用(官報掲載料:約4~5万円)、登記に伴う登録免許税(固定資産評価額の0.4%)、さらには専門家報酬(弁護士・司法書士への依頼費用:20万~50万円程度)といった費用が発生します。 これらのコストが負債整理による利益を上回らないか、あらかじめ資金計画を立てておく必要があります。 限定承認を選ぶべきケース・選ばない方がいいケース 負債額・資産評価が不明な場合 被相続人の通帳や借入明細が見つからず、資産と負債の全体像がつかめないまま熟慮期間が迫る場合、限定承認は「保険」としての機能を果たします。たとえ後から多額の債務が見つかっても、取得したプラスの財産を超えて弁済義務を負うことはありません。 まずは金融機関や信用情報機関(CIC、JICCなど)への照会を進めつつ、家族内で手続き方針を早めに共有しましょう。 残したい不動産・家業がある場合 長年暮らした自宅や、被相続人が経営していた工場・店舗などを維持したい場合も、限定承認が有効な選択肢となります。評価額で取得できる「先買権」を行使すれば、資産を手放すことなく債務整理を進められます。 不動産鑑定士や公認会計士に評価を依頼し、みなし譲渡所得税の試算とあわせて資金計画を立てておくと、後の手続きが円滑になります。 連帯保証人を兼ねている場合 被相続人が友人や取引先の連帯保証人になっていた場合、単純承認を選ぶと、保証債務を無制限に引き継ぐことになります。限定承認であれば、返済義務はプラス財産の範囲内に限定されるため、相続人の家計に突如高額請求が及ぶリスクを回避できます。 保証契約の有無は、金融機関との過去の取引記録や保証契約書をもとに確認し、必要に応じて債権者と弁済方法の協議を行いましょう。 NGケース:少額負債・相続人の足並みが揃わない場合 相続財産の総額が大きく、債務が少ないケースでは、限定承認にかかる費用や手間が、むしろ相続人の利益を圧迫してしまう可能性があります。さらに、法定相続人のうち一人でも反対すれば手続きは進められず、時間ばかりが過ぎてしまうこともあります。 このような場合は、相続放棄や単純承認への切り替えを含め、専門家の助言を得た上で柔軟に最終判断を下すことが、結果的に効率的です。 限定承認の手続き7ステップと必要書類・期限 限定承認は、相続財産や債務の精査を前提に進めるため、他の相続手続きよりも準備に時間と労力を要します。 以下では、限定承認が完了するまでの流れを7つのステップに分けて、必要書類とあわせて解説します。 ステップ1:相続人間の意向確認 最初のステップは、相続人全員の同意を得ることです。 限定承認は「共同相続人全員の合意」が成立条件であり、誰か一人でも不同意であれば申述が認められません。まずは戸籍を収集して、法定相続人を正確に特定しましょう。 複数の相続人がいる場合は、誤解や対立を防ぐために、話し合いの内容を文書にまとめた「同意書」や「協議書」の作成がおすすめです。 ステップ2:財産・負債の調査と目録作成 次に行うのは、被相続人の資産と債務を網羅的に調査し、「財産目録」を作成することです。収集が必要な主な資料は以下のとおりです。 