弁護士コラム

相続に関する様々なトピックを
弁護士が解説

相続問題に関する、当事務所の弁護士によるコラムです。是非ご一読ください

相続土地国庫帰属制度とは?条件と注意点を弁護士が解説

相続土地国庫帰属制度とは?条件と注意点を弁護士が解説

1. 相続土地国庫帰属制度とは?  相続土地国庫帰属制度は、相続や遺贈によって取得した土地の所有権や共有持分を、一定の要件のもとに国庫へ帰属させる制度です。この制度は、山林や原野などの資産価値が低い土地が「負の遺産」として放置され、所有者不明土地が増える事態を防ぐ目的で導入されました。法務大臣(法務局)の審査・承認を受け、申請者が10年分の土地管理費相当額の負担金を納付することで、当該土地を国庫へ帰属させることができます。  10年分の土地管理費相当額と聞くと負担が大きく感じられるかもしれませんが、田畑や原野は面積にかかわらず20万円、森林については面積に応じて算定され、例えば1000㎡ほどの広さがある場合、約48万円となります。 2. 国庫に帰属させられない土地の条件  国庫に帰属させることができない土地として、以下のような条件が挙げられています。 • 建物が存在する土地 • 担保権等が設定されている土地 • 一定の勾配・高さの崖がある土地 これらの条件に該当する場合、本制度を利用することはできません。 3. 遺産分割における相続土地国庫帰属制度の活用  本制度を活用することで、遺産分割における選択肢が増えます。特に、資産価値が低く管理が難しい森林などの土地は、遺産分割の際に紛争の原因となることが多くありました。  従来は、誰も取得を希望しない土地を共有名義で相続登記することで問題を先送りするケースが見られました。しかし、本制度を利用すれば、相続財産から負担金を支出して問題を解決することが可能になります。  また、本制度は法施行前に相続等によって取得した土地も対象となります。そのため、土地の帰属をめぐって遺産分割協議が進んでいない場合でも、本制度を活用することで解決を図ることができる可能性があります。 4. 相続土地国庫帰属制度を利用する際の注意点  本制度のメリットを述べてきましたが、注意が必要な点もあります。 令和6年4月1日より、相続登記の申請が義務化されました。相続により不動産を取得した相続人等は、取得を知った日から3年以内に相続登記を行うことが義務づけられます。正当な理由なく相続登記を行わなかった場合、10万円以下の過料が科される可能性があります。  相続登記の義務化は遡及適用されるため、相続未了の土地を所有している場合は、特に注意が必要です。 5. まとめ  相続土地国庫帰属制度は、所有者不明土地の増加という社会問題への対応として制定されました。資産価値の低い土地の処分が可能になる一方で、相続登記の義務化により、手続きを怠ることはリスクとなる点も認識しておく必要があります。制度の内容を理解し、適切に活用することが重要です。

2025.02.03

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遺言書の改ざんを防ぐ!自筆証書遺言書保管制度

遺言書の改ざんを防ぐ!自筆証書遺言書保管制度

1. 自筆証書遺言の問題点  自筆証書遺言は、自書さえできれば遺言者本人のみで作成することができるため、手軽で自由度が高く、利便性の高い制度です。 しかし一方で、 ・遺言者の死後に相続人が遺言書を発見できない ・一部の相続人による改ざんのリスクがある といった問題点が指摘されていました。 2.自筆証書遺言書保管制度とは?  このような問題を解決するために導入されたのが「自筆証書遺言書保管制度」です。  この制度は、自筆証書遺言書を法務局(遺言書保管所)に保管してもらうことができる仕組みです。 3. 法務局での保管によるメリット  法務局(遺言書保管所)において保管してもらうことにより、 ・遺言書の原本とデータを適正に長期間管理できる ・ 相続開始後、相続人等に遺言書の内容が確実に伝わる(証明書の交付や閲覧が可能) ・ 通常の自筆証書遺言に必要な「検認」の手続が不要になる といったメリットがあります。 4. 検認手続とは?  「検認」は、意外と知られていない手続の一つです。  検認とは、遺言書の保管者または発見した相続人が、遺言者の死亡を知った後に遅滞なく家庭裁判所で行わなければならない手続です。  具体的には、 1. 遺言書の保管者または発見した相続人が、家庭裁判所に遺言書を提出 2. 裁判所が定めた「検認期日」に、遺言書の形状・筆跡・押印の確認を実施 この手続を経ることで、遺言書が正式なものとして認められます。 5. 検認手続の負担  検認手続には、 ・申立書の作成(必要事項の記載) ・遺言者の出生時から死亡時までの全戸籍謄本等の取得 ・家庭裁判所の期日に出頭する必要がある(申立人は必須) といった負担があります。このように、手間のかかる手続です。 6. 自筆証書遺言書保管制度を活用しよう  このような手続の負担を軽減し、相続人の手間や不要な紛争を防ぐために、「自筆証書遺言書保管制度」を活用することをおすすめします。  さらに詳しい制度の説明や、遺言書の書き方についてお悩みの方は、気兼ねなく弊所までご相談ください。

2025.01.31

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遺言で妹のみに全ての遺産相続を行う記載があれば、姉の権利はなくなるか?

遺言で妹のみに全ての遺産相続を行う記載があれば、姉の権利はなくなるか?

相談者からの質問  先日、母が亡くなりました。妹と相続の話をしようとしたところ、母が生前に遺言を作成していたことを知らされました。  遺言によれば、「全ての遺産を妹に相続させる。」とのことです。たしかに妹は母の生前、母の身の回りの世話などもしていたようですが、だからと言って私に一切権利が無くなってしまうのでしょうか。 ご相談者の権利が一切無くなってしまうものではありません  認知症が悪化した時期に作成された等、遺言の作成経緯に疑いがある場合、遺言の有効性自体を争う手続があります(遺言無効確認訴訟)。  仮に遺言の有効性について争いが無かったとしても、兄弟姉妹以外の相続人には「遺留分」(民法第1042条)が認められています。遺留分権者は、受遺者又は受贈者に対し、遺留分侵害請求権に基づき金銭の支払いを求めることができます(民法第1046条)。したがって、仮に全ての遺産を妹に相続させる旨の遺言があったとしても、ご相談者の権利が一切無くなってしまうものではありません。  ただし、遺留分侵害請求権は、「相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時」から「1年」、「相続開始の時」から「10年」で消滅してしまいます(民法第1048条)。したがって、遺留分侵害請求権の行使をご検討されている方はお早めにご対応ください。

2024.07.19

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母が高齢で物忘れが多く判断能力が落ちている場合、家族が後見人になれるのか?

母が高齢で物忘れが多く判断能力が落ちている場合、家族が後見人になれるのか?

相談者からの質問  最近、一人暮らしをしている母も高齢になり、物忘れが多くなっているようです。先日も、通帳と印鑑の場所を忘れたと言われ急遽探しにいかなければいけなくなりました。  今後も年齢に従って判断能力は落ちていくと思うのですが、財産の管理などが心配です。後見制度というのがあると聞きましたが、私自身が後見人となることはできるのでしょうか。 誰を後見人に選任するかは家庭裁判所が決定  法律上、判断能力の不十分な方の財産管理の支援を、裁判所が選任した成年後見人等が行う後見制度があります。判断能力の差によって、成年後見人、保佐人、補助人が選任されます。  成年後見人が選ばれると成年後見人が財産管理を行います。また、契約などの法律行為は、成年後見人が代理します。そのため、ご本人による浪費や詐欺被害から守ることができます。  成年後見人の選任を希望される場合、家庭裁判所で申立てをすることが必要です。後見人候補者について申立時に希望を出すことはできますが、最終的に誰を後見人に選任するかは家庭裁判所の職権で決定します。  事案によっては、弁護士や司法書士等の職業後見人が選任される場合もあります。希望の後見人が選任されなかったことを理由に、申立を取り下げることは認められませんので注意が必要です。

2024.07.19

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遺産相続で嫌がらせをしてくる兄弟姉妹への対処法

遺産相続で嫌がらせをしてくる兄弟姉妹への対処法

兄弟姉妹間でよくある遺産相続をめぐるトラブルパターン 相続権(相続人となる法的な地位)は、被相続人の親族のうち一定の方にだけ認められる権利です。法は、被相続人の親族に対して順位を設けており、前の順位の親族がいない場合に初めて後の順位の親族が相続権を得ます。その順位は、1位が「子」、2位が「直系尊属(親や祖父母など直列関係で先祖に当たる者)」、3位が「兄弟姉妹」です。 このうち、最も多いのは「子」が相続人となるケース(被相続人に法律上の子がいる場合)です。そして、「子」が複数の場合、つまり兄弟姉妹がいる場合が相続でのトラブルが頻発する典型例です。 具体的にどういったトラブルが起こりがちか見て行きましょう。 【トラブル1】 兄弟姉妹の1人が・・・親の介護を理由に遺産を独り占めしようとする よくあるトラブルの1つが亡くなった親(被相続人)の介護に纏わるものです。他の兄弟姉妹が実家を離れる中、兄弟姉妹の内一人だけが家に残り、親と同居して、親を介護しながら面倒を看ていたといったケースです。 こういったケースでは、親の介護を行っていた方は、他の兄弟姉妹よりも多くの苦労を背負って被相続人(親)の人生に貢献したとして、被相続人の遺産について自分が有利な扱いを受けなければ兄弟姉妹間の扱いとして不公平であると考えることが多いです。こうした心情は、遺産について自身の取り分が増えるべきである、あるいは、遺産はすべて自身がもらうべきものであるといった法的主張となって表れます。 では、こうした主張は認められるのでしょうか。 この問題を考えるには、まず、「親の介護」が相続に際してどのような意味を持つのかを知る必要があります。親の介護は、状況次第で、遺産分割の中で「寄与分」という問題として考慮されます。「寄与分」とは、被相続人の財産の維持・増加に特別の寄与をした者(相続人)が、その寄与を理由として特別に与えられる相続財産への持分です。寄与分は、当然に認められるものではなく、家庭裁判所に対し、寄与分を認める旨の審判を申し出て、裁判所がこれを認める審判が出すことで初めて権利が発生します。寄与分が認められれば、遺産全体から寄与分部分が除かれて寄与者の取り分とされ、残りの部分を遺産分割協議の対象とすることになります。 もっとも、親の介護を理由として「寄与分」が認められるケースは多くありません。理由は、寄与分という制度が本来的に遺産の維持・増加に対する「寄与」を根拠とする制度であるところ、子による介護の有無と遺産の維持・増加の関係は必ずしも明らかでないためです。子の一人が介護に当たったことで、本来支払わければならなかった介護費用が大幅に減った等の明確な事情がなければ、遺産の維持・増加に寄与したものと認められない可能性が高いです。 また、子は本来的に親に対して扶養義務を負っているため、親の介護は扶養義務の履行に過ぎないと評価されがちです。寄与分として財産的利益を受けるには、扶養義務の履行を超えるような特別の寄与、たとえば、親の介護のため会社を退職せざるを得ず、自身の収入を犠牲にして同居の上でつきっきりの介護に当たった等の事情が求められます。 寄与分を認める際の具体的な基準を定めた法律はなく、判例と呼べる程の確立した先例もありません。実際には、寄与分の審判申し出を受けた担当裁判官の裁量による部分が多くなりますが、介護を理由とした寄与分の内容として遺産すべてが寄与者に与えられる事例はかなり少ないように思われます。このことは、遺産の額が高額であればある程当てはまるでしょう。 皆さんの身近に、親の介護に当たられていた兄弟姉妹の方が、そのことを理由として遺産すべてを取得する旨主張されているケースがあれば、法的には妥当でない主張の可能性が高いのでお気を付け下さい。 【トラブル2】 兄弟姉妹の1人が・・・遺産を開示してくれない よくあるトラブル事例として、亡くなった親(被相続人)と同居して、親の財産を管理していた兄弟姉妹の一人が、親の死亡後も遺産の開示を拒むケースがあります。このような場合、その方は、資料を一切開示しないまま遺産の目録を配り、「遺産はこれだけだからこの分割を協議しよう」と言って、遺産分割協議をリードしようとすることが多いです。 こういったケースでは、被相続人の生前に同人の財産を管理していた子の一人が、何らかのやましい行動を取っている可能性があります。具体的には、生前に被相続人から多額の贈与を受け取っていたり、被相続人の財産を勝手に使い込んでいたりしたことを隠す意図が疑われます。 このような場合、他の相続人において遺産の調査を行うことで、真相に近づくことができます。具体的には、被相続人名義の預金の取引明細や、生命保険の契約情報、証券や不動産の情報等を調べることで、生前の被相続人名義の財産に不審な動きがないかを調べることができます。 なお、法的には、被相続人が相続人の一部に多額の贈与を行ったケースと、相続人の一部が相続人の生前に勝手に同人の財産を使い込んでいたケースとで扱いが変わって来ます。前者のケースは、いわゆる「特別受益」の問題として、遺産分割手続の中で贈与相当額を遺産に持ち戻すことができるかという論点になり、後者については、被相続人が使い込みを行った相続人に対する損害賠償請求権(不法行為を理由とするもの なお、不当利得構成も可能が遺産を構成も可能)の問題として扱われます。これらの詳細は、この後の【トラブル3】、【トラブル4】の中で解説します。 いずれにせよ、被相続人の財産を同人の生前に管理していた相続人が、遺産に関する資料の開示を拒む場合、何らかの隠蔽意図があることが伺われます。ご自身で調査することも可能ですが、弁護士に頼めば、心当たりのある財産一式を調査することも可能です。 【トラブル3】 兄弟姉妹の1人が・・・生前に親から多額の援助を受けていた 兄弟姉妹の一人が、生前に親から多額の援助(贈与)を受けていた場合、それが特別受益と評価されれば、遺産分割の場面で調整がなされることとなります。具体的には、遺産分割における各相続人の取分(具体的相続分と言います。)を定める際、被相続人の死亡時に残存していた財産に、被相続人が相続人の一部に対して行った援助(贈与)の額(貨幣価値や物の価格変動している場合は、相続開始時の時点の価値として換算されます。)を持ち戻して遺産を観念します(みなし相続財産と言います。)。例えば、被相続人の間に子が2人おり、その1人に対しては生前に時価1億円の不動産の贈与し、被相続人死亡の時点での財産が預金1000万円しか残っていなかった場合、この1000万円のみを兄弟で2等分するのでは、あまりにも不公平です。このようなケースでは、「婚姻」「縁組」「その他生計の資本として」贈与された財産は、言わば遺産一部の前渡しであると評価され、遺産分割に際して、分割対象となる遺産にその贈与額を持ち戻して計算しなければならなくなります。このような持ち戻しの対象となる贈与のことを「特別受益」と呼ぶのです。先ほどの例では、被相続人の死亡時点で現実に存在するのは預金1000万円だけですが、先だって行われた時価1億円の不動産の贈与は「生計の資本としての」贈与に当たり、特別受益として持ち戻しの対象となります。その結果、持ち戻し後の遺産(みなし相続財産)は、1000万円+1億円で合計1憶1000万円となります。これを2人で等分することになりますので、二人の取り分はそれぞれ5500万円です。特別受益を受けている相続人の具体的相続分は、この5500万円から特別受益額1憶円を控除した額となるので、このケースでは-4500万円となります。他方、特別受益を受けていない方の相続人の具体的相続分は、そのまま5500円となります。この場合、この相続人は、現実の遺産として残されている預金1000万円をまず取得し、不足する4500万円について特別受益を得ている相続人に対して請求できることになります。 ですので、この記事をご覧の方のご兄弟が、生前に被相続人から多額の援助を受けていることが明らかなケースであれば、まずもってこの特別受益の主張を検討されるべきと言えます。 ただし、生前贈与があれば、常に特別受益に当たる訳ではありません。親は子に対して扶養義務を負っているところ、金銭を援助することは扶養義務の範囲内のこととして正当化されることが多いためです(「生計の資本としての贈与」に当たらない、つまり遺産の前渡しとは認められないと理解されることが多いです)。よく問題となるのは、大学の学費です。兄弟のうち一部の者だけ大学の進学費用を親が負担し、他の兄弟は自分で奨学金を得て進学した、あるいは進学せずに就職したという事案において、親による当該学費の支弁が特別受益に当たるとして争われるケースです。これも、確立した判例があるわけではありませんが、下級審判例(主として家庭裁判所)の大きな傾向として、大学の学費は扶養義務の履行の範囲内で行われたものであり特別受益には当たらないと解釈する方向にあります。そこに多少の不公平があっても、昨今の大学の進学率を考慮すれば大学進学の際の親の援助は、扶養義務の履行に留まるものであって、遺産の前渡しとまで評価することはできない(被相続人が遺産の前渡しの趣旨で学費を支払ったとは推測できない)というのが理由のようです。 なお、特別受益による持ち戻しを行うか否かは、被相続人の意思が最も尊重されます。被相続人が持ち戻しを免除する意思を遺言によって明記しているようなケースでは、たとえ特別受益と認められる生前贈与であったとしても、遺産分割協議の中で持ち戻しを行うことは認められなくなります。特別受益による持戻しは、客観的な相続人間の公平性の実現よりも、被相続人の意思を優先させる制度と言えます。 【トラブル4】 兄弟姉妹の1人が・・・生前に親の財産を勝手に使い込んでいた これもトラブル3で述べた遺産の非開示から始まって、事後、遺産の調査を行って発覚することが多い事例です。例えば、高齢になった親(被相続人)の財産を管理していた長男が、親に代わって同人の財産を管理しており、その中で、親の承諾なく同人の財産を使い込み、長男自身やその妻・子の私費に当てているといったケースです。 この場合、「親の承諾を得ていない」という点で、【トラブル3】のような贈与の事例と異なります。そのため、遺産分割における特別受益の問題として処理されることにはなりません。では、このような勝手な使い込みは、法的にはどのように整理されるのでしょうか。 高齢の親の財産が、同人の生前に、本人の承諾なく勝手に使い込まれていた場合、これは、窃盗ないし横領の問題となります。完全な他人が行えば刑事罰の対象となりますが、一定の親族には「親族相盗例」という刑法上の規定が適用されるため刑が免除されます。この場合は、民事上の問題が残るのみです。先ほど挙げた長男が親の財産を使い込んだ事例でも、長男にはこの「親族相当例」が適用されるため、刑事処罰を求めることはできません。しかし、長男は、本人の承諾なく親の財産権を侵害したことになりますので、不法行為を理由に被相続人に対して損害賠償義務を負い、逆に、親は長男に対して損害賠償請求権を有することになります。この請求権は、窃盗・横領行為を行った時点から発生する具体的な金銭債権(財産)です。そのため、その後、その親が死亡した時点で、相続の対象となります。また、この損害賠償請求権は、可分債権(数額的に分割することが可能な債権)であるため、遺言による特別の定めがない限り、遺産分割を待たずに相続開始(被相続人の死亡)と同時に、各相続人が法定相続分に応じて承継することとなります。 例えば、長男が、高齢の母の預金から、本人の承諾なく1000万円を勝手に引き出して長男自身の遊興に当てていたとします。その後、その母が死亡したため、同人を被相続人とする相続が開始します。相続人は長男・二男・長女・二女の4名で、遺言はないため、各相続人たちは4分の1ずつの法定相続分に従って、被相続人の遺産を承継することとなります。この場合、被相続人の遺産には、長男に対する1000万円の損害賠償請求権が含まれますが、この損害賠償請求権は、先ほど述べたとおり可分債権であるため、遺産分割協議という手続を踏むことなく、相続が開始した時点(被相続人が死亡した時点)で自動的に250万円ずつ相続人に割り振られることになります。その結果、二男・長女・二女の3名は、長男に対してそれぞれ250万円ずつの支払いを請求できる権利を得ます(長男本人は混同によって債務が消滅します。)。この場合、長男がおとなしく支払いに応じないようであれば、地方裁判所に対して支払いを求める訴訟を提起し、確定勝訴判決をもって長男の財産に対して強制執行を行うことで支払いを実現することができます。 ここでのポイントは、損害賠償請求は、家事審判事項ではなく、訴訟事項だという点です。遺産分割は家事審判事項であるため、原則としてこの損害賠償請求の問題を扱うことはできません。あくまでも、遺産分割とは切り離された訴訟という手続で解決されることが求められます。もっとも、相続人全員が、遺産分割の手続の中で、この使い込みによる損害賠償請求の問題を取り扱うことを同意した際は、例外的に遺産分割手続の中で同使い込みの問題を議論することが可能となります。 現実には、損害賠償請求する側、される側の双方ともが、家裁と地裁で分けて2つの事件を係属させることを嫌がるため、家庭裁判所で扱う遺産分割手続の中でこれを扱うことに同意し、一回的解決を目指すことが多いです。 兄弟間の相続争いを弁護士に依頼するメリット 兄弟間の相続争いでは、遺産隠しや兄弟間の不公平等、おかしな状況になっていることが多いです。相続の分野は、法律が込み入っており、一般の方々だけでは対処が難しいケースが多々存在します。 泣き寝入りすることがないよう、兄弟間の相続で少しでも悩んだら、当事務所宛にご連絡下さい。

2022.07.21

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相続問題に関する法改正について

相続問題に関する法改正について

家事部に所属しております弁護士の相川です。 夫婦問題・離婚問題とあわせて、相続問題についても扱っております。 今回は、まだ国会での成立前の段階ではありますが、成立すれば相続問題の処理に影響を及ぼす可能性のある、法律の成立および法改正についてご紹介します。 2021年3月5日政府は「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律」案および、民法の改正案などを閣議決定し、現在国会での成立を目指しています。 今回の新法の成立と法改正の背景としては、土地を所有している人が亡くなり、相続が開始したにも関わらず、遺産分割協議や相続登記がなされずに長期間放置された結果、登記上の所有者が亡くなった人のままになっており、実際の所有者が誰なのかが分からないケースが多いという実態があります。なかには長い年月で相続人が大人数に枝分かれしてしまい、共有者が何百人というケースもあり、国が対策に乗り出しました。利用手段が無く経済的な価値もない土地は、相続が開始しても、相続人が手間や費用をかけて遺産分割協議や相続登記をしてまで欲しがらないため、このようなことになると推察されます。 今回の新法の成立および法改正の骨子としては (1)所有者不明土地の発生を予防する方策(2)所有者不明土地の利用の円滑化を図る方策 以上の2つです。 (1)所有者不明土地の発生を予防する方策としては、 ①土地の相続登記を義務付け、3年以内に登記しないことに過料の制裁を定めたこと②土地の所有者から法務大臣に対して、土地の所有権を国に帰属させるための申請ができること となります。もっとも、土地が数人の共有に属している場合はその全員で申請しなければならないため、大昔に土地の相続が発生し、すでに何百人もの共有の状態になってしまっている土地についての申請は事実上困難かと思われます。また、境界が明らかでない土地や、管理に多額の費用を要する崖があるなどの事情があると、承認下りないなどの問題となりうる条件が散見されますし、実際の運用でも厳しい運用をされてしまうと、結局利用は低調にとどまってしまう可能性もあり、今後の行方を注視する必要があると思われます。 (2)所有者不明土地の利用の円滑化を図る方策としては、現行の民法では、共有者の一部の所在が不明だと管理も処分も困難でしたが、改正により、裁判所の関与の下で、不明共有者等に対して公告等をした上で、残りの共有者の同意で共有物の変更や管理を可能にしたり、不動産の共有関係を解消できる仕組みを創設しました。 いずれも、本当に利用のしやすい制度として根付いていくのか、今後の行方を注視する必要があると思われます。制度の施行後は、所有者不明土地の処理等について弊所でもお手伝いできるかもしれませんので、お気軽にご相談ください。

2021.03.25

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相続の考え方

相続の考え方

生を受けた人間全員にとって唯一公平に与えられているのは、「死」という概念だと思います。人間の世界は、法という目に見えない“磁場”に縛られており、法律の定める条件に触れることで「権利」や「義務」といった目に見えない概念が変動しますが(通常「権利変動」と呼びます。)、人の「死」もまた、法が定める権利変動原因の一つです。 人は「死」によって、権利・義務の一切を失い、他方、その配偶者や子が、死者(相続される人という意味で「被相続人」と呼ばれます。)の権利・義務の一切をそのまま引き受けることになります(「そのまま」という点を指して、「包括承継」と呼ばれます。)。こうした「死」によって生じる権利変動を「相続」と呼びます。 相続は、人の「死」によって発生します。「相続人」という法が定める相続資格者が相続を原因として被相続人の財産(権利・義務)を取得するのですが、誰が相続人の地位に就けるかは、法が細かく規定を置いています(配偶者は常に相続人となりますが、①子・②直系尊属・③兄弟姉妹は、①~③の順で優劣が付けられており、劣後者は優先者不存在のときでなければ相続人となれません。)。また、相続人は必ずしも1人ではないため、人数と性質(配偶者なのか、子なのか、直系尊属なのか、兄弟姉妹なのか)によって遺産の取得割合(相続分)が変わります。 以上のとおり、人が亡くなった場合、その死者の遺産の分配を決めるため、まずは戸籍を集めて相続人が誰なのかを確定し、その後に、各法定相続人の相続分を確認することとなります。次に、この法定相続人の間で死者(被相続人)の遺産をどうやって分割するかを話し合わなければなりません。これが「遺産分割協議」という手続です。遺産分割協議は、必ずしも裁判所等の機関を通じる必要はなく、私的に行えば有効となります。 ただし、私的な話合いでは話がまとまらず物事が決まらないこともよくあります。そうしたケースでは、家庭裁判所に対して遺産分割調停や遺産分割審判を申立て、問題解決のために裁判所の力を借りることができます。 遺産分割協議を経なければ、具体的にどの財産を誰が相続するかが確定しないため、預金を銀行から引き出すことや、法務局で不動産の移転登記を行うことができません。遺産分割協議を行わず、物事をほったらかしにしていると、預金が凍結されたままとなり、古い不動産登記が残ったままとなりますが、そうこうしているうちに、相続人が一人また一人と亡くなり、相続の連鎖によって関係者が複雑多数化し、問題の解決が困難となりがちです。 ある程度の財産をお持ちの方がお亡くなりになった際は、放置せずに速やかに必要な調査や分割協議を進める必要があるのです。

2019.04.28

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相続法改正のご紹介

相続法改正のご紹介

昨年よりニュースや新聞等で耳にしたことがある方も多いかもしれませんが、相続分野に関する法律が一部改正され、2019年7月1日から本格的に運用がスタートします。相続分野に関する法律は昭和55年以来大きな改正がありませんでしたが、近年の著しい高齢化に伴い、様々な不都合が生じてきていたことから、この度の大規模改正となりました。以下、改正点の内、特に大きな目玉となっている点について簡単にご紹介させていただきます。 1. 配偶者居住権について 例えば、相続人が配偶者(妻)とお子様3名のケースで、遺産が不動産のみで現預金が殆ど無かった場合、従前は、妻が自宅を取得する為には、自宅評価額の内、自身の法定相続分を越える分に相当する額をお子様に対して「代償金」として支払う必要がありました。 もちろん、配偶者とお子様の関係が良好な場合であれば、お子様が「自分たちは何もいらないから、家はお母さんがもらって良いよ。」という話になるのでしょうが、必ずしもそのような微笑ましいケースだけではありません。特に、妻がいわゆる後妻で、お子様が前妻との間の子である場合はなおさらです。 妻が手持ちの現預金等から代償金を捻出できれば良いのですが、そうでない場合はやむを得ず自宅を売却し、金銭分割するなどの方法で対応せざるを得ず、結果的に自宅を失うという結果になりかねません。 そのような事態を可能な限り避けるべく、今回の改正では、一定の要件を満たした際に配偶者がそのまま当該自宅に住み続けることができる「配偶者居住権」という権利が新設されました。 2. 自筆証書遺言について これまで、自筆証書遺言を作成するにあたっては、財産目録も含めてその全てを自署する必要がありました。もっとも、財産が多岐にわたる場合、作成の負担が大きくなりかねません。何より、これだけパソコン・ワープロが普及した中で、全てを自署させること自体がナンセンスです。そこで、今回の改正では、財産目録に限り自署でなくても良いことになりました(ただし、各頁に署名押印は必要です)。 3. 相続人以外の親族の貢献に関する金銭請求権(特別の寄与) 従前より、介護等で特に被相続人に貢献した者に対しては「寄与分」として考慮がなされていました。もっとも、この制度はあくまで「相続人」が直接貢献した場合を想定しており、例えば長男の妻が介護に熱心に取り組んでいた場合等は考慮されにくいという不都合がありました。そのような不都合を踏まえ、今回の改正では、相続人以外の親族が介護等の「特別の寄与」をしていた場合、相続人に対して直接金銭請求権が認められる場合があることとなりました。

2019.02.25

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成年後見等の終了について

成年後見コラム(9)成年後見等の終了について

1. はじめに 今月号では成年後見等の終了についてご説明させていただきます。なお、今月号で成年後見コラムは最終回となります。 2. 成年後見等の終了事由について 成年後見が終了する事由は、大別すると、成年後見それ自体が終了する場合(これを「絶対的終了」といいます)と、成年後見自体は終了しないものの、当該後見人との関係では成年後見の法律関係が終了する場合(「相対的終了」といいます)とに分けられます。 ここで、絶対的終了事由としては、①本人の死亡、②後見等開始審判の取消しがあります。そして、絶対的終了の場合は、後見自体が終了するので、その後の手続きとして、管理財産の計算、終了登記、終了報告が必要となります。 一方、相対的終了としては、①後見人等の死亡、②選任審判の取消し、③辞任(民法844条)、④解任(民法846条)、⑤資格喪失(民法847条)があります。そして、相対的終了の場合は、まだ被後見人本人のために後見が継続するので、新たな後見人の選任が必要になり、新たな後見人が手続きを行うことになります。 なお、保佐や補助の終了についても、平成11年改正法により、成年後見の終了事由が準用されることになったので成年後見の場合と同様です(民法876条の2第2項、876条の5第2項・3項、876条の7第2項、876条の10第2項)。 3. 開始審判の取消しについて 絶対的終了事由の②後見等開始審判の取消しとは何かについてご説明すると、後見等開始審判の取消しとは、後見等開始の原因が消滅したとき、すなわち、本人の判断能力がそれぞれ成年後見、保佐、補助の制度による保護を要しない状態に回復した場合に、開始審判を取り消すことを指します。これは、成年後見等の制度による保護を要しない状態まで回復した場合には、わざわざ後見等を維持しておく必要がないためです。 4. 資格の喪失について 相対的終了事由の⑤資格喪失とはいかなる場合かについてご説明いたします。 後見人等は、被後見人等の身上に配慮し、財産を管理する義務を負うものです。そのため、後見人等は適正に職務を行うことが期待できる者である必要があります。そこで、このような適格がない者をあらかじめ除外しておくために、欠格事由が定められています。 欠格事由としては、(1)未成年者、(2)成年後見人等を解任された人、(3)破産者で復権していない人、(4)本人に対して訴訟をしたことがある人とその配偶者又は親子、(5)行方不明である人(民法847条、876の2条第2項、876条の7第2項)があります。 そして、後見人等になった後に欠格事由が生じた場合でも、当然にその人は後見人等の地位を失います。したがって、裁判所は後見人等を選任することになり、その結果新たな後見人等が引き継ぐことになります。

2017.11.25

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成年後見人(保佐人、補助人)の 職務について

成年後見コラム(8)成年後見人(保佐人、補助人)の 職務について

1. はじめに 今月号では成年後見人(保佐人、補助人)の職務についてご説明させていただきます。 2. 職務の始まり 成年後見人に選任された場合(保佐人、補助人に選任されてかつ財産管理に関する代理権のある場合)には、まず財産目録を作成して家庭裁判所に提出するとともに、年間の収支予定を立てなければなりません。 特に後見人は、この財産目録の作成が終わるまでは、急迫の必要がある行為しか出来ないことが法律で定められていますので、注意が必要です(民法第854条)。 3. 成年後見人、保佐人、補助人に共通すること 成年後見人等は、本人を法的に保護しなければなりません。具体的には、本人の利益に反して本人の財産を処分(売却や贈与等)してはいけません。したがって、成年後見人等、本人とその配偶者や子、孫、親族が経営する会社等に対する贈与や貸し付け等も原則としては認められない事になります。 本人の財産から支出できる主なものは、本人自身の生活費の他に、本人の債務の弁済金、成年後見人等がその職務を遂行するために必要な経費、本人が扶養義務を負っている配偶者や未成年の子等の生活費等です。それ以外のものについては、支出の必要性、相当性につきより一層慎重な判断が課されることになります。 また、成年後見人等に不正な行為、著しい不行跡その他後見の任務に適さない事由があるときには、家庭裁判所によって解任されることがあります。更に、これとは別に、不正な行為によって本人に損害を与えた場合には、その損害を賠償しなければなりませんし、悪質な場合には、業務上横領罪(刑法第253条)等の刑事責任を問われることになります。 4. 成年後見人の主な職務について 成年後見人は、本人の財産の全般的な管理権とともに代理権を有します。すなわち、成年後見人は、本人の意思を尊重し、かつ、本人の心身の状態や生活状況に配慮しながら(身上配慮義務)、財産を適正に管理し(財産管理義務)、必要な代理行為を行う必要があります。そして、それらの内容がわかるように記録しておくとともに、定期的に家庭裁判所に報告しなければなりません(報告義務)。 具体的には、本人の財産が他人のものと混ざらないようにする、通帳や証書類を保管する、収支計画を立てる等の財産管理をするとともに、本人に代わって預金に関する取引、治療や介護に関する契約の締結等、必要な法律行為を行います。 5. 保佐人の主な職務について 保佐人の主な職務は、本人の意思を尊重し、かつ、本人の心身の状態や生活状況に配慮しながら(身上配慮義務)、本人に対し適切に同意を与えたり、本人に不利益な行為を取り消すことです。特定の行為について、代理権を行使する場合もあります。そして、これらの内容について定期的に家庭裁判所に報告しなければなりません(報告義務)。 6. 補助人の主な職務について 補助人の主な職務は、本人の意思を尊重し、かつ、本人の心身の状態や生活状況に配慮しながら(身上配慮義務)、本人に対し適切に同意を与え、本人の行為の取消権又は代理権を行使することです。また、それらの内容について定期的に家庭裁判所に報告しなければなりません(報告義務)。そして、代理権付与の申立てが認められれば、認められた範囲内で代理権を有し、これに対応した限度で本人の財産の管理権を有することになります(財産管理義務)。

2017.10.25

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申立後の手続の流れについて

成年後見コラム(7)申立後の手続の流れについて

1. はじめに 今月号では申立後の手続の流れについてご説明させていただきます。 2. 面接 申立に特に問題がなければ、基本的に申立人及び後見人等候補者は、詳しい事情を裁判所に対して説明するために裁判所において面接を受けることになります。具体的には、申立人は申立時に提出した「申立事情説明書」に基づいて、申立に至る事情や本人の生活状況、判断能力及び財産状況、本人の親族らの意向等について聞かれます。 他方、成年後見人等候補者は、申立時に提出した「後見人等候補者事情説明書」に基づいて、欠格事由の有無やその適格性に関する事情について聞かれます。 なお、もし裁判所がより確認をする必要があると判断した場合には、後日改めて裁判所に行くことになるか、資料の追加提出をすることになります。 3. 本人調査 成年後見制度では、本人の意思を尊重するために、申立の内容等について本人から意見を直接聞くことがあります。これを本人調査といいます。 本人調査は、本人が直接家庭裁判所に行くか、本人が入院していたり体調が良くない等により家庭裁判所に行くことが難しい場合には家庭裁判所の担当者が入院先等に直接来て調査をされます。なお、補助開始の場合や、保佐開始で代理権を付ける場合には、本人の同意が必要になるため、本人調査の手続の中で同意確認も行われます。 4. 親族への意向照会 本人の親族に対して、書面等により、申立の概要や成年後見人等候補者に関する意向を照会されることがあります。 5. 鑑定 鑑定とは、本人に判断能力がどの程度あるかを医学的に判定するための手続です。申立時に提出する診断書とは別に、家庭裁判所が医師に鑑定依頼をする形で行われます。ただし、親族からの情報や診断書の内容等を総合的に考慮して本人の判断能力を判断できる場合は、鑑定が省略されることもあります。 鑑定を行う場合は、通常、本人の病状や実情をよく把握している主治医に鑑定をお願いすることが多いです。もっとも、事案によっては、主治医に鑑定をお願いすることが出来ない場合や鑑定を引き受けてもらえない場合もあります。そのような場合には、主治医から他の医師を紹介してもらう等して、鑑定をお願いすることができる医師を探さなければなりません。 鑑定費用は、鑑定人の意向や鑑定のために要した労力等を踏まえて決められます。具体的には、主治医に鑑定を依頼する場合であれば、通常、診断書付票に記載されている金額になります。 なお、あらかじめ鑑定費用を納付しない限り鑑定は行われないので、裁判所の定めた納付期限内に納付をしてください。 6. 審理・審判 鑑定や調査が終了した後、家庭裁判所により、後見等の開始の審判が行われて、併せて最も適任と思われる人が成年後見人等に選任されます。複数の後見人等が選任されることもありますし、監督人が選任されることもあります。 また、保佐開始や補助開始の場合には、必要な同意(取消)権や代理権についても定められることになります。