預貯金の確認:銀行通帳のコピー、残高証明書など 不動産の評価:固定資産税評価証明書、不動産登記簿 債務の把握:信用情報機関(CIC、JICC、全国銀行協会など)から信用情報を取り寄せ、クレジットカード・ローン・保証債務の有無を確認 その他:有価証券、未払い税金、未納保険料などの確認書類 財産と債務を一つ一つ丁寧に確認し、漏れのない目録を作成することが、後のトラブル回避につながります。 ステップ3:家庭裁判所への限定承認申述 財産目録の準備が整ったら、家庭裁判所に限定承認の申述を行います。 提出書類には、次のようなものがあります。 限定承認申述書 相続人全員の戸籍謄本、住民票 財産目録 申立てに必要な費用として、収入印紙800円のほか、郵便切手(裁判所ごとに異なるが、数百円程度)が必要です。 特に注意が必要なのは申述の期限です。限定承認の申述は、「相続があったことを知った日から3か月以内」に行う必要があります。 この期限を過ぎると、法律上は単純承認とみなされ、すべての資産と負債を無制限に相続することになります。 ステップ4:官報公告と債権者催告(2か月) 家庭裁判所で限定承認の申述が受理されると、次に相続人が「官報」に公告を掲載します。この公告には、「一定期間内に債権のある方は申し出てください」といった内容を記載し、債権者に名乗り出るよう促します。 これにより、相続人が把握していなかった隠れた借金の存在も表面化する可能性があります。公告にかかる費用は、おおよそ4〜5万円前後です。 債権届出の期限は、公告日から2か月間と定められています。 ステップ5:相続財産の換価・弁済 公告期間が終了したら、相続人は財産を売却(換価)し、その資金で債務を弁済していきます。おおまかな手続きの流れは次のとおりです。 預貯金については、金融機関で払い戻し手続きを行い、現金化する 不動産については、不動産会社を通じて売却手続きを進める(必要に応じて評価書を取得) 換価した資金をもとに、債権者へ債務額に応じた配当を実施する この弁済は相続財産の範囲内で行われ、それを超える債務については、相続人が追加で支払う義務を負うことはありません。 ステップ6:残余財産の分配・遺産分割協議 債務の弁済が終わったあと、相続財産がまだ残っていれば、それを法定相続分に基づいて分配します。ここで話し合いによって分け方を決める「遺産分割協議」を行い、共有となる不動産があれば、それぞれの持分を登記します。誰がどれだけ取得するかを明確にしておかないと、後日トラブルになるおそれがあります。 ステップ7:登記・税務申告の完了 最後に行うのが、相続財産の名義変更や税金の申告です。 不動産を取得した相続人がいる場合は登記の変更手続き 財産を売却して得た利益にかかる「みなし譲渡所得税」の申告 遺産が基礎控除を超える場合は「相続税」の申告 これで限定承認の一連の手続きが完了となります。 手続きの完了までには一般的に4か月から6か月程度かかりますが、財産の種類や相続人の人数によってはさらに長引くケースもあります。時間に余裕を持ち、早めに動き始めることが肝心です。 失敗例・成功例とよくある質問 成功事例:実家を残して負債ゼロで完了したケース 資産総額1,200万円、負債総額1,000万円という相続において、相続人が限定承認を選択した事例です。相続人全員が同意書に署名し、家庭裁判所へ限定承認の申述を行いました。 その後、不動産鑑定士による評価書を取得し、実家を1,000万円の先買権価格で相続人が取得。預金の換価分とあわせて負債を完済しました。公告期間終了後に残った200万円は、子ども二人が法定相続分に従って受け取っています。 なお、みなし譲渡所得税は評価額と取得費の差が小さかったことから十数万円にとどまり、家計への影響は軽微でした。 結果として、住み慣れた実家を保持しながら負債をゼロにでき、相続人全員が満足する結末になりました。 失敗事例:公告漏れで追加負担が生じたケース 限定承認の公告文を提出する際に、債権届出期限を実際より短く誤記してしまいました。公告期間終了後、過去の保証債務150万円が判明し、債権者から異議が出されて訴訟に発展しました。 裁判所は「公告手続に瑕疵があった」と認定し、相続人は保証債務に加えて、弁護士費用15万円と遅延損害金も支払う結果となりました。 この事例は、公告内容の正確性と、手続における専門家による確認の重要性が浮き彫りになった事例です。 FAQ:熟慮期間を延長できる? 熟慮期間(相続を承認又は放棄する期間)は原則として3か月ですが、家庭裁判所に「熟慮期間伸長申立書」を提出すれば、延長が認められる場合があります。 申立てには、延長を求める合理的な理由と、財産調査の進捗状況を示す資料が必要です。たとえば、金融機関からの残高証明の回答待ちなど客観的な事情があれば、通常は最長3か月程度の追加期間が付与されます。 延長が許可された場合は、新たな期限内に限定承認または相続放棄を選択し、速やかに申述手続きを進めましょう。 FAQ:相続人の一部だけ限定承認できる? 限定承認は、共同相続人全員の共同申述が法律上の要件です。相続人のうち1人でも同意しない場合、限定承認を利用することはできません。 仮に同意が得られない場合は、賛成する相続人が相続放棄に切り替えるか、相続人間で協議し直して財産分割を再構築する必要があります。 合意形成のためには、限定承認を行った場合の費用試算や債務リスクを具体的な数字で示すと、説得力が高まりやすくなります。 FAQ:手続き途中で新たな財産・負債が発覚したら? 限定承認後に未知の財産が判明した場合は、その財産を財産目録に追記し、換価・弁済の対象に加えることができます。 一方、未知の債務が判明した場合、すでに公告期間が終了していれば、その債務は原則として「配当外債権」として取り扱われ、配当順位は後順位となります。ただし、債権者が申立てを行い、裁判所が相当と認めた場合には、弁済義務が生じる可能性もあります。 このようなリスクを最小限に抑えるには、限定承認前の財産・債務調査を入念に行い、公告内容の正確性を高めることが重要です。 まとめ 限定承認は、「家は守りたいけど借金は引き継ぎたくない」と悩む相続人にとって、非常に有効な選択肢です。相続放棄や単純承認との違いを正しく知り、負債と資産のバランスを冷静に見極めながら進めることが大切です。 この記事では、限定承認の基本からメリット・デメリット、実際の手続きの流れ、費用や税金の注意点、失敗・成功の具体例まで幅広く紹介しました。「自分には向いている」と感じたら、早めに家庭裁判所への申述準備を始めてください。迷ったときは専門家への相談も検討しましょう。 一番大切なのは、限られた時間の中で後悔のない判断をすることです。安心して相続を進めるために、今すぐ動き出しましょう。