2017.09.25

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申立ての仕方について

成年後見コラム(6)申立ての仕方について

1.はじめに 今月号では申立ての仕方についてご説明させていただきます。 2.申立てをする裁判所について 成年後見等の申立ては、本人の住所地(住民登録をしている場所)を管轄する家庭裁判所において行います。 例えば、鹿児島市に住民登録をしているAさんの成年後見申立てをしようとする場合には、鹿児島家庭裁判所において行うことになり、出水市に住民登録をしているBさんの成年後見申立てをしようとする場合には、鹿児島家庭裁判所川内支部において行うことになります。 3.申立てができる人について 成年後見等の申立てができる人は、本人、配偶者、4親等内の親族、成年後見人等、任意後見人、成年後見監督人等、市区町村長、検察官です。 ここで、「4親等内の親族」とはどこまでの範囲かあまりピンとこない方もいらっしゃるかと思いますので、説明させていただきますと、子・孫・曾孫・曾孫の子・親・祖父母・曾祖父母・曾祖父母の父母・兄弟姉妹・おじ・おば・甥・姪・いとこ・配偶者の親・配偶者の祖父母・配偶者の曾祖父母・配偶者の子・配偶者の孫・配偶者の曾孫・配偶者の兄弟姉妹・配偶者の甥姪・配偶者のおじ・おば等となります。 4.申立てに必要な書類について 申立てに必要な書類については、裁判所のホームページをご覧になっていただければと思いますが、ここで簡単に説明させていただきますと、①申立書、②申立事情説明書、③親族関係図、④本人の財産目録及びその資料(不動産登記簿謄本(全部事項証明書)、預貯金通帳のコピー等)、⑤本人の収支状況報告書及びその資料、⑥後見人等候補者事情説明書、⑦親族の同意書、⑧本人及び後見人等候補者の戸籍謄本、⑨本人及び後見人等候補者の住民票(世帯全部、省略のないもの)、⑩本人の登記されていないことの証明書、⑪診断書、診断書付票、⑫愛の手帳の写しになります。 5.申立ての取下げについて 申立てをした後になって、申立ての取下げをしようとしても簡単に取下げが認められる訳ではないので、注意が必要です。 申立ての取下げをするには家庭裁判所の許可が必要になります。これは、公益性の見地からも本人保護の見地からも、後見等開始の審判をすべきであるにもかかわらず申立ての取下げにより事件が終了してしまうことが相当ではない場合があるからです。 例えば、Cさんが自身が後見人に選任されるつもりで申立てをしたはいいものの、自分が選任されないと判明した途端、それを不満として申立てを取下げる場合は、家庭裁判所から取下げの許可がされない可能性が高いと考えられます。 6.まとめ 以上のとおり、成年後見等の申立ては多くの書類の準備等が必要になりますので、お一人で申立てや手続きを進めていくことに不安を感じる場合には、ぜひ弊所にご相談してください。

2017.08.25

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「任意後見」とは

成年後見コラム(5)「任意後見」とは

1.はじめに 今月号では任意後見制度についてご説明させていただきます。 2.任意後見制度とは 任意後見制度とは、本人が契約締結に必要な判断能力を有している時点で、将来の判断能力低下後の保護のあり方と保護をする者(任意後見人)を、本人自らが事前の任意の契約によって決めておく制度のことをいいます(任意後見契約に関する法律第2条第1号)。 すなわち、まず、本人の判断能力が低下する前に、本人と任意後見人にする予定の人とが任意後見契約を締結します。ここでいう「任意後見契約」とは、本人が、精神上の障害(認知症・知的障害・精神障害等)により判断能力が不十分な状況になったときに、自己の生活、療養看護及び財産の管理に関する事務の全部または一部の代理権を任意後見人に付与する委任契約です。 そして、本人の判断能力が不十分になった後、本人、配偶者、四親等内の親族または任意後見受任者の請求により、家庭裁判所が任意後見監督人を選任し、その時から「任意後見契約」の効力が生じることになります。 なお、任意後見契約は、公証人の作成する公正証書により締結しなければなりません(任意後見3条)。これは、公証人が関与することによって適法かつ有効な契約が締結されることを担保するためです。任意後見契約の公正証書が作成されると、公証人が法務局へ登記を嘱託し、任意後見契約の登記がなされます。そのため、本人や任意後見受任者等関係者が登記の手続きをする必要はありません。 3.援助者(任意後見人)の権限について 任意後見人は、同意権・取消権はなく、任意後見契約に基づく代理権のみが付与されます。 4.任意後見監督人の職務等 任意後見監督人は、その名前のとおり、①任意後見人の事務を監督します(任意後見7条1項1号)。 その上で、②任意後見監督人は、任意後見人に対し事務の報告を求め、または任意後見人の事務もしくは本人の財産の状況を調査して(任意後見7条2項)、家庭裁判所に対して定期的に報告しなければなりません(任意後見7条1項2号)。他にも、任意後見監督人には、③急迫の事情がある場合に、任意後見人の代理権の範囲内において必要な処分をすること(任意後見7条1項3号)や、④任意後見人またはその代表する者と本人との利益が相反する行為について本人を代表すること等の職務があります(任意後見7条1項4号)。 5.任意後見契約の解除について (1)任意後見監督人選任前の場合 本人または任意後見人受任者は、いつでも、公証人の認証(公証58条以下)を受けた書面により、任意後見契約を解除することができます(任意後見9条1項)。必ずしも公正証書による必要はないものの、当事者の真意による解除であることを担保する趣旨で、公証人の関与が必要とされています。 (2)任意後見監督人選任後の場合 本人または任意後見人は、正当な事由がある場合に限り、家庭裁判所の許可を得て、任意後見契約を解除することができます(任意後見9条2項)。このように家庭裁判所の関与を必要としたのは、本人の保護を図るためです。

2017.07.25

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「補助」とは

成年後見コラム(4)「補助」とは

1.はじめに 今月号では法定後見の3類型のうちの「補助」について詳細にご説明させていただきます。 2.保佐とは 補助とは、正確に申し上げるならば、①精神上の障害により②事理を弁識する能力が不十分である者を対象とする制度のことをいいます(民法第15条)。 先月号でご説明させていただいた保佐制度が、①精神上の障害により②事理を弁識する能力が著しく不十分である者を対象とする制度であることと比較すると、保佐制度よりも判断能力が認められる者を対象としていることがわかっていただけるかと思います。 補助の制度は、成年後見制度ができる以前は保護の対象とされていなかった軽度の認知症・知的障害・精神障害等の状態にある者を対象としたものであり、本人が一人で重要な財産行為を適切に行えるか不安があり、本人の利益のためには誰かに代わってもらったほうが良いと思われる人を対象にしています。 3.援助者(補助人)の権限について 援助者(補助人)は、本人が望む一定の事項についてのみ(同意権や取消権は民法第13条1項記載の行為の一部に限る)、保佐人と同様に同意や取り消しや代理をして、本人を援助します。 ここで、注意していただきたいこととしては、二点あります。 まず、一点目は、補助開始の場合には、その申立てと一緒に、必ず同意権や代理権を補助人に与える申立てをしなければならないことです。 次に、二点目は、補助開始の審判をすることにも、補助人に同意権又は代理権を与えることにも、本人の同意が必要ということです。 4.まとめ 今までご説明させていただいた法定後見の3類型(後見、保佐、補助)を開始する審判手続の違いや成年後見人、保佐人、補助人に与えられる権限の違いをまとめると、以下のとおりとなります。 対象となる人(本人) 後見 判断能力が全くない人 保佐 判断能力が著しく不十分な人 補助 判断能力が不十分な人 申立てができる人(申立人) 後見 保佐 補助 本人、配偶者、親や子や孫等直系の親族、兄弟姉妹、おじ、おば、甥、姪、いとこ、配偶者の親・子・兄弟姉妹等 申立てについての本人の同意 後見 不要 保佐 不要 補助 必要 医師による鑑定 後見 原則として必要 保佐 原則として必要 補助 原則として不要 成年後見人等が同意又は取り消すことができる行為 後見 日常の買い物等の生活に関する行為以外の行為 保佐 重要な財産関係の権利を得喪する行為等 *1 補助 申立ての範囲内で裁判所が定める行為 *2 *3 成年後見人等に与えられる代理権 後見 財産に関する全ての法律行為 保佐 申立ての範囲内で裁判所が定める特定の行為 *3 補助 申立ての範囲内で裁判所が定める特定の行為 *3 民法第13条1項記載の行為 民法第13条1項記載の行為の一部に限る 本人の同意が必要

2017.06.25

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「保佐」とは

成年後見コラム(3)「保佐」とは

1.はじめに 今月号では法定後見の3類型のうちの「保佐」について詳細にご説明させていただきます。 2.保佐とは 保佐とは、正確に申し上げるならば、①精神上の障害により②事理を弁識する能力が著しく不十分である者を対象とする制度のことをいいます(民法第11条)。 3月号でご説明させていただいた後見制度が、①精神上の障害により②事理を弁識する能力を欠く③常況にある者を対象とする制度であることと比較すると、後見制度よりも判断能力が認められる者を対象としていることがわかっていただけるかと思います。 では、保佐制度で対象となる人はどの程度の判断能力を有しているのかというと、「日常の買い物くらいはできるが、民法13条1項に列挙されているような法律行為(例:訴訟行為をすること、借財又は保証をすること、贈与、和解又は仲裁合意をすること等)を単独ではできない」程度になります。 したがって、保佐の制度では、基本的に保佐を受ける人(被保佐人)は自ら法律行為を行いますが、本人保護の観点から、民法13条1項で列挙された法律行為については、援助者(保佐人)が保佐する、ということになります。 3.援助者(保佐人)の権限について 援助者(保佐人)には、民法13条1項に列挙されている法律行為について同意権(同意なき行為についての取消権・追認権)及び代理権が付与されています(民法13条、120条、876条の4)。 ここで、注意していただきたい点が、二点あります。 まず、一点目は、援助者(保佐人)は、民法13条1項に列挙されている法律行為以外の行為についても、保佐人の同意を必要とするものがある場合には、一定の要件を満たした者からの家庭裁判所への申立てにより、同意権の範囲を拡張することができるということです(民法13条2項、11条)。 次に、二点目は、援助者(保佐人)には代理権が当然には付与されていないということです。援助者(保佐人)が保佐を受ける人(被保佐人)に代わって代理で法律行為をしようと思った場合には、家庭裁判所において代理で行いたい法律行為について代理権を付与される手続きを行う必要があります。これは、保佐を受ける人(被保佐人)の意思を尊重して、なるべく自分でできることは自分でしてもらうという自己決定権尊重の観点と、代理権は本人に代わって法律行為ができるものであり、本人の利害に大きな影響力をもつため、権限濫用されて本人が不利益を被らないようにという本人保護の観点から、このような定めになっています。 4.まとめ 以上のように、保佐を受ける人(被保佐人)は、後見を受ける人(被後見人)よりも判断能力が認められることから、保佐を受ける人(被保佐人)自らが法律行為を行う場面が多くなります。 そのため、保佐人になる人は、後見の場合以上に保佐を受ける人(被保佐人)との意思疎通を十分に行い、保佐を受ける人(被保佐人)の状況の変化に対応し、適宜保佐の範囲を拡張しつつ、保佐を受ける人(被保佐人)の意思を尊重しながら保佐事務を行う配慮が求められることになります。

2017.05.25

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「後見」とは

成年後見コラム(2)「後見」とは

1.はじめに 先月号のコラムにて、法定後見はさらに判断能力の不十分の程度によって、後見、保佐及び補助の3類型に分類されるとご説明させていただきましたが、今月号ではこの3類型のうちの「後見」について詳細にご説明させていただきます。 2.後見とは 後見とは、正確に申し上げるならば、①精神上の障害により②事理を弁識する能力を欠く③常況にある者を対象とする制度のことをいいます(民法第7条)。 堅苦しい言葉の羅列で、わかりにくいと思いますので、一つ一つの言葉を簡単に説明させていただきますと、まず①「精神上の障害」とは、身体上の障害を除いた全ての精神的障害を意味します。具体的には、認知症、知的障害、精神障害、疾病・事故等による脳機能障害を原因とする精神的障害等を指します。次に、②「事理を弁識する能力」とは、法律行為(例えば物の売買や、住居の賃貸借等)をするに際して、自分にとって利益になるか不利益になるかを判断する能力をいいます。さらに、③「常況」とは、一時的に事理を弁識する能力を回復することはあっても、大部分の時間はその能力を欠いている状態が継続していることをいいます。 すなわち、後見制度は、精神障害により、法律行為をする際に自分にとって有利か不利かを判断する能力がほぼ常に欠けている人を対象とする制度、ということになります。 3.後見制度を使うためには ご家族の方で、精神障害により、法律行為をする際に自分にとって有利か不利かを判断する能力がほぼ常に欠けていると思われる人がいて後見制度を使いたい場合には、そのご家族につき後見開始の審判の申立てを裁判所に行うことになります。そして、裁判所が、後見にあたると判断して初めてそのご家族は「成年被後見人」、すなわち後見制度の対象者になることができることになります。 ここで、後見にあたるかどうかの判断はどのようにされるのか疑問に思われたかと思いますが、後見にあたるかどうかは、明らかな場合を除き、基本的には鑑定、すなわち裁判所の命令によって鑑定人という専門家が医学的に判定する手続によって判断されることになります(家事事件手続法第119条1項)。 4.援助者(成年後見人)について ご家族の方が後見制度の対象者である「成年被後見人」にあたることになった場合には、裁判所がその成年被後見人のために「成年後見人」、すなわち成年被後見人の援助者を選任します(民法第8条、第843条)。 この選任は、成年被後見人の心身の状態並びに成年被後見人との利害関係の有無、成年被後見人の意見その他諸々の事情を考慮してなされますが、現在では、法人を選任することも複数人を選任することも可能になりました(民法第843条4項)。 5.援助者(成年後見人)の権限について 成年後見人は、包括的な代理権及びこれに対応する財産管理権と、日常生活に必要な範囲の行為以外の法律行為に関する取消権が付与されています(民法第120条1項)。 すなわち、成年後見人には、遺言や婚姻等の一身専属的な行為(本人が行わなければ意味がないもの)以外の本人の財産に関する法律行為について成年被後見人に代わって行う権利と、成年被後見人の日常生活に必要な範囲以外の行為を後から取り消す権利が認められており、非常に重要な権限を付与されることになります。

2017.03.25

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成年後見制度の概要

成年後見コラム(1)成年後見制度の概要

1.はじめに 今月号より、最近話題になっている成年後見の分野について、連載で執筆させていただきます。成年後見は誰にとっても自分の問題になり得るものですので、少しでも皆様に関心を持っていただいて、また理解の一助となることができればと考えております。 今回は初回ですので、成年後見がどういった制度なのか、制度の変遷と制度の大枠についてご説明させていただきます。 2.成年後見制度の変遷 今までの民法では、成年後見制度に該当するものとして、「禁治産・準禁治産制度」がありました。この禁治産・準禁治産制度は、判断能力が不十分な人の個々の状況に合わせることが難しいばかりか、戸籍に記載されること、手続きに時間や費用がかかる等の問題点が指摘され、近年はあまり利用されることはありませんでした。 しかし、高齢化社会になっていく中で、判断能力が不十分になった高齢者の財産を悪徳商法や他の犯罪行為から守ることや、介護保険制度をはじめとする福祉サービスが措置から契約に基づく利用へと移行し、契約に必要な判断能力に欠ける人への支援が必要になったこと、障害者福祉の充実といった観点等から、実情に即した利用しやすい制度が必要になりました。そこで、2000(平成12)年4月から現在の成年後見制度が施行されることになりました。 3.成年後見制度とは そもそも、成年後見制度は、精神上の障害により判断能力が不十分な成年者を保護するための制度です。そして、現在の成年後見制度は、これまでの「禁治産・準禁治産制度」と比較して、後述するように補助類型や任意後見制度が新設されたことにより、より判断能力の不十分な人の個々の状況に合わせることができるようになり、また戸籍への記載が廃止され、登記制度が導入されたことが大きな特色です。 ここで、成年後見制度は、大きく分けて法定後見と任意後見に分類されます。 まず、法定後見は、申立権者が家庭裁判所に後見等開始の審判の申立てをして、家庭裁判所が適任者を選任する形で行われます。そして、法定後見はさらに判断能力の不十分の程度によって、後見、保佐及び補助の3類型に分類されます(詳しくは次回ご説明させていただきます)。 一方の任意後見は、本人と任意後見受任者との間であらかじめ決めた任意後見契約の内容に従って、任意後見契約発効後に任意後見人が本人の財産管理を行う制度です。 4.任意後見と法定後見の関係 任意後見と法定後見はどのような関係にあるのか疑問に思われたかと思いますが、基本的には、任意後見契約が登記されている場合には、本人の意思を尊重するということで、任意後見が法定後見に優先します。ただし、例外的に、家庭裁判所が本人の利益のために特に必要があると認めた場合には、法定後見開始が任意後見に優先することになります。 要は、よっぽどのことがない限りは、本人の意思を尊重しようということで、任意後見制度が優先されると理解していただければと存じます。

2017.02.25

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預貯金は遺産分割の対象となるのか

遺産分割の諸問題(8)預貯金は遺産分割の対象となるのか

さて、今回は番外編です。2014年12月号の家事コラム「遺産分割と遺言」~事前の準備が大切です~の回で、「預貯金等の金銭債権は、遺産分割協議を待つまでもなく、相続開始とともに当然分割され、各相続人に法廷相続分に応じて帰属するとされており(判例)、遺産分割の対象財産とはなりません」と記載させていただいたことを覚えていますか。 全国ニュースや新聞(全国紙)でも取り扱われていた為、ご存知の方もいらっしゃるかもしれませんが、この度、上述の判例(以下「旧判例」といいます)が最高裁判所において変更されました(最高裁判所平成28年12月19日大法廷決定、以下「新判例」といいます)。 新判例は以下のように述べています。 「遺産分割の仕組みは、被相続人の権利義務の承継に当たり共同相続人間の実質的公平を図ることを旨とするものであることから、一般的には、遺産分割においては被相続人の財産をできる限り幅広く対象とすることが望ましく、また、遺産分割手続を行う実務上の観点からは、現金のように評価の不確定要素が少なく、具体的な遺産分割の方法を定めるにあたっての調整に資する財産を遺産分割の対象とすることに対する要請も広く存在する」。そして、「預貯金は、預金者においても、確実かつ簡易に換価することができるという点で現金との差をそれほど意識させない財産である」。このような「各種預貯金債権の内容及び性質をみると、共同相続された普通預金債権、通常貯金債権及び定期貯金債権は、いずれも、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることなく、遺産分割の対象となるものと解するのが相当である」。 そもそも、旧判例による「預貯金が遺産分割の対象とならない」という取り扱いの方が、一般の方には理解し難いところだったのではないでしょうか。多くの方の場合、不動産を除けば預貯金が相続財産の多くを占めることとなり、預貯金を遺産分割の対象としないのであれば、一体何を分割すれば良いのかということになりがちです。通常は、相続人全員が、預貯金を遺産分割の対象とすることに同意の上、相続人間の調整をしていくのですが、稀に同意が得られない場合、預貯金を遺産分割の対象から外し、その余の遺産についてのみ分割協議をしていくこととなります。 特に旧判例では、共同相続人の1人が、被相続人から生前に多額の生前贈与を受け取っていたとしても、同相続人が預貯金を遺産分割の対象とすることに同意しなければ、法定相続分に応じた預貯金を当然に取得することができます。その結果、他の相続人からすると、著しく不公平な状況になるのみならず、同じ被相続人の財産でありながら、預貯金とそれ以外の遺産で取り扱いや手続が異なることとなり、過大な負担を強いられることとなります。 この点、新判例によれば、そのような状況下でも、当然に預貯金が遺産分割の対象となる為、上述の事例でも、場合によっては生前に多額の贈与を受け取っていた相続人は、預貯金を一切受け取れないといった処理も柔軟に取られることとなります。 以上のとおり、新判例は今後の遺産分割実務の進め方を大きく変えていくことになる画期的なものとなっております。遺産分割を有利に進めていく為には、このような変わりゆく判例の情報を常に仕入れ、アップデートしていくことが不可欠です。 預貯金の遺産分割でお悩みの方は、最新の判例事情にも明るい当事務所に一度ご相談ください。

2017.01.25

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実際の遺産分割協議の進め方②

遺産分割の諸問題(7)実際の遺産分割協議の進め方②

さて、前回から実際の遺産分割協議の進め方についてお話させていただいております。前回は、裁判所を利用せずに当事者同士、又は弁護士を通じて遺産分割協議を行っていく方法についてお話させていただきました。 一般的に裁判所に申立てをすることは心理的なハードルも高く、出来ることなら裁判所を利用せずに穏便に協議で話をまとめたいと考えられている方が殆どでしょう。もちろん、当事者が少なく、かつ、当事者がいずれも協力的である場合は協議でまとまる可能性も高く、比較的迅速に解決することもあります。 しかし、実際には協議で行う場合は、相続人の人数に関わらず、相続人全員が協議内容に合意し、遺産分割協議書に署名捺印をしなければ解決にいたりません。例えば、20人の相続人の内、19人が同意していたとしても、最後の1人が反対しているような場合は協議がまとまらないことになってしまいます。このような場合は、いたずらに時間が経過することとなり、時にはその間に相続人の誰かが亡くなることで更に相続人が増えていくといった事態も考えられます。 その為、相続人が多い場合や、相続人の一部が非協力的である場合などは、早々に遺産分割調停を申し立てることをお勧めします。遺産分割調停は、他の調停と同様、調停委員を通じて裁判所で行うお話合いです。しかし、お話合いが成立する見込みの無い場合は、それまでに提出された資料等に基づき、裁判所が「審判」という形で最終的な解決方法を提示されます。その為、調停を行ったにもかかわらず、何も決まらなかったという事態は殆ど生じません。多くの遺産分割に関わる問題は、このような遺産分割調停・審判の中で解決されていくことになります。 もっとも、何点か遺産分割調停・審判の中でも解決できない問題があるので注意が必要です。典型的なのは、使途不明金がある場合です。相続人の内の誰かが被相続人が亡くなる前後に預貯金等を引き出していた場合は、「不当利得返還請求訴訟」という形で通常の民事訴訟の中で解決を図らなければなりません。 また、遺言が作成されていた場合は、状況に応じていくつかの訴訟を使い分ける必要があります。認知症等によって意識が不明瞭な際に作られた遺言がある場合は「遺言無効確認訴訟」を、遺言無効を争うことは難しいが遺言で遺留分が侵害されている場合は「遺留分減殺請求訴訟」を提起しなければいけません。その他、遺言で不動産の相続が共有となっている場合は「共有物分割訴訟」という訴訟を提起することになります。 以上のように、当事者間の協議のみによって遺産分割が解決しなかった場合、多種多様な手段を検討し、状況に応じて最も適切な手段を選んでいかなければなりません。その為、非常に高度な専門知識と経験が不可欠となります。 当事務所では常時多数の遺産分割案件を扱っており、多くのノウハウが蓄積されております。当事者間での遺産分割協議に限界を感じられた方は一度当事務所にご相談ください。

2016.11.25

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実際の遺産分割協議の進め方①

遺産分割の諸問題(6)実際の遺産分割協議の進め方①

さて、これまで複数回にわたり、「遺産分割の諸問題」と題して、遺産分割手続が問題となった際、特に頻繁に問題となる点について理論的な部分を説明させていただきました。しかし、実際に理論的な部分のみでは、いざ遺産分割の問題が発生したとしてもどのように進めて良いのか、どのぐらいの時間を要するのか等については全く分かりません。今回からは、実際の遺産分割手続の進め方について、当職が普段業務に当たっている中で感じていることや、実際の感覚についてお話させていただきます。 まず、相続が開始した際に最初にすべきことは、相続人を確定することです。実際にどなたが協議の当事者となるのかが明らかとならなければ、どなたと協議を進めれば良いかも分かりません。 例えば、親が亡くなり、相続人が子である兄弟のみという場合は比較的簡単に相続人がどなたか定まります。しかし、被相続人が再婚されていた場合や、養子縁組が為されていた場合、子ではなく兄弟姉妹や甥姪が相続人となってくる場合は、相続人が数十名に及ぶことや、行方不明者が多数でてくる場合も珍しくありません。そのような場合は、戸籍や住民票を一つずつ取り寄せながら、いわばパズルのように正確な相続関係図を作り上げていく必要があり、時には相続関係図を完成させるのに数か月程度要する場合もあります。 また、相続人の確定と並行して、分割の対象となる遺産の全体像を確定していく必要があります。もちろん、自分以外の相続人が管理しており、全く見当もつかないという場合もあります。それでも、金融資産については金融機関の取引履歴や保険証券を取り寄せ、不動産については名寄帳(所有不動産の一覧が記載されたもの)を取得し、その上で登記を取得することなどによって少しずつ遺産の全体像を特定していくことになります。遺産に漏れがあると、せっかく苦労して遺産分割協議が成立したとしても、新しい遺産が発覚した際に再び大変な協議を繰り返さなければいけない場合もあるので要注意です。 相続人と遺産の範囲が確定すれば、後はその分割方法について協議を開始していくことになります。当事者間の話合いで協議がまとまるのが一番ですが、当事者同士の場合、どうしても感情的な対立が激しく、協議が思うように進まないこともあります。そのような場合は早い段階で弁護士を介入させることで、冷静に遺産分割を進めていけるような状況を作っていくことが不可欠です。 協議を開始すると、一方が遺産に含まれると思っていたものに対して、他方が遺産には含まれないと反論してくる場合があります。また、既に当コラムでも取り上げた特別受益や寄与分についても各当事者から主張されることになるでしょう。弁護士は、そのような各当事者の様々な主張を一つずつ取り上げながら、時に法的根拠や証拠に基づき、時には感情的な対立を解きほぐしながら譲り合える点を探り、落としどころを見つけ、最終的に遺産分割協議書に全当事者から署名捺印を取り付けていきます。 遺産分割協議は、関係人や協議すべき事項も多く、当事者間での解決が困難になる場合も多いです。遺産分割協議を始めたい方は、遺産分割協議を多数扱っている当事務所にご相談ください。

2016.09.25

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遺留分減殺請求とは

遺産分割の諸問題(5)遺留分減殺請求とは

さて、前回は遺言能力と遺言無効確認の訴えについてお話させていただきました。一部の相続人の意に反する遺言が存在する場合、当該遺言の無効を主張していくものです。しかし、実際には、遺言能力の欠如を裏付ける資料を揃えていく必要があり、裁判になった際には必ずしも容易なものではありません。 では、例えば法定相続人であるにもかかわらず、遺言で自分に対する相続財産が定められておらず、また、遺言能力の欠如を裏付ける資料もない場合、全てを諦めなければいけないのでしょうか。もちろん、そんなことはありません。民法によれば、相続人保護の見地から、「遺留分」という形で、たとえ遺言が存在した場合であっても、一定の持分的利益が認められています。 では、具体的にどなたがどのような割合で「遺留分」を権利として有しているのでしょうか。被相続人の配偶者、子、直系尊属が遺留分権利者であり、基本的には被相続人の財産の2分の1が遺留分割合と定められています(直系尊属のみが相続人である場合は3分の1)(民法1028条1号2号)。他方、被相続人の兄弟姉妹は遺留分権利者ではありません。 例えば、法定相続分が2分の1である配偶者の遺留分が遺言によって侵害されていた場合、同配偶者の遺留分は、相続財産全体の4分の1となります(1/2×1/2=1/4)。 遺留分減殺請求を行うにあたって何よりも気を付けなければいけないのは、同請求の行使期間が制限されていることです。民法には、遺留分権利者が、相続の開始及び減殺すべき贈与又は遺贈のあったことを「知った時から1年」(民法1042条前段)、又は「相続開始時から10年」(同条後段)で遺留分減殺請求権が消滅すると定められています。 その為、遺言の内容を認識したとき等、当該贈与や遺贈が減殺すべきものであることを知られた際は大至急、何らかの手段を取る必要があります。具体的には、内容証明郵便などで遺留分減殺請求権を正式に行使したり、訴訟を提起したりする必要があります。厳密にはどのような形でも遺留分減殺請求権を行使すれば良いのですが、後々、遺留分減殺請求権を期限内に行使したかどうかで争いにならないようにする為には上記2つの方法がベストです。 遺留分減殺請求の協議または調停・訴訟等の法的手続が始まれば、後は具体的に遺留分をどのような形で支払うのか(不動産等の現物なのか、現金で支払うのか等)について話を詰めていくことになります。この時、被相続人が生前に他の相続人に贈与を行っていた場合は、贈与が為された時期や、贈与が為された際の被相続人の認識によってはこれらも遺留分算定の基礎に加算されていくことになります。他の相続人には繰り返し生前贈与が為されていた挙句、最後に遺言でもご自身の遺留分が侵害されることとなった場合、遺留分が具体的にどの程度になるのかは非常に難しい問題です。 いずれにせよ、遺留分は法律上、本コラムでご紹介できなかった多くの難しい点を含んでいます。のみならず、期間制限がある為、可能な限り早く動き始める必要があります。納得のいかない遺言の存在が明らかとなった際は、一度、当事務所にご相談ください。

2016.07.25

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遺言能力と遺言無効確認の訴え

遺産分割の諸問題(4)遺言能力と遺言無効確認の訴え

さて、前回までは、遺言が無い場合を前提とした一般的な遺産分割の過程で生じる諸問題についてお話させていただきました。しかし、実際はそのようなケースばかりではなく、遺産分割の協議を始めたところ、思わぬところから被相続人の作成した遺言が発見されるケースがあります。自分にとって有利な内容の遺言であればともかく、得てしてそのようなケースでは、自分の相続分が一切無いように定められた遺言であるケースが殆どです。今回は、そのようなケースで具体的にどのような手段を取ることができるのかについてご説明させていただきます。 まず、遺言の種類は大きく2つあります。遺言者が、遺言の内容の全文、日付、氏名をすべて自分で記載し署名の下に押印するだけでよい「自筆証書遺言」と、公証役場で公証人に作成してもらう「公正証書遺言」です(その他、秘密証書遺言や特別方式の遺言もありますが、殆どの遺言は自筆証書遺言と公正証書遺言の2つです)。 そもそも、遺言をする際には、遺言能力が必要とされています(民法963条)。そして、「遺言能力とは、遺言者が遺言事項の意味内容、当該遺言をすることの意義を理解して、遺言意思を形成する能力」(横浜地判平成22年1月14日)とされています。したがって、遺言能力が無い方が作成した遺言は無効となります。 そこで、遺言者が遺言能力を失っていたと思われる時期(例えば認知症が相当程度進んでいた時期等)に遺言が作成されていた場合、当該遺言は遺言能力を欠いた者によって為されており無効であるということを主張することができます。具体的には、裁判所(管轄は家庭裁判所のようにも思えますが、実際は地方裁判所に提起することになります)に対して「遺言無効確認の訴え」という手続を取ることになります。 裁判を有利に進める為には客観的証拠の存在が不可欠となります。遺言能力について争う場合は、カルテ、診療記録その他各種医療記録について揃えていくことが必要になります。あくまで裁判では、遺言の無効を主張する側がこれらの証拠を揃える必要がある為、非常に大きな負担を課されることになります。 特に、公正証書遺言の場合、公証役場という国の機関が作成したものである為、それが無効と認められる為には、「誰が見てもこの時期にこのような遺言を作るなんてできないだろう」と考えるような証拠が不可欠です。実際、いわゆる長谷川式簡易知能評価スケールだけでは足りないと判断されることも多く、より踏み込んだ内容の医師の所見等が必要となる場合も多いです。 このように、遺言無効確認訴訟は、いざ裁判となったときに慌てて証拠を揃えようとしても困難な場合が多く、その結果、裁判を有利に進めることが難しくなりがちです。したがって生前に認知症等の問題が生じた際は、あらかじめ成年後見人を選任することはもちろん、可能な限り係りつけのお医者さんともやり取りをするなど、早めの対策が不可欠となります。 いずれにせよ、遺言無効確認の訴えは、法律上多くの難しい点を含んでいます。当事務所は先日も相続人20人を超える複雑な遺言無効確認の事件を解決しており、豊富な経験と実績を備えております。ご親族が認知症に罹患している方、内容に納得のいかない遺言が出てきた方は、一度、当事務所にご相談ください。

2016.05.25

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不動産の評価と分割方法

遺産分割の諸問題(3)不動産の評価と分割方法

遺産分割の際に皆さんが一番苦労されるのが不動産です。現金や預貯金だけであれば、各相続人の相続分に応じて分割するのはそれ程難しいことではありませんが、不動産を単純に相続分に応じて分割することは容易ではありません。今回は、遺産分割において不動産が分割の対象となる際にしばしば問題になる点について解説をさせて頂きます。 まず、不動産を分割するにあたっては、当該不動産の金額をいくらと評価するかが問題となります。現金や預貯金と異なり、不動産は、評価する時期や方法によって金額が大きく異なる場合があります。 不動産の評価方法については、通常、当事者間において形成された合意に基づいて評価することが一般的です(なお、合意が形成されない場合は、最終的に裁判所を通じて正式に不動産鑑定を行います)。もっとも、不動産評価の資料には、①固定資産評価額、②相続税評価額(路線価方式、比準方式)、③公示地価、④基準値標準価格などがあり、必ずしも一つの資料に基づいて判断されるものではありません。各資料によって特徴が異なっており(例えば、一般的に固定資産評価額は公示地価の約7割、路線価は公示地価の約8割などと言われています)、当該当事者の立場や、当該不動産の状況に応じて、提出すべき資料については厳密に検討する必要があります。 以上の経緯を踏まえて不動産の評価額が定まったとしても、次に当該不動産をどのように分割するかが問題となります。遺産分割の方法には、①個々の物を各相続人に取得させる「現物分割」、②ある相続人にその相続分を超える遺産を現物で取得させ、代わりにその相続人に、相続分に満たない遺産しか取得しなかった相続人に対する債務を負担させる「代償分割」、③遺産を売却してその売却代金を分割する「換価分割」、④遺産の全部又は一部を、具体的相続分に応じた共有によって取得する「共有分割」の4種類があります。 不動産の場合、相続分に応じて①現物分割ができることは困難である為(相続人の取得する遺産の価額とその具体的相続分とで過不足が生じる為)、②代償分割の方法によることが多いです。もっとも、代償分割をするには、債務負担を命じられる相続人に資力のあることが要件となる為(大阪高決平成3年11月14日・家月44巻7号77頁)、資力に問題がある場合はこの方法を取ることが出来ません。その際は、③換価分割の方法(任意売却又は競売)によりますが、土地の状況(田畑、山林等)によっては売却が極めて困難なケースもございます。以上①乃至③の分割方法を検討した結果、それでも分割が困難な場合は、やむを得ず④共有分割の方法によりますが、同分割方法は、後に共有物分割の手続が行われたり、多重相続により持分権者が増加し、解決が困難になるというリスクがあります。 いずれにしても、不動産の分割においては、評価方法や分割方法の点で非常に専門的な判断を必要とします。後悔のない分割を行う為にも、不動産の分割を伴う遺産相続でお悩みの方は、遺産分割案件を多数取り扱っている当事務所にご相談ください。