2025.09.14

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借地権相続の完全ガイド|名義変更・相続税・地主トラブルを徹底解説

借地権相続の完全ガイド|名義変更・相続税・地主トラブルを徹底解説

 「借地権は相続放棄できるの?」「地主が土地を売却したら、自分の家はどうなるの?」こんな疑問を抱えている方は多いでしょう。  そんな疑問を持つ方に向けて、この記事では以下のような内容を解説します。 借地に建つ建物を相続したときの基本的な手続き 地主への連絡や名義変更の注意点 借地権の相続で起こりがちなトラブルとその対処法  借地権付きの建物を相続する場合、通常の不動産相続とは流れや注意点が異なります。特に、建物は相続しても土地は借りている状態のままになるため、相続人が今後どのようにその土地と関わっていくかを早めに整理しておくことが重要です。  「家は受け継いだけれど、土地の契約まではわからない」というケースが多く見受けられます。  この記事を読むことで、借地に建つ家を相続したときの流れや注意点を理解し、家族や地主と円満なやり取りが望めます。  それでは、さっそく詳しく見ていきましょう。 借地権とは 借地権と所有権との違い  借地権とは、他人が所有する土地を借りて、その上に自分の建物を建て、使用・収益する権利のことをいいます。これに対し、所有権は、土地そのものを所有し、使用・収益・処分のいずれも自由に行える完全な権利です。  借地権には主に「賃借権」と「地上権」という2つの類型があります。  賃借権は、土地を建物所有目的で借りる契約に基づく権利です。地主との契約関係が基本であり、通常は登記がなくても当事者間では有効ですが、第三者に対しては登記がなければ対抗できません。例えば、賃借権の登記をしていない場合、地主が土地を第三者に売却すると、その新しい所有者に対して土地の利用継続を主張することが難しくなる場合があります。  地上権は、物権として土地の使用を認められる権利であり、登記によって第三者にも対抗可能です。賃借権と異なり、登記があれば契約の有無にかかわらず、その効力がより強固になります。 借地権の種類  代表的なものは普通借地権(旧借地法を含む)と定期借地権です。普通借地権は、契約期間終了後も更新されやすい性質があります。地主からの正当な理由がない限り、一方的に契約終了としづらいです。  一方、定期借地権はあらかじめ契約期間を定め、その期間が終われば更新しないことを前提としています。例えば一般定期借地権(借地借家法22条)や事業用定期借地権(借地借家法23条)、建物譲渡特約付借地権(借地借家法24条)が挙げられます。  契約書で細かな条件を決めるため、終了時には建物を取り壊して土地を返還するケースが多いです。一時使用目的の借地権は短期の利用を想定した契約で、更新を前提としない点が特徴です。 借地権は相続の対象になる 原則、法定相続人への相続なら地主の許可は不要  借地権は、原則として法定相続人が当然に相続することができます。したがって、相続によって借地権を承継する場合、通常は地主(貸主)の新たな許可や承諾は不要とされています(借地借家法第10条等)。  地主が「契約は終了した」と主張する場面があっても、借地借家法により借地人は強い法的保護を受けているため、正当な理由がなければ一方的な契約終了や立ち退きを強制されることはありません。契約内容や借地の利用状況が適切であれば、引き続き土地を使用できるのが一般的です。  ただし、相続後に、「借地契約書の名義変更」「借地上の建物の所有者名義(登記)の変更」といった手続きが必要となる場合があります。  これらの手続きに際し、地主から、名義変更承諾料(いわゆる承諾料)を請求されることがあります。承諾料の要否・金額については、契約内容や地域の慣行により異なるため、地主との協議が必要となるケースが多いです。地代の何か月分を目安とする地域もあれば、形式的な変更として無料で済む地域もあります。 地主の許可が必要な主なケース  借地権を法定相続人以外の者に遺贈したり、第三者に売却する場合には、地主(貸主)の承諾が必要となるケースが多くあります(借地借家法第19条等)。たとえば、兄弟や友人、内縁の配偶者など、法定相続人でない者に承継・譲渡する場面では、地主の同意を得ることが求められます。地主の承諾を得ずに譲渡や遺贈を行うと、契約違反とみなされ、契約解除の理由とされる可能性もあります。  また、借地上の建物を増改築又は建替えをする際も、「増改築は地主の事前承諾を要する」といった条項が定められていることが多くあります。  地主が承諾を拒否した場合でも、行き詰まるわけではありません。一定の条件を満たす場合には、借地借家法第17条に基づき、家庭裁判所に「借地条件変更許可の申立て」を行うことが可能です。承諾が得られないことが合理的理由がなく不当と考えられる場合に、借地人の立場を考慮して条件の変更(例:譲渡や建替えの許可)を認めるかどうかを判断する制度です。 借地権の相続放棄や中途解約は可能か?  相続放棄とは、借地権を含めた相続財産を受け取らないことを家庭裁判所に申述する手続きです。借地権だけを放棄して他の財産を取得する、ということは原則として認められていません(民法921条等)。被相続人の死亡を知った日から3か月以内に申述を行う必要があります(民法915条)。期限内に判断しないと、単純承認(すべて相続する)とみなされる可能性がありますので注意が必要です。  一方、借地権を相続した後に、借地契約を中途解約したいというケースもあります。しかし、借地権は当事者間の契約に基づく権利関係で、一方的に解約することは基本的にできません。 中途解約を希望する場合でも、契約内容、借地借家法の適用、建物の存否(借地権の存続要件)などの要素を十分に検討する必要があります。 借地権の相続手続きの流れ  借地権相続の流れは、大まかに3ステップに分けられます。1書類準備、2地主との連絡、3税務手続きという形です。ここでは各ステップで必要な要素を一覧にまとめます。 ステップ 内容 必要書類・費用目安 期間の目安 ステップ1 建物の名義変更(相続登記) 戸籍謄本、遺産分割協議書など 1~2か月 ステップ2 地主への連絡・契約更新 借地契約書、身分証明書など 交渉次第 ステップ3 相続税の申告 路線価図、借地権割合資料など 相続発生から10か月 建物の名義変更(相続登記)  2024年4月1日から、相続登記が義務化されました。これにより、不動産を相続した相続人は、被相続人の死亡を知った日から3年以内に相続登記を行う義務があります(不動産登記法第76条の2等)。正当な理由なく登記を怠ると、10万円以下の過料が科される可能性があります。  相続登記を申請する際には、「被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本」、「相続人全員の戸籍謄本・住民票」、「不動産の固定資産評価証明書」、「遺産分割協議書(相続人全員の署名・押印が必要)」、「登記申請書」といった書面が必要です。  相続人間で遺産分割協議が成立していない場合には、相続登記を進めることができません。協議が難航する場合は、弁護士に相談し、早めに対応することを考えましょう。 地主への連絡・契約更新  普通借地権(借地借家法第3条)の場合、契約期間が満了しても、借地人が建物を所有している限り、自動的に更新されることが多いとされています。もっとも、上述のとおり、名義書換料(いわゆる承諾料)の請求や、修繕や利用状況の確認に関する連絡は必要です。  一方、定期借地権(借地借家法第22条)は、期間満了をもって確実に終了する契約形態です。更新が認められないケースも多く、原則として再契約が必要となります。期間の満了が近づいた段階で、地主と再契約の可否や条件について早めに協議を始めることが重要です。 相続税の申告  相続発生後には、10か月以内の対応が必要です。  借地権が関係する相続の場合、通常の土地とは異なる評価方法(路線価図で算出した自用地評価額に借地権割合を乗じる方法など)が用いられます。  借地上の建物を第三者に貸しているようなケースでは、借家権割合を差し引く必要が生じる場合もあり、評価計算が複雑になります。このような煩雑な計算や相続税申告書類の作成は、税理士に依頼することでスムーズに進めやすくなります。 借地権の相続税・評価方法 借地権割合と評価額の計算  借地権割合は、路線価などから確認します。例えば、自用地評価が3,000万円、借地権割合が60%の場合には1,800万円が借地権の評価額になります。さらに借家人を入れて賃貸している場合は、(1 – 借家権割合)を掛ける式を用いるときがあります。  例えば家賃収入を得ている建物があり、借家権割合が30%なら、借地権評価額×(1 – 0.3)で算出するといった形です。数字を当てはめるとわかりやすいので、財産目録を作る段階で専門家に概算を聞くと安心です。 