2016.03.25

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生命保険金と遺産分割

遺産分割の諸問題(2)生命保険金と遺産分割

「相続対策に生命保険を利用しませんか?」というキャッチコピーを聞いたことがある方は多いのではないでしょうか。皆様の大切な財産を次世代に繋いでいく方法として生命保険を利用するケースが多数ございます。では、「生命保険金」が遺産分割の場面でどのような扱いをされているのかご存知でしょうか。今回は、「生命保険金と遺産分割」というテーマをご説明させて頂きます。 そもそも、「生命保険契約」とは、特定の人の生死を保険事故とし、その保険事故の発生した場合に、保険者が保険金受取人に対し、約定の一定金額を支払うことを約し、保険契約者がこれに対し保険料の支払をもって酬いる契約のことを言います。 一見すると、生命保険金も被相続人の財産のように感じられる為、当然に遺産分割の対象に含まれるように思えます。しかし、保険契約者が自己を被保険者(被相続人)とし、相続人中の特定の者を保険金受取人と指定した場合、指定された者は「固有の権利」として保険金請求権を取得するので、遺産分割の対象とはなりません。 その結果、「会社の後継者となる長男に株式を譲渡する際の買い取り資金を準備してあげたい」、「二男が障害を抱えているので、生活費として援助してあげたい」、「長女が自分の介護を担ってくれたので、その恩に報いたい」などといった被相続人のご意向を、柔軟に叶えることが出来るようになります。 もっとも、生命保険金は、上述のとおり、被相続人の財産を不平等に分配する形になる為、生命保険契約において受取人と指定された一部の相続人が生命保険金を受領した場合、これが「特別受益」(なお、特別受益については本紙22号コラム「遺産分割の諸問題①~特別受益と寄与分~」をご参照ください)となるかが問題となります。 結論から申し上げますと、最高裁判所は、原則として「保険金受取人とされた相続人が取得する死亡保険金請求権又はこれを行使して取得した死亡保険金は民法903条1項に規定する遺贈又は贈与に係る財産には当たらない(特別受益には当たらない)」という判断を示しています(最決平成16年10月29日・判例タイムズ173号199頁)。 ただし、上記判断において、最高裁判所は、同時に「保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生ずる不公平が民法903条の趣旨に照らし到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存する場合には、同条の類推適用により、当該死亡保険金請求権は特別受益に準じて持戻しの対象となる」と判断しており、一定の場合に特別受益に当たる場合があることを認めています。上記「特段の事情」の有無については、保険金の額、この額の遺産の総額に対する比率のほか、同居の有無、被相続人の介護等に対する貢献の度合いなどの保険金受取人である相続人及び他の共同相続人と被相続人との関係、各相続人の生活実態等の諸般の事情を総合考慮して判断されることになります。 いずれにしても、生命保険金と遺産分割の問題は法律上の専門的な問題が複雑に絡んできます。今後、相続対策として生命保険を検討される方は、遺産分割案件を多数取り扱っている当事務所にご相談ください。

2015.12.25

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特別受益と寄与

遺産分割の諸問題(1)特別受益と寄与

相続に際して遺言が存在しない場合、各相続人が法定相続分(民法900条)に応じて遺産を相続するのが原則です。しかし、各相続人が生前、被相続人から受けた利益の内容や程度(特別受益)、又は、被相続人に対して寄与した内容や程度(寄与分)によっては、相続の段階において相続分が修正される場合があります。 まず、「特別受益」は、共同相続人の中に、被相続人から遺贈を受けたり、生前に贈与を受けたりした者がいた場合に、相続に際して、当該不公平を調整する制度です(民法903条)。もっとも、生前に為された贈与が全て「特別受益」と判断されるわけではありません。あくまで当該贈与が「相続財産の前渡し」と評価されるか否かを基準として判断されることになります。なお、被相続人が事前に当該贈与を、相続に際して調整することが不要と考えている場合は、その旨を遺言その他の方法で明らかにしておけば、「特別受益」による修正をする必要が無くなる場合があります(持ち戻し免除の意思表示)。 次に、「寄与分」は、共同相続人の中に、被相続人の財産の維持又は増加に特別の寄与をした者がいた場合に、相続に際して、当該寄与度を調整する制度です(民法904条の2)。もっとも、相続人の寄与が全て考慮されるわけではなく、「通常期待される程度を超える貢献」をした場合に限られています。当該相続人が、被相続人に対し、医療費や施設入所費等の金銭等を出資していた場合は「寄与分」に該当すると判断されやすいですが、いわゆる療養介護の場合は、被相続人の状態や、介護の度合いによって大きく異なってきます。 「特別受益」と「寄与分」に関する典型的な事例として、相続人の一人(相続人A)が被相続人の介護を一身に担っている一方で、被相続人から使途不明金が度々流出している(おそらく相続人Aが引き出していると思われる状況)というケースがあります(以下「本事例」といいます)。他方の相続人(相続人B)は、「相続人Aは被相続人より多くの特別受益を既に得ている。」と主張しますが、相続人Aは「使途不明金ではなく、被相続人の療養看護費として使用されたものである。むしろ、自分は長期にわたって被相続人を介護していたのだから『寄与分』を貰えるはずだ。」と主張する場合が度々あります。 もっとも、本事例のような場合、使途不明金の部分が「特別受益」に該当すると評価されることは難しいことが多いです。前述のとおり、「特別受益」はあくまで「贈与」として為されたものである必要がありますが、本事例においては、被相続人が相続人Aに対して財産を「贈与」したわけでは無い可能性が高いからです(あるいは「贈与」したことを立証することが困難なことが多いです)。その為、遺産分割の手続ではなく、上記使途不明金を取り戻す為には、別途不当利得返還請求訴訟等を行う必要があります(その際も、立証の問題は避けられません)。他方、相続人Aの「寄与分」についても、相続人の要介護度が余程高かった等の事情が無い限り、認められない場合が多いです(一般的に要介護度が2以上になると寄与分が認められやすくなる傾向があるようです)。 いずれにしても、遺産分割は法律上の専門的な問題が複雑に絡んできます。何か不明な点があれば、遺産分割案件を多数取り扱っている当事務所にご相談ください。

2015.10.25

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相続と生命保険

相続と生命保険

弁護士の茂木です。 先月、2回程、保険代理店様向けに相続に関するセミナーをさせて頂きました。 遺言や遺留分の話から、特別受益や寄与分のお話まで、幅広くさせて頂きました。 特に、今回は生命保険を取り扱っている方が相当数いらっしゃいましたので、相続と生命保険の関係についてもお話させて頂きました。 生命保険は遺産相続の対象となるのか? 答えはNOです。 生命保険はあくまで保険契約に基づく固有の権利として受取人に指定されている者が保険請求権を行使することが出来ます。 この取扱いを利用して、保険代理人側においても色々と営業に生かすことが出来るようです。 内容が気になる方がいらっしゃれば、当事務所までご連絡下さい。

2015.06.01

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遺留分

遺留分

弁護士の茂木です。 突然ですが「遺留分」という言葉をご存知ですか。 遺留分制度とは、被相続人が有していた相続財産について、その一定の割合の承継を一定の法定相続人に保障する制度です 簡単にいうと、被相続人が遺言等によってAという相続人に全ての遺産を相続すると定めていたとしても、Bという相続人は一定の割合について遺産から遺留分を承継することが出来るという制度です。 被相続人が亡くなった後、遺言を開けてみてビックリ仰天、「自分には何も相続させないことになっている。」そんなときは慌てず、遺留分の請求をする方法が考えられます。 自分の相続分が全く無いと思ってしまっている方は、まずは一度当事務所にご相談下さい。

2015.03.18

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寄与分

寄与分

弁護士の茂木です。 前回は相続に関して「特別受益」という点を御説明させて頂きました。今回は「寄与分」について御説明させて頂きます。 「自分は親の近くにいて最後まで親の面倒を見てきたんだから、他の相続人よりも多く取り分があるはずだ。」 このような御相談を受けることがあります。法律上は「寄与分」の主張にあたると考えられます。 民法904条の2第1項は寄与分について以下のとおり定めています。 「共同相続人中に、被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から共同相続人の協議で定めたその者の寄与分を控除したものを相続財産とみなし、第900条から第902条までの規定により算定した相続分に寄与分を加えた額をもってその者の相続分とする。」 法律上、寄与分の主張が認められる為には「特別な寄与」である必要があります。 「特別の寄与」とは、被相続人と相続人の身分関係に基づいて通常期待されるような程度を超える貢献である必要があるとされています。 つまり、単に身内として介護しているだけでは足りないと判断される傾向にあります。 遺産分割手続きにおいて寄与分を主張される場合、あるいは相手方が寄与分を主張してきている場合は、一度、当事務所に御相談に来られてはいかがでしょうか。

2015.03.03

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特別受益

特別受益

弁護士の茂木です。 遺産相続の問題を取り扱う際、よく問題となるのが 「相手方が被相続人の預貯金等を、被相続人の生前に勝手に引き出している」 という問題です。 遺産分割協議や遺産分割調停においては、このような引出行為がいわゆる「特別受益」に当たると主張することが多いです。 しかし、特別受益は、法律上、 「遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた」ことが必要となり、これらに該当しない場合は特別受益と判断されません。 実際、裁判所において特別受益の主張を行ったとしても、余程の証拠や、遺産の総額と比べて極端に不公平な取り扱いが為されていない限り、特別受益の主張は認められない傾向にあります。 最終的に、このような使途不明金については遺産分割調停ではなく、不当利得返還請求訴訟で争わざるを得なくなりますが、証拠が不十分な場合が多く、困難な闘いを強いられることが多いです。 後々、このような争いにならない為にも、被相続人の生前にしっかりと意思を確認し、事前に遺言等を準備しておくなどの供えをしておくことをお勧めします。 弁護士法人グレイスでは相続についても集中的に取り扱う家事チームがございます。 ご心配な点がある際はいつでもお電話ください。

2015.02.12

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「遺産分割と遺言」~事前の準備が大切です~

「遺産分割と遺言」~事前の準備が大切です~

主に家事事件を担当している弁護士の茂木佑介です。家事事件は、大きく分けて離婚・離縁等の親族に関する事項と、相続に関する事項があります。今回は経営者の皆様が特に懸念されている相続にまつわるお話です。 被相続人が死亡した際、被相続人が死亡時に有していた財産(遺産)について、個々の相続財産の権利者を確定させる為に、「遺産分割」という手続をする必要があります。遺産分割手続を行うにあたっては、そもそも、何が「遺産」に含まれるのか、「遺産の範囲」を確定する必要があります。 不動産や現金が遺産分割の対象財産となることには異論がありません。その他、不動産賃貸権、損害賠償請求権、株式、社債、知的財産権(著作権、工業所有権、商号権等)や特定可能な動産等も遺産分割の対象となります。 他方、預貯金等の金銭債権は、遺産分割協議を待つまでもなく、相続開始とともに当然分割され、各相続人に法廷相続分に応じて帰属するとされており(判例)、遺産分割の対象財産とはなりません。その他、生命保険金、死亡退職金、遺族給付金等も原則として遺産分割の対象財産とはなりません。 その他、投資信託、貸付信託、ゴルフ会員権等、その実態によって遺産分割の対象財産となるか否かの判断が分かれるものもありますので、詳しくは当事務所にご質問ください。 被相続人が事前に何らの定めもなく死亡した場合、どの財産をどのように分割するかについて紛争となるケースが数多くあります。そのような事態を防ぐ為、事前に遺産分割の対象とする財産と遺産分割の方法を定める手段として、いわゆる「遺言」があります。 一般的によく利用される遺言の種類としては、遺言者が、遺言書の全文、日付及び氏名を自分で書き、押印して作成する方式の「自筆証言遺言」と、遺言者が遺言の内容を公証人に伝え、公証人がこれを筆記して公正証書による遺言を作成する方式の「公正証書遺言」があります。いずれの遺言も、方式と要件を具備している限り有効ですが、後々の紛争のリスクを抑える為には、「公正証書遺言」の方がより適切であると考えます。 以上のとおり、遺言によれば、各相続人の「遺留分」を侵害しない限り、遺産分割の対象とする財産と遺産分割の方法を自由に定めることができます。 もっとも、遺言者が認知症に罹患している場合等は、後に遺言の有効性について争いとなることがあります。そこで、遺言を作成するにあたってどのような準備をすべきか、事前に当事務所にご相談ください。皆様の財産が皆様のご希望に沿う形で分割されるよう、当事務所は最適なアドバイスをさせて頂きます。

2014.12.25

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婚外子の相続分に関する違憲判決について

婚外子の相続分に関する違憲判決について

弁護士法人グレイスの古手川です。 非嫡出子(婚姻していない男女の間に生まれた子)の相続分を、嫡出子の半分とする民法の規定について、最高裁判所が憲法違反という判断をしました。 過去に同規定の合憲性が争われた際は合憲と判断されていたわけですが、今回判例変更がなされました。 もともと、活発に議論がなされていたテーマですが、現代の価値観においては時代に合わない規定だと思っていましたので、最高裁判所が時代の流れを汲んで判例変更したことは意義深いと思います。 今後も、人々の価値観や生活のあり方が変わるにつれて、法律や判例が変更を迫られるケースが増えてくるかも知れません。

2013.09.06

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【2024年4月スタート】相続人申告登記とは?メリット・デメリット・手続き方法をわかりやすく解説

【2024年4月スタート】相続人申告登記とは?メリット・デメリット・手続き方法をわかりやすく解説

「相続人申告登記って何をすればいいの?」「過料って本当にあるの?」と疑問に思ったことはありませんか? この記事では、以下の三つのポイントがわかります。 相続人申告登記の概要とメリット・デメリット 必要書類や手続きの流れ 手続きを放置した場合のリスクと対策 結論として、相続人申告登記は期限内に必ず済ませることが重要です。なぜなら、手続きを先延ばしにすると過料が発生したり、親族間で意見が対立するリスクがあるからです。 相続や不動産の問題は、一人で抱えると不安が大きくなりがちですよね。この記事を読むことで、全体の流れがつかみやすくなり、次のステップが取りやすくなります。 それでは、さっそく始めていきましょう。 1. 相続人申告登記の制度概要 相続人申告登記とは?  相続人申告登記は、相続登記の義務化に伴い新たに設けられた簡易的な手続きです。  2024年4月から、不動産を相続した人に相続登記が義務づけられましたが、すぐに名義変更ができない場合の救済措置として相続人申告登記が導入されました。  例えば、遺産分割協議がまだまとまっていないときには、相続人申告登記を利用して「自分が相続人である」と法務局に申告し、一時的に義務を果たすことが可能です。  結論として、相続人申告登記は、本登記(正式な相続登記)を先送りしたい場合に役立つステップだと言えます。  この相続人申告登記は「義務化された相続登記」の期限内に手続きができない場合のペナルティ回避やトラブル防止のための制度です。ただし、相続人申告登記をした後も、本登記の手続きを速やかに進める必要があります。  申告登記だけで権利関係が完全に確定するわけではないため、早めに弁護士へ相談して、遺産分割協議を進めることが重要です。 相続登記が義務化された背景  所有者不明土地が各地で増加し、地域の開発や災害対策に影響するなどの問題が指摘されたことを背景に、義務化が進められました。不動産の相続登記を放置する状態が増えると、土地管理などに支障が出るとの懸念があり、不動産を相続した人に登記をするよう促すしくみが、2024年4月から導入されました。 相続人申告登記と相続登記との違い  相続登記は不動産の名義を正式に書き換える本格的な手続きであるのに対し、相続人申告登記はより簡易的な手続きです。  相続登記は、不動産の売却や融資などの実務に対応できるよう名義変更を行いますが、相続人申告登記は「自分が相続人である」という事実を登記官が記録するだけの手続きです。  例えば、不動産を売却する際には相続登記が必要ですが、遺産分割協議がすぐにまとまらない場合は、まず相続人申告登記を行い、その後に正式な相続登記へ進む方法が考えられます。  つまり、相続人申告登記は名義変更の準備段階にあたる手続きと言えます。 2. 相続人申告登記のメリット・デメリット メリット 義務を一時的に履行して過料を回避  相続人申告登記を提出すると義務を先に果たす扱いになり、過料のリスクを抑えられます。 例えば、家族間で遺産分割協議が長引いているときに相続人申告登記を活用すると、ひとまず義務の履行ができるため、後のペナルティを避けられます。 手続きが簡易的・費用も安い  相続人申告登記は書類が少なく、登録免許税がかからない点が魅力です。相続登記を進める場合は固定資産評価額に応じた登録免許税が発生することが多いですが、相続人申告登記はその負担が不要です。  例えば、戸籍謄本や住民票などをそろえて申出書を記入するだけで、法務局に郵送または窓口提出する方法がとれます。 後の相続登記に向けて書類収集が進む  相続人申告登記を利用すると戸籍などを早い段階で集めるので、正式な相続登記を進める下地になります。各市町村役場で除籍謄本を取り寄せる過程で、相続人全体を把握できるので、後の協議が進めやすい傾向があります。 デメリット 売却や融資には使えない  相続人申告登記をすませても不動産の名義が正式に変わっていないため、売買や担保設定には不向きです。あくまでも仮の手続きであるため、財産処分を進めにくい点に注意が必要です。 結局は相続登記が必要(二度手間・追加費用)  最終的に遺産分割協議が終わったら、正式な相続登記を別途進める必要があります。二度の申請コストに留意して選ぶ姿勢が必要です。 登記簿に個人情報が掲載される  相続人申告登記を提出すると、登記簿に氏名や住所が載るので抵抗を感じる人がいます。公になることを避けたい場合は慎重に検討をする必要があります。 3. 相続人申告登記の必要書類 必要となる主な書類 相続人申告登記に必要な書類は、以下の三点です。 被相続人の戸籍謄本・除籍謄本 相続人の戸籍謄本・住民票 申出書(法務局で入手可能)  被相続人の戸籍謄本・除籍謄本は、亡くなった人の出生から死亡までを網羅するものを揃える形が一般的です。相続人の戸籍謄本・住民票は、本人確認と住所の裏づけとして必要になります。申出書は、必要事項を記入して提出する用紙です。 書類の取得方法・注意点  戸籍謄本は本籍地に対して申請します。郵送請求・広域交付などを使って遠方の役所から取り寄せることもできます。記載漏れや証明書の有効期限などにも目を通すと安心です。 4. 相続人申告登記の手続きの流れ 4-1. 相続人・相続財産の確認  はじめに、被相続人の戸籍を遡り、法定相続人をすべて洗い出します。次に、不動産の所在や登記簿上の名義を調べます。  例えば、固定資産税の納税通知書や不動産の権利証(登記識別情報)などを確認して所有地を把握するとスムーズです。 4-2. 申出書の作成・提出  申出書には、相続人の情報や被相続人の情報などを正確に記載します。遠方に住んでいるときは郵送を活用する人が少なくありません。 4-3. 手続き費用・時間目安  相続人申告登記は登録免許税が不要です。戸籍収集の費用や郵送代などは自己負担になりますが、相続登記と比べると負担は少なく、書類が揃っていれば1~2週間ほどで受付が完了することが多いです。 4-4. 申告登記後の確認  法務局から登記完了のお知らせを受け取った後、登記事項証明書を取得して内容をチェックします。後に遺産分割協議がまとまったなら、正式な相続登記へ切り替える必要があります。 5. 相続人申告登記を行わないとどうなる?(過料・リスク) 相続登記の義務化による罰則(10万円以下の過料)  3年以内に相続登記または相続人申告登記を提出しないと、10万円以下の過料を科される可能性があります。  面倒だと思って放っておくと予想外の金銭負担が発生するので注意しましょう。 相続人同士のトラブル・複雑化  相続登記を放置すると相続人の範囲が拡大し、話し合いがさらに難しくなるおそれがあります。また、長い年月がたつと死亡した人や行方不明の相続人が増える場合があり、一度に整理できなくなるという問題が起きやすいです。 6. 相続人申告登記後の手続き・対応 遺産分割協議が成立した場合  遺産分割協議がまとまった後は正式な相続登記を進める必要があります。相続人申告登記で名義を完全に変えたわけではないためです。  例えば、複数の相続人が話し合いの末に、特定の人が不動産を取得すると決まったときは、法務局にて相続登記を申請して名義を書き換えることとなります。 固定資産税の納付先が変わる可能性  相続人申告登記を出した人には納税通知書が届くかもしれません。相続人申告登記で「自分が相続人だ」と申し出た人を地方自治体が把握しやすくなるからです。  発生した固定資産税をどう分担するかは、相続人全員で話し合うのが無難です。 氏名・住所の変更があった場合  後日氏名や住所が変わったときは変更登記を申請します。不動産登記の情報と現状の身分情報が一致しないと、後から売却や融資などで手間が増えるためです。名義記載が現状と異なると不都合が起こるので、速やかに変更登記を出す姿勢が大切です。 7. 数次相続・複雑な事例の場合 7-1. 被相続人が大正・昭和時代に亡くなっていたケース  大正や昭和の時代から名義を変えずに放置していた事例は、相続人の特定が難航しやすいです。被相続人の子や孫など、代を重ねた相続が重複している可能性が高いからです。  こうしたケースでは抜けや漏れが発生しないよう、戸籍謄本や除籍謄本を一つひとつ確認し、すべての相続人を洗い出します。 7-2. 行方不明の相続人・後継ぎが多い場合  行方不明の人がいると話し合いが難しくなるので、家庭裁判所で不在者財産管理人の選任を検討することがあります。全員の同意を得ないまま相続登記を申請すると、後から異議が出るかもしれません。  相続人が海外に長期滞在して連絡がつかない状態では、誰が代表してどう手続きするかの合意形成が難しいです。弁護士へ相談し、最適な方法を探すのが一般的です。 8. 専門家(司法書士・弁護士)に依頼するメリット 専門家に頼むメリット  メリットとしては、書類作成や法務局への申請を任せることで、ミスや手戻りが減る点が挙げられます。特に相続人が多い場合や不動産の数が多い場合は、戸籍収集や書類記入で混乱しやすいです。専門家が間に入ると手続きがスムーズになりやすいです。 費用  物件数や評価額などで作業量が変動するため、複数物件で割増料金が加算されるケースがあります。着手前に細かく確認する姿勢が重要です。 9. よくある質問(Q&A) Q1. 相続人申告登記はどこで申請するの?  不動産所在地を管轄する法務局へ郵送または持参することとなります。登記所には管轄があり、別の地域の法務局では対応していません。複数の不動産が異なる地域にある場合は、財産ごとに提出先が変わる点にも注意します。  郵送申請が可能なので、遠方の法務局へ行く必要がない場合があります。 Q2. 過去の相続でも相続人申告登記が必要?  相続が起きた日から3年以内に申請するよう義務化されていますが、過去の未登記物件でも早めの対応が望ましいです。  なお、この義務化は施行日の2024年4月1日以前に開始した相続にも適用されます。その場合、相続登記の申請期限は2027年3月31日までと定められています。  期限内に相続登記(または後述の相続人申告登記)を行わないと過料の対象となるため、過去の相続についても早めの手続きを行いましょう。 Q3. 相続人申告登記と相続登記、両方必要?  ケースによっては両方の手順を踏む流れになります。  相続人申告登記は義務の一時履行であり、不動産の名義を本格的に変えるわけではないためです。家族の意見がまとまらない状態でひとまず相続人申告登記を提出した後、協議が整ったら相続登記を別途申請することとなります。  仮手続きと正式手続きを混同しないように注意します。 Q4. 不動産の売却や融資をしたいが、相続人申告登記で可能?  結論としては、売却や担保設定は正式な相続登記が必要になります。相続人申告登記では登記名義が古いままだからです。  銀行で住宅ローンを組む場面では、登記簿上の所有者がきちんと変更されていないと融資を受けられない場合が多いです。本格的な取引を進めるなら相続登記へ移行する段階を経るしかありません。 Q5. 相続人申告登記を行うと、家族全員の義務が果たされるの?  相続人申告登記で義務を履行したとみなされるのは、申出人のみです。相続人申告登記は「自分が相続人である」と申し出る仕組みであり、他の相続人が同意書を出さない限り、全員の義務が同時に果たされるわけではありません。  代表者が1人で書類を出すときは、その人の義務が履行済みとみなされるイメージです。他の相続人は個別に対応するか、全員連名でまとめて申請する必要があります。 10. まとめ  相続人申告登記は、義務化された相続登記を一時的に先延ばしするための手段ですが、あくまで仮の申告であることを理解しておく必要があります。  正式な相続登記を行わなければ名義変更は完了せず、不動産の売却や担保設定はできません。  遺産分割協議がまとまらず過料のリスクを避けたい場合や、戸籍収集を先に進めたい場合には、まず相続人申告登記で相続登記の義務を果たすのも一つの方法です。

2025.08.20

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離婚した親が亡くなったらどうなる? 相続放棄や借金対応、手続きの流れをわかりやすく解説

離婚した親が亡くなったらどうなる? 相続放棄や借金対応、手続きの流れをわかりやすく解説

 離婚後、長い間親の行方がわからないまま過ごしている方は少なくありません。幼い頃に別れた親の消息を知らない中で、突然「親が亡くなった」と知らされたとき、「関わりたくはないが、借金を背負うことになったら困る」「相続放棄を考えたい」といった戸惑いや不安の声がよく聞かれます。  相続放棄や借金の回避方法の知識がないまま、思わぬ負債を引き継いでしまう可能性もあります。また、借金だけでなく、親の再婚相手や家族と顔を合わせなければならないのか、といった不安も生じることがあります。さらに、育児や仕事で忙しい日々の中で、こうした手続きを考えなければならないのは大きな負担となるでしょう。  本記事では、離婚後に疎遠だった親の相続が発生した場合にどう対応すべきかをわかりやすく整理します。血縁関係の範囲、借金リスクへの対処法、必要な戸籍や書類の取り寄せ方などを、順を追って解説していきます。 離婚しても血族であれば相続権がある この章の要点 親と離れて暮らしていても、血のつながりは残る 親権が変わっても法律上の親子関係は維持される 親に借金がある場合は相続対象となるため放棄も検討しやすい 離婚しても“血族”であることに変わりはない  離婚後にも、血縁上の親子関係は変わらず続いています。仮に親が再婚し、普通養子縁組をしても、法律上の親子関係は基本的に消えるわけではありません。なお、法的な親子関係を完全に断ち切る制度として「特別養子縁組」がありますが、限られたケースにのみ認められるもので、一般的には利用されておらず、大半は実の親との法的な親子関係は維持されたままになります。  つまり、離婚した親が亡くなった場合、子どもは法定相続人として扱われます。相続には、財産や預貯金などのプラスの遺産だけでなく、借金やローンなどのマイナスの遺産も含まれるため、思わぬ負債を引き継ぐリスクもある点に注意が必要です。 代襲相続が発生するケースもある  もし自分よりも先に親が亡くなっていた場合、その子ども―つまり亡くなった人から見て孫が相続権を受け継ぐことがあり、これを「代襲相続」といいます。  親に再婚相手がいる場合や、異母兄弟、祖父母など複数の相続人が関わるケースでは、誰が相続人になるのかを確認するための手続きが複雑です。まず戸籍謄本を細かく取り寄せて、相続人となるべき人を正確に把握し、法的な根拠をもって整理することが、相続手続きを進めるうえで不可欠となります。 相続分・遺留分の基本を押さえる  法定相続分の割合は民法で定められていて、離婚した親が再婚していて配偶者が存在する場合において、子と再婚した配偶者が同時に相続人になるときや、再婚後に子が生まれているときには相続分を確認する必要があります。  また、遺言書が残されている場合には、基本的にその内容に従って遺産の分け方が決まります。ただし、どんなに遺言書の内容が偏っていても、法定相続人には「遺留分」という最低限の取り分が法律で認められており、相続分が著しく少ない、又ははゼロとされた場合でも、一定の請求ができる可能性があります。 離婚した親の訃報はどう知る? 代表的な連絡パターン この章の要点 親族や再婚相手から伝わる場合が多い 警察や役所を通じて事後的に知らされることもある 連絡ゼロだと相続放棄の期限が過ぎる恐れもある 親族や他の相続人からの連絡  親族や再婚相手、兄弟などを通じて、「親が亡くなった」と知らされるケースは少なくありません。通常は、親しい立場にある人が子どもに連絡を取る形で知らせが届きます。その際に、「相続をどうするのか」「葬儀や遺品整理に関わるか」といった話を持ちかけられることもあります。  しかし、離婚後まったく連絡を取りたくないと考えていた方にとっては、突然の知らせに動揺し、対応に困る場面もあるでしょう。 役所・自治体・警察からの連絡  孤独死の疑いがある場合などでは、警察が身元を確認する過程で子どもを探し出すことがあります。役所や自治体を通じて戸籍などを確認し、子どもの所在が把握されるケースも少なくありません。  また、死亡診断書の作成や火葬許可の手続きを進めるなかで、役所の担当者が家族構成を調べる過程で子どもの存在を把握することもあります。 債権者からの督促状や通知  親に借金が残っていた場合、その返済を求める通知が子どものもとに届く可能性があります。たとえ離婚後に親と同居していなかったとしても、相続人として借金の返済義務を問われる場合があります。  金融機関や消費者金融は、債務者の死亡を確認すると、相続人を調べて督促の手続きに移るのが一般的です。そのため、突然督促状が届いて驚き、慌ててしまうケースも少なくありません。 連絡自体が来ない場合  親族がまったくいなかったり、再婚家庭から親の死亡が伝えられないケースも考えられます。その場合、親の死亡の知らせを一切受け取らないまま、相続放棄の3ヶ月の期限を過ぎてしまうと、借金を相続してしまうリスクが生じます。  不安がある場合は、戸籍を取り寄せて調査することが大切です。過去の戸籍の転籍や除籍を遡ることで、親が亡くなっているかどうかを確認できます。 実際にあった相談事例:疎遠な親の借金督促が届いたケース この章の要点 借金を抱えたまま亡くなっていた状況が判明 書類が届くまで借金があると知らなかった子が不安を抱えた 3カ月以内に動けばリスクを軽減しやすい 1995年に借金 → 未返済のまま親が死亡  親が過去に借入れた借金が長期間滞納されたまま残っているケースがあります。離婚後に親の居場所や状況を子どもが把握できないまま年月が経過すると、借金の処理がされず放置されることがあるのです。  例えば、「平成7年(1995年)ごろに100万円を借り入れたが、利息だけを支払っており、完済していない」というようなケースが考えられます。親の死亡を子どもが知らないうちに、金融業者などが相続人に連絡を取ろうと動くこともあります。  督促状に「至急返済を求む」と記されているのを見て、初めて親の借金の存在を知るという展開も珍しくありません。特に離婚後に連絡が途絶えている場合、子どもが驚くのは当然のことです。 相続放棄として専門家へ依頼した流れ  突然の督促で動揺しても、相続開始から3ヶ月以内であれば、家庭裁判所に相続放棄の申し立てを行うことで借金を回避できます。手続きに必要な書類の準備段階から、専門家に依頼する方も多くいらっしゃいます。  また、遺産を処分する前に相続放棄を決めることが大切です。親の不動産や預金に触れることなく手続きを進められます。放棄の申し立てが認められれば、借金を引き継ぐ義務はなくなります 専門家へ依頼するかどうかの判断基準  手続きに十分な時間が取れない方や、借金の総額がまったく分からない方は、弁護士や司法書士などの専門家に相談するケースが多くあります。  費用面で不安を感じる方もいますが、借金の額によっては、早めに相続放棄を行うことが結果的にメリットになる場合もあります。  自分で家庭裁判所に申し立てることに不安がある方は、専門家に依頼して書類の準備などを任せると良いでしょう。 借金を相続しないために:相続放棄・限定承認・単純承認の基本 この章の要点 相続放棄は3カ月以内を意識して申し立てる 限定承認は手続きが複雑だが、プラスとマイナスを相殺できる形 無意識に遺産を使うと単純承認となり借金を負うリスクが高まる 相続放棄の手続きと3カ月の期限  相続放棄の申述は、家庭裁判所が窓口となります。書類準備や印紙代、郵便切手などを用意し、期限内に手続きを完了させる必要があります。この期限は、「相続を知った日」から数えて3ヶ月と定められています。正確な起算点は、死亡日の時点ではなく、死亡の事実を明確に知ったタイミングが基準となります。  相続放棄が認められると、親の財産も借金も一切相続しないことになります。マイナスの遺産を回避できる大きなメリットがある一方で、プラスの遺産もすべて放棄することになる点にはご注意ください。 限定承認という選択肢  限定承認とは、プラスの財産の範囲内で借金を返済する責任を負う制度です。例えば、不動産があるものの、借金の額がはっきりしない場合に選ばれることがあります。しかし、限定承認は相続人全員の同意と手続きが必要で、申述書作成や財産の評価など手続きが複雑であり、年間の利用数も千件未満と非常に少なく、手間や費用がかかるため、あまり選ばれない制度でもあります。 安易に遺産に手をつけると単純承認扱いに  借金を負いたくない場合、通帳を無断で使用したり、不動産を勝手に売却したりする行為は控えてください。遺産を管理・処分すると、単純承認とみなされ、相続放棄ができなくなる可能性が高くなります。  たとえ生活費が切迫しても、まずは相続放棄をするかどうかを判断することが重要です。借金が後から判明し、「プラスの財産が少なかったので放棄を検討したい」と思っても、すでに単純承認とされてしまっているケースもあります。 相続人調査・財産調査を正しく行う重要性 この章の要点 離婚や再婚が重なると相続人が増えがち 親の口座や不動産、保証債務を把握しないまま放置するとリスクが高まる 専門家に依頼する方法もある 離婚・再婚で複雑化した戸籍をチェック  離婚後に再婚したり、新たな子どもが生まれたりすると、血縁関係が複雑になりやすく、混乱が生じがちです。戸籍を取り寄せることで、生まれてから現在までの婚姻や離婚の履歴を追うことができます。  親がどこで再婚したのか、兄弟姉妹が増えていないかを確認しないと、協議の場で思いがけない相続人が現れる可能性があるため、戸籍調査は欠かせません。 借金・保証債務・不動産などの財産状況の確認  相続放棄の前に「どの程度の資産や負債があるか」を調べることとなりますが、関係が疎遠であると細かい内訳が不明なままになりがちです。  具体例としては下記のようなものがあります。 親名義の銀行口座 親名義のクレジットカード、ローン 親が保証人になっている契約 親名義の不動産や駐車場用地 生命保険の死亡保険金受取人が子かどうか 以下の確認先へ必要書類を提出することで、これらの財産の状況を確認するためことができます。 財産または契約 必要書類例 確認先 銀行口座 各金融機関 通帳、キャッシュカード ローンやクレジット カード会社、ローン会社 契約書、明細書 保証人契約 関係先の事業者 保証契約書 不動産の登記情報 法務局、登記情報提供サービス 登記簿謄本 生命保険の契約 保険会社 保険証券、契約書 専門家を活用するタイミング  戸籍が複雑で、借金の有無が全く分からない場合、自力で調べるのは非常に手間がかかります。弁護士に依頼することで、相続人調査や財産調査を代行してもらいやすくなります。手続きには費用がかかりますが、借金が大きいと判断した際には、早めに相続放棄を進めるサポートとなります。  忙しい共働き家庭や地方在住で裁判所に行きにくい方が専門家に依頼するケースも多く見られます。 再婚相手や連れ子との相続協議:よくあるトラブルと回避策 この章の要点 再婚相手やその連れ子と分割協議が難航するケースが多い 遺言書があれば道筋が見えやすいが、遺留分をめぐる争いも起きやすい 早めに話し合うか専門家に仲介を求める方法が安心 配偶者や異母・異父兄弟との遺産分割協議  再婚相手が配偶者として相続権を持つ場合、配偶者と子どもで遺産を分割する形が基本となります。  親と疎遠だった子どもの中には、「顔も思い出せない他人のような存在には会いたくない」と感じる方もいます。しかし、共有の不動産や預金口座を処分するには、相続人全員の合意が必要であるため、相続放棄を選ぶのか、協議に参加するのか、早めに検討することをおすすめします。 遺言書がある場合とない場合  遺言書があれば、その内容に沿って遺産が分配されます。ただし、誰か一人に相続させる旨を記載した一方的な遺言であっても無効にはなりませんが、遺留分減殺請求がなされる可能性があります。  遺言書がない場合は、基本的に法定相続分をもとに相続人間で話し合いが行われます。全ての相続人が合意すれば、法定相続分とは異なる分割方法も可能ですが、意見が対立するケースも多く見られます。 早めの話し合い・専門家同席がカギ  当事者同士で合意できないときは、家庭裁判所の調停を利用する方法があります。 連絡先すらわからない状況、相続人が多くて人間関係が複雑な場面では、弁護士に依頼する利点は大きいです。 相続を続ける?放棄する?メリット・デメリットを比較 この章の要点 プラスの財産が得られるが、借金や相続税の負担も出る 放棄すれば借金を背負わずに済むが、プラスも受け取れない 金額や人間関係を考えて判断する必要がある 相続するメリット・デメリット メリット 親が所有する不動産や現金を得られる 親族間で公平に分けられれば財産が増えて家計が助かる 思わぬ保険金などがあり、金銭的にプラスになる可能性がある デメリット 借金や連帯保証などが表に出てくる 納税が必要になる財産規模であれば相続税を支払う 複数の相続人との調整が長引き、ストレスが増える 放棄するメリット・デメリット メリット 親の借金を一切負わなくて済む 複雑な協議を避けられる 葬儀費用や供養の負担を少なくできる デメリット プラスの遺産も受け取れなくなる 後から不動産や貯蓄があったと知っても取り戻せない 連れ子や再婚相手がすべて取得してしまう形になり得る  相続放棄後に不動産が判明したと後悔する人や、借金が非常に多いと見込まれるために迷わず放棄する人がいますが、その判断は個人の事情に左右されます。 忙しい人でもできる! 相続問題を短期間で解決するコツ この章の要点 相続放棄は3カ月のタイムリミットがある 郵送やオンライン申請を活用すれば外出を減らせる 専門家に任せると手間を抑えやすい 期限を可視化し、優先度を決める  相続放棄に取り組む時間が見つからない人は多いですが、3ヶ月を過ぎると、放棄が難しくなります。スマホのカレンダーや手帳に「死亡を知った日」を起点に3ヶ月後の日時を大きくメモしておくと忘れにくいです。 郵送・オンライン申請を積極的に活用  戸籍の収集は、役所の窓口が平日昼間のみの対応でも、郵送であれば仕事の合間に申し込めます。オンラインで戸籍を請求できる自治体も増えており、役所へ赴く回数を減らしやすいです。 専門家との連携で手間を省く  弁護士や司法書士に頼むと、戸籍収集や財産調査を代行してもらえます。平日勤務で時間がとれない人や、手続きが複雑に思える人には助けになります。費用が発生しますが、借金を背負うリスクを避けられるなら得策と考える人も多いです。 よくある質問(FAQ) Q1. 離婚した親の相続放棄は必ず3カ月以内にしないといけませんか? A1. 原則として、親が亡くなったことを知った日から3カ月以内に、家庭裁判所に相続放棄の申述を行う必要があります。離婚していても親子関係は続いており、相続人となるため、放棄を希望する場合はこの期間内に手続きをとることが大切です。 もっとも、例外的に、死亡後しばらく経ってから初めて親の死亡を知ったような場合や、当初は債務がないと思っていたが、後になって多額の借金の存在が判明したような場合には、「相続開始を知った時」や「相続財産の全体を認識した時点」を起算点として、改めて熟慮期間の起算を主張できる可能性があります(ただし、家庭裁判所で個別に判断されます) Q2. 親の借金を調べるにはどうすればいい? A2. 通帳やクレジットカードの明細、貸金業者からの督促状を確認してください。信用情報機関(CICなど)に対する過去の借入の有無の照会、開示を弁護士に依頼する人もいます。 Q3. 相続放棄にかかる費用の目安は? A3. 家庭裁判所へ申述するときに印紙代や郵便代など数千円が必要です。弁護士や司法書士へ頼む場合は十万円程度が一般的で、借金の金額や財産の調査範囲などで変動します。 Q4. 親が再婚相手と養子縁組していても、私にも相続権がありますか? A4. 血縁がある以上、相続権が残ります。普通養子縁組は実親と縁が断たれないため、離婚後でも法定相続人に含まれます。特別養子縁組など例外的なケースもあります。気になる場合は戸籍で確認してください。 【まとめ】離婚した親の相続は早期対策がカギ  離婚で疎遠になっていた親が亡くなると、戸惑いを感じる方は多いです。葬儀や遺品整理に関わりたくないという気持ちがあっても、借金を回避したいなら無視できません。債権者から督促が来る可能性は十分にあります。  疎遠なまま相続放棄の期限を過ぎてしまうと、借金を負うリスクが高まります。死亡を知った日から3ヶ月以内に相続放棄の申し立てが可能なので、まずは戸籍や財産状況を調べて判断しましょう。期限管理を最優先にしながら、お早目に弁護士へご相談ください。

2025.08.20

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兄弟間の生前贈与トラブル完全ガイド

兄弟間の生前贈与トラブル完全ガイド~被相続人から兄弟が生前贈与を受けていた場合の不公平感・遺留分対策・解決方法を徹底解説~兄弟間の生前贈与トラブル完全ガイド

「知らないうちに兄弟が生前贈与を受けていた」 「一部の兄弟だけが有利な条件で不動産をもらっていた」 「父の死後、生前贈与の影響で相続分が大きく変わってしまった」  こうした悩みを抱えている方に向けて、兄弟間での生前贈与にまつわる典型的なトラブルとその対策について解説します。法律や税金の基本を押さえたうえで、家族の関係をできるだけ損なわずに進める方法を意識しながら考えていきましょう。 兄弟が勝手に相続を進めている?すぐに弁護士に相談が必要なケース こんな場合は早めの専門家相談が必須 兄弟の一人だけが弁護士を立てている  兄弟のうち一部だけが弁護士に依頼している場合、法的交渉の場で情報格差が生まれやすくなります。遺留分や特別受益といった専門用語を持ち出されても、法律の知識がない側はすぐに対応できず、不利な状況に追い込まれることもあります。  こうした不公平を防ぐためにも、同じ立場で話を進められるよう、弁護士への相談や依頼を検討するのがおすすめです。専門家のサポートがあれば、冷静に権利を守りながら対応することができます。 すでに生前贈与の事実を隠そうとしている形跡がある  通帳が急に消えている、名義変更された不動産が把握できないなど、疑わしいことに気づいたら速やかに専門家へ連絡してください。 父の財産を開示せず、勝手に相続登記を進めている  他の相続人に相談もせずに勝手に登記手続きを済ませている場合、特別受益や遺留分の権利を考慮していない可能性があります。そうなると兄弟間の公平感が損なわれ、冷静な話し合いができなくなるおそれがあります。  事態がこじれる前に、早めに状況を確認し、必要なら手続きを一時止める対応をとることが重要です。適切な手順を踏んで進めることで、トラブルを未然に防ぐことができます。 弁護士が介入するメリット 曖昧になっている贈与の金額・手続きを正確に把握  生前贈与がいつ、いくら行われたのかを通帳や証拠資料で確認しておけば、後になって「そんな金額は知らなかった」と言われるリスクを減らすことができます。  弁護士に依頼すれば、金融機関への取引履歴の照会や、公的な記録の取り寄せなどを通じて、確実な裏付けを得ることができます。不安がある場合は、早めに専門家に相談するのがおすすめです。 遺留分や特別受益を主張できる根拠を整理  生前贈与が特別受益に該当すれば、持ち戻しという形で相続分を再調整できる場合があります。弁護士が計算方法と具体的な金額、請求の手順を伝えながら、交渉をします。 兄弟間の直接衝突を避け、第三者の視点で交渉を進行  感情的な言い争いを続けてしまうと、家族の間にわだかまりが残り、関係の修復が難しくなります。こうした事態を避けるためにも、弁護士などの第三者を代理人として間に立てることで、法的根拠に基づいた冷静で合理的な解決策を探る話し合いがしやすくなります。 兄弟(姉妹)が勝手に相続していた!どうすればいい? 生前贈与で先取りされた財産を取り戻すには 「特別受益」「遺留分侵害額請求」の考え方  特別受益とは、生前に多額の贈与を受けた相続人がいる場合、その分を相続分から差し引いて計算する制度です。  また、遺留分とは、相続人が法律上必ず確保できる最低限の取り分のことを指し、これが侵害されていれば法的に請求することができます。  もし兄弟に知らせず、多額の贈与を受け取っていた事実がある場合は、遺留分の侵害額を計算し、請求する余地があります。状況を整理し、正当な取り分を守るためにも、早めの確認と対処が重要です。 不動産・預金を含めた持ち戻し請求の手順  例えば、兄が生前に2,000万円の贈与を受けていた場合、その2,000万円という金額を、相続開始時に存在した相続財産に加えたうえで分配を再計算するのが持ち戻しの考え方です。  相続が始まった時点でその贈与がなければ、相続財産の総額がいくらになっていたかを試算し、そこから法定相続分や遺留分を改めて確認することによって、不公平の調整や遺留分の侵害がないかを判断することができます。 相続開始後に気づいたときの具体的対処法  通帳を確認した際に、 「知らないうちに大きな金額が引き出されていた」と相続の場面で気づくケースは少なくありません。もし心当たりのない出金があれば、できるだけ早く弁護士に相談し、いつ・どの口座から・いくら引き出されたのかを調べましょう。 証拠を集めたうえで、交渉、家庭裁判所での調停、審判という流れで解決を目指すのが一般的です。場合によっては、地方裁判所で不当利得返還請求の裁判をすることもあります。早めの対応が、納得のいく結果につながります。 父が生きているうちに名義変更されていたケース 高齢の親が知らない間に名義変更されていた場合の法律的チェックポイント  親が自分の意思で署名・捺印した書類があるか、またその意思をきちんと示していたかを必ず確認しましょう。もし、認知症の疑いがあったり、判断力の低下が考えられる場合には、当時の診断記録や介護記録などを証拠として確保することが重要です。 親の意思能力が問題になる場合(認知症など)  親が医療機関で診断を受けていた場合は、その時期や症状が記載されたカルテや医師の意見書が重要な証拠となります。もし、当時意思能力がなかったことが証明できれば、その状態で行われた名義変更などの手続き自体が無効だと主張できる可能性があります。 無効を争うための証拠集め:診断書・口座記録・公的証明  例えば、父が入院中で判断能力が全くなかった時期に、実印が押された契約書が見つかった場合は不自然です。本人確認が適切に行われていなかった公正証書や銀行の手続きがあれば、重要な争点となる可能性があります。こうした点は専門家と相談し、慎重に対応することが大切です。 相続時に兄弟で争いに!よくあるトラブルについて 生前贈与が隠されていた(特別受益) 兄弟間の不満が爆発する典型例  「自分は何も知らず、兄だけが数千万円をもらっていた」と分かった時に怒りが高まります。特別受益として持ち戻しを求めない限り、実質的にその兄が相続分以上の利益を得る状況になります。 相続発生後に「勝手に財産を抜き取られた」と発覚する流れ  生前に親と同居していた兄弟が通帳の管理をしていた場合、後から「預金が半分も減っていた」と気づく場面があります。こうした場合は調停や訴訟で「それは正当な支出かどうか」を確認しに行く流れになります。 親の介護負担をめぐる不公平感 介護していた兄弟は多く相続して当然?寄与分の認定が難しい理由  親を支えたからといって当然に多く相続できるわけではありません。寄与分として認められるには、明確な経済的メリットや財産維持への貢献が必要です。曖昧な主張では他の兄弟が納得しにくいです。 「生前に多くお金をもらっていたのでは?」と疑われるパターン  介護費として引き出していた分が、実際には個人の生活費になっていた事例などが問題化しやすいです。領収証や支出記録がないと生前贈与とみなされ、相続時に不公平感が強まります。 兄弟同士のコミュニケーション不足 連絡を取らないまま相続が始まり、誤解が膨らむ流れ  忙しい毎日で話し合いを先送りしていると、突然の相続発生で「こんなはずではなかった」となりがちです。普段から財産の概略や贈与履歴を共有すると、後の衝突を減らせます。 遺言書もない状態で「話し合いができない」ときの解決策(調停・審判など)  家庭裁判所の調停を利用すれば、中立の調停委員を介して協議できます。自分たちだけでまとまらない時に、冷静な視点で合意点を探る選択肢です。 兄弟間トラブルがエスカレートする前のチェックリスト 「父の通帳を確認できているか?」  通帳や印鑑を勝手に持ち出されていないかを確認し、疑わしい動きがあれば取引履歴の閲覧を銀行に依頼するといいです。 「どの専門家に相談すべきか明確になっているか?」  法律や争いごとの協議は弁護士、登記や書面作成は司法書士、税金は税理士といった形で役割を分担しましょう。 「遺留分や特別受益など法律用語を理解しているか?」  用語を知らないと兄弟と話がかみ合わず、余計に混乱します。専門家から概念を学び、具体的にどう対処するかをイメージする流れが大切です。 財産を平等に相続させたい場合の相続対策とは? 兄弟への生前贈与をめぐる特別受益の考え方 「生前に多くもらった分は相続時に調整しよう」が原則  持ち戻しとして考慮することで、兄弟間の最終的な取り分が公平に近づくはずです。具体的な計算は複雑なので、弁護士や税理士に相談すると正確な数字を提示できるでしょう。 特別受益をめぐる持ち戻しで揉める典型例  「兄が2,000万円の家を買ってもらったのに、それを黙っていた」場合など、後から発覚すると不満が増幅します。母や父が書面で「○年○月に○○円贈与済み」と明示していれば、話が早いです。 遺言書を作成すべき理由 公正証書遺言で「○○年~○○年に長男へ●●万円贈与した」など明記  生前贈与した金額を遺言に記載すれば、相続時に「その分は特別受益として持ち戻そう」と説得力を持って主張できる流れになります。 遺言書があるのに兄弟が納得しないときはどうするか?  法的に有効な遺言書でも、感情面で反発が起きることがあります。調停や審判に進む前に、弁護士が根拠を整理して説得を試みる場面がよくあります。 勝手に相続手続きを進められていた場合は? 具体的な対応策 まずは相続財産調査を行う  戸籍を取り寄せて相続人を確定し、不動産や銀行口座を網羅的に調べます。財産目録を作り、一つでも怪しい出金や名義変更があれば根拠を探ってください。 譲渡や使い込みがあった場合、弁護士へ相談して差止めや返還を求められるかを検討  すでに処分された資産を取り戻すには、裁判所での手続きを視野に入れることとなります。仮処分や契約の無効など、主張できる可能性を検討しましょう。 時効の問題にも注意する  生前贈与の時期や被相続人が亡くなった時期を勘案し、法的請求権が消滅しないうちに動くことが大事です。 生前贈与も遺留分の対象になる 遺留分の対象となる生前贈与 相続人に対する一定期間内の贈与(相続開始前10年以内など)  相続人への贈与は、相続開始前の10年以内に行われたものが基本的に対象となります。もし兄弟の中に、この期間内に高額の贈与を受け取っている人がいれば、遺留分の計算に影響を与える可能性があります。 相続人以外に対する1年前の贈与  相続人以外への贈与も、直前1年の分は遺留分計算に組み込まれやすいです。これを利用して財産を減らそうとした行為は、結果的に侵害を指摘される可能性が高いです。 遺留分を生前贈与で侵害された場合の対処方法 弁護士へ相談し、侵害額を計算  贈与額、相続財産、法定相続人の人数などのデータから、どれくらい侵害されているかを数値化します。 請求調停や訴訟へ移行する手順  相手が任意に応じないなら、家庭裁判所の調停を起こし、話し合いでまとまらなければ訴訟で最終的な判決を求める流れです。 相続時に兄弟でよくあるトラブル事例を深掘り こじれる前に専門家と整理を 期限を過ぎると相続税だけでなく遺留分請求にも影響  相続税の申告期限は10か月、遺留分侵害額請求には期限があります。タイミングを逸すると権利が消滅する例があるため、早めの動きが大切です。 「もらっていた兄弟」が開示に応じないときの対応  弁護士が内容証明を送る、調停を申し立てるなどして公式な場で開示を求める流れになります。 依頼費用を惜しんで放置するとかえって損失が大きくなる  兄弟の関係が修復不可能になるだけでなく、不利なまま交渉を進めるリスクもあります。結果として財産を大きく失う危険を回避するためにも、専門家費用を前向きに検討する意義は大きいです。 遺産相続の話し合いは委任状があれば誰でも代理人を立てられる 兄弟間交渉を家族に任せているが不安… 当事者同士の話し合いでは感情が先行しやすい 「親を面倒みたのは自分だ」「そちらは何もしなかった」など、感情論になって結論が出なくなります。第三者の視点が欠けると泥沼化しがちです。 対等でない立場で話を進めると、後から「話が違う」と争うリスク 家族内で力関係があると、一方が押し切る形で仮決着してしまう展開があります。そのまま協議書に署名してしまうと、後で「納得していなかった」と争う道筋が残りにくいです。 弁護士を代理人に立てるべき2つのケース 相続分割協議がまとまらない 何度話しても合意に至らない場合には、弁護士が間に入って、具体的な金額を、法的根拠とともに示しつつ、折衷案を提示する方が合理的です。 相手方が先に弁護士を立ててきた場合 対等な交渉をするためにも、こちらも専門家を依頼すると安心です。知識の非対称が大きいままでは不公平感が残ります。 弁護士・法律相談の活用メリット 相続財産調査、交渉代行、使い込みの追及 弁護士なら銀行への照会や不動産調査を行い、交渉窓口にもなります。親族間で交渉しにくい内容を肩代わりしてくれるため、精神的負担が減ります。 税務・登記までワンストップでサポートしてくれる事務所もある 中には税理士・司法書士と連携し、ワンストップで相続案件を扱う事務所があります。一度相談すれば、書類作成から税務申告まで流れをまとめて依頼できる利点があります。 まとめ|兄弟間の生前贈与トラブルを防ぐ&解決するために ①生前贈与があった時期・金額を正確に把握 贈与契約書や通帳記録を家族で共有  親が健在なうちに「いつ、誰が、いくら贈与を受けたか」をオープンにしておくと、相続の話し合いで「隠していたのでは?」という疑念が減ります。 父が認知症などの場合、意思能力の有無を慎重に確認  判断力が低い段階で押し切られていた可能性があるため、当時の医療記録や会話状況を調べてみてください。書面に不自然な点があるなら無効を主張できるかもしれません。 ②遺言書や遺産分割協議で正式に合意 公正証書遺言なら偽造リスクが低い  公証役場の仕組みにより、当人の意思を確認しながら手続きが進むため安心です。遺留分を侵害しない設計にすることも配慮しやすいです。 生前贈与を含めた分配を明確にするなら、合意書や付言事項を活用  「長女に500万円贈与した」「長男に不動産をあげた」などを具体的に記すと、後から「知らなかった」と言われる不満を抑えられます。 困ったら早めに専門家へ相談を  相続争いは、話がこじれるほど家族の絆にも悪影響を及ぼします。早めに弁護士や税理士、司法書士などの専門家に相談することで、大きなトラブルを未然に防ぎやすくなります。冷静な視点からアドバイスを受けながら進めることで、兄弟間のわだかまりも軽減しやすくなります。  親が元気なうちに相続の方針を決めておけば、後になって「もっと早く動けばよかった」と悩むことも少なくなります。気になることがあれば、まずは一歩踏み出してみましょう。  当事務所では、生前贈与や相続に関するご相談を幅広く承っております。家族間の信頼を大切にしながら、一人ひとりのご事情に寄り添った解決策をご提案いたします。  早めの対応で不要なトラブルを避け、安心して未来を見据えてみませんか。

2025.08.20

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【弁護士監修】株の相続税にまつわる不安を解消!相続税がかからないケースと対処法を徹底解説

【弁護士監修】株の相続税にまつわる不安を解消!相続税がかからないケースと対処法を徹底解説

親の株式を相続する際に「相続税がかかるのか」「相続税が発生しないケースはどのような場合か」と不安に感じる方は少なくありません。とりわけ、大きな金額の株が相続対象になる場合、名義変更や家族間の引き出しが生前に行われていたケースも見受けられ、家族間のトラブルが長引くおそれがあります。 本記事では、株式の相続に関する不安や、相続税が発生しないケースについて、実際の相談事例・対応事例をもとに弁護士の視点から解説し、適切な対応策や注意点を詳しくご紹介します。 記事の最後では専門家へ相談するメリットにも触れていますので、【弁護士監修】株の相続で相続税がかかるケース・かからないケースを徹底解説|生前贈与・特別受益の注意点を、ぜひ最後までお読みください。 まず確認!株の相続で相続税がかかる or かからない3つの判断ポイント 相続財産が基礎控除を下回るかどうか 相続税は、すべての相続に必ず課されるわけではありません。基礎控除という仕組みによって、遺産の合計が一定額以下であれば相続税はかかりません。具体的には以下の式で計算します。 基礎控除 = 3,000万円 +(600万円 × 法定相続人の数) 例えば、法定相続人が3人(配偶者と子2人)の場合は、 3,000万円 +(600万円 × 3)=4,800万円 この金額を下回れば、相続税がかからない可能性があります。逆に、株や不動産などを含むトータル額が基礎控除を超えると課税対象になるため、まずは遺産総額と基礎控除の比較が第一ステップです。 配偶者の税額軽減が使えるかどうか 配偶者の場合、1億6,000万円または法定相続分の多い方まで相続税がかからない特例があります。 夫婦2人暮らしで、ほぼ配偶者がすべての財産を相続するなら相続税ゼロになる例が少なくありません。 基礎控除と合わせて活用できれば、合計額が1億円を超えていても税金ゼロの可能性があります。 上場株と非上場株の評価方法をチェック 株の評価は「上場か非上場か」で計算が違います。 上場株は前後3カ月の終値平均で価格を算定しやすいです。 非上場株は、市場での取引価格が存在しないため、「類似業種比準方式」「純資産価額方式」「配当還元方式」など複数の評価方法を組み合わせて評価額を算定します。 評価が複雑な場合、基礎控除内に収まると思ったら予想より高く評価されるケースもあるため要注意です。 【事例解説】相続税がかからないケースと見せかけたリスクとは? 株の相続に関するトラブルを具体的に見てみると、事前に知らなかった事実が後で判明して揉める展開が起きています。以下では、実際の相談事例に触れながら問題点を整理しましょう。 【相談事例】父の株がいつの間にか減っていた…生前贈与か? 事例のポイント 父が亡くなり、相続財産は妹と半分ずつ分ける予定だった 推定1億円前後あった株は、実際には数千万円ほどしか残っていない 父は高齢で亡くなったため、歩行ができず、妹が通帳を管理していた形跡がある 預金口座の明細を取ったら、高額かつ複数回に渡って引き出しされている 証券会社に聞いたら「もう相続は済んでいるのではないか?」との回答 妹は「自分は知らない」と言うが、兄は「勝手に降ろしていたはず」と疑う 主な問題 父の株が事前に生前贈与されていた可能性 妹が管理していた通帳から大きな金額が引き出されている 相続税申告の段階で、この資金移動がどう扱われるか 税務署に調査を依頼すると、追徴税が課されるリスクがあるかもしれない 妹が「知らない」と主張する以上、兄は税務署に通報し追徴課税額から妹の受け取った金額を把握し、裁判で取り戻せないかと考えています。しかし、税務署がどこまで情報を開示するかはケースバイケースです。 「相続税がかからない」とは限らない? 基礎控除内に納まった場合には相続税はかからないかもしれません。しかし、大量の現金引き出しが実質的に妹への贈与と認定された場合、父の相続財産に加算されるおそれがあります。さらに、追徴課税が発生すると納める税金が増えるだけでなく、家族間の関係も悪化しがちです。 紛争・裁判への発展をどう防ぐ? 妹による生前贈与を立証するには 通帳や証券会社の明細 父の認知状態や実際の意思 妹が引き出した経緯の客観的な証拠 税務署が把握した情報を裁判で使えるか? 税務調査で得た情報を原告側がすべて閲覧できるわけではない 弁護士を通じた照会や、銀行の取引履歴請求など別ルートで証拠を集める必要 相続税がかからないかどうかは、実際の残額と生前贈与の有無に大きく左右されます。まずは事実関係の把握と専門家への相談が不可欠です。 生前贈与と特別受益の基礎知識 上記の相談事例で疑われる「生前贈与」や「特別受益」とは、相続の世界でどのように定義されているのでしょうか。ここでは基本的なルールを解説します。 生前贈与とは? 被相続人(亡くなる人)が生きているうちに財産を譲ることを、生前贈与と呼びます。年間110万円までは贈与税がかからないため、長期的な相続対策として利用されることも多いです。ただし、亡くなる3年以内の贈与は相続税の計算に加算されるため、亡くなる直前の贈与は効果が薄くなる傾向があります。 特別受益とは? 相続人の中の一人が、生前贈与などで多額の財産を先取りしたとみなされると、その部分を「特別受益」と呼びます。民法上、特別受益があれば、遺産分割をするときにその分を差し引いて計算し、他の相続人とのバランスをとることになります。 例:子ども2人のうち、一方が1,000万円相当の株式を生前贈与された →この1,000万円を遺産に戻して、兄弟間で再度配分を考える 名義変更のみでは贈与の有無は判断できない? 名義変更が行われても、実際は被相続人が管理や運用をしていたなら「単なる名義貸し」とみなされる場合があります。贈与の有効性を判断するには、贈与の意思表示や財産管理の実態が重要です。 対応事例:株式の名義変更と特別受益を巡る争い 次に、もう一つの事例を参照しながら、名義変更と特別受益が争点となるケースを具体的に見てみましょう。 【対応事例】被相続人の株式をめぐる遺産分割調停 長男、長女、二女の兄弟姉妹が相続人 父が生前に遺言を作成しないまま死亡 その後、母も死亡し、数次相続となった 株式の名義変更が行われていたが、相続人の一人(依頼者)が形だけ名義を得たのか、それとも実際に贈与されたのかが争点に 結果:生前贈与として特別受益に算入 本件では、名義変更の経緯を証券会社で確認し、「父が『株は性分に合わないから、あなたがもらって』と明言した」という証拠を提示。さらに、名義変更後の口座を依頼者自身が管理し、配当金も受け取っていた点を示した結果、「正式に贈与が成立した」と認定されました。 他の相続人から「形式的な変更では?」と反論されたが、裁判所(調停委員会)は贈与の実態があると判断。最終的に、その株式は依頼者の特別受益として評価され、他の遺産分割を進めることができました。 事例から学べるポイント 名義変更だけでなく、贈与意思の確認や管理状況の実態がカギ 税務上も生前贈与としてみなされるため、相続税の計算に影響 証券会社の手続き履歴や当事者の言動を詳細に積み重ねると有利に働く 特別受益は財産分配の公平性を保つ仕組みです。もし、相続税の申告に影響が出るなら、申告漏れや過少申告によるペナルティにも注意しましょう。 相続税と税務調査のポイント 上記の相談事例・対応事例からもわかるように、生前贈与や名義変更をめぐる不透明な資金移動は、税務署が調査を行う可能性を高めます。ここでは、税務調査の流れと注意点を整理しましょう。 多額の現金引き出しがあるときのリスク 父の口座から50万円ずつ17回引き下ろし、合計850万円を移した場合など、不自然な取引があると税務当局のチェック対象になりやすいです。 高齢者の口座:大きな引き出しが突然増えると、「相続対策としての現金化」と疑われるケースがある 預金通帳や証券口座の履歴:口座間移動の記録は残るため、後で調べられると追徴課税が発生しやすい 税務署から情報を得て裁判で活用できるか? 相談事例で兄が考えているように、「税務署が追徴課税を通知する際に、生前贈与額を開示してくれるのでは?」と期待する方がいます。ただし、税務署は納税義務者のプライバシーを守るため、すべてを第三者に公開するわけではありません。 裁判所の手続き(調停・訴訟)を通じて、相続人としての立場で銀行に照会するなど、別ルートで事実を把握する方法があります 弁護士に依頼すれば、家事事件手続法等を活用して証拠収集の道が開けるかもしれません 相続税がかからなくても申告が必要なケース 基礎控除を下回っていて相続税がゼロになる場合でも、生前贈与を含めると課税対象になる場面があります。 父の名義の株や預金が大きく減っているが、その分を誰かが受け取っていた場合 遺産の総額に加算する「生前贈与」が基礎控除を上回れば申告しなければならない 放置して後から発覚すると、加算税や延滞税がつくおそれがあるため、疑問点があれば専門家に質問すると安全です。 家族間トラブルを回避するためにできること 株をめぐる相続争いは、金額が大きいほど深刻化する可能性があります。以下では、事前・事後でできる対策をまとめました。 事前対策(遺言書・信託・事業承継対策など) 遺言書 父や母が「誰に何を渡すか」を明確に書き残す 公正証書遺言にすれば、裁判所の検認手続きが不要でトラブル減少 家族信託 親が認知症になった場合でも、受託者が財産管理を行い、不正引き出しを防ぎやすい 事業承継対策 非上場株や会社経営に関連する財産がある場合、早めに後継者への移転スキームを作る 相続発生後のトラブル予防 口座凍結: 被相続人が亡くなったら、銀行に死亡届を出して口座を凍結し、不正な出金を防ぐ 弁護士を交えた協議: 家族同士だけで話し合うと感情的になりがちなため、専門家が間に入ると冷静になりやすい 財産目録の作成: 株・預貯金・不動産を含むリストを作り、漏れを防ぐ 紛争になった場合の調停・訴訟対応 特別受益の立証: 生前贈与の意思表示を示す書面や銀行の取引履歴を揃える 調停委員が間に入る: 家庭裁判所の調停で合意を目指す 時間と費用: 訴訟に至ると1年以上かかる例もあり、弁護士費用も増える 株の相続で損しないために今すぐやるべきこと “相続税がかからない可能性”はまず基礎控除と配偶者特例をチェック 基礎控除 「3,000万円+600万円×法定相続人の数」 配偶者の税額軽減 1億6,000万円または法定相続分まで非課税 合算で想像以上に大きい非課税枠があるので、自分の家が本当に課税対象となるか早めに計算しましょう。非上場株があると評価が予想外に膨らむケースもあるため、油断は禁物です。 生前贈与と特別受益を軽視しない 妹が父の通帳を管理して大金を引き出していた 名義変更が行われていたが、贈与の実態が不明 亡くなる前3年以内に贈与された分は相続税に加算される これらのポイントを放置すると、後から税務署に指摘され、追徴税を課されるリスクがあります。さらに、家族間の争いで裁判沙汰になれば精神的・金銭的負担が大きくなります。 専門家に相談するメリット 弁護士: 裁判所手続きや調停対応、特別受益の主張立証、遺産分割協議の代理 税理士: 相続税の申告書作成、評価額算定、税務署との交渉 相談事例や対応事例のように、贈与の有無や管理状況を丁寧に積み重ねていく必要がある場面では、プロのサポートが欠かせません。複雑な書類作成や証拠収集を任せられることで、大幅に手間を減らす効果も期待できます。 相続税がゼロでも申告は必要?意外と多い見落とし 基礎控除以下でも要注意のケース 「うちは財産が少ないから相続税が発生しないケース」と思いこんでいると、被相続人が生前に行った贈与が後から出てくる場合があります。例えば、死亡前3年以内の贈与は相続の課税対象に加算されるため、結果的に基礎控除を超えてしまうことも。 相続税の申告が不要と判断し放置した場合のリスク 申告不要と思い込み、書類を出さずにいると、後で税務署から指摘されて延滞税や加算税が課されるパターンが存在します。引き出し回数や金額が多かった時期の記録を調べると、意外な大金が動いている例もあるので、「まさか」と思わず一度は専門家に確認するといいでしょう。 家族が宗教活動・介護などで同居していた場合 相談事例のように、妹が父と同居していたために通帳を任され、結果的に資金を動かしやすい環境になっていたケースもあります。高齢者の介護をしている家族が、介護費用の名目で預金を引き出していたと主張しても、しっかりと領収書などを残していないと贈与とみなされるリスクがあります。 株の相続における主なチェックポイント 項目 内容 なぜ重要? 基礎控除額の確認 「3,000万円+600万円×法定相続人の数」を超えるかどうか 超えると相続税が発生 配偶者の税額軽減 1億6,000万円または法定相続分が非課税 配偶者が多く相続すれば税金ゼロの可能性 生前贈与の有無 過去3年以内の贈与は相続財産に加算 過小申告を防ぐため 名義変更の実態 実質的に誰が管理していたか、贈与意思があったか 特別受益かどうかを判断する基準 税務調査の対応 頻繁な現金引き出し・大口資金移動は調査対象 追徴課税や家族トラブルを引き起こしやすい 遺言書・信託活用 書面で意思を明確にしてトラブル回避 争いを最小限に抑え、手続きも簡略化 弁護士・税理士への相談 紛争や税務に強い専門家のアドバイス 裁判、調停のリスクを下げ、正確な申告ができる こうしたチェックポイントを押さえることで、株の相続で納税額を抑えたり、不正な引き出しに気づいたりしやすくなります。 まとめ|迷ったら早めに専門家へ相談を 株の相続で相続税がかからないケースは確かにあります。基礎控除や配偶者控除を組み合わせれば、1億円以上の資産があってもゼロになる状況は珍しくありません。ただし、生前贈与・特別受益・名義変更などが絡むと、税務上も法的にも複雑化します。 父の財産が減っていた相談事例のように、実質的に現金を握っていたのが誰なのかで紛争に発展する 株式の名義変更が形だけだった対応事例では、特別受益として評価され、調停で解決に至った どちらも「贈与の実態」をどう立証するか、また「税務署が把握する情報を相続人がどう裁判に活用できるか」が争点になります。放置すると、加算税や延滞税、さらに家族間の訴訟が長期化する恐れがあるため、早めの相談が最大のリスクヘッジです。 最後に 相続税がかかるかどうかを基礎控除・配偶者控除から試算してみる 通帳や証券口座の取引履歴を整理し、不明点があればすぐ動く 弁護士なら家事事件手続きや調停対応、税理士なら申告書作成や評価額算定が専門領域 小さな疑問や争いの芽を放置せず、専門家の協力を得ることで「思っていたより楽に進んだ」と感じる方も多いです。株の相続は金額が大きく、トラブルも起きがちです。今回の事例を参考に、ぜひ落ち着いて対処してください。家族が納得できる形で相続が完了し、長期にわたって禍根を残さないためにも、行動は早いほど良いと言えるでしょう。 記事の要約 相続税がかかるかどうかは、遺産の合計額と基礎控除・配偶者軽減の組み合わせ次第で左右されます。 生前贈与や名義変更の有無が特別受益として争われる場合、調停や裁判での立証が重要です。 税務署の調査で追徴課税が発生するリスクがあり、相続人同士の関係にも影響を与えます。 遺言書や家族信託などの事前対策を行うと、紛争や不正な引き出しを防ぎやすくなります。 弁護士や税理士への早めの相談により、複雑な書類作成や証拠収集をスムーズに進められます。 不明な点や争いの兆しを感じたら、まずは財産目録の作成や取引明細の確認を進めましょう。弁護士へ相談すると、紛争の回避やミスの防止が期待できます。 相続は大切な家族の財産を引き継ぐ場面です。基礎控除や配偶者軽減だけでなく、生前贈与や名義変更の実態も含めて検討し、後悔のない相続を目指してください。家族の負担を減らすために、今こそ行動を始めてみてはいかがでしょうか。