定期借地権・一時使用目的の借地権の場合  定期借地権の評価は期間限定で土地を使う権利なので、自用地評価から一定の減価計算を行います。期間に応じて評価額が変わるため、契約書の確認が重要です。一時使用目的の借地権は評価ゼロとなるパターンも存在します。例えば、工事現場の資材置き場として短期利用するケースが典型といえます。  期限付きで終了が確定している契約かどうかで相続税の計算が大きく変わるので、定期借地権の契約内容は必ず読み直しましょう。 借地権付き建物の売却・譲渡  第三者へ売却するなら、地主の承諾が鍵になります。  地主が承諾せず名義変更料の提示があっても折り合いがつかない場面もあります。名義変更料が借地権価格の10%前後とされる地域もあれば、もっと少額のこともあります。  地主に買取を依頼すると、土地と建物の一体売却が楽なケースもありますが、地主が高額な金額を支払うかどうかはわかりません。地主が底地を手放す方針だった場合は、逆に自分が底地を買い取るパターンもあるでしょう。 借地権を相続する上での注意点 家族・兄弟間のトラブル防止  共有名義で引き継いだ後、意見が噛み合わず手続きが進まない事態は起こりやすいです。親の家を複数の相続人で共有した場合、建替えや売却の判断を多数決で決めようとする場面で対立が表面化します。  遺産分割協議をスムーズに進めるには、借地権の評価を正確に把握し、誰がどの財産を取るかを公平に決める話し合いが大事です。 地主との良好な関係を保つコツ  地代や更新料の支払いを怠ると、地主側の心証を悪くしやすいです。契約書に定められた支払い期限を守り、増改築の相談が出たら早めに地主へ連絡すると安心です。  円満に進めるコツは、手紙やメールで状況を丁寧に伝え、合理的な根拠を用意することです。値上げを提案されたら近隣相場を比較する資料を示して、交渉を進めましょう。 借地権の転貸や建物の改築  契約に「転貸は禁止」と書かれている場合は、転貸に踏み切ると契約違反になります。また、建物を増改築するときは、構造を大きく変更することがあるので、地主の同意を得ないまま工事を始めるのは避けるべきです。 【実例】相続にまつわるケーススタディ  ここでは3つの事例を示します。状況によって対処の仕方が変わるので、自分のケースに近い部分を参考にしてください。 ケース①:姉妹3人が相続した借地権を更新したい  姉妹3人が借地権付きの実家を相続したケースです。借地権の更新を控え、長女が代表して地主との交渉を進めようとしましたが、次女と三女の間で意見がまとまらず、話し合いが難航していました。  長女は、実家に足を運ぶ機会も多く、これまで地代も立て替えて支払っていました。一方、次女・三女は、今後の資金負担に消極的で、費用負担の在り方が主な争点となりました。  最終的に、3人で弁護士事務所を訪れ、弁護士の助言のもと、地代や修繕費などの費用負担割合、将来の修繕計画を明確にした契約書を作成しました。そのうえで、地主にも正式に挨拶し、承諾料についても3人で均等に支払うことで合意。公平性を重視した対応により、家族関係の悪化も避けることができました。 ケース②:借地権を親子で保有、離婚時に財産分与  夫婦が結婚後、夫の父親から借地権の一部を贈与され、残りは父親が引き続き保有するという形で、親子間で借地権を共有していた事例です。離婚に際して、この借地権をどのように財産分与するかについて、夫婦間で意見が対立しました。  相談を受けた司法書士は、借地権の名義変更に伴う地主の承諾や承諾料の要否、名義変更後の固定資産税や譲渡所得税のリスクなどを含めて、複数のシナリオを提示しました。その上で、税負担が発生しない範囲内での調整案として、妻が借地権を取得し、夫の父が一部の地代や更新料を負担する内容で合意が成立しました。  結果として、名義変更手続や契約内容の再確認に一定の手間はかかりましたが、大きな費用負担や税金の発生を避けつつ、スムーズに財産分与を完了することができました。 ケース③:借主が行方不明で賃料滞納、借地権は放棄扱い?  土地を貸していたところ、借主が建物を取り壊したまま行方不明に。数年間にわたり地代の支払いがなく、連絡も一切取れない状況が続いていました。その後、貸主に相続が発生し、相続人が土地の売却を検討しましたが、契約上は依然として借主が借地権を保有している可能性がありました。  このような場合、借地権が放棄されたとみなせるかどうかが問題となります。借地借家法や過去の裁判例を精査した上で、借主が借地権を事実上放棄したと推定できる状況証拠を収集しました。  