2025.08.20

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遺産分割と相続税の完全ガイド|未分割申告・修正申告・節税まで徹底解説

遺産分割と相続税の完全ガイド|未分割申告・修正申告・節税まで徹底解説

「相続税の申告期限まであと三か月なのに兄弟と連絡が取れない…どうしたらいい?」「未分割のまま申告したら税金を払いすぎないか心配」と悩んでいませんか。 この記事でわかること 未分割申告を期限内に済ませる五つの手順 修正申告・更正の請求で税金を取り戻す流れ 控除と特例を逃さず分割をまとめるコツ 結論としては、まず相続税の申告期限を厳守し仮申告を行い、遺産分割成立後に特例適用を回復するのが賢明です。これにより延滞税や無申告加算税を回避しつつ、控除や特例の恩恵を最大限活かせます。 家事や仕事で忙しい中、相続まで抱えるのは大変ですよね? この記事を読むことで、必要な書類やスケジュールがひと目でわかり、不安が減りスムーズに手続きを進められます。 【2025年最新版】遺産分割と相続税の完全ガイド|未分割申告・修正申告・節税対策までわかりやすく解説します。 1章 遺産分割と相続税の全体像を3分で把握 申告・納付までのタイムライン(死亡日→10か月)とペナルティ早見表 死亡日(0日)…相続開始 7日以内…死亡届を提出 4か月以内…準確定申告(個人の所得税) 10か月以内…相続税の申告・納付 10か月+1日以降…延滞税(年2.4~9.6% ※毎年国税庁告示により変動) 無申告の場合…無申告加算税5~20% ポイント:遺産分割がまとまらなくても、10か月という「時計」は止まりません。まずは期限を死守し、後から修正・更正で調整するのが王道です。 申告・納付までの流れ 死亡日を起点に10か月で相続税の申告と納付が完結しなければ延滞税の対象になります。延滞税率は年2.4〜9.6%で毎月加算されます。無申告の状態が続くと無申告加算税(5〜20%)も課されます。期限を越えた申告が「税額は同じでも不利益だけ増やす」仕組みを理解しましょう。 最初の二週間で戸籍収集と財産リスト作成に着手した家族は、期限内申告をほぼ達成しています。逆に一か月以上放置した家族は、相続人の意思疎通に時間を奪われがちです。タイムラインを可視化し、各タスクを逆算配置することで迷いが減ります。 基礎控除と法定相続分 基礎控除は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で計算します(相続税法21条の3)。配偶者と子二人なら4,800万円が課税ラインです。課税対象額が基礎控除を下回れば申告義務も納税義務も生じません。 法定相続分は民法900条に定められています。 配偶者のみ:100% 配偶者と子:配偶者2分の1・子2分の1 子のみ:子全員で均等 配偶者と直系尊属:配偶者3分の2・尊属3分の1 遺産分割が長引く五つの要因 相続財産の全体像が把握できず評価が遅れる 相続人の所在不明や連絡不通 不動産・自社株など分割困難な資産が多い 生前贈与や名義預金の処理が不明瞭 介護負担の偏りや長男・長女への遺産配分不満など感情的対立 親族が調停に持ち込む前に、期間を区切った協議とタスク管理表の共有を勧めます。 遺産分割とは?協議の流れと三つの方法 現物分割:そのまま引き継ぐ。評価差が出やすい。 代償分割:取得者が他相続人へ金銭で補填する。資金計画が鍵。 換価分割:売却して現金で按分。不動産売却益に課税。 現物分割よりも代償分割や換価分割の方が相続税の課税額を抑えられるケースが多いです。節税の可否は控除適用状況によるため、弁護士・税理士との事前試算を強く推奨します。 2章 まずは期限を守る!未分割申告と仮納税の完全手順 STEP1 課税価格の仮計算 戸籍一式と財産目録を基に法定相続分で案分した金額を出す。評価は路線価・倍率・残高証明・株価平均など公的資料に限定し、将来の更正へ備えて保存する。 STEP2 配偶者控除・小規模宅地等特例など相続税控除・特例の適用可否を整理 配偶者控除や小規模宅地等特例は分割完了が条件になるため、未分割申告では使えない。適用予定の控除を列挙し、「後日回復」欄を付けておくと修正計算が楽になる。 STEP3 必要書類をミニマムで準備 相続税申告書第一表 財産評価明細書 戸籍謄本一式 相続人代表者指定届 書類不足で受理が遅れると延滞税が加算されます。遺産分割協議書は未完成でも申告書自体は提出可能です。 STEP4 納税資金の確保 現金納付:預金の解約が最速 延納:5年(利子税1.6%)または10年(同3.6%) 物納:国庫が受け入れる資産に限る 延納利子は国税通則法完納基準割合に連動し、2024年以降上昇傾向にある。 STEP5 税務署へ申告・納付 提出先は被相続人住所地を管轄する税務署です。電子申告も対応していますが署名用電子証明書の取得に十日ほど要します。郵送申告の場合は消印日が提出日扱いとなります。 未分割申告のメリット・デメリット メリット デメリット 期限内申告で加算税を回避 控除・特例は後日回復 納税資金を先に確保できる 修正・更正の手続きが増える 3章 遺産分割成立後に行う修正申告・更正の請求 判断フローチャート 仮納税額より本来税額が高い→修正申告 仮納税額より本来税額が低い→更正の請求 期限・書類・手数料 区分 期限 主な書類 手数料 修正申告 法定申告期限から5年 修正申告書・計算明細書 0円 更正の請求 同左 更正の請求書・証拠資料 0円 小規模宅地等特例と配偶者控除の回復 相続税法69条の4で「申告期限後3年以内に分割した宅地」に限り特例を遡及適用できます。配偶者控除は同法19条の2が根拠となります。分割協議書原本及び不動産の登記事項証明書等を添付し、税務署の審査を経て相続税の還付金が振り込まれます。 4章 遺産分割パターン別の節税&資産最適化プラン 三つの分割方法の税務比較 現物分割:登録免許税と不動産取得税が個別に発生 代償分割:譲渡所得税が発生しない反面、贈与税の二重課税に注意 換価分割:譲渡所得税15.315%(所得税+住民税+復興特別所得税)が課税 評価・控除テクニック 路線価評価と倍率方式を比較し低い方を採用する 非上場株は類似業種比準価額または純資産価額で試算し、議決権調整を施す 取得費加算で相続税を譲渡所得の取得費へ加算し、課税所得を圧縮する 二次相続シミュレーション 配分 一次納税額 二次納税額 総額 配偶者60%・子40% 減少 増加 やや増 配偶者40%・子60% 中程度 中程度 最適 子100% 増加 0円 増 数字はモデルケース。配偶者の生活費と子のライフプランを加味して決定してください。 5章 必要書類・チェックリスト・スケジュール逆算表 協議書が不要になる四条件 相続人が一人 遺産が預貯金のみ 公正証書遺言に沿って分割 法定相続分で分ける意思が一致 提出書類チェックリスト 相続税申告書第一表 財産評価明細書 遺産分割協議書 印鑑証明書(相続人全員) 戸籍謄本一式 ガントチャート運用 相続税申告の進行管理には、ガントチャート形式のタスク管理表を活用すると効果的です。PDFに色分けしたタスク表を配置し、期限別で赤→橙→緑に変化させると進捗が直感的に追えます。 6章 トラブルを防ぐ交渉・調停マニュアル 連絡不通・精神障害相続人への対応 内容証明郵便で相続協議の交渉期限を通知し、返答が無い場合は、家庭裁判所への調停申立てを検討します。精神障害が認定された相続人には、後見人や保佐人の選任申立てを進めます。遺産分割調停に発展した場合、本人能力を補完し手続きを進める効果があります。 調停・審判の概要 申立先は被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。 平均所要時間は、調停の場合は6〜12か月、審判の場合はプラス3〜6か月です。 寄与分・特別受益が争点になった場合の整理手順 医療費の領収書、介護日誌、送金の履歴などを数値化した資料を用意した 各相続人へ送付し、認否を議事録に残した 結果を調停申立書や主張書面にて主張し、調停調書へ反映した 7章 ケーススタディで学ぶリアルな対処法 ケース 財産情報不明×連絡拒否 叔父の遺産で通帳を持つ代襲相続人が情報開示を拒否した。法定相続分で未分割申告し、家庭裁判所経由で金融機関に照会をした。その結果、残高が判明し、修正申告を実施した。延滞税は発生しなかった。 8章 よくある質問 未分割申告後に更正の請求はいつまで? 原則相続税の申告期限から5年ですが、遺産分割が行われた日の翌日から4か月以内の「更正の請求」という別の時計も動きます。 配偶者控除が使えなかった場合の救済策は? 3年以内の分割特例を活用し、更正の請求で還付を受けます。 税務調査で否認されやすいポイントは? 名義預金、過小評価、不記載資産など。証拠書類の網羅的な保存が防波堤になります。 9章 まとめ|期限内申告+後日修正で“損しない相続”を実現 10か月の申告期限を守れば延滞税と無申告加算税を防げる 控除や特例は後からでも回復可能 分割方法と二次相続まで見据えた設計が節税の核心 記録保存と速やかな専門家相談がトラブル防止の近道 相続手続きは期限と段取りがすべて。相続税申告期限内の対応と遺産分割の適切な進行管理が、家族の資産と安心を守る第一歩です。ぜひチェックリストを活用し、家族ごとの工程表を作成されてみてください。

2025.08.20

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遺留分はいつまで請求できる?時効の基本と今からできる対策を徹底解説

遺留分はいつまで請求できる?時効の基本と今からできる対策を徹底解説

相続の場面では、「長男が全財産を相続してしまった」「後妻だけが多く取得した」といった納得しづらいケースが少なくありません。法律上、一部の相続人には最低限の取り分が存在しますが、その権利を行使するには期限があります。期限を逃すと主張が通らず、もう取り返せない展開になりやすいです。 まずは「遺留分」とは何か、そして「いつまで主張できるか」を確認しましょう。 特に「1年」「10年」「5年」といった数字が重要になります。相続が開始して期間が経過している場合でも、まだ請求できる可能性はゼロではありません。早く判断して動くことで後々の後悔を減らせます。 以下の項目では、遺留分の基礎から請求期限、時効のしくみ、実際の交渉の進め方や内容証明の活用などをまとめます。法律の知識があまりない方でも読みやすいように意識しています。兄や後妻と正面から対立したくない人や、相続の手続きに時間を取れない人にとって、少しでも迷いをなくす参考になれば幸いです。 「遺留分って、いつまで請求できるの?」 「兄が全部相続したけど、本当に自分には何の権利もないの?」 そんな疑問を持った方に向けて、この記事では次のような内容をお伝えします。 遺留分を請求できる期限はいつまでか 「遺留分の侵害を知った時」とは何を基準にするのか 時効を止めるために必要な書類と正しい手続きの流れ 遺留分請求には法律で定められた消滅時効・除斥期間が存在し、請求できる期限が明確に決まっています。相続が始まってからの年数や、遺言を知ったタイミングによっては、もう請求できない可能性もあります。 とはいえ、「もうダメかも」とあきらめるのは早いかもしれません。判断の分かれ目になるポイントを押さえれば、自分の権利を守れるケースもあります。 家族と揉めたくないけど、不公平には納得できない。そう思っている方も多いですよね? この記事を読むことで、自分がまだ遺留分を請求できるのかが見えてきます。そして、今すぐ取るべき行動もはっきりしてきます。 読み終えるころには、「損をしないための一歩」を踏み出せるようになっているはずです。 遺留分請求の期限はいつまで?時効の起算点・注意点・今すぐ取るべき対策を徹底解説をしますので、ぜひ、最後まで読んでみてください。 遺留分とは?相続人の権利として知っておきたい基礎知識 遺産の配分では、被相続人が自由に決められるだけでなく、特定の相続人に最低限保証される取り分があります。これを遺留分と呼びます。例えば「亡くなった父が遺言書で長男だけに家や預金を全て譲ると書いている」ときでも、ほかの相続人に遺留分が認められる場合があります。 遺留分が認められる相続人とは まず誰がその権利を持つかを押さえます。 配偶者 子ども(実子・養子も含む) 孫などの直系卑属(子どもが先に亡くなっている場合) 父母などの直系尊属(子どもや孫がいない場合) 兄弟姉妹には遺留分はありません。例えば「自分は次男だが、後妻が全部を持って行った」といった場面でも、配偶者や子どもであれば主張できる可能性があります。 遺留分侵害額請求と減殺請求の違い 以前は「遺留分減殺請求」という制度があり、財産そのものを取り戻す方法が認められていました。法改正にて「遺留分侵害額請求」に移行し、侵害された分を金銭で取り返す手続きとなりました。不動産が絡む問題や第三者に渡った財産があっても、金銭を支払ってもらう形で解決しやすくなっています。 遺留分は「金銭請求中心」へ|法改正で何が変わったか? 2019年の民法改正で「減殺請求」から「侵害額請求」に移り、財産の直接返還より金銭補償が優先されるようになりました。不動産や株式などを巡る複雑な争いが簡略化しやすくなりましたが、遺留分の請求に期限がある点は変わりません。相続が始まって長期間が経つと「もう手遅れだった」という事態になりやすいです。 まず確認!遺留分の請求期限を整理|早見表とフローチャート付き 権利があっても期限を越えると請求できなくなります。以下のポイントを押さえましょう。 【早見表】あなたの遺留分はまだ請求できる? チェック内容 期限 注意点 親が亡くなった日からどれほど経過しているか 10年 相続開始日から10年過ぎると権利が消える 侵害を知ってからどれほど経過しているか 1年 遺留分が侵害されていると気づいて1年過ぎると請求できない 交渉後の金銭債権の時効 5年 和解や判決後に支払いが滞ると5年の消滅時効が進むことがある 【チャート式】請求期限の判断フロー 被相続人が亡くなった日はいつか 10年を超えているなら難しい 10年以内ならば、侵害を知った日を確認 知った日から1年を過ぎていないか 1年以内なら請求の余地あり 相続が始まって5年以上経っていても、侵害を具体的に知ったのが最近なら、まだ1年以内に収まる可能性があります。 判断に迷ったらどうすればいい? 戸籍謄本で被相続人の死亡日を正確に確かめる 遺言書やメモ、メールの送受信でいつ侵害を把握したかを確認する 法律相談で具体的な状況を伝えて、時効との兼ね合いを見てもらう 期限を思い込みで判断して諦める人もいます。詳しい資料をそろえて検討し、手遅れになる前に行動するほうが安心です。 遺留分請求には3つの時効がある|1年・10年・5年の違いを正しく理解 1年と10年に加えて、請求後に発生する5年の時効も意識したほうが安全です。 1年の消滅時効|「遺留分の侵害を知ったとき」からカウント 「兄がすべての遺産を相続した」と最近になって相続開始および遺留分侵害の事実を知った場合、その日から1年以内に行動しなければ時効が完成します。例えば父の死後3年経って初めて遺言書を見つけた際は、そこから1年以内に請求しないとアウトです。内容証明を送るなど、早めの形で主張しないと時効が進行します。 10年の除斥期間|「相続開始日」から起算 相続が始まった日から10年経ったら、遺留分はもう主張しづらいです。侵害を知ったタイミングが遅くても関係ありません。「親が亡くなってもうすぐ10年」と感じるなら急いだほうがいいです。 5年の金銭債権時効|請求後に生じる権利の時効 遺留分侵害額請求は金銭支払いを求める構造になっています。調停や裁判で金額が決まったあと、実際の支払いが行われないまま5年が経過することで、金銭債権が時効を迎える可能性があります。合意書や公正証書を作成して、滞納が起きたら再度請求の手順を踏むなど、定期的な管理が大切です。 時効ルールは法改正でどう変わった?過去との違いも解説 2019年の民法改正で「減殺請求」から「侵害額請求」に切り替わり、金銭請求が原則になりました。ただし、1年・10年という基本的な時間制限は前からあまり変わりません。実際には「侵害を知った日」がいつかをめぐって対立する場合が多いです。主観的な認識ではなく、客観的な証拠によって判断されることがあるので注意しましょう。 「時効の起算点」はいつ?|よくある誤解と実務判断の違い 1年の消滅時効は「侵害を知ったとき」からですが、その起算点がどこになるかで争いが起こります。 「知ったとき」の判断基準と注意点 相手から遺言書の内容や生前贈与の事実を知らされた日が基準になる場合が多いです。口頭で聞いただけだったり、知らされていないのに「勝手に気づいていたはず」と思われたりすると問題になります。メールの送受信や書面があると、時点をはっきり示しやすいです。 遺言の存在を知らなかった場合はどう扱われる? 兄が遺言書を保管しており、弟が気づかずに何年も過ぎた事例もあります。その場合でも、裁判では「本当に知らなかったのか」を厳しく見られます。実家から郵便物が届いていたかどうか、近所から連絡がなかったかなど、具体的な事情によっては「知ったとみなされる」展開もあるため要注意です。 起算点を証明するための資料とは(戸籍・通知書など) 被相続人の死亡日を示す戸籍謄本 遺言書の検認手続きの書面 口座凍結の連絡や遺産分割協議書のコピー 内容証明郵便の控え このような資料があると、いつから1年を数え始めるかを確定しやすく、実際の争いでは証拠として決め手になりやすいです。 よくある質問(FAQ)で疑問を先回り解決 相続が絡む問い合わせの中で、頻出する質問をまとめます。 口頭で伝えただけでも請求の意思表示になる? 法律上は口頭でも意思表示になります。けれど、後から「言ったのか言わなかったのか」で食い違う恐れが高いです。内容証明で送ると、発送日や内容がはっきり証明されます。時効中断を確実に狙うなら、書面を使うほうが無難です。 相手の住所がわからないときはどうする? 戸籍の附票で現住所を調べる 家庭裁判所で調停を申し立て、住民票を明らかにする 弁護士や役所を通じて情報を探す 住所が分からないままだと内容証明も送れません。期限が迫っているなら、まずは所在地の特定を急ぎましょう。 一度請求すればもう時効は止まるのか? 内容証明で請求すれば1年の消滅時効が中断される可能性があります。とはいえ、その後の交渉が何も進まず長期間放置すると再び問題が起きる場合もあります。交渉や合意の進み具合によって状況は変わりやすいです。 時効を過ぎてから請求された場合の対処法 「既に10年過ぎている」「1年を超えている」などの指摘がなされたら、まず本当に時効が完成しているか確認してください。起算点を誤解しているケースもあります。書類を突き合わせて明確化したうえで、必要に応じて専門家へ相談するのが安全です。 時効が絡んだ実際のトラブル事例と回避のポイント 現場では、時効のせいで権利を失ったり、思わぬ論点で対立したりする事例が見られます。 請求後に時効が進行していたケース 内容証明で請求して安心したものの、その後の交渉が停滞していたために追加の時効が完成してしまった事例があります。金銭を受け取るまで時間が空くと、5年の債権時効が進んでしまう恐れがあるからです。定期的に合意や支払いの状況を確認し、逃げられないようにしておくほうがいいです。 「遺言無効」の主張でも時効が止まらなかった事例 遺言無効を争っているあいだ、遺留分の請求を先延ばししていて時効を迎えた人もいます。無効かどうかは別問題で、遺留分の手続きはきちんと期限内に進めないとアウトになりやすいです。遺言自体を否定する場合でも、侵害額請求を並行して検討するほうが危険を減らせます。 後妻 vs 子ども…よくある対立構造 後妻が親の近くで介護していたケースで「財産管理を任され、父の預金を長い間自由に使っていた」といったトラブルが起こりがちです。放置しているうちに10年が経過すれば、権利を失う一方です。あまり感情を出したくないなら、弁護士を介してスムーズに協議を進めたほうが建設的です。 家族関係を壊さずに請求する方法はある? 文面を穏やかに書いた内容証明を使う 直接連絡を取りにくいなら、弁護士の名義で送る 金銭だけを請求する形なので、共有名義になる恐れが減る 親族内でもめたくないときは、冷静な書類のやり取りが有効です。 時効を止める正しい方法|内容証明郵便の書き方と注意点 時効対策としては、内容証明郵便で請求を通知しておく形が代表的です。郵便局の仕組みで書面の内容と発送日を証明してくれるため、言い逃れを抑えやすいです。 内容証明郵便の基本と送付方法 郵便局の窓口で「内容証明」を依頼する 同文を三通作成して押印(相手用・郵便局保管用・差出人保管用) 配達証明を付ければ相手が受け取った日も確認できる 文面は法律用語で固める必要はありません。いつ、誰に、何を請求するかをはっきり示すと伝わりやすいです。 請求先・財産・金額を明確にする書き方 宛名と住所を正しく書く どの財産が対象か(不動産や預貯金、株式など) 計算根拠(遺留分割合や評価額の内訳) 曖昧にせず、どれほどの金額を求めているかをきちんと提示しないと交渉が進まないです。 不適切な内容は無効扱いに?失敗しないためのチェックリスト 脅迫的な表現にしない 宛名や日付、請求内容に誤りがないかを再確認 署名捺印を忘れない 書面の不備でトラブルを招くと時間を浪費しやすいです。事前に下書きを作ってチェックするほうが安心です。 複数の請求先がいる場合のポイント整理 例えば親が再婚しており、後妻とその子どもが相続人になっているときは複数宛の請求が考えられます。それぞれに内容証明を送るか、代表者を決めて一括で送る形もあります。相続財産の全体像や法定相続分を把握したうえで、誰が何をどれだけ負担するのかを洗い出してから動くのがスムーズです。 遺留分請求の実務的な流れ|交渉から裁判までの全ステップ 全体像を把握しておくと、どの段階でどんな動きをするか計画を立てやすいです。 ステップ1:内容証明での意思表示 まず郵送で「遺留分を請求する」という事実を伝えます。相手が応じるなら、そのまま和解へ進む場合もあります。無視されたり拒否されたら、次の段階へ進行します。 ステップ2:当事者間の交渉 電話や文書のやり取りで金額や支払い方法を交渉しなくてはいけません。話し合いが困難な場合や、感情的となる場合には弁護士を入れて冷静に整理すると進展が見込めます。日ごろ忙しい人は無理に直接交渉せず、早期に依頼をしましょう。 ステップ3:合意書・和解書の締結 話し合いがまとまったら、書面化して署名捺印します。公正証書にすると相手が履行しない場合に強制執行がしやすいです。支払い時期や分割条件を具体的に定めておくと安心です。 ステップ4:調停・訴訟の申し立て 話し合いで折り合いがつかない場合は、家庭裁判所での調停や裁判所での訴訟に進みます。時間と費用はかかりますが、第三者が入って解決策を探すかたちなので、平行線を脱するには有効です。時効が切れる前に申し立てる必要があるため、余裕がないなら早めに検討してください。 弁護士に相談すべきタイミングと判断基準 自力で進めるか、専門家に任せるかで迷う方は多いです。費用との兼ね合いもあるため、状況を踏まえて決めましょう。 「時効ギリギリかも」と思ったら相談を急ぐべき理由 期限が近い段階で慌てると、書類作成や相手の住所調べなどに手間取ります。弁護士なら対応手順を素早く指示できるため、時効が完成する前に間に合わせやすいです。独力で遅れると取り返しがつかない恐れがあるので注意してください。 費用と対応範囲の目安|すべて任せたい場合の考え方 弁護士費用は請求金額や事件の内容によって変わります。着手金や成功報酬を合わせると負担はある程度かかりますが、得られる遺留分のほうが上回るなら検討に値します。裁判や調停の手配、書面作成、相手への連絡などを一括で頼めるのが利点です。 法律初心者でも安心して相談できる事務所選びのコツ 相続分野を扱う実績の多い専門家を探す 初回相談が無料の事務所を候補にする 電話やメール相談だけでなく、直接面談で丁寧に説明してもらう 見積りを先に出してもらい、費用を明確化する 疑問を率直に伝えられる弁護士なら、相続や遺留分が初めての人でも安心しやすいです。 自分の請求が通るか?を事前に見極めるには 戸籍や遺産目録があると計算が進みやすいです。さらに、相続開始日や侵害を知ったときの把握時点を明らかにしておけば、弁護士が時効との兼ね合いをスムーズに判断します。「請求できるか微妙」と思っても、専門家の視点では可能性があるかもしれません。迷ったら早めに確認を進めましょう。 まとめ|遺留分を請求するなら「今すぐ動く」が鉄則です 相続分の不公平を解消したい人は、期限を過ぎる前に着手するのが要です。周囲に遠慮しているうちに10年が過ぎると、遺留分は消えます。 「迷っているうちに時効」は実際によくある話 「後妻と口論は嫌だ」「兄と絶縁は困る」と思い、先延ばしにしていると手遅れになりやすいです。あとで「あのとき請求しておけばよかった」と後悔する例が多々あります。 請求の可否と期限はまず確認することから 相続が始まった日と、侵害を知ったタイミングを確実に把握して、1年や10年に該当しないかを最優先でチェックしてください。戸籍謄本や遺言関連の書面を集めるところから着手しましょう。 不安な場合は早めの相談で後悔しない選択を 家族との衝突が心配でも、期限切れになるともう取り返せません。逆に、初動をきちんとすれば家族関係を深刻にこじらせずに解決できる可能性があります。迷いがある方は、できるだけ早く弁護士などの相続専門家に相談し、自分の権利を守る最適な方法を確認しましょう。 この記事のまとめ 遺留分の請求には、「知った時から1年」「相続開始から10年」「請求後の金銭債権は5年」の3つの期限があります。 「知った時」とは、相続開始と遺留分侵害の両方を知った日を基準に判断されます。 内容証明郵便で意思表示を残すことで、時効を止めることが可能です。 時効が成立しているか不安な場合は、早めに確認・相談するのが安全です。 行動のすすめ 「まだ間に合うかも」と感じた方は、今すぐ時系列を整理して、請求の可否を確かめてみてください。不安があれば弁護士に相談することも検討しましょう。証拠の準備や書類の書き方についても、早めの対処がトラブルを防ぐ鍵になります。 さいごに 遺留分侵害額請求は、法律で認められた正当な権利です。気まずさや迷いがあっても、一歩踏み出すことで損を防ぐことができます。自分の立場や気持ちに折り合いをつけるためにも、行動するタイミングを逃さないようにしましょう。

2025.08.20

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借地権相続の完全ガイド|名義変更・相続税・地主トラブルを徹底解説

借地権相続の完全ガイド|名義変更・相続税・地主トラブルを徹底解説

 「借地権は相続放棄できるの?」「地主が土地を売却したら、自分の家はどうなるの?」こんな疑問を抱えている方は多いでしょう。  そんな疑問を持つ方に向けて、この記事では以下のような内容を解説します。 借地に建つ建物を相続したときの基本的な手続き 地主への連絡や名義変更の注意点 借地権の相続で起こりがちなトラブルとその対処法  借地権付きの建物を相続する場合、通常の不動産相続とは流れや注意点が異なります。特に、建物は相続しても土地は借りている状態のままになるため、相続人が今後どのようにその土地と関わっていくかを早めに整理しておくことが重要です。  「家は受け継いだけれど、土地の契約まではわからない」というケースが多く見受けられます。  この記事を読むことで、借地に建つ家を相続したときの流れや注意点を理解し、家族や地主と円満なやり取りが望めます。  それでは、さっそく詳しく見ていきましょう。 借地権とは 借地権と所有権との違い  借地権とは、他人が所有する土地を借りて、その上に自分の建物を建て、使用・収益する権利のことをいいます。これに対し、所有権は、土地そのものを所有し、使用・収益・処分のいずれも自由に行える完全な権利です。  借地権には主に「賃借権」と「地上権」という2つの類型があります。  賃借権は、土地を建物所有目的で借りる契約に基づく権利です。地主との契約関係が基本であり、通常は登記がなくても当事者間では有効ですが、第三者に対しては登記がなければ対抗できません。例えば、賃借権の登記をしていない場合、地主が土地を第三者に売却すると、その新しい所有者に対して土地の利用継続を主張することが難しくなる場合があります。  地上権は、物権として土地の使用を認められる権利であり、登記によって第三者にも対抗可能です。賃借権と異なり、登記があれば契約の有無にかかわらず、その効力がより強固になります。 借地権の種類  代表的なものは普通借地権(旧借地法を含む)と定期借地権です。普通借地権は、契約期間終了後も更新されやすい性質があります。地主からの正当な理由がない限り、一方的に契約終了としづらいです。  一方、定期借地権はあらかじめ契約期間を定め、その期間が終われば更新しないことを前提としています。例えば一般定期借地権(借地借家法22条)や事業用定期借地権(借地借家法23条)、建物譲渡特約付借地権(借地借家法24条)が挙げられます。  契約書で細かな条件を決めるため、終了時には建物を取り壊して土地を返還するケースが多いです。一時使用目的の借地権は短期の利用を想定した契約で、更新を前提としない点が特徴です。 借地権は相続の対象になる 原則、法定相続人への相続なら地主の許可は不要  借地権は、原則として法定相続人が当然に相続することができます。したがって、相続によって借地権を承継する場合、通常は地主(貸主)の新たな許可や承諾は不要とされています(借地借家法第10条等)。  地主が「契約は終了した」と主張する場面があっても、借地借家法により借地人は強い法的保護を受けているため、正当な理由がなければ一方的な契約終了や立ち退きを強制されることはありません。契約内容や借地の利用状況が適切であれば、引き続き土地を使用できるのが一般的です。  ただし、相続後に、「借地契約書の名義変更」「借地上の建物の所有者名義(登記)の変更」といった手続きが必要となる場合があります。  これらの手続きに際し、地主から、名義変更承諾料(いわゆる承諾料)を請求されることがあります。承諾料の要否・金額については、契約内容や地域の慣行により異なるため、地主との協議が必要となるケースが多いです。地代の何か月分を目安とする地域もあれば、形式的な変更として無料で済む地域もあります。 地主の許可が必要な主なケース  借地権を法定相続人以外の者に遺贈したり、第三者に売却する場合には、地主(貸主)の承諾が必要となるケースが多くあります(借地借家法第19条等)。たとえば、兄弟や友人、内縁の配偶者など、法定相続人でない者に承継・譲渡する場面では、地主の同意を得ることが求められます。地主の承諾を得ずに譲渡や遺贈を行うと、契約違反とみなされ、契約解除の理由とされる可能性もあります。  また、借地上の建物を増改築又は建替えをする際も、「増改築は地主の事前承諾を要する」といった条項が定められていることが多くあります。  地主が承諾を拒否した場合でも、行き詰まるわけではありません。一定の条件を満たす場合には、借地借家法第17条に基づき、家庭裁判所に「借地条件変更許可の申立て」を行うことが可能です。承諾が得られないことが合理的理由がなく不当と考えられる場合に、借地人の立場を考慮して条件の変更(例:譲渡や建替えの許可)を認めるかどうかを判断する制度です。 借地権の相続放棄や中途解約は可能か?  相続放棄とは、借地権を含めた相続財産を受け取らないことを家庭裁判所に申述する手続きです。借地権だけを放棄して他の財産を取得する、ということは原則として認められていません(民法921条等)。被相続人の死亡を知った日から3か月以内に申述を行う必要があります(民法915条)。期限内に判断しないと、単純承認(すべて相続する)とみなされる可能性がありますので注意が必要です。  一方、借地権を相続した後に、借地契約を中途解約したいというケースもあります。しかし、借地権は当事者間の契約に基づく権利関係で、一方的に解約することは基本的にできません。 中途解約を希望する場合でも、契約内容、借地借家法の適用、建物の存否(借地権の存続要件)などの要素を十分に検討する必要があります。 借地権の相続手続きの流れ  借地権相続の流れは、大まかに3ステップに分けられます。1書類準備、2地主との連絡、3税務手続きという形です。ここでは各ステップで必要な要素を一覧にまとめます。 ステップ 内容 必要書類・費用目安 期間の目安 ステップ1 建物の名義変更(相続登記) 戸籍謄本、遺産分割協議書など 1~2か月 ステップ2 地主への連絡・契約更新 借地契約書、身分証明書など 交渉次第 ステップ3 相続税の申告 路線価図、借地権割合資料など 相続発生から10か月 建物の名義変更(相続登記)  2024年4月1日から、相続登記が義務化されました。これにより、不動産を相続した相続人は、被相続人の死亡を知った日から3年以内に相続登記を行う義務があります(不動産登記法第76条の2等)。正当な理由なく登記を怠ると、10万円以下の過料が科される可能性があります。  相続登記を申請する際には、「被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本」、「相続人全員の戸籍謄本・住民票」、「不動産の固定資産評価証明書」、「遺産分割協議書(相続人全員の署名・押印が必要)」、「登記申請書」といった書面が必要です。  相続人間で遺産分割協議が成立していない場合には、相続登記を進めることができません。協議が難航する場合は、弁護士に相談し、早めに対応することを考えましょう。 地主への連絡・契約更新  普通借地権(借地借家法第3条)の場合、契約期間が満了しても、借地人が建物を所有している限り、自動的に更新されることが多いとされています。もっとも、上述のとおり、名義書換料(いわゆる承諾料)の請求や、修繕や利用状況の確認に関する連絡は必要です。  一方、定期借地権(借地借家法第22条)は、期間満了をもって確実に終了する契約形態です。更新が認められないケースも多く、原則として再契約が必要となります。期間の満了が近づいた段階で、地主と再契約の可否や条件について早めに協議を始めることが重要です。 相続税の申告  相続発生後には、10か月以内の対応が必要です。  借地権が関係する相続の場合、通常の土地とは異なる評価方法(路線価図で算出した自用地評価額に借地権割合を乗じる方法など)が用いられます。  借地上の建物を第三者に貸しているようなケースでは、借家権割合を差し引く必要が生じる場合もあり、評価計算が複雑になります。このような煩雑な計算や相続税申告書類の作成は、税理士に依頼することでスムーズに進めやすくなります。 借地権の相続税・評価方法 借地権割合と評価額の計算  借地権割合は、路線価などから確認します。例えば、自用地評価が3,000万円、借地権割合が60%の場合には1,800万円が借地権の評価額になります。さらに借家人を入れて賃貸している場合は、(1 – 借家権割合)を掛ける式を用いるときがあります。  例えば家賃収入を得ている建物があり、借家権割合が30%なら、借地権評価額×(1 – 0.3)で算出するといった形です。数字を当てはめるとわかりやすいので、財産目録を作る段階で専門家に概算を聞くと安心です。 定期借地権・一時使用目的の借地権の場合  定期借地権の評価は期間限定で土地を使う権利なので、自用地評価から一定の減価計算を行います。期間に応じて評価額が変わるため、契約書の確認が重要です。一時使用目的の借地権は評価ゼロとなるパターンも存在します。例えば、工事現場の資材置き場として短期利用するケースが典型といえます。  期限付きで終了が確定している契約かどうかで相続税の計算が大きく変わるので、定期借地権の契約内容は必ず読み直しましょう。 借地権付き建物の売却・譲渡  第三者へ売却するなら、地主の承諾が鍵になります。  地主が承諾せず名義変更料の提示があっても折り合いがつかない場面もあります。名義変更料が借地権価格の10%前後とされる地域もあれば、もっと少額のこともあります。  地主に買取を依頼すると、土地と建物の一体売却が楽なケースもありますが、地主が高額な金額を支払うかどうかはわかりません。地主が底地を手放す方針だった場合は、逆に自分が底地を買い取るパターンもあるでしょう。 借地権を相続する上での注意点 家族・兄弟間のトラブル防止  共有名義で引き継いだ後、意見が噛み合わず手続きが進まない事態は起こりやすいです。親の家を複数の相続人で共有した場合、建替えや売却の判断を多数決で決めようとする場面で対立が表面化します。  遺産分割協議をスムーズに進めるには、借地権の評価を正確に把握し、誰がどの財産を取るかを公平に決める話し合いが大事です。 地主との良好な関係を保つコツ  地代や更新料の支払いを怠ると、地主側の心証を悪くしやすいです。契約書に定められた支払い期限を守り、増改築の相談が出たら早めに地主へ連絡すると安心です。  円満に進めるコツは、手紙やメールで状況を丁寧に伝え、合理的な根拠を用意することです。値上げを提案されたら近隣相場を比較する資料を示して、交渉を進めましょう。 借地権の転貸や建物の改築  契約に「転貸は禁止」と書かれている場合は、転貸に踏み切ると契約違反になります。また、建物を増改築するときは、構造を大きく変更することがあるので、地主の同意を得ないまま工事を始めるのは避けるべきです。 【実例】相続にまつわるケーススタディ  ここでは3つの事例を示します。状況によって対処の仕方が変わるので、自分のケースに近い部分を参考にしてください。 ケース①:姉妹3人が相続した借地権を更新したい  姉妹3人が借地権付きの実家を相続したケースです。借地権の更新を控え、長女が代表して地主との交渉を進めようとしましたが、次女と三女の間で意見がまとまらず、話し合いが難航していました。  長女は、実家に足を運ぶ機会も多く、これまで地代も立て替えて支払っていました。一方、次女・三女は、今後の資金負担に消極的で、費用負担の在り方が主な争点となりました。  最終的に、3人で弁護士事務所を訪れ、弁護士の助言のもと、地代や修繕費などの費用負担割合、将来の修繕計画を明確にした契約書を作成しました。そのうえで、地主にも正式に挨拶し、承諾料についても3人で均等に支払うことで合意。公平性を重視した対応により、家族関係の悪化も避けることができました。 ケース②:借地権を親子で保有、離婚時に財産分与  夫婦が結婚後、夫の父親から借地権の一部を贈与され、残りは父親が引き続き保有するという形で、親子間で借地権を共有していた事例です。離婚に際して、この借地権をどのように財産分与するかについて、夫婦間で意見が対立しました。  相談を受けた司法書士は、借地権の名義変更に伴う地主の承諾や承諾料の要否、名義変更後の固定資産税や譲渡所得税のリスクなどを含めて、複数のシナリオを提示しました。その上で、税負担が発生しない範囲内での調整案として、妻が借地権を取得し、夫の父が一部の地代や更新料を負担する内容で合意が成立しました。  結果として、名義変更手続や契約内容の再確認に一定の手間はかかりましたが、大きな費用負担や税金の発生を避けつつ、スムーズに財産分与を完了することができました。 ケース③:借主が行方不明で賃料滞納、借地権は放棄扱い?  土地を貸していたところ、借主が建物を取り壊したまま行方不明に。数年間にわたり地代の支払いがなく、連絡も一切取れない状況が続いていました。その後、貸主に相続が発生し、相続人が土地の売却を検討しましたが、契約上は依然として借主が借地権を保有している可能性がありました。  このような場合、借地権が放棄されたとみなせるかどうかが問題となります。借地借家法や過去の裁判例を精査した上で、借主が借地権を事実上放棄したと推定できる状況証拠を収集しました。  その結果、借主の権利はすでに消滅したと判断され、法的手続を経て問題なく土地の売却が実現できました。 借地権の相続についてよくある質問(Q&A) Q1. 借地権は相続放棄できる?  相続放棄をすれば、借地権も含めて一切を放棄する動きになります。借地権だけを選んでやめるパターンは普通は成り立ちません。相続の発生から3か月以内に家庭裁判所で手続きを済ませる必要があります。 Q2. 借地に固定資産税はかかる?  一般的に、固定資産税は土地の所有者(地主)が納税義務者となります。したがって、借地人(借主)が土地部分の固定資産税を直接納めることは通常ありません。借地人は土地を所有していないため、税法上の納税義務者は土地の所有者だからです。  一方で、借地上に建てられた建物の固定資産税は、その建物の所有者(借地人)が納めます。建物の所有者は借地人であるため、建物にかかる税金の負担は借地人の責任となります。  また、地主が固定資産税相当額を地代に含めて徴収するケースもあります。つまり、借地人が実質的に土地の固定資産税分も負担している場合があるため、契約内容をよく確認することが重要です。 Q3. 借地契約を途中で解約したい場合は?  契約期間内に借地契約を解約するには、地主との合意が必須です。一方的にやめると、違約金や建物撤去費用で争いが長引きやすいです。交渉の材料として、建物の買い取り交渉を提案するなど、複数の選択肢を検討する動きが考えられます。 Q4. 地主が底地を売却したらどうなる?  底地が第三者に渡ると、契約相手が変わります。借地契約自体はそのまま引き継がれるので、普通借地権であれば更新権利も保護されるでしょう。ただし、新しい所有者と条件を再度整理する可能性はあります。地代の値上げ交渉が行われるときは、近隣相場や契約期間の長さなどを踏まえ、交渉を進める段取りが求められます。 Q5. 借地上の建物を貸し出すことは可能?  契約に「転貸禁止」が入っていると、第三者へ貸すときに地主の同意が必要です。許可が取れず黙って転貸すると、契約違反でトラブルが起きやすいです。建物だけを貸す形でも、土地利用権の実質的な移転と見なされる場合があります。 Q6. 地主からの底地買取依頼には応じるべき?  地主が「底地を買い取ってほしい」と提示することがあります。地代収入より一時金を得たい地主がそういう提案をもちかけることはあります。借地人が底地を取得すると土地の所有者になり、地代を払い続ける必要がなくなります。ただし、資金負担が大きいので、住宅ローンを利用できるかや相続税の増加リスクなどを総合的に判断する動きが大切です。 まとめ:借地権相続は早めに専門家へ相談を 専門家を活用するメリット  弁護士は地主や共有者との交渉で法的知識を使い、トラブルの拡大を防ぎます。税理士は相続税や譲渡所得税の計算を見直し、過度な負担を減らせる手段を提案します。家族が多い場合や、地主との意向がすれ違うときに、専門家が入ると話がスムーズになりやすいです。 家族間・地主とのトラブルを防ぐポイント  深刻な対立に発展する前に、弁護士などの第三者と相談して道筋を考えるほうが良いです。書類や契約のコピーをそろえ、地主との過去のやりとりも整理しておきましょう。無料相談窓口を活用し、費用の見通しを最初に聞くと安心です。相続人同士で認識を合わせ、地主にも誠実な態度を示すことが円満化の近道です。  さまざまな手続きを踏む必要はありますが、主体的に準備すれば負担を軽くできるでしょう。最後まで読んでくださりありがとうございました。借地権相続で生じる心配を減らすには、早めに行動を始めるのがおすすめです。専門家との連携も頭に入れ、家族が納得できる形で相続をまとめてみてください。 借地権は建物を所有しながら土地を借りる権利であり、相続の対象になります。 相続時は名義変更や地主との連絡、税務手続きが必要で、法定相続人であれば原則として地主の許可は不要です。 相続放棄や借地権の売却・譲渡には注意点が多く、契約内容や地主の承諾が大きな鍵となります。 手続きや評価が複雑なため、家族間のトラブル防止や地主との関係維持のためにも、専門家への相談が推奨されます。 実際の事例からも、相続人同士や地主との関係性によってスムーズな相続の可否が左右されることが分かります。  借地権の相続は一般的な不動産とは異なり、法律・税務・人間関係の知識が求められる場面が多くあります。この記事を参考に、今後の手続きや交渉の準備を早めに始めましょう。  専門家の助言を得ながら、円滑な相続と家族・地主との良好な関係構築を目指してください。

2025.08.20

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誰でもできる相続人調査|基本の流れと「これだけは」押さえるべきポイント

誰でもできる相続人調査|基本の流れと「これだけは」押さえるべきポイント

「先日、父が亡くなって、相続の手続きを進めなければならないのだけど、何から手をつけていいか全く分からなくて…」 「『相続人調査』という言葉を初めて聞いたけど、一体何をどうすればいいのか…」  大切なご家族を亡くされたばかりで、心身ともにお辛い中、聞き慣れない「相続」という言葉を前に、大きな不安を感じていらっしゃることと存じます。預金の解約、不動産の名義変更、様々な手続きが必要な中で、全ての土台となるのが「相続人調査」です。  この記事は、まさに今、そんな途方に暮れるような気持ちでいらっしゃる、あなたのためのものです。  相続人調査の基本、自分でできる調査方法と専門家に依頼すべきポイントを整理したこの記事を、上から順にゆっくりと読み進めていただくだけで、以下のポイントが分かります。 相続人調査の全体像と、なぜ「絶対に」必要なのかが、心の底から納得できます。 ご自身の状況で「自分で調査すべきか、専門家に任せるべきか」という最初の大きな悩みが、明確になります。 自分で調査する場合の具体的な手順が理解できます。 費用や時間の無駄なく、スムーズに手続きを終えるためのコツが身につき、賢く立ち回れるようになります。 そして、ご自身で進める上で一番気が重い「会ったこともない相続人」への、失礼のない誠実な対応方法までわかります。 【大前提】相続人調査とは? なぜ絶対に必要不可欠なのか 「そもそも、相続人調査って必ずやらないといけないものなの?」  相続手続きを前にしたほとんどの方が、最初に抱く疑問です。 結論から申し上げますと、相続人調査は、絶対に省略できない、最も重要な手続きです。 相続人調査とは 相続人調査とは、亡くなった方の法律上の相続人(法定相続人)を戸籍にて証明するための調査です。  相続手続きとは、いわば「亡くなった方の財産を、法律で定められた正しい人たちへ引き継ぐ」ための公式な手続きです。  その際、あなたが「相続人は、母と私と弟のはず」と思っていても、その“思い込み”だけでは、銀行や法務局などの手続き窓口では、戸籍による客観的な証明がない限り、一切手続きを進めてくれません。  「戸籍謄本(こせきとうほん)」という、国が管理する公的な書類を使って、「法律上の相続人は、間違いなくこの人たちです」と客観的に証明する必要があります。この、戸籍を遡って相続人全員を洗い出し、確定させる一連の作業こそが「相続人調査」なのです。 【超重要】相続人調査を怠ると起こる3大リスク  もし、この相続人調査を「面倒だから」と省略したり、不十分な知識のまま進めたりすると、後で取り返しのつかない事態に陥る可能性があります。具体的に、どのようなリスクがあるのかを見ていきましょう。 リスク1:遺産分割協議が“無効”になり、全てが白紙に戻る  これが最も恐ろしいリスクです。相続人調査が不十分なまま、「残された母と子供たちだけで遺産の分け方を決めよう」と話し合い(これを遺産分割協議といいます)、全員が納得して実印を押したとします。  しかし、その1年後、相続人調査をやり直したところ、「実は、亡くなった父には離婚歴があり、前の配偶者との間に子が一人いた」という事実が判明したらどうなるでしょうか。  先妻の子を抜きにして行われた遺産分割協議は“無効”となります。せっかく決まった合意は全て白紙に戻り、新しく見つかった相続人を交えて、一から話し合いをやり直さなければなりません。  既に分けてしまった財産をどうするのか、話がこじれて裁判に…なんてことにもなりかねないのです。 リスク2:あらゆる相続手続きが完全にストップする  亡くなった方の銀行口座を解約したり、実家の土地・建物の名義をご自身の名義に変更(相続登記)したりする手続きの際、必ずと言っていいほど、以下の書類の提出を求められます。 亡くなった方の、出生から死亡までの連続した戸籍謄本一式 相続人全員の、現在の戸籍謄本  このうち、一つでも戸籍が不足していたり、連続性が証明できなかったりすれば、窓口で「申し訳ありませんが、これでは受け付けられません」と書類を突き返されてしまいます。  平日にやっとの思いで休みを取って役所や銀行へ行っても、たった一枚の書類が足りないだけで手続きは完全にストップし、また日を改めて出直す…そんな徒労を繰り返すことになってしまいます。 リスク3:予期せぬ親族トラブルに発展し、心労が絶えなくなる 【実際の相談事例より】  「父が亡くなり、相続人調査を進めています。どうやら父には前妻がいたようなのですが、そこに子供がいるかどうか分かりません。もしいるとしたら、どのように連絡を取ればいいのか…考えただけで胃が痛くなります」  このように、相続人調査を進めた結果、これまで存在すら知らなかった相続人が見つかることがあります。相手がどんな人で、どんな生活をしているのか全く分からない状況で、いきなりお金が絡む「相続」の話を切り出すのは、想像するだけで大変なストレスです。  切り出し方一つで相手の感情を逆なでしてしまい、本来なら円満に解決できたはずの話が、深刻なトラブルに発展してしまう可能性もゼロではないのです。 「うちは一人っ子だから大丈夫」という思い込みが最も危険  「うちは父と母と私だけの家族で、私は一人っ子。相続人は母と私だけだから、調査なんて必要ないわよね?」 そう思われるお気持ちは、痛いほどよく分かります。しかし、相続の世界では、その「大丈夫だろう」という思い込みこそが、後々の大きなトラブルの火種になるのです。  ご自身が全く知らなかったとしても、 お父様に、ご結婚前の離婚歴があり、前妻との間に子がいた あなたが生まれる前に、養子縁組をしていた 結婚はしていなかったが、認知している子がいた  といった可能性は、戸籍をきちんと出生まで遡って確認しない限り、誰にも断定できません。「相続人は自分たちだけ」と信じて手続きを進めた数年後、突然、弁護士から「遺産分割のやり直しを求めます」という内容証明郵便が届く…そんな映画のような話も、現実に起こり得ることなのです。  「大丈夫だろう」と考えるのではなく、「万が一の可能性に備えて、念のために確認する」という姿勢が、あなたの大切なご家族を将来の不安から守る何よりの“お守り”になるのです。 【最初の分岐点】自分でやる?専門家に任せる?後悔しないための判断基準  「調査の重要性は分かったけど、これを全部自分でやるのは、やっぱり大変そう…」そうですよね。ここが、相続手続きにおける最初の、そして最大の悩みどころです。「できるだけ費用は抑えたい」という気持ちと、「時間や手間、精神的な負担は避けたい」という気持ちの間で、心が揺れてしまいますよね。  どちらが正解ということはありません。大切なのは、あなたの今の状況を客観的に見て、ご自身にとって最適な選択をすることです。そのための判断材料を、ここで具体的にご提供します。 メリット・デメリットを一覧比較  ご自身でやる場合と、専門家に依頼する場合のメリット・デメリットを、もう少し詳しく見てみましょう。 自分でやる場合 専門家に依頼する場合 メリット ①費用を最小限に抑えられるかかるのは戸籍の発行手数料や郵送料といった実費のみ。専門家への報酬は一切かかりません。 ①正確で漏れがない専門家に依頼することで戸籍の見落としや解釈ミスのリスクが大幅に減り、法的に正確な調査結果が期待できます。 デメリット ②相続に関する知識が身につくご自身の力でやり遂げることで、今後の人生にも役立つ法律や手続きの知識が身につきます。 ②時間と手間が一切かからない面倒な役所とのやり取りや、難解な戸籍の解読から解放されます。あなたは専門家からの報告を待つだけです。 ①膨大な時間と手間がかかる役所の開庁時間は平日の昼間のみ。郵送でのやり取りも合わせると、全ての戸籍が揃うまで1〜2ヶ月以上かかることも珍しくありません。 ①報酬(費用)がかかる専門家への依頼料として、数万円〜十数万円の費用が発生します。 ②見落としのリスク慣れない作業のため、必要な戸籍の取得漏れや、古い戸籍に書かれた重要な情報を見落としてしまう可能性があります。 ②専門家選びに失敗するリスク経験が浅かったり、相性が悪かったりする専門家を選んでしまうと、スムーズに進まない可能性もあります。 【要確認】1つでも当てはまれば専門家への依頼を強く推奨するケース  以下のケースに1つでも当てはまる場合は、ご自身で進めることのデメリットが非常に大きくなるため、専門家への依頼を強くおすすめします。  一見、費用がかかるように思えても、その後の時間的・精神的な負担や、トラブルの深刻化を考えれば、結果的に「一番安くて確実な方法」だったと実感される方がほとんどです。 相続人の数が多い、または行方不明者がいる  相続人が4〜5人以上になると、全員の戸籍を集めるだけでも大変な作業です。また、連絡先が分からない、長年音信不通といった相続人がいる場合、その方の住所を調査する「戸籍の附票(こせきのふひょう)」という住所の移り変わりを記載した書類の取得など、さらに専門的な調査が必要になります。 被相続人に離婚歴や養子縁組、転籍が多い  離婚や転籍を繰り返している方は、戸籍の数が10通以上に及ぶこともあります。一つの戸籍を読み解き、次の役所へ請求し…という作業を何度も繰り返すのは、想像以上に骨の折れる作業です。 古い戸籍が手書きで、内容が全く読み解けない  戦前などに作られた「改製原戸籍(かいせいげんこせき、かいせいはらこせき)」は、達筆な毛筆で書かれており、旧字体の漢字も多用されています。これを正確に読み解くには、専門的な知識と経験が必要です。 親族と疎遠、または既に揉めている  【実際の相談事例より】「疎遠だった叔母から、祖父の相続のことで突然、実印を送るよう言われた。遺産分割協議書の内容を見せてほしいと頼んでも拒否されており、不信感しかない…」このような場合、当事者同士で話を進めるのは極めて困難です。専門家が中立な立場で間に入ることで、冷静な話し合いが可能になります。 平日に役所へ行く時間が全くない、または精神的に余裕がない  パートやお家のことで忙しい中、慣れない手続きのために時間を割くのは大変なことです。また、ご家族を亡くされた直後で、精神的にとてもそんな余裕はない、という方も少なくありません。無理は禁物です。 【実践編】自分でやる場合の全手順|戸籍収集から相続人確定まで  ここからは、具体的な手順を4つのステップに分けて、写真や図をたくさん使いながら、できるだけ分かりやすく解説していきます。  この通りに進めれば、あなたも必ずゴールにたどり着けます。 STEP1:調査の範囲を理解する(法定相続人のルール)  まず、法律で「誰が相続人になるのか」という基本的なルールを知っておきましょう。これを法定相続人といい、相続できる人には優先順位が決められています。 法定相続人の優先順位 常に相続人になる:配偶者  亡くなった方の夫または妻は、常に相続人となります。 第1順位:子、およびその代襲相続人(孫など)  亡くなった方に子がいる場合、子が相続人となります。もし、子が既に亡くなっている場合は、その子、つまり孫が代わりに相続人となります(これを代襲相続といいます)。 第2順位:直系尊属(親、祖父母など)  亡くなった方に、子や孫といった第1順位の相続人が一人もいない場合に限り、親(父母)が相続人となります。親も既に亡くなっている場合は、祖父母が相続人となります。 第3順位:兄弟姉妹、およびその代襲相続人(甥・姪)  第1順位(子・孫)も第2順位(親・祖父母)も一人もいない場合に限り、亡くなった方の兄弟姉妹が相続人となります。兄弟姉妹が既に亡くなっている場合は、その子である甥・姪が代襲相続します。  このルールを知っておくことで、これから集める戸籍で「誰の情報を重点的に確認すべきか」が見えてきます。 STEP2:戸籍謄本を収集する(出生から死亡まで)  ここが相続人調査のメイン作業です。焦らず、一つひとつ着実に進めていきましょう。 なぜ「出生まで」遡る必要があるのか?  「死亡した時の戸籍だけじゃダメなの?」と思われるかもしれません。しかし、それでは不十分なのです。  人が結婚して新しい戸籍を作ったり、他の市区町村へ引っ越して本籍地を移したり(これを転籍といいます)すると、その都度、新しい戸籍が作られます。その際、以前の戸籍に書かれていた「離婚歴」や「認知した子の情報」といった重要な情報の一部が、新しい戸籍には書き写されないことがあるのです。  そのため、亡くなった方の「出生から死亡までの、一度も途切れることのない全ての戸籍」をパズルのピースのように集めて初めて、「隠れた相続人は一人もいません」と完璧に証明できるのです。 3種類の戸籍を理解しよう  戸籍集めの過程で、あなたは主に以下の3種類の戸籍を目にすることになります。見た目は少し違いますが、どれも重要な情報が詰まっています。 戸籍謄本(こせきとうほん) 「現在戸籍」とも呼ばれ、今、現在使われている形式の戸籍です。 除籍謄本(じょせきとうほん) その戸籍に記載されていた人が、結婚や死亡、転籍などで全員いなくなった状態の戸籍です。いわば「空になった戸籍の記録」です。 改製原戸籍(かいせいげんこせき、かいせいはらこせき) 法律の改正によって、戸籍の様式が作り変えられる前の、古い様式の戸籍です。多くは縦書きで、手書き(毛筆)で書かれています。読み解くのが一番大変ですが、重要な情報が眠っていることも多いです。 戸籍収集のロードマップ 戸籍は、現在のものから過去へと、一つひとつ遡って請求していきます。 スタート地点: まずは、亡くなった方の「最後の本籍地」を管轄する市区町村役場へ行きます。 取得①: そこで、「〇〇(亡くなった方の氏名)の、出生から死亡までの戸籍を全てください」と伝えます。そうすると、まずその役所にある最も新しい「死亡の記載がある戸籍謄本」を交付してくれます。 読み解き: ①で取得した戸籍謄本をよく見ると、「【戸籍事項】」という欄に、「どこからこの戸籍に移ってきたか(これを従前戸籍といいます)」が書かれています。 次の目的地へ: 次は、その「従前戸籍」が置かれていた市区町村の役所へ請求します。(同じ役所内の場合もあります) 繰り返し: ③と④を、戸籍に「出生」の記載が現れるまで、何度も繰り返します。最終的に、亡くなった方が生まれた時の戸籍にたどり着けば、過去への旅は完了です。 具体的な取得方法:窓口と郵送 窓口で取得する場合 役所の開庁時間(通常は平日の8:30〜17:15頃)に行けるのであれば、窓口で直接取得するのが一番早くて確実です。担当者に分からないことを直接聞けるのも大きなメリットです。 <持ち物リスト> 交付申請書(役所の窓口に置いてあります) あなたの本人確認書類(運転免許証、マイナンバーカードなど顔写真付きのもの) 手数料(1通あたり、戸籍謄本は450円、除籍・改製原戸籍は750円) あなたと亡くなった方との関係がわかる戸籍謄本(請求先の役所にあなたの本籍がない場合に必要です) 印鑑(認印で構いません) 郵送で請求する場合 本籍地が遠方で行けない場合や、平日に時間が取れない場合は、郵送で取り寄せることができます。少し時間はかかりますが、非常に便利な制度です。 <郵送請求の手順> 申請書の入手: 請求したい市区町村役場のホームページから、「戸籍郵送請求申請書」をダウンロードして印刷します。 手数料の準備: 手数料は、現金ではなく「定額小為替(ていがくこがわせ)」で支払います。これは郵便局の窓口で購入できます。「750円分の定額小為替をください」と伝えればOKです。多めに請求して、お釣りを為替で返してくれる役所もあります。 返信用封筒の準備: あなたの住所・氏名を書いた封筒を用意し、切手を貼ります。戸籍は複数枚になることが多いので、少し大きめの封筒と、多めの切手(120円や140円)を貼っておくと安心です。 本人確認書類のコピー: 運転免許証やマイナンバーカードの表裏をコピーします。 郵送: 上記の「申請書」「定額小為替」「返信用封筒」「本人確認書類コピー」を一つの封筒に入れ、役所の担当課(通常は「市民課」「戸籍係」など)宛に郵送します。 STEP3:戸籍を読み解き、相続人を特定する  苦労して集めた戸籍の束。特に、ミミズが這ったような文字で書かれた古い戸籍を前に、途方に暮れてしまうかもしれません。ですが、安心してください。見るべきポイントは決まっています。 【編製日】と【事由】  戸籍の一番上の方に書かれています。この戸籍が「いつ」「なぜ」作られたのかが分かります。「法律の改正により」「〇〇から転籍により」といった記載が、戸籍を遡るヒントになります。 【身分事項欄】  これが最も重要な部分です。一人ひとりの名前の欄に、「出生」「認知」「養子縁組」「婚姻」「離婚」といった、人生の節目となる出来事が記録されています。ここに、あなたの知らない子の「認知」や、前妻との「離婚」といった記載がないか、じっくりと確認します。 【父母欄】と【続柄】  その人が「誰の子として生まれたのか」、戸籍の筆頭者から見てどういう関係(長男、二女など)なのかが分かります。 【除籍日】と【事由】  名前の横にバツ印がついていたり、「死亡により除籍」「婚姻により除籍」といった記載があったりします。これにより、その人が現在もその戸籍にいるのか、それとも亡くなったり、結婚して別の戸籍に移ったりしたのかが分かります。 STEP4:相続関係説明図を作成する  全ての戸籍を読み解き、相続人全員が確定したら、その関係性を一覧できる図を作成します。これを相続関係説明図と呼びます。これは、後の相続手続き(特に不動産の名義変更)で法務局に提出すると、提出した戸籍の束を全て返却してもらえるという大きなメリットがあります。 <書き方のポイント> パソコンが苦手でも全く問題ありません。白い紙にボールペンで、丁寧な字で書きましょう。 亡くなった方(被相続人)と相続人全員について、氏名、生年月日、死亡年月日、続柄を記載します。 関係性を線で結び、誰が見ても家族関係が分かるようにします。 最後に、「上記のとおり相違ありません」と書き、ご自身が署名・押印します。 【時短テクニック】集めた戸籍を1枚にまとめる「法定相続情報証明制度」  ここで、非常に便利な制度を一つご紹介します。それが「法定相続情報証明制度」です。これは、一度集めた戸籍一式と、ご自身が作成した相続関係説明図を法務局に提出すると、登記官がその内容を証明し、「法定相続情報一覧図」という公的な証明書を無料で発行してくれる制度です。 <最大のメリット>  この「法定相続情報一覧図」の写しが1枚あれば、その後の銀行や証券会社、保険会社などの複数の手続きで、あの分厚い戸籍の束を何度も提出する必要がなくなります。  特に、取引のある金融機関が多い方にとっては、時間と手間を大幅に節約できる、まさに切り札ともいえる制度です。ご自身で手続きを進める方は、ぜひ利用を検討してみてください。 【依頼編】専門家探しの全知識|費用と失敗しない選び方 「やっぱり、戸籍を読んだり、役所とやり取りしたりするのは自分には荷が重すぎる…」 「費用をかけてでも、プロに任せて、確実で安心できる方法を選びたい」  専門家への依頼は時間と心の平穏を“買う”ための、前向きな選択です。ここでは、後悔しない専門家選びの全知識をお伝えします。 誰に頼むのがベスト?専門家の違いを徹底解説  相続人調査は、主に司法書士、行政書士、弁護士という3つの専門家に依頼できます。それぞれに得意分野があり、料金体系も異なりますので、あなたの状況に最も合った専門家を選びましょう。 司法書士 行政書士 弁護士 特徴 登記のプロ。相続人調査はもちろん、その後の不動産の名義変更(相続登記)までワンストップで対応できるのが最大の強み。 書類作成のプロ。官公署に提出する書類の作成を専門としており、法律相談や紛争の代理権はなく、主に戸籍収集や協議書作成までが業務範囲です。相続人調査や遺産分割協議書の作成を依頼できる。比較的費用が安価な傾向。 紛争解決のプロ。法律と交渉の専門家。弁護士も法律事務全般を扱えるため登記手続の代理も可能です。相続人同士で既にもめている、または揉める可能性が高い場合に、代理人として交渉や調停・裁判を行うことができる唯一の専門家。 こんな人におすすめ ・実家の土地や家など、不動産を相続する予定がある方・調査から登記まで、窓口を一本化してスムーズに進めたい方 ・相続財産が預貯金のみで、不動産はない方・とにかく相続人調査だけを正確に、費用を抑えてやってほしい方・相続人同士の関係は円満で、揉める心配がない方 ・相続人同士で既に対立している、話がこじれている方・遺産の分け方で意見がまとまらないことが予想される方・特定の相続人が協力的でない、連絡を無視するなど、交渉が必要な方 費用はいくらかかる?料金体系と相場を解説  専門家に依頼した場合の費用は、大きく分けて「①実費」と「②専門家報酬」の2つから成り立っています。 ①実費  これは、専門家があなたの代わりに立て替えて支払う費用のことです。 戸籍謄本・除籍謄本等の発行手数料(1通450円~750円) 役所への郵送料、交通費 定額小為替の発行手数料 など ②専門家報酬  これが、専門家の技術や知識、手間に対する「依頼料」です。事務所によって料金体系は様々ですが、相続人調査のみを依頼した場合の報酬の相場は、おおよそ5万円~15万円程度が一般的です。  ただし、これは相続関係が比較的シンプルな場合の目安です。 相続人の数が10人を超える 数次相続(相続手続き中に、さらに相続人が亡くなること)が発生している 代襲相続が何代にもわたっている といった複雑なケースでは、調査に要する時間と手間が増えるため、報酬は上記よりも高くなることがあります。 【絶対失敗しない】信頼できる専門家を見極める3つのチェックポイント  せっかく安くない費用を払うのですから、心から「この人にお願いして良かった」と思える専門家に出会いたいですよね。インターネットで検索すると、たくさんの事務所が出てきて迷ってしまいますが、多くの事務所では「初回無料相談」を実施しています。その機会を利用して、以下の3点をあなたの目でしっかりとチェックしましょう。 相続案件の実績は豊富か?(専門性・経験)  事務所のホームページを見たときに、相続に関する解決事例や、専門的な内容を分かりやすく解説したコラムが豊富に掲載されているかを確認しましょう。「相続専門」「相続に強い」と謳っている事務所は、経験値が高い可能性があります。「年間相談件数〇〇件以上」といった具体的な数字を公表しているかも、一つの判断基準になります。 料金体系は明確で、事前に説明してくれるか?(透明性)  無料相談の際に、あなたの状況を話した上で、「このケースですと、調査報酬は〇円から〇円の範囲内になる見込みです。もし、これ以上に複雑な事実が判明した場合は、必ず事前にご相談します」というように、料金について明確な見通しと説明をしてくれるかは非常に重要です。質問に対して誠実に、分かりやすく答えてくれる事務所を選びましょう。 あなたの話に親身に耳を傾け、不安に寄り添ってくれるか?(人柄・相性)  これが最も大切なポイントかもしれません。あなたは今、大きな不安と悲しみの中にいます。そんなあなたの気持ちに寄り添い、難しい法律用語を並べるのではなく、あなたの目線で、共感をもって話を聞いてくれるか。威圧的な態度を取らず、どんな些細な質問にも「それはご心配ですよね」と丁寧に答えてくれるか。人としての相性は、長い手続きを乗り越える上で、何よりも強い味方になります。 【最重要】調査で判明した「知らない相続人」への対応方法  「戸籍を調べてみたら、父に離婚歴があって、会ったこともない腹違いの兄弟がいることが分かった…どうやって連絡すればいいの…?」これは、相続人調査のプロセスにおいて、最も精神的な負担が大きく、多くの方が立ち止まってしまう場面です。相手がどんな暮らしをしているのか、父のことをどう思っているのか、お金の話をしていきなり警戒されないだろうか…様々な不安が頭をよぎりますよね。 いきなり電話はNG!最初に送る「手紙」の書き方【文例付き】  ご自身が動揺している状態で、いきなり電話をかけるのは絶対にやめましょう。用件も十分に整理できないまま話してしまい、かえって相手を驚かせ、不信感や警戒心を抱かせてしまうだけです。  まずは、書面(手紙)で、こちらの状況とお願いしたいことを、丁寧な言葉で誠実に伝えるのが最善かつ唯一の方法です。手紙であれば、相手も内容を落ち着いて読み、考える時間を持つことができます。 手紙作成のポイントと文例  手紙は、事務的ながらも、相手への配慮が感じられる文章を心がけます。 手紙に含めるべき要素 自己紹介: あなたが誰であるかを明確に伝えます。 用件の主旨: 共通の父(または母)が亡くなったこと、そして相続手続きのために連絡したことを伝えます。 経緯の説明: なぜ相手に連絡することになったのか(戸籍調査の結果)を簡潔に説明します。 相手への配慮: 突然の連絡を詫びる言葉を添えます。 今後の提案: これからどうしたいのか(一度、今後のことについて相談したい旨)を伝えます。 連絡先: あなたの連絡先を明記し、返信をお願いします。 文例 令和〇年〇月〇日 〇〇 〇〇 様(相手のフルネーム) 〒[相手の住所]  突然のお手紙を差し上げます非礼を、何卒ご容赦ください。  私、〇〇県〇〇市に住んでおります、〇〇 〇〇(あなたのフルネーム)と申します。  先日、令和〇年〇月〇日に、父である〇〇 〇〇(亡くなった方のフルネーム)が永眠いたしました。  現在、相続に関する手続きを進めておりますが、その過程で戸籍を拝見させていただきましたところ、〇〇様がご相続人の一人でいらっしゃることが分かり、ご連絡を差し上げた次第でございます。  ご存じないことばかりで、大変ご驚きのことであろうと心中お察しいたします。  大変恐縮ではございますが、今後の遺産分割等に関する手続きを進めるにあたり、〇〇様にご協力をお願いせざるを得ない状況でございます。つきましては、一度、今後の進め方につきまして、ご相談の機会をいただけないでしょうか。  まずは書中をもちましてご挨拶とさせていただきましたが、下記連絡先までご都合の良い時にでもご連絡をいただけますと幸いに存じます。  末筆ではございますが、季節の変わり目、〇〇様におかれましてもどうぞご自愛ください。 署名:〇〇 〇〇(あなたのフルネーム) 住所:〒[あなたの住所] 電話番号:[あなたの電話番号]  この手紙は、配達記録が残る「特定記録郵便」や、受け取った証明がもらえる「簡易書留」で送ると、より丁寧でしょう。 相手から返信がない、協力を拒否された場合の対処法  誠意を込めて手紙を送っても、残念ながら返信がなかったり、電話で感情的に「今さら関わりたくない」と協力を拒否されたりすることもあるかもしれません。そんな時、焦って何度も連絡を取ろうとしたり、感情的に言い返したりするのは逆効果です。関係をさらにこじらせてしまうだけです。  このような状況に陥ってしまった場合は、それはもう、ご自身で解決できる範囲を超えています。 無理に自分で解決しようとせず、速やかに弁護士などの専門家に相談しましょう。利害関係のない第三者である専門家が冷静に間に入ることで、相手方も話を聞く態勢になりやすく、法的な権利と義務を客観的に説明することで、スムーズな解決へと向かうケースがほとんどです。 【実例で学ぶ】相続人調査のよくある質問と解決策  ここでは、私たちが実際の相談の現場で、お客様からよく寄せられる質問とその回答を、一問一答形式でご紹介します。 Q1. 被相続人の前妻が複数人いて、それぞれに子がいるか不明です。考えるだけで気が重いのですが…。(当事務所の解決事例より) A. 大変ご不安なことと存じます。これこそ、専門家が最も腕の見せ所とするケースです。私たちは、まず戸籍を丹念に遡り、全ての離婚歴と、その際の戸籍に記載されているお子様の有無を一人ひとり正確に確定させます。その上で、判明したご相続人様へは、今回ご紹介したような丁寧な手紙で、細心の注意を払いながらアプローチいたします。お客様が直接、知らない方とやり取りする精神的なご負担は一切ございません。全て私たちにお任せください。 Q2. 疎遠だった叔母から「祖父の相続のことで実印が必要だから送って」と電話がありました。何に使うか聞いても教えてくれず、不信感しかありません。(当事務所の解決事例より) A. 内容が分からない書類に、実印を押したり、印鑑証明書を渡したりするのは絶対にやめてください。 それは、白紙の委任状にサインするのと同じくらい危険な行為です。まずは、ご自身で「祖父の出生から死亡までの戸籍謄本」を取得し、本当に叔母だけが相続人なのか、他に相続人はいないのかを確認することから始めましょう。その上で、弁護士などの専門家に代理人として間に入ってもらい、遺産の内容を開示させ、正当な権利を主張していくのが安全な道筋です。 Q3. 役所で戸籍を請求したら、あまりに古いものは「戦争で焼失した」「保存期間が過ぎて廃棄した」と言われてしまいました。どうすればいいですか? A. 戸籍が災害や保存期間の満了で存在しない場合、役所で「廃棄済証明書」または「不存在証明書」といった書類を発行してもらいます。これを他の戸籍と一緒に提出することで、「これ以上、物理的に戸籍を遡ることはできません」ということを公的に証明できます。 Q4. 相続人の中に、海外に住んでいる人がいるようです。手続きはどうなりますか? A. 海外在住の相続人には、現地の日本大使館や領事館へ出向いてもらい、「在留証明書(住所を証明する書類)」や「サイン証明書(実印の代わりになる書類)」を取得してもらう必要があります。郵送でのやり取りになるため、国内での手続きに比べて非常に時間がかかります。相続人に海外在住者がいると判明した時点で、早めに専門家へ相談することをおすすめします。 Q5. 苦労して調査した結果、どうやら相続人が誰もいないようなのですが… A. 相続人が一人も存在しない場合、そのままでは財産は誰にも引き継がれず、家庭裁判所に相続財産管理人の選任を申し立てることになります。管理人が債務の清算等を行い、特別縁故者(内縁の配偶者や故人の介護者など、故人と特別に親しかった方)からの申し立てが認められれば、遺産の一部または全部がその方に分与される可能性があります。そうした分与が行われず最終的に残った財産があれば、国庫に帰属します。 相続人調査はゴールではなく、ようやく「スタートライン」です  ここまで本当にお疲れ様でした。もし、ご自身の力で相続人調査をやり遂げたのであれば、それは本当に素晴らしいことです。  しかし、忘れてはならないのは、相続人調査はゴールではなく、ようやく本当の相続手続きの「スタートライン」に立ったに過ぎない、ということです。  相続人全員が確定して初めて、次のステップである「遺産分割協議(誰が、どの財産を、どれくらい相続するのかを、相続人全員で話し合うこと)」へと進むことができるのです。相続人調査は、この最も重要な話し合いを、法的に有効に行うための、いわば準備体操なのです。 まとめ  最後に、この記事でお伝えした最も重要なポイントを、もう一度振り返ります。 相続人調査は、後々の深刻なトラブルを防ぎ、全ての相続手続きをスムーズに進めるために、絶対に避けては通れない、最も重要な土台です。 「うちは家族関係がシンプルだから」という思い込みは禁物です。必ず戸籍という公的な書類で、客観的な事実を確認しましょう。 自分でやるか、専門家に頼むか。あなたの状況、時間、そして心の余裕を客観的に見つめ、ご自身にとって最適な方法を賢く選択することが大切です。 もしこの記事を読んで、少しでも「大変だ」「自分一人では無理かもしれない」と感じたのであれば、それは決してあなたが弱いからではありません。それは、専門家を頼るべきだという、ご自身の心が発している正しいサインなのです。  相続手続きは、ただでさえ時間もかかり、精神的にも大きな負担がかかるものです。ましてや、大切な方を亡くされた直後であれば、なおさらのこと。  この記事で解説した手順に沿って、まずは亡くなった方の「死亡の記載がある戸籍謄本」を1通取得することから、あなたのペースで、最初の一歩を踏み出してみてください。  一人で全てを抱え込もうとせず、時には専門家の力を借りることが、結果的に最もスムーズで、あなたとご家族の心の平穏を守りながら、円満な相続を成し遂げるための、一番の近道になります。