その結果、借主の権利はすでに消滅したと判断され、法的手続を経て問題なく土地の売却が実現できました。 借地権の相続についてよくある質問(Q&A) Q1. 借地権は相続放棄できる?  相続放棄をすれば、借地権も含めて一切を放棄する動きになります。借地権だけを選んでやめるパターンは普通は成り立ちません。相続の発生から3か月以内に家庭裁判所で手続きを済ませる必要があります。 Q2. 借地に固定資産税はかかる?  一般的に、固定資産税は土地の所有者(地主)が納税義務者となります。したがって、借地人(借主)が土地部分の固定資産税を直接納めることは通常ありません。借地人は土地を所有していないため、税法上の納税義務者は土地の所有者だからです。  一方で、借地上に建てられた建物の固定資産税は、その建物の所有者(借地人)が納めます。建物の所有者は借地人であるため、建物にかかる税金の負担は借地人の責任となります。  また、地主が固定資産税相当額を地代に含めて徴収するケースもあります。つまり、借地人が実質的に土地の固定資産税分も負担している場合があるため、契約内容をよく確認することが重要です。 Q3. 借地契約を途中で解約したい場合は?  契約期間内に借地契約を解約するには、地主との合意が必須です。一方的にやめると、違約金や建物撤去費用で争いが長引きやすいです。交渉の材料として、建物の買い取り交渉を提案するなど、複数の選択肢を検討する動きが考えられます。 Q4. 地主が底地を売却したらどうなる?  底地が第三者に渡ると、契約相手が変わります。借地契約自体はそのまま引き継がれるので、普通借地権であれば更新権利も保護されるでしょう。ただし、新しい所有者と条件を再度整理する可能性はあります。地代の値上げ交渉が行われるときは、近隣相場や契約期間の長さなどを踏まえ、交渉を進める段取りが求められます。 Q5. 借地上の建物を貸し出すことは可能?  契約に「転貸禁止」が入っていると、第三者へ貸すときに地主の同意が必要です。許可が取れず黙って転貸すると、契約違反でトラブルが起きやすいです。建物だけを貸す形でも、土地利用権の実質的な移転と見なされる場合があります。 Q6. 地主からの底地買取依頼には応じるべき?  地主が「底地を買い取ってほしい」と提示することがあります。地代収入より一時金を得たい地主がそういう提案をもちかけることはあります。借地人が底地を取得すると土地の所有者になり、地代を払い続ける必要がなくなります。ただし、資金負担が大きいので、住宅ローンを利用できるかや相続税の増加リスクなどを総合的に判断する動きが大切です。 まとめ:借地権相続は早めに専門家へ相談を 専門家を活用するメリット  弁護士は地主や共有者との交渉で法的知識を使い、トラブルの拡大を防ぎます。税理士は相続税や譲渡所得税の計算を見直し、過度な負担を減らせる手段を提案します。家族が多い場合や、地主との意向がすれ違うときに、専門家が入ると話がスムーズになりやすいです。 家族間・地主とのトラブルを防ぐポイント  深刻な対立に発展する前に、弁護士などの第三者と相談して道筋を考えるほうが良いです。書類や契約のコピーをそろえ、地主との過去のやりとりも整理しておきましょう。無料相談窓口を活用し、費用の見通しを最初に聞くと安心です。相続人同士で認識を合わせ、地主にも誠実な態度を示すことが円満化の近道です。  さまざまな手続きを踏む必要はありますが、主体的に準備すれば負担を軽くできるでしょう。最後まで読んでくださりありがとうございました。借地権相続で生じる心配を減らすには、早めに行動を始めるのがおすすめです。専門家との連携も頭に入れ、家族が納得できる形で相続をまとめてみてください。 借地権は建物を所有しながら土地を借りる権利であり、相続の対象になります。 相続時は名義変更や地主との連絡、税務手続きが必要で、法定相続人であれば原則として地主の許可は不要です。 相続放棄や借地権の売却・譲渡には注意点が多く、契約内容や地主の承諾が大きな鍵となります。 手続きや評価が複雑なため、家族間のトラブル防止や地主との関係維持のためにも、専門家への相談が推奨されます。 実際の事例からも、相続人同士や地主との関係性によってスムーズな相続の可否が左右されることが分かります。  借地権の相続は一般的な不動産とは異なり、法律・税務・人間関係の知識が求められる場面が多くあります。この記事を参考に、今後の手続きや交渉の準備を早めに始めましょう。  専門家の助言を得ながら、円滑な相続と家族・地主との良好な関係構築を目指してください。