2025.08.20

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限定承認とは?相続放棄・単純承認との違いとメリット・デメリットを徹底解説

限定承認とは?相続放棄・単純承認との違いとメリット・デメリットを徹底解説

「親の借金がどれくらいあるかわからないけど、家は引き継ぎたい…どうしたらいい?」 「相続放棄だと実家も失う?限定承認って聞いたけど、仕組みがよくわからない」 この記事でわかること 限定承認と相続放棄・単純承認のちがいと判断の分かれ目 限定承認の手続きの流れと必要な書類・費用・期限 限定承認を選ぶべきケースと避けた方が良いケース 限定承認は、相続で受け取る財産の範囲内で負債を清算し、それでも余った財産だけを受け取る制度です。相続する資産と借金のバランスが見えないときに、リスクを抑えて大切なものを守れます。 「家は手放したくないけど、借金だけ背負うのは絶対に避けたい」と思いますよね? この記事を読むことで、限定承認の仕組みと進め方がわかり、自分や家族にとって最適な判断ができるようになります。 最後まで読んで、後悔のない相続を目指しましょう。 限定承認とは?相続放棄・単純承認との違い 限定承認の定義と法律根拠(民法922条) 限定承認は相続で得たプラス財産の範囲内で、マイナス財産を返済し、残余のみ取得する制度です。 単純承認・相続放棄との違い早見表 分類 プラス財産 マイナス財産 同意要件 典型的リスク 単純承認 すべて取得 すべて負担 不要 借金背負う可能性 限定承認 残余のみ取得 プラス枠内のみ返済 全員必須 税負担増 相続放棄 取得ゼロ 負担ゼロ 不要 家も受け取れない 限定承認のメリットとデメリット【5項目ずつ】 【メリット】借金より多く負債を負わないで済む 限定承認を選択すれば、相続で取得したプラスの財産の範囲内でしか債務の返済義務を負いません。たとえ後から債務額が増えた場合でも、返済の上限は取得した財産の評価額までに限定されます。 そのため、想定外の請求が家計を直撃することがなく、教育費や住宅ローンといった資金計画を守れる点が、限定承認の大きな安心材料です。 【メリット】実家や家業など残したい財産を確保できる 実家や工場など、どうしても手放したくない資産がある場合、限定承認を選ぶことで「先買権」を行使し、評価額でその財産を取得することが可能です。 相続放棄では一切の財産を手放さなければなりませんが、限定承認なら思い出の詰まった住まいを守りながら、債務整理を進めることができます。 取得にかかる費用についても、リフォームローンなどを活用し、金融機関と連携して資金を調達する事例が増えています。 【メリット】連帯保証債務を整理できる 被相続人が他人の借入の連帯保証人となっていた場合、単純承認をすると相続人が無限の返済責任を負うことになります。 これに対して限定承認を選べば、保証債務も含めて「プラスの相続財産の範囲内」で処理されるため、不意の高額請求に備えることができます。 また、金融機関との対応も弁護士を通じて一括して行えるため、精神的な負担も大きく軽減されます。 【メリット】資産売却益で債務を弁済できる可能性 限定承認では、相続財産を売却・現金化し、その範囲内で債務を返済していきます。 不動産や有価証券を時価で売却することにより、債務の完済が可能となり、余剰金が出れば相続人に分配されます。 実際に、郊外の賃貸物件を売却して借入金を完済し、さらに生活資金を手元に残せた成功例も報告されています。 【メリット】負債の全体像を把握しやすい 限定承認には、官報による公告と債権者への催告が義務付けられています。この手続きを経ることで、公告期間内に申し出のなかった未知の債権については、弁済義務を免れる「除斥効」が生じます。 そのため、相続後に突然の督促を受けるリスクが大幅に低下し、将来の家計設計が立てやすくなります。教育費や介護費といった長期的な支出にも、安心して備えることができます。 【デメリット】相続人全員の同意が必須 限定承認は、共同相続人全員がそろって申述しなければ成立しません。兄弟姉妹が遠方に住んでいる場合などは、意思確認や書類手続きに時間を要し、熟慮期間ぎりぎりまで調整が続くケースもあります。 合意形成をスムーズに進めるためには、早い段階から費用シミュレーションや法的メリットを整理した資料を共有し、説得材料として活用することが有効です。 【デメリット】手続きが複雑で時間・手間がかかる 限定承認には、財産目録の作成、官報公告、資産の換価、債務の弁済など、多段階の手続きが必要です。役所や金融機関とのやり取りが平日日中に限定されるため、勤務形態によってはスケジュール調整が不可欠です。 弁護士など専門家へ一括で依頼すれば手続き負担は軽減されます。 【デメリット】みなし譲渡所得税が発生する場合がある 相続財産のうち、不動産や株式を換価(売却)する際、税務上は「譲渡があったもの」とみなされ、譲渡所得税(原則20.315%)が課税される場合があります。 取得費がきわめて低い地方の不動産などを売却した場合、課税額が膨らみやすく、結果として相続人の手元に残る資産が目減りするおそれがあります。 【デメリット】相続税の減税特例が受けられない 限定承認を行うと、「小規模宅地等の特例」や「配偶者控除」など、主な相続税の軽減制度が適用対象外となるケースがあります。結果として、相続税の納税額が増加するリスクがあるため、手続きに入る前に税理士と連携し、影響額の見積もりを確認しておくことが重要です。 【デメリット】公告・換価・弁済など追加コストがかかる 限定承認には、公告費用(官報掲載料:約4~5万円)、登記に伴う登録免許税(固定資産評価額の0.4%)、さらには専門家報酬(弁護士・司法書士への依頼費用:20万~50万円程度)といった費用が発生します。 これらのコストが負債整理による利益を上回らないか、あらかじめ資金計画を立てておく必要があります。 限定承認を選ぶべきケース・選ばない方がいいケース 負債額・資産評価が不明な場合 被相続人の通帳や借入明細が見つからず、資産と負債の全体像がつかめないまま熟慮期間が迫る場合、限定承認は「保険」としての機能を果たします。たとえ後から多額の債務が見つかっても、取得したプラスの財産を超えて弁済義務を負うことはありません。 まずは金融機関や信用情報機関(CIC、JICCなど)への照会を進めつつ、家族内で手続き方針を早めに共有しましょう。 残したい不動産・家業がある場合 長年暮らした自宅や、被相続人が経営していた工場・店舗などを維持したい場合も、限定承認が有効な選択肢となります。評価額で取得できる「先買権」を行使すれば、資産を手放すことなく債務整理を進められます。 不動産鑑定士や公認会計士に評価を依頼し、みなし譲渡所得税の試算とあわせて資金計画を立てておくと、後の手続きが円滑になります。 連帯保証人を兼ねている場合 被相続人が友人や取引先の連帯保証人になっていた場合、単純承認を選ぶと、保証債務を無制限に引き継ぐことになります。限定承認であれば、返済義務はプラス財産の範囲内に限定されるため、相続人の家計に突如高額請求が及ぶリスクを回避できます。 保証契約の有無は、金融機関との過去の取引記録や保証契約書をもとに確認し、必要に応じて債権者と弁済方法の協議を行いましょう。 NGケース:少額負債・相続人の足並みが揃わない場合 相続財産の総額が大きく、債務が少ないケースでは、限定承認にかかる費用や手間が、むしろ相続人の利益を圧迫してしまう可能性があります。さらに、法定相続人のうち一人でも反対すれば手続きは進められず、時間ばかりが過ぎてしまうこともあります。 このような場合は、相続放棄や単純承認への切り替えを含め、専門家の助言を得た上で柔軟に最終判断を下すことが、結果的に効率的です。 限定承認の手続き7ステップと必要書類・期限 限定承認は、相続財産や債務の精査を前提に進めるため、他の相続手続きよりも準備に時間と労力を要します。 以下では、限定承認が完了するまでの流れを7つのステップに分けて、必要書類とあわせて解説します。 ステップ1:相続人間の意向確認 最初のステップは、相続人全員の同意を得ることです。 限定承認は「共同相続人全員の合意」が成立条件であり、誰か一人でも不同意であれば申述が認められません。まずは戸籍を収集して、法定相続人を正確に特定しましょう。 複数の相続人がいる場合は、誤解や対立を防ぐために、話し合いの内容を文書にまとめた「同意書」や「協議書」の作成がおすすめです。 ステップ2:財産・負債の調査と目録作成 次に行うのは、被相続人の資産と債務を網羅的に調査し、「財産目録」を作成することです。収集が必要な主な資料は以下のとおりです。 預貯金の確認:銀行通帳のコピー、残高証明書など 不動産の評価:固定資産税評価証明書、不動産登記簿 債務の把握:信用情報機関(CIC、JICC、全国銀行協会など)から信用情報を取り寄せ、クレジットカード・ローン・保証債務の有無を確認 その他:有価証券、未払い税金、未納保険料などの確認書類 財産と債務を一つ一つ丁寧に確認し、漏れのない目録を作成することが、後のトラブル回避につながります。 ステップ3:家庭裁判所への限定承認申述 財産目録の準備が整ったら、家庭裁判所に限定承認の申述を行います。 提出書類には、次のようなものがあります。 限定承認申述書 相続人全員の戸籍謄本、住民票 財産目録 申立てに必要な費用として、収入印紙800円のほか、郵便切手(裁判所ごとに異なるが、数百円程度)が必要です。 特に注意が必要なのは申述の期限です。限定承認の申述は、「相続があったことを知った日から3か月以内」に行う必要があります。 この期限を過ぎると、法律上は単純承認とみなされ、すべての資産と負債を無制限に相続することになります。 ステップ4:官報公告と債権者催告(2か月) 家庭裁判所で限定承認の申述が受理されると、次に相続人が「官報」に公告を掲載します。この公告には、「一定期間内に債権のある方は申し出てください」といった内容を記載し、債権者に名乗り出るよう促します。 これにより、相続人が把握していなかった隠れた借金の存在も表面化する可能性があります。公告にかかる費用は、おおよそ4〜5万円前後です。 債権届出の期限は、公告日から2か月間と定められています。 ステップ5:相続財産の換価・弁済 公告期間が終了したら、相続人は財産を売却(換価)し、その資金で債務を弁済していきます。おおまかな手続きの流れは次のとおりです。 預貯金については、金融機関で払い戻し手続きを行い、現金化する 不動産については、不動産会社を通じて売却手続きを進める(必要に応じて評価書を取得) 換価した資金をもとに、債権者へ債務額に応じた配当を実施する この弁済は相続財産の範囲内で行われ、それを超える債務については、相続人が追加で支払う義務を負うことはありません。 ステップ6:残余財産の分配・遺産分割協議 債務の弁済が終わったあと、相続財産がまだ残っていれば、それを法定相続分に基づいて分配します。ここで話し合いによって分け方を決める「遺産分割協議」を行い、共有となる不動産があれば、それぞれの持分を登記します。誰がどれだけ取得するかを明確にしておかないと、後日トラブルになるおそれがあります。 ステップ7:登記・税務申告の完了 最後に行うのが、相続財産の名義変更や税金の申告です。 不動産を取得した相続人がいる場合は登記の変更手続き 財産を売却して得た利益にかかる「みなし譲渡所得税」の申告 遺産が基礎控除を超える場合は「相続税」の申告 これで限定承認の一連の手続きが完了となります。 手続きの完了までには一般的に4か月から6か月程度かかりますが、財産の種類や相続人の人数によってはさらに長引くケースもあります。時間に余裕を持ち、早めに動き始めることが肝心です。 失敗例・成功例とよくある質問 成功事例:実家を残して負債ゼロで完了したケース 資産総額1,200万円、負債総額1,000万円という相続において、相続人が限定承認を選択した事例です。相続人全員が同意書に署名し、家庭裁判所へ限定承認の申述を行いました。 その後、不動産鑑定士による評価書を取得し、実家を1,000万円の先買権価格で相続人が取得。預金の換価分とあわせて負債を完済しました。公告期間終了後に残った200万円は、子ども二人が法定相続分に従って受け取っています。 なお、みなし譲渡所得税は評価額と取得費の差が小さかったことから十数万円にとどまり、家計への影響は軽微でした。 結果として、住み慣れた実家を保持しながら負債をゼロにでき、相続人全員が満足する結末になりました。 失敗事例:公告漏れで追加負担が生じたケース 限定承認の公告文を提出する際に、債権届出期限を実際より短く誤記してしまいました。公告期間終了後、過去の保証債務150万円が判明し、債権者から異議が出されて訴訟に発展しました。 裁判所は「公告手続に瑕疵があった」と認定し、相続人は保証債務に加えて、弁護士費用15万円と遅延損害金も支払う結果となりました。 この事例は、公告内容の正確性と、手続における専門家による確認の重要性が浮き彫りになった事例です。 FAQ:熟慮期間を延長できる? 熟慮期間(相続を承認又は放棄する期間)は原則として3か月ですが、家庭裁判所に「熟慮期間伸長申立書」を提出すれば、延長が認められる場合があります。 申立てには、延長を求める合理的な理由と、財産調査の進捗状況を示す資料が必要です。たとえば、金融機関からの残高証明の回答待ちなど客観的な事情があれば、通常は最長3か月程度の追加期間が付与されます。 延長が許可された場合は、新たな期限内に限定承認または相続放棄を選択し、速やかに申述手続きを進めましょう。 FAQ:相続人の一部だけ限定承認できる? 限定承認は、共同相続人全員の共同申述が法律上の要件です。相続人のうち1人でも同意しない場合、限定承認を利用することはできません。 仮に同意が得られない場合は、賛成する相続人が相続放棄に切り替えるか、相続人間で協議し直して財産分割を再構築する必要があります。 合意形成のためには、限定承認を行った場合の費用試算や債務リスクを具体的な数字で示すと、説得力が高まりやすくなります。 FAQ:手続き途中で新たな財産・負債が発覚したら? 限定承認後に未知の財産が判明した場合は、その財産を財産目録に追記し、換価・弁済の対象に加えることができます。 一方、未知の債務が判明した場合、すでに公告期間が終了していれば、その債務は原則として「配当外債権」として取り扱われ、配当順位は後順位となります。ただし、債権者が申立てを行い、裁判所が相当と認めた場合には、弁済義務が生じる可能性もあります。 このようなリスクを最小限に抑えるには、限定承認前の財産・債務調査を入念に行い、公告内容の正確性を高めることが重要です。 まとめ 限定承認は、「家は守りたいけど借金は引き継ぎたくない」と悩む相続人にとって、非常に有効な選択肢です。相続放棄や単純承認との違いを正しく知り、負債と資産のバランスを冷静に見極めながら進めることが大切です。 この記事では、限定承認の基本からメリット・デメリット、実際の手続きの流れ、費用や税金の注意点、失敗・成功の具体例まで幅広く紹介しました。「自分には向いている」と感じたら、早めに家庭裁判所への申述準備を始めてください。迷ったときは専門家への相談も検討しましょう。 一番大切なのは、限られた時間の中で後悔のない判断をすることです。安心して相続を進めるために、今すぐ動き出しましょう。

2025.08.20

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親族による預貯金使い込みを取り戻す完全マニュアル【弁護士監修】

親族による預貯金使い込みを取り戻す完全マニュアル【弁護士監修】

「父の口座から百万円が消えた…どう動けばいいの?」 「通帳を握った兄に返金させたいが手順がわからない…」 この記事でわかる三つのポイント 親族でも成立する預貯金使い込みの違法ラインと返還請求の基礎 銀行取引履歴やATM映像をそろえる証拠集めの手続き 交渉→調停→訴訟までの時期別フローと費用の目安 結論、証拠を早く固めて時効を止め、資力を確認したうえで交渉か調停へ進むルートが最も損失を抑えられます。理由は、証拠と時効が返還額の成否を左右し、準備が早いほど交渉で主導権を握れるからです。 預金が消えた現実に戸惑い、家族を傷つけたくない気持ちもありますよね? この記事を読めば、必要な書類、費用、成功率まで一気に把握でき、不安を具体的な行動計画に変えられます。 まずは流れを確認し、取れる一手を選びましょう。 使い込みは「生前」か「死後」かで手続きが変わる 証拠の核心は《通帳+取引履歴+領収書》の3点セット 時効は「知った日」から5年(最長10年)――一刻も早く催告・調停でストップ 勝訴後の差押え手続きまで見据えて資力調査を並行する 再発防止には成年後見・家族信託・口座モニタリングを活用 親族でも罪になる?預貯金使い込みの法的ライン 横領・背任が成立する3つの条件 親族が被相続人の預貯金を使い込んだ場合でも、法的には「業務上横領罪(刑法253条)」や「背任罪(刑法247条)」が成立する可能性があります。特に以下の3つの条件を満たすと、刑事責任を問われます。 他人の物(被相続人名義の預貯金)であること 委任や信託など、委託信任関係に基づいて管理していたこと 自己または第三者の利益のために不法に処分したこと 被相続人の口座名義がそのままの場合は、「他人の物」として扱われやすく、無断で引き出した行為が「横領」と見なされます。 仮に介護や生活費の名目であっても、本人の同意や法的根拠がなければ違法行為と判断されます。 業務上横領罪が成立すれば、刑法253条により「10年以下の懲役」に処されます。親族関係に甘え、あいまいな形で預金を処分することは極めてリスクが高い行為です。 民事手段:不当利得返還・損害賠償の基礎 刑事責任だけではなく、民事上の責任も発生します。代表的な請求手段は「不当利得返還請求」と「損害賠償請求」です。 区分 根拠条文 必要要件 時効 不当利得返還請求 民法703条 ①相手が利益を得た②本人が損失を被った③両者に因果関係がある 原則10年(知った日から5年) 損害賠償請求 民法709条 故意または過失により権利を侵害した 被害を知った日から3年 不当利得とは、「正当な理由なく得た利益」を意味します。親族が本人の同意なく預金を引き出して使用した場合は、返還請求の対象になります。 また、明らかな不法行為であるときは損害賠償請求も可能です。刑事告訴と民事訴訟は並行して進めることができ、交渉を有利に進める材料になります。 使い込みを疑う4つの兆候とパターン 生前“こっそり引き出し”パターン 被相続人が生存中に預貯金が不自然に減っていた場合、以下のような兆候が見られることがあります。 介護名目での生活費が月々高額 ATMからの出金場所が施設最寄りではなく親族の自宅近辺 認知症の進行などで判断能力が低下している時期に集中して引き出しが行われている このようなパターンは、本人の意思に基づかない使途である可能性があり、後にトラブルへと発展する要因となります。 死後“遺産隠し”パターン 被相続人の死亡後、正式な遺産分割前に行われる不正な資金移動も典型例です。 口座凍結前の短期間で高額の払戻しがある 死亡届提出前にネットバンキングで複数の送金がある このような行為は、相続人間の信頼関係を損ねるだけでなく、法的に返還請求の対象になります。 成年後見・信託“内部不正”パターン 後見人や受託者による不正も問題視されます。以下の点が確認されると、職務逸脱が疑われます。 家計簿や領収書の開示を拒否 受託者名義の口座へ不審な振替がある 信託契約や成年後見制度は本来、財産を守る制度ですが、監視が行き届かない場合には不正の温床になります。 相続人以外による名義預金パターン 相続人ではない親族による資金の不正流用も見逃せません。 「管理を頼まれた」と主張し、第三者名義へ資金を移す 孫や兄弟名義の口座で不自然な入出金が見られる 名義預金は税務調査でも追及される対象です。疑わしいと思ったら、次章の手順に従い、すぐに事実確認と証拠保全を始めましょう。 調査と証拠収集の具体手順 銀行・ゆうちょ取引履歴の取得方法【書式DL】 預貯金の使い込みを立証するためには、まず取引履歴の取得が基本となります。 以下の書類を用意し、各金融機関の窓口や郵送で申請しましょう。 相続関係説明図(戸籍謄本・住民票などをもとに作成) 取引履歴開示請求書(銀行所定の様式または本記事のDLリンクから入手) 本人確認書類(運転免許証やマイナンバーカードのコピー) 費用と期間の目安 金融機関 費用 開示までの期間 メガバンク 1口座 3千円〜1万円 約2〜4週間 ゆうちょ銀行 1口座 1千円 約3週間 必要に応じて、相続人代表の立場での申請も可能です。 ATM映像・窓口伝票で裏付けるコツ ATMでの出金が不正だった場合、その映像は重要な証拠になります。ただし、保存期間は短いため、早急な対応が求められます。 映像保存願を支店長宛に提出 同時に払戻請求書・振込伝票などの筆跡鑑定を検討 映像や筆跡を併用することで、出金者の特定につながる証拠となります。 証券口座・暗号資産・海外送金も追跡 預貯金以外の資産も使い込み対象となることがあります。以下のような手続きで調査可能です。 証券会社へ「残高証明書」「取引報告書」を請求 暗号資産は取引所への照会書を送付(利用履歴やアドレス情報が取得可) 海外送金は「SWIFTコード」をもとに送金先銀行へ情報照会 資産がどこへ流れていったのか、追跡する視点が重要です。 税務署・自治体への照会で資産移動を掴む 公的機関からの情報収集も有効です。 税務署:国外送金等調書・法定調書の開示で高額贈与の有無を確認 自治体:固定資産課税台帳の閲覧で不動産の名義変更や取得状況を把握 明らかに収入と乖離した財産取得があれば、使い込みの証拠として活用できます。 使い込みチェックリスト 調査時は以下のチェック項目を活用しましょう。 出金の時期と被相続人の健康状態との照合 平均的な生活費・介護費と出金額の比較 解約された定期預金や株式の換金先の特定 証拠保全の段階で漏れを防ぐため、リスト形式で整理しておくと効果的です。 預貯金を取り戻す全手続き 交渉 交渉は、最も迅速かつ感情的負担の少ない方法です。以下のような示談書を作成し、合意に至った内容を文書化します。 示談書に必須の記載内容 返還額 支払期日 遅延損害金(例:年5%) 担保(例:連帯保証人や不動産の仮登記) 示談書は公正証書にすることで、強制執行が可能になります。 遺産分割調停の流れと費用 任意での交渉がまとまらない場合は、家庭裁判所での遺産分割調停を行います。 もっとも、生前の出金に関しては、地方裁判所で争うように指摘される場合もありますので、ご注意ください。 ステップ 申立先 費用 期間目安 申立書提出 家庭裁判所 収入印紙1,200円+郵券代 約2週間 期日調整 – – 約1〜2ヶ月 調停期日(平均3回) – – 約3〜6ヶ月 不当利得返還/損害賠償訴訟の進め方 交渉や調停でも解決しない場合、地方裁判所での民事訴訟による請求が可能です。 訴訟の基本構造 原告:返還請求額+利息を主張 被告:介護費だった・贈与だったなどの反論 原告:施設の領収書や診断書などで再反論 被告の主張に対し、具体的な証拠を積み重ねることで勝訴に近づきます。 時効の起算点と“中断”テクニック 民法166条により、使い込み発覚から一定期間が過ぎると時効が成立します。 以下の方法で時効の中断(正確には「完成猶予」)が可能です。 手続き 効果 費用 注意点 内容証明郵便 6ヶ月の時効停止 約3千円 相手の受領日が起算点 調停申立て 時効停止+不成立後6ヶ月延長 印紙+郵券代 秒読み状態では即提出 仮差押え 担保確保+時効中断 申立手数料5千円+保証金 資力調査と同時実施が望ましい 勝訴後に確実に回収する方法 預金・給与の差押え 勝訴判決が出た後は、強制執行手続に移行します。代表的な差押え手段は以下のとおりです。 金融機関宛:債権差押命令申立書を地方裁判所に提出 勤務先宛:給与取立書を送達し、給与の一定割合を差押え 判決の確定を待たずに、仮執行の申立ても可能です。 不動産・動産の仮差押え 不動産や車両、貴金属などの差押えも有効です。 不動産:登記簿から所有名義を確認 → 仮差押 → 本差押申立て → 競売 動産:執行官による現地調査・差押 → 評価 → 売却 手続きには一定の費用がかかるため、弁護士と事前に打ち合わせましょう。 資力調査サービスの選び方 加害者に資産があるか不明な場合は、以下のような調査を検討します。 調査対象 方法 費用 預金残高 銀行照会・探偵業者 10万〜20万円/口座 不動産 登記簿・評価証明書 1千円〜 暗号資産 ブロックチェーン解析 30万円前後 費用対効果を考慮しながら選択しましょう。 税務・特別受益・相続放棄*丸ごと整理 名義預金がバレたときの相続税リスク 名義預金とは、実質的に被相続人の財産でありながら、形式上は他人(多くは親族)名義の預金のことです。 相続発生後、税務署の調査で名義預金と認定されると、以下のようなペナルティが課されます。 本来申告すべき相続税額に加え、過少申告加算税(10〜15%)が課される 名義人に対し贈与税も課税され、相続税との「二重課税」が生じるリスクがある ただし、誤って申告していた場合は、速やかに修正申告することで過少申告加算税を軽減または回避できます。隠すよりも早期に専門家に相談する方が賢明です。 相続放棄・限定承認で負債リスクを避ける 使い込みをめぐるトラブルに巻き込まれたくない場合や、借金などの負債が多い場合は、「相続放棄」や「限定承認」を検討すべきです。 相続放棄:相続開始を知った日から3ヶ月以内に、家庭裁判所へ申述書を提出 限定承認:相続人全員が共同で申述する必要があり、手続きが複雑 判断には慎重さが求められるため、弁護士への相談が推奨されます。 再発防止:後見・家族信託・モニタリング 後見制度の選択基準と申立て手順 判断能力が低下した高齢者の財産を守る制度が「成年後見制度」です。主に以下の2種類があります。 区分 判断能力 主体 監督 費用 任意後見 低下前 本人 家裁選任の監督人 契約公正証書1〜2万円 法定後見 低下後 家裁 同上 申立費 約1万円 本人の意思が明確な段階であれば、任意後見契約を結ぶ方が自由度が高く、将来の紛争を予防しやすくなります。 家族信託の設計ポイントと費用感 柔軟性を求めるなら「家族信託」も有効です。高齢者が自らの財産を信頼できる受託者(多くは子や専門職)に託し、管理・運用・処分を任せる仕組みです。 受託者は原則、信頼できる親族や専門家を選定 費用は、公正証書作成に5万円〜、信託登記に7万円〜が一般的 認知症リスクを想定して設計することで、長期的な資産防衛になります。 定期モニタリング&アラートサービス比較 預金の不正出金を未然に防ぐためには、金融機関や民間サービスのモニタリングを活用する方法があります。 サービス 料金 機能 銀行メール通知 無料 1取引ごとの即時通知 FinTech家計簿アプリ 月額500円前後 複数口座一括監視 信託銀行の資産モニター 年3万円前後 総資産レポート+専門相談可 ご家族で情報共有しながら管理することで、不正の早期発見に役立ちます。 実例で学ぶ:3つの相談ケース 名義預金を義兄娘口座に移されたケース 経緯 被相続人(父)の預金が、義兄の娘(孫)の名義口座に移されていたことが発覚。義兄は「学費目的で預かっただけ」と説明したが、他の相続人が不審に感じ問題化。 対応 相続人間で話し合いの場を設けた上で、示談交渉を開始。内容を整理した示談書を公正証書として作成し、計400万円を一括で回収した。 将来の支払い遅延に備え、「違約金年10%」の条項を盛り込み、強制執行にも対応できる形に整備した。 株7,800万円が消えたケース 経緯 父名義の証券口座から、相続開始の直前に株式7,800万円分が売却・出金されていた。記録上、相続人ではない人物の関与が疑われた。 対応 証券会社や税務署を通じて詳細な取引履歴を取得し、流出経緯を特定。不当利得返還請求の訴訟を提起し、6,500万円を差押・回収した。 残る1,300万円は分割払いでの返済に合意し、文書化された合意書を締結。将来的な履行確保のため、連帯保証も付けた。 成年後見人と父の対立ケース 経緯 長男が父の成年後見人に就任後、金銭の使途をめぐり父との間でトラブルが発生。これにより、他の親族の不信も強まり、家族間の関係が悪化した。 対応 家庭裁判所が後見監督人を選任。以後、後見人専用口座を開設し、すべての支出を裁判所の許可制に変更した。 葬儀費用・医療費などの出金も透明化され、親族間の金銭管理に関する信頼回復につながった。 よくある質問(FAQ) Q:使い込み額がわからないときの推計方法は? A:取引履歴に空白期間がある場合、その期間における平均的な生活費や支出傾向をもとに推計します。一定の合理性があれば、不明部分の説明責任は被告側に移る可能性もあります。 Q:相手が不正を認めないとき、どのような証拠が有効ですか? A:筆跡鑑定や診断書、LINEなどのメッセージ履歴などを組み合わせて提出することで、証拠の信頼性と立証力が高まります。複数の証拠を併用することが重要です。 Q:金融機関から取引履歴を取得するには、どれくらいの時間と費用がかかりますか? A:大手銀行の場合、取得までに平均2〜3週間を要します。手数料は、1口座あたり3,000円〜1万円程度が一般的です(金融機関・期間によって異なります)。 Q:すでに時効が成立している場合でも請求できますか? A:特別な事情がある場合、信義則違反を理由に請求が認められた裁判例も存在します。時効の中断や例外が適用される可能性もあるため、できるだけ早く弁護士に相談することが重要です。 Q:加害者に資力(支払能力)がない場合、どうすればよいですか? A:次のような対応策があります。 分割払いの合意を取り、内容を公正証書にする 退職金や生命保険金に対する差押え 支払い能力のある第三者(親族など)を連帯保証人に設定 いずれの方法も、法的手続きを通じて確実性を高めることが肝心です。 まとめ 親族による預貯金の使い込みは、刑法上の横領罪や民法上の不当利得・損害賠償請求の対象になります。 介護名目や委任管理中の出金などでも、委任の範囲を逸脱すれば違法行為と見なされる可能性があります。 使い込みの兆候が見られた場合は、取引履歴やATM映像、税務調査資料などを用いて速やかに証拠を収集しましょう。 示談交渉・遺産分割調停・訴訟・強制執行と、回収の手段は時期や状況に応じて選択できます。 相続税・特別受益・後見制度なども含め、再発防止まで含めた総合的な対策が重要です。 もし「親族間だから言いにくい」と感じても、事実確認と権利保全はできるだけ早く始めましょう。時効対策・証拠保全・資産調査など、着実な一歩が結果を大きく左右します。 問題が深刻化する前に、まずは弁護士や法テラスの無料相談を活用し、専門的なアドバイスを受けることをおすすめします。

2025.08.20

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半血兄弟にも相続権はある?相続分や手続き・トラブル対策をわかりやすく解説