2025.09.14

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遺言書の改ざんを防ぐ!自筆証書遺言書保管制度

遺言書の改ざんを防ぐ!自筆証書遺言書保管制度

1. 自筆証書遺言の問題点  自筆証書遺言は、自書さえできれば遺言者本人のみで作成することができるため、手軽で自由度が高く、利便性の高い制度です。 しかし一方で、 ・遺言者の死後に相続人が遺言書を発見できない ・一部の相続人による改ざんのリスクがある といった問題点が指摘されていました。 2.自筆証書遺言書保管制度とは?  このような問題を解決するために導入されたのが「自筆証書遺言書保管制度」です。  この制度は、自筆証書遺言書を法務局(遺言書保管所)に保管してもらうことができる仕組みです。 3. 法務局での保管によるメリット  法務局(遺言書保管所)において保管してもらうことにより、 ・遺言書の原本とデータを適正に長期間管理できる ・ 相続開始後、相続人等に遺言書の内容が確実に伝わる(証明書の交付や閲覧が可能) ・ 通常の自筆証書遺言に必要な「検認」の手続が不要になる といったメリットがあります。 4. 検認手続とは?  「検認」は、意外と知られていない手続の一つです。  検認とは、遺言書の保管者または発見した相続人が、遺言者の死亡を知った後に遅滞なく家庭裁判所で行わなければならない手続です。  具体的には、 1. 遺言書の保管者または発見した相続人が、家庭裁判所に遺言書を提出 2. 裁判所が定めた「検認期日」に、遺言書の形状・筆跡・押印の確認を実施 この手続を経ることで、遺言書が正式なものとして認められます。 5. 検認手続の負担  検認手続には、 ・申立書の作成(必要事項の記載) ・遺言者の出生時から死亡時までの全戸籍謄本等の取得 ・家庭裁判所の期日に出頭する必要がある(申立人は必須) といった負担があります。このように、手間のかかる手続です。 6. 自筆証書遺言書保管制度を活用しよう  このような手続の負担を軽減し、相続人の手間や不要な紛争を防ぐために、「自筆証書遺言書保管制度」を活用することをおすすめします。  さらに詳しい制度の説明や、遺言書の書き方についてお悩みの方は、気兼ねなく弊所までご相談ください。

2025.01.31

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母が高齢で物忘れが多く判断能力が落ちている場合、家族が後見人になれるのか?

母が高齢で物忘れが多く判断能力が落ちている場合、家族が後見人になれるのか?

相談者からの質問  最近、一人暮らしをしている母も高齢になり、物忘れが多くなっているようです。先日も、通帳と印鑑の場所を忘れたと言われ急遽探しにいかなければいけなくなりました。  今後も年齢に従って判断能力は落ちていくと思うのですが、財産の管理などが心配です。後見制度というのがあると聞きましたが、私自身が後見人となることはできるのでしょうか。 誰を後見人に選任するかは家庭裁判所が決定  法律上、判断能力の不十分な方の財産管理の支援を、裁判所が選任した成年後見人等が行う後見制度があります。判断能力の差によって、成年後見人、保佐人、補助人が選任されます。  成年後見人が選ばれると成年後見人が財産管理を行います。また、契約などの法律行為は、成年後見人が代理します。そのため、ご本人による浪費や詐欺被害から守ることができます。  成年後見人の選任を希望される場合、家庭裁判所で申立てをすることが必要です。後見人候補者について申立時に希望を出すことはできますが、最終的に誰を後見人に選任するかは家庭裁判所の職権で決定します。  事案によっては、弁護士や司法書士等の職業後見人が選任される場合もあります。希望の後見人が選任されなかったことを理由に、申立を取り下げることは認められませんので注意が必要です。

2024.07.19

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遺言で妹のみに全ての遺産相続を行う記載があれば、姉の権利はなくなるか?

遺言で妹のみに全ての遺産相続を行う記載があれば、姉の権利はなくなるか?

相談者からの質問  先日、母が亡くなりました。妹と相続の話をしようとしたところ、母が生前に遺言を作成していたことを知らされました。  遺言によれば、「全ての遺産を妹に相続させる。」とのことです。たしかに妹は母の生前、母の身の回りの世話などもしていたようですが、だからと言って私に一切権利が無くなってしまうのでしょうか。 ご相談者の権利が一切無くなってしまうものではありません  認知症が悪化した時期に作成された等、遺言の作成経緯に疑いがある場合、遺言の有効性自体を争う手続があります(遺言無効確認訴訟)。  仮に遺言の有効性について争いが無かったとしても、兄弟姉妹以外の相続人には「遺留分」(民法第1042条)が認められています。遺留分権者は、受遺者又は受贈者に対し、遺留分侵害請求権に基づき金銭の支払いを求めることができます(民法第1046条)。したがって、仮に全ての遺産を妹に相続させる旨の遺言があったとしても、ご相談者の権利が一切無くなってしまうものではありません。  ただし、遺留分侵害請求権は、「相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時」から「1年」、「相続開始の時」から「10年」で消滅してしまいます(民法第1048条)。したがって、遺留分侵害請求権の行使をご検討されている方はお早めにご対応ください。

2024.07.19

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