半血兄弟にも相続権はある?相続分や手続き・トラブル対策をわかりやすく解説

「父が亡くなったあと、異母兄弟が相続人になるとは思ってもいなかった…」 「全血兄弟と同じように扱われるの?半分しか血がつながっていないのに?」 こうした戸惑いの声は、相続の現場で決して珍しくありません。遺産分割をめぐる場面では、「血縁関係」や「法律上の位置づけ」に基づいて相続人が決まりますが、その仕組みは一般の方にとって分かりづらく、誤解や感情的な対立が生じやすいテーマです。 特に、これまで交流がなかった異母兄弟や異父兄弟が突然、法定相続人として手続に関与することになると、精神的にも事務的にも大きな負担を感じる方が多くいらっしゃいます。 この記事では、法律上の根拠(民法)に基づきながら、半血兄弟がいる場合の遺産分割についてわかりやすく解説します。 半血兄弟の相続分は全血兄弟とどう違うのか? 半血兄弟とのトラブルを防ぐにはどうすればよいのか? どのような手続きや対応が必要なのか? 半血兄弟とは?全血兄弟との違いと法的位置づけ 半血兄弟の定義と該当するパターン 「半血兄弟(はんけつきょうだい)」とは、父または母のどちらか一方が共通している兄弟姉妹のことを指します。たとえば、父親が同じで母親が異なる兄弟や、母親が同じで父親が異なる兄弟がこれに該当します。 一方、父母の両方が共通している兄弟姉妹は「全血兄弟(ぜんけつきょうだい)」と呼ばれます。 父または母が再婚し、前婚・後婚それぞれに子がいる 非嫡出子(婚姻関係にない父母から生まれた子)として生まれた兄弟姉妹がいる 遺伝的にはつながっていても、婚姻上の親が異なる(たとえば母が再婚して生まれた兄弟など) 家族構成が複雑になりがちな現代において、半血兄弟が相続人になる場面は決して珍しくありません。 全血兄弟との違いと民法上の扱い 民法では、全血兄弟と半血兄弟の間に相続分の違いがあることが明確に定められています。その根拠となるのが、民法第900条第4号ただし書です。条文では、次のように規定されています。 兄弟姉妹が相続人である場合において、父または母の一方のみを同じくする者(半血兄弟姉妹)の相続分は、父母の双方を同じくする者(全血兄弟姉妹)の相続分の2分の1とする。 つまり、相続人として兄弟姉妹のみがいる場合、半血兄弟の相続分は、全血兄弟の半分に制限されることになります。 例えば、全血兄弟が2人、半血兄弟が1人いる場合の相続割合は以下のとおりです。 全血兄弟1人あたり:5分の2 半血兄弟:5分の1 これは、全血兄弟と半血兄弟の間で「2:1の割合」で相続分が分配されるという考え方に基づくものです。 非嫡出子・養子との違いにも注意 半血兄弟と混同しやすいのが、「非嫡出子」や「養子」といった他の特殊な家族関係です。簡単に違いを整理しておきましょう。 種類 定義 相続の取扱い 半血兄弟 父又は母のみが共通の兄弟姉妹 相続分は全血兄弟の2分の1 非嫡出子 法律上の婚姻関係がない男女間に生まれた子 嫡出子と同等の相続分(2013年の民法改正により) 養子 養親との法的親子関係を持つ子 実子と同じく相続人となる(普通養子の場合は実親側からも相続可能) 相続の場では、戸籍の記載内容や養子縁組の有無などにより、誰が相続人となるかが大きく変わります。「自分は相続人なのか」「他に相続人がいるのか」は、後述する戸籍調査で正確に確認する必要があります。 兄弟姉妹が相続人になる条件とは? 相続が発生したとき、常に兄弟姉妹が相続人になるわけではありません。誰が相続人になるかは民法で定められており、法定相続順位によって決まります。ここでは、兄弟姉妹が相続人になるパターンとその条件について解説します。 相続順位における兄弟姉妹の立ち位置(第3順位) 法定相続人の順位は、以下のように定められています(民法第887〜889条)。 順位 相続人の種類 条件 第1順位 子(直系卑属) 子がいれば最優先で相続人になる 第2順位 父母などの直系尊属 子がいない場合に相続人になる 第3順位 兄弟姉妹 子も親もいない場合に限り相続人となる つまり、被相続人(亡くなった方)に子や親がいる場合は、兄弟姉妹には相続権がありません。 一方で、被相続人が独身で子どもも親も既に他界していた場合、兄弟姉妹が相続人になります。このとき、全血兄弟も半血兄弟も法定相続人として含まれることになります。 ※法定相続人の順位は、配偶者は常に相続人であり、その上で第1順位が子、第2順位が直系尊属、第3順位が兄弟姉妹となります。したがって、被相続人に子も直系尊属もいない場合に兄弟姉妹が相続人となります(配偶者が存命中であれば配偶者も相続人となります)。 兄弟姉妹に代襲相続が起こるのはどんなとき? 被相続人に配偶者や子がおらず、兄弟姉妹が相続人となる場合には、その兄弟姉妹がすでに亡くなっていたとき、その子(=甥・姪)が代わりに相続することがあります。これを代襲相続(だいしゅうそうぞく)といいます。 この制度は、民法第889条第2項に定められており、法定相続人が死亡している場合に、その直系の子が相続権を引き継ぐ仕組みです。 「被相続人の兄弟姉妹が相続の開始以前に死亡していたときは、その者の子が代襲して相続人となる。」 ただし、兄弟姉妹の代襲相続は1代限りです。つまり、代襲相続の対象となるのは兄弟姉妹の子(甥・姪)までであり、その孫(兄弟姉妹の孫)には代襲相続は認められていません。 例:被相続人Aには兄Bがいたが、Bはすでに他界していた。Bに息子Cがいた場合、C(=甥)が代襲相続人としてAの遺産を相続する。 なお、代襲相続でも全血と半血の違いによる相続割合(2:1の比率)は引き継がれます。 戸籍調査の重要性と「思わぬ相続人」への備え 相続手続きでは、相続人を正確に確定するために戸籍を調査することが不可欠です。被相続人の出生から死亡までの戸籍を取り寄せることで、以下のような情報が明らかになります。 半血兄弟の存在(知らなかった兄弟姉妹が記載されていることも) 非嫡出子や養子の有無 死亡している兄弟姉妹がいた場合、その子の代襲相続の可否 「親戚付き合いがなかった兄弟が相続人だった」「父に前妻の子がいた」など、戸籍を見て初めて判明する相続人は意外と多いものです。このような事態に備えるには、早い段階で専門家に相談し、法定相続人を明確にすることが最も有効です。特に半血兄弟がいる場合は、感情的な行き違いからトラブルに発展しやすいため、冷静に事実を把握するためにも戸籍調査が欠かせません。 半血兄弟の法定相続分は全血兄弟の2分の1 半血兄弟が相続人となるケースでは、その相続分が全血兄弟と同じかどうかがしばしば問題になります。結論から言えば、民法上、半血兄弟の相続分は全血兄弟の半分と明確に定められています。 ここでは、その根拠や具体的な計算例、よくある誤解について解説します。 民法900条の規定と具体的な計算例 民法第900条第4号但書には、次のように記されています。 兄弟姉妹が相続人である場合において、父または母の一方のみを同じくする者(半血兄弟)の相続分は、父母の双方を同じくする者(全血兄弟)の相続分の2分の1とする。 この条文が意味するのは、同じ兄弟でも血のつながりの程度によって相続分が異なるということです。 【具体的なケースでの比較】 被相続人に兄弟が以下の通りいたとします 全血兄弟A 全血兄弟B 半血兄弟C この場合の相続分は以下のように計算されます。 全血兄弟の1人分の持分:2 半血兄弟の1人分の持分:1 合計持分=2(A)+2(B)+1(C)=5 よって、各相続人の割合は A:2/5 B:2/5 C:1/5(半血) このように、全血兄弟:半血兄弟=2:1の比率で相続分が決まるのが原則です。 全血兄弟と半血兄弟が混在するケースの相続割合 実際の相続では、兄弟姉妹が全員全血とは限りません。むしろ、離婚・再婚・認知などにより、全血と半血が混在するケースが多く見られます。 たとえば 全血兄弟が1人 半血兄弟が2人 というケースでは、以下のように持分を考えます。 全血兄弟の持分:2 半血兄弟2人の合計持分:1+1=2 合計持分:2(全血)+2(半血2人)=4 各相続人の割合は 全血兄弟:2/4=1/2 半血兄弟2人:それぞれ1/4 つまり、半血兄弟同士は均等に分けますが、全血兄弟に比べて1/2の扱いとなります。この原則はすべての兄弟姉妹が相続人となるケースにおいて適用されます。 半血兄弟の相続分は改正された?誤解されがちな法律の真実 インターネット上では、「半血兄弟の相続分も平等になったのでは?」という情報を見かけることがあります。これは、非嫡出子の相続分が嫡出子と同等になったという平成25年(2013年)の民法改正と混同されているケースが多いようです。 しかしながら、半血兄弟の相続分については現在も変わらず“全血の2分の1”というルールが有効です。そのため、制度上の誤解によって法定相続分以上を主張したり、逆に権利を軽視したりするトラブルが生じやすくなっています。誤解を防ぐためにも、正確な法的根拠に基づいた相続分を理解することが重要です。 そして、実際に相続協議を行う際には、このような前提知識があることで自分の正当な権利を主張しやすくなります。 被相続人の立場で変わる相続シナリオ 遺産分割の現場では、「誰が亡くなったのか(=被相続人)」によって、相続人の範囲や相続分が大きく異なります。 ここでは、被相続人の立場によって変わる相続のシナリオを3つの典型ケースに分けて解説します。 自分の兄弟が亡くなった場合(被相続人=兄弟姉妹) たとえば、未婚で子どもがいない兄や姉が亡くなった場合、その兄弟姉妹が相続人となります。このとき、以下の順序で相続人が決まります。 被相続人に子がいる → 子が第1順位 子がいないが親(父母)が健在 → 親が第2順位 子も親もいない → 兄弟姉妹が第3順位で相続人になる この第3順位で登場するのが、全血兄弟と半血兄弟です。前述の通り、相続分は「全血:半血=2:1」で計算されます。 兄弟全員が同じ割合で相続と思い込んでいるとトラブルに発展する可能性がある 兄弟姉妹が他界していても、その子(甥や姪)が代襲相続人になるケースもある 親が亡くなり異母兄弟が相続人になる場合(被相続人=親) 父または母が亡くなり、前婚・後婚で異なる配偶者との間に子がいた場合、異母(または異父)兄弟=半血兄弟が相続に関与することになります。 このケースでは、通常は「子どもが第1順位の相続人」となるため、兄弟姉妹には相続権はありません。しかし、次のようなケースでは、兄弟姉妹が登場する可能性があります。 子どもがいない 配偶者もすでに亡くなっている 親(直系尊属)も死亡している このような場合に、ようやく兄弟姉妹が相続人として登場し、その中に半血兄弟がいれば、前述の比率(2分の1)が適用されます。また、親の相続では、「異母兄弟とは交流がなく、存在も知らなかった」というケースも珍しくありません。 後から存在が判明した場合でも、法的に相続人と認められれば、無視することはできません。 ※親に子ども(異母兄弟を含む)がいれば子どもが第一順位の法定相続人となり、兄弟姉妹(親のきょうだい)は相続人になりません 被相続人が養子だったときの特殊な分割例 被相続人が「養子」である場合、相続関係はさらに複雑になります。養子は法的に実子と同等の相続権を持つため、次のような相続関係が生じる可能性があります。 例1:養子が兄弟姉妹の場合 養子が被相続人の兄弟に含まれている場合、法的には全血兄弟と同じ扱いになる(※養子縁組が誰と結ばれているかによる) 例2:被相続人自身が養子だった場合 養親側と実親側の両方に相続権が発生する可能性がある(普通養子の場合) 特別養子縁組では実親との法的な親子関係が完全に切れるため、実親側からの相続は発生しない つまり、養子か否か・養子縁組の種類によって、半血兄弟の位置づけが大きく変わる可能性があるため、戸籍と養子縁組届の有無などをしっかり確認する必要があります。 養子となった者も法律上は養親の実子と同様の地位を持つため、養親の実子とは全血兄弟姉妹として相続人になります。 一方で普通養子であれば実親との親子関係も残るため、実親側の兄弟姉妹とも法定相続関係が生じます(特別養子は実親との関係が絶たれるため実親側の相続人にはなりません。 半血兄弟との相続トラブルを回避する方法 相続の現場では、日ごろ交流の少ない半血兄弟の存在がトラブルの火種になることがあります。「突然、異母兄弟が現れて主張してきた」「全血兄弟と半血兄弟で揉めてしまった」など、感情面の対立だけでなく、誤った理解による分割ミスも多発します。 ここでは、そうしたトラブルを未然に防ぐための具体的な方法を紹介します。 遺言書の作成(兄弟には遺留分がない) 遺産分割のトラブルを防ぐ最も有効な方法のひとつが遺言書の作成です。 被相続人が事前に「誰に、何を、どれだけ渡すか」を明確に記しておくことで、相続人間の争いを最小限に抑えられます。 特に兄弟姉妹は、民法上「遺留分(最低限の取り分)」がないため、遺言書によって特定の兄弟にすべての財産を遺すことも法的には可能です。 【注意点】 自筆証書遺言を作成する場合は形式不備に注意 公正証書遺言にしておくとトラブル時に有効性を証明しやすい 半血兄弟に相続させたくない事情がある場合も、遺言書があれば明確な意思表示が可能です。 生前贈与や家族信託の活用 遺言書以外の方法として、生前贈与や家族信託を活用するのも有効です。これにより、被相続人の意思を生前に反映させておくことができます。 生前贈与のメリット 相続発生前に財産を移転できる 必要な人に必要な分を確実に渡せる 遺産をめぐる対立を減らせる 家族信託のメリット 認知症など判断能力が低下した場合でも、信託契約に従って資産を管理・承継できる 遺留分がない兄弟姉妹には、信託によって事実上「除外」する設計も可能 ただし、税務や法律面の注意点も多いため、制度を正しく理解したうえで専門家のサポートを受けるのが安心です。 音信不通・行方不明の兄弟がいる場合の対応 相続人の中に連絡が取れない半血兄弟がいる場合、手続きはストップしてしまいます。 こうした場合には、以下のような法的措置を検討することができます。 主な対応方法 家庭裁判所へ申立:不在者財産管理人の選任を求めることで、代わりに協議を進めることができる 除外した分で仮分割:他の相続人で先に分割を進め、行方不明者の分は法定相続分として別管理する(現実的には難しい) 公告を利用:行方不明者への公告を出して一定期間反応がなければ、裁判所が次の手続きへ進むことを認める場合がある 行方が明らかでない者がいる状態で、他の相続人だけで遺産分割を行うことはできません。家庭裁判所に不在者財産管理人の選任を申し立て、選任された管理人が裁判所の許可を得て行方不明者の代理人として協議に参加します。 この際、行方不明者の法定相続分を確保した形で分割する必要があります。 相続手続きにおいて「1人でも連絡が取れない相続人がいる」と、協議書の作成ができないため、早期対応が肝心です。 こんなときは迷わず専門家へ|相談の判断基準と費用の目安 相続トラブルの多くは、「よくわからないまま進めたこと」に起因します。次のような場合は、迷わず弁護士に相談することをおすすめします。 相続人に半血兄弟が含まれていて、感情的な対立がある 相続人の数が多く、関係性が複雑(再婚・養子・非嫡出子など) 協議書が法定相続分と異なる内容になっている 遺言の有効性や分割の公平性に疑問がある 実際によくある手続きトラブルとその対処法 半血兄弟が関係する相続では、知識不足や連絡不備が原因で手続きが停滞したり、トラブルに発展するケースが少なくありません。 実際に起きやすい相続手続き上の問題と、それに対する対処法をわかりやすく解説します。 半血兄弟の存在が判明した場合の対応 戸籍を調べた結果、今まで知らなかった異母兄弟・異父兄弟が相続人として登場することは、決して珍しくありません。 対応のポイント 戸籍を出生から死亡まで追って確認する(戸籍の附票も取得推奨) 判明した半血兄弟には、必ず連絡し相続人として扱う必要がある 連絡がつかない場合は、家庭裁判所に「不在者財産管理人の申立」を検討 放置して相続協議を進めると、あとから半血兄弟から「自分の相続分が侵害された」と主張されるリスクがあります。 遺産分割協議書が法定相続分と異なる場合のリスク 相続人同士が話し合って作成する「遺産分割協議書」は、相続割合を自由に決めることが可能です。しかしその内容が、民法で定められた法定相続分と大きく異なる場合、以下のリスクが生じます。 内容に納得していなかった相続人から「協議無効」と争われる 書面の不備により、登記や金融機関での手続きが受理されない 半血兄弟が「不当に不利な扱いを受けた」と主張してくる 協議書を作成する際は、全相続人の同意が必要であり、署名押印・実印・印鑑証明書も必要です。少しでも不安がある場合は、弁護士にチェックを依頼することをおすすめします。 数次相続や代襲相続によって相続人が複雑化したケース 相続人の中にすでに他界している人がいる場合、その子や孫が「代襲相続人」として登場します。また、相続が発生した後にさらに別の相続(数次相続)が起こると、相続関係は一気に複雑になります。 例:代襲相続+半血兄弟が関与するケース 被相続人:A Aの兄(全血):B(故人)→ Bの息子Cが代襲相続人 Aの異母弟(半血):D → 法定相続分はCの2分の1 このように、相続関係に全血・半血・代襲が混在すると、計算ミスや協議の混乱が起こりやすくなります。戸籍確認だけで判断が難しいと感じた場合は、早期に相続専門の専門家へ相談し、相続関係説明図や法定相続情報一覧図を作成してもらうと安心です。 相続手続きが完了後に異議を申し立てられるか? 相続手続きが一旦完了していたとしても、あとから半血兄弟が登場し、「自分は相続人だった」と主張してくる可能性もあります。このような場合でも、次のような条件が揃えば再協議や遺産の一部返還が求められる可能性があります。 再協議の可能性があるケース 半血兄弟に相続人としての通知が一切なかった 遺産分割協議書にその人の署名・捺印がない 意図的に除外されていた証拠がある(相続人の隠蔽) 逆に、正式な協議書があり、全員の署名・押印が揃っていた場合には法的に問題ないとされるケースもあります。いずれにしても、「後から争われない協議をする」「全員が納得した形を文書に残す」という意識がとても重要です。 具体例で学ぶ!半血兄弟を含む相続のシミュレーション これまで、半血兄弟の定義や相続分の基本ルールについて解説してきました。 ここからは、実際によくある家族構成をもとに、相続分の分配がどう変わるかをシミュレーション形式で解説します。具体例を確認することで、自分の状況に近いケースをイメージしやすくなります。 全血兄弟2人+半血兄弟1人の場合の相続分 家族構成 被相続人Aに配偶者・子・親なし 相続人は以下の3名のみ └ 全血兄弟B(父母ともに同じ) └ 全血兄弟C(父母ともに同じ) └ 半血兄弟D(父または母が異なる) 分配の考え方 全血兄弟の持分を「2」 半血兄弟の持分を「1」 → 合計:2+2+1=5 相続分 B:2/5(=40%) C:2/5(=40%) D:1/5(=20%) このように、半血兄弟は全血兄弟の“半分の相続分”として計算されます。 半血兄弟のみが相続人の場合の分配例 家族構成 被相続人Aに配偶者・子・親・全血兄弟なし 異母兄弟E・F(=半血兄弟)のみが存命 分配の考え方 半血兄弟同士は平等に相続 → 法定相続分は1:1で分けられる 相続分 E:1/2(=50%) F:1/2(=50%) このケースでは、半血同士であれば全血と同様に“等分”される点がポイントです。「半血だから全体の取り分が少なくなる」わけではないことに注意しましょう。 半血兄弟の子や配偶者が相続人になるケース(数次相続) 家族構成 被相続人Aの相続人であった半血兄弟Gは、相続開始前にすでに死亡 Gには配偶者Hと子Iがいた 注意点 兄弟姉妹には遺留分がない 兄弟姉妹がすでに亡くなっていた場合、その配偶者には相続権はない ただし、兄弟姉妹の子(甥・姪)には“代襲相続”の権利がある 結論 子Iは代襲相続人として相続権を持つ 配偶者Hには相続権がない このように、兄弟の配偶者は相続人ではない点に注意が必要です。また、代襲相続は兄弟姉妹の“子”までが限度であり、その子(=孫)には適用されません。 よくある質問とその答え(FAQ) 相続に関する疑問は人それぞれですが、とくに半血兄弟が関わるケースでは、よくある質問に対する正確な知識が安心と納得につながります。 半血兄弟がいる場合でも相続を放棄できますか? はい、可能です。相続放棄は、全血兄弟であっても半血兄弟であっても、法定相続人であれば誰でも行うことができます。相続放棄をすることで、財産の受け取りや負債の引き継ぎを避けることができます。 【手続きのポイント】 家庭裁判所に「相続放棄の申述書」を提出 原則として「相続を知った日から3か月以内」に手続きを行う 相続放棄後は、その人は最初から相続人でなかったものとみなされる(民法第939条) ただし、一度相続放棄をすると撤回できないため、判断は慎重に行う必要があります。 半血兄弟に相続させたくないときはどうすればよいですか? 遺言書の作成が有効です。民法上、兄弟姉妹には「遺留分(最低保障される相続分)」がないため、遺言で相続から外すことが可能です。たとえば、特定の兄弟にすべての財産を相続させ、半血兄弟には一切遺さないという内容の遺言も、法的には認められます。 【注意点】 自筆証書遺言には厳格な書式要件がある 公正証書遺言にしておくとトラブル時にも無効とされにくい 遺留分侵害請求はされないが、感情的トラブルには備えておくこと 争いを避けたい場合は、遺言だけでなく生前の説明や信託の活用も有効です。 異母兄弟の所在が不明な場合、手続きは進められますか? 進めることは可能ですが、法的な手続きを経る必要があります。相続人が1人でも欠けていると、遺産分割協議は無効になります。そのため、連絡が取れない異母兄弟がいる場合は、以下の対応を検討します。 【主な対応策】 不在者財産管理人の申立て:家庭裁判所に申立てを行い、代理人を立てて協議を進める方法 公告による呼びかけ:一定期間告知した上で反応がなければ、裁判所の許可を得て分割へ進める場合も これらの手続きは複雑であるため、早期に弁護士に相談するのが安全かつ確実です。 まとめ|半血兄弟との相続に備えるために 半血兄弟が関係する相続は、法律的なルールと感情的な難しさが絡み合う非常にデリケートな問題です。本記事では、相続順位や相続分、トラブル予防策など、具体的な対応方法を幅広く解説してきました。ここで改めて、押さえておくべきポイントを整理しておきましょう。 重要ポイントのおさらい 半血兄弟も法定相続人になり得るが、その相続分は全血兄弟の2分の1(民法第900条) 兄弟姉妹は第3順位の相続人であり、子や親がいない場合に相続権が発生 遺言書の作成によって、相続分の指定や排除も可能(兄弟には遺留分なし) 代襲相続は兄弟姉妹の子(甥・姪)まで可能、配偶者には相続権がない 相続人に連絡がつかない場合は、不在者財産管理人制度の活用も検討を トラブルを防ぐために今からできる準備 家系や戸籍を確認し、将来的な相続人を把握しておく 自分や親に異母兄弟・異父兄弟がいる場合は、その有無・関係性を家族で共有する 被相続人になる可能性がある方には、遺言書の作成や生前贈与の検討をすすめる トラブルが起きる前に、専門家にアドバイスを求めることも一つの手段 困ったときは専門家へ無料相談を 相続は一生に何度も経験することではなく、手続きや権利関係に戸惑うのが当然です。特に、半血兄弟が関わる場合は、誤解や不公平感から争族(そうぞく)=争いのある相続に発展するリスクも高くなります。そうしたトラブルを避けるためにも、早めに専門家に相談することが重要です。 法的に自分にどれくらいの権利があるのか知りたい 戸籍を調べたら知らない兄弟が出てきたけど、どうすれば? 遺言書の書き方がわからない このようなお悩みは、相続に強い弁護士の無料相談で、具体的な道筋が見えてくるはずです。まずは一歩踏み出して、損をしない・揉めない相続に備えましょう。 まとめ文 半血兄弟は、父または母のみが共通する兄弟姉妹であり、法定相続分は全血兄弟の2分の1と民法で定められています。 兄弟姉妹が相続人になるのは第3順位であり、子や親がいない場合に限られます。 半血兄弟との相続では、戸籍の確認や遺言書の活用がトラブル回避の鍵になります。 相続放棄や代襲相続、不在者対応など、特殊なケースにも備えた柔軟な手続きが必要です。 手続きのミスや知識不足による損失を防ぐには、早めの情報収集と専門家への相談が効果的です。 不安な点や判断に迷う部分がある方は、相続に強い弁護士に相談することで、安心して進めることができます。大切な家族との関係を守り、スムーズな相続を実現するためにも、ぜひ早めの行動をおすすめします。

2025.08.20

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家族信託とは?メリット・デメリット・手続きの流れをわかりやすく解説

家族信託とは?メリット・デメリット・手続きの流れをわかりやすく解説

「家族信託って、どう進めればいいの?」 「必要性は知っているけれど、費用やリスクが不安です……」 家族信託のしくみと主な流れ 契約時に想定される費用や税金の目安 失敗を防ぐための対策や注意点  早いうちから家族信託を考えるのは、有益な選択です。  認知症リスクや相続トラブルに備えるには、事前に動いておく姿勢が助けになります。  とはいえ、親族の財産管理に関する話し合いは気が重いですよね?  この記事を読むと、具体的な進め方が明確になり、専門家への相談がスムーズになります。ぜひ最後までお読みください。 本記事の目的 家族信託の基本的な仕組みやメリット・デメリットを知りたい方 親が認知症になる前に備えたい、相続トラブルを防ぎたい、他の制度との違いを確認したい方 自分で手続きを進めるか、専門家へ依頼するか検討している方  早い段階で将来の資産管理を考えようとすると、家族信託が候補に上がる場面があります。成年後見制度や遺言書では解消しきれない問題を回避するには、家族信託の仕組みを理解して活用する方法が適しています。  家族が協力しながら財産を管理できる形に整備すると、親が認知症になっても資金を動かせる可能性が高まります。  兄弟姉妹や義理の親族とも意見が割れずに済むかどうか、初期費用はいくらくらいになるか、そのあたりを知っておくと安心です。  当解説では基本のステップを順番にまとめ、どこで専門家に相談すると良いかも示します。本人の判断力がある段階で相談を始めれば、後悔を減らせるでしょう。  家族信託によってメリットを得るためにも、早めの準備や丁寧な話し合いが必要です。反面、思わぬデメリットも含まれるため、安易に飛びつくと混乱を招く危険もあります。  複数の制度との比較を踏まえたうえで、自分の家庭環境や親族の意見を考慮する流れが大事です。 家族信託の基本概要 家族信託の定義と仕組み  家族信託とは、家族間で財産管理を任せる契約です。委託者が所有している預貯金や不動産を、受託者に管理・処分する権限を与える形になります。  受益者は、その財産から生まれる収益や利益を受け取る立場です。委託者と受益者が同一になる例が多いですが、別に設定して財産を受け取る人を分ける事例もあります。 委託者:財産を持つ人 受託者:契約で定められた財産を管理・運用する人 受益者:利益を得る人  たとえば、親が「委託者」および「受益者」となり、子が「受託者」として財産の管理・処分を担う形式が一般的に想定されます。契約内容によっては、受託者である子に不動産の売却権限が与えられることもあります。  そのため、親の判断能力が低下した後でも、あらかじめ取り決めた内容に基づき、円滑に資産の整理や処分を進めることが可能となります。 なぜ「家族」間で信託契約を結ぶと便利なのか  家族間で信託契約を締結する最大のメリットは、「安心感」と「柔軟性」です。信頼関係のある家族が受託者となることで、親の意向を理解したうえで、きめ細やかに対応できる可能性が高まります。  一方、判断能力が低下した場合に利用される制度としては成年後見制度がありますが、同制度では家庭裁判所の監督が入り、資産の運用や処分に一定の制約が生じることがあります。 家族信託が注目される理由 高齢化・認知症リスクの増加  近年の高齢化の進行に伴い、認知症を発症するリスクが高まっています。認知症になると、本人名義の預金口座が凍結されたり、不動産の売却手続ができなくなったりする可能性があります。たとえ子どもが代理で対応しようとしても、手続きが複雑で時間を要するケースが多く見られます。 成年後見制度や遺言書だけではカバーしきれない問題  成年後見制度は、本人の判断能力が低下した際に、後見人が代理人として財産管理などを行う制度ですが、財産の処分や使途については家庭裁判所の許可が必要となる場合も多く、迅速かつ柔軟な対応が難しい場面があります。  また、遺言書は基本的に「死亡後の財産の分け方」を定めるものであり、「生前の財産管理」や「認知症に備えた制度」としては十分ではありません。こうした成年後見制度と遺言書の隙間を補う仕組みとして、家族信託が活用されつつあります。 家族間で柔軟な財産管理ができるメリット  家族信託は、契約内容を当事者間で柔軟に設計できるのが大きな特徴です。たとえば、複数の資産をまとめて管理することや、将来の状況変化を見越して段階的に管理内容を変更するような条項を盛り込むことも可能です。  受託者が子どもであれば、日々の生活費や介護費用を親の口座からスムーズに支出できる体制を整えることができ、実務的な負担も軽減されます。また、将来の相続発生後における不動産の共有によるトラブルを、事前に回避する設計も可能です。 家族信託のメリット・デメリットを徹底解説 家族信託の代表的なメリット 認知症リスクによる財産凍結を回避  親が認知症になっても、受託者が契約書にもとづいて預金や不動産を扱えます。成年後見人を付けるより自由度が高い契約にしやすく、スピーディーな対応が見込めます。医療費や介護費用を確保しやすいのも利点です。 成年後見制度より柔軟な財産管理が可能  成年後見制度では、大きな投資や財産処分を実行する際に制限がかかる事例が多いです。家族信託なら契約時に処分権限を定めておけるので、売却や資産運用を親の希望に沿って進めやすいです。 遺産分割協議をスムーズにし、相続トラブルを軽減  相続の段階で、不動産や預金が複数の相続人間で共有状態になると揉めるリスクが高まります。家族信託なら委託者が存命中に財産の承継先をある程度指定できるため、死亡後の争いを減らせる可能性があります。 不動産共有リスクの回避  共有名義が生じると、一人でも反対意見が出た際に売却手続きが止まりがちです。信託契約で受託者に売却権限を付けておけば、素早く決断しやすくなります。 家族信託の主なデメリット 節税効果は基本的に期待できない  家族信託はあくまで財産管理の仕組みであり、税制上の優遇措置があるわけではありません。相続税や贈与税については、通常の課税関係が適用されるため、「節税目的」での利用には適していません。信託の設計にあたっては、税理士等と連携して税務面の確認を行うことが重要です。 受託者の責任・管理負担が大きい  受託者は信託財産の管理者として、収支の管理、帳簿の作成、関係者への報告、重要書類の保管など、多岐にわたる義務を負います。家族内の信頼関係があっても、実務的な負担は軽視できません。受託者を引き受ける際には、その責任の重さを十分に理解したうえでの判断が求められます 親族間の理解不足で不公平感を生む可能性  家族信託は、契約当事者である委託者・受託者・受益者の間で成立しますが、他の親族が関与していない場合、「知らないうちに財産が動かされた」といった誤解が生じる可能性があります。特に兄弟姉妹が複数いる家庭では、事前の説明や合意形成を丁寧に行わないと、将来的な遺産分割時のトラブルにつながるおそれがあります。 身上監護権がない(成年後見制度との併用を検討)  家族信託は財産管理に特化した制度であり、身上監護(介護方針の決定、施設入所の契約、医療同意など)の権限は含まれません。判断能力が低下した場合に、生活面の意思決定を行うには、別途、成年後見制度を併用する必要があります。信託と後見を併せて検討することで、法的保護の範囲を補完できます。 契約書作成、公正証書化、登記などの初期費用がかかる  契約書の作成、公正証書化、不動産がある場合の登記手続きなどが必要となります。これらに伴い、公証役場での手数料、専門家(弁護士・司法書士・税理士等)への報酬、登録免許税などの初期費用が発生します。資産規模や内容に応じて費用が異なるため、事前に見積もりを取り、必要な費用を把握しておくことが大切です。 家族信託はこんな方におすすめ 認知症・高齢の親の財産管理を考えている 成年後見より柔軟に運用したい方に向いています。 兄弟姉妹・義理の親族との相続トラブルを避けたい 不動産や預金を事前に分割しやすいので、亡くなる前から対策できるでしょう。 不動産や株式など多様な資産を管理・運用したい 信託契約に含めれば、複数の財産を一元管理しやすいです。 成年後見制度や遺言書だけでは不安がある 判断力低下から死亡後まで、幅広くカバーする形を整備可能です。 遠方在住でも親の財産をスムーズに管理したい 子が別の地域や海外に住んでいても、受託者として資産を扱いやすい形を作れます。 家族信託の手続きと流れを図解で解説 ステップ1. 事前準備・家族間での合意形成  誰が委託者・受託者・受益者になるかを最初に決めます。さらに、どの財産を対象にするか明確にすることが必須です。以下のようにまとめてみましょう。 委託者:財産をもつ親 受託者:財産を管理する子 受益者:利益を得る親 対象財産:不動産、預貯金、株式など(具体的にリスト化)  家族全員が納得していないと、後から「聞いていない」と言われてトラブルになるかもしれません。家族会議などで目的を共有しておけば、不公平感を減らしやすいでしょう。 ステップ2. 信託契約書の作成・公正証書化  契約書は、信託法に基づく要件を満たす形で書く必要があります。記載項目に抜けがあると無効になる可能性があるため慎重に進めるべきです。条文を一つひとつ確認するには専門知識が要るので、司法書士や弁護士へ依頼する方が安心だといえます。 必須事項の例 委託者、受託者、受益者の情報 信託する財産の種類と範囲 信託の目的(認知症対策や財産承継など) 信託の終了条件や変更手続き  公正証書にするなら、公証役場へ委託者と受託者が出向いて手続きを進めます。実印や印鑑証明などを準備し、数万円程度の費用を支払う形が一般的です。公正証書にしておけば、後から改ざんを疑われる心配が減るでしょう。 自分で作成するときのリスクと専門家に依頼するメリット  家族信託の契約書は、自力で作成することも可能であり、その場合には専門家への報酬が不要となるため、費用を抑えられるというメリットがあります。しかし、信託契約は法的に複雑な内容を含むことが多く、作成方法によっては「無効」や「不完全」と判断されるリスクも否定できません。特に、後日トラブルが発生した際には、契約内容の不備が争点となるケースもあります。  弁護士などの専門家に依頼すれば、手数料はかかるものの、法律や相続の観点から適切な内容になるようサポートを受けることができます。不明点が生じた際にも気軽に相談できるため、安心して手続きを進めやすいという利点があります。 ステップ3. 信託財産の名義変更・信託口口座の開設  契約書の作成が完了したら、次に信託財産の名義変更や管理口座の開設を行います。  不動産を信託財産とする場合は、法務局で「信託登記」の手続きを行います。この際、不動産の名義は「○○(受託者)信託」といった形式に変更されます。登録免許税として、不動産の評価額に対して原則0.4%の税率が適用されます(2025年8月現在)。  預貯金については、信託専用の「信託口口座(しんたくぐちこうざ)」の開設を金融機関に申請します。この口座は、受託者が管理・運用するための専用口座であり、将来、委託者が認知症を発症した場合でも、受託者が適切に資金を取り扱うことが可能になります。 ステップ4. 信託の運用・管理開始  信託の運用を始めたら、受託者には定期的な報告が求められる場面があります。預金残高や不動産賃貸の収入などを、委託者や他の家族へ共有するとトラブルを予防しやすいでしょう。財産が増えたり減ったりした際は、契約書を見直す手順を検討する必要が出るかもしれません。追加の財産を信託に組み入れる時は再度書面を作るなど、状況に合わせた柔軟な対応が必要です。  受益者が変更になる場面では、誰が次の受益者かが契約で定められていればスムーズです。場合によっては専門家に相談して条項を修正し、追加の登記を行う流れを取ることもあります。 家族信託にかかる費用と税金 契約関連費用  契約関連費用として、まず公正証書作成費用や印紙税が挙げられます。公証役場に支払う額は、文案の長さや財産額によって数万円から十数万円程度になる可能性があります。司法書士や弁護士へ依頼するなら、手数料として数十万円かかる事例もあるため、事前に見積もりを比較すると良いでしょう。 公正証書作成費用の目安:数万円〜 専門家への報酬:財産総額やサービス範囲で変動 印紙税:契約書に貼る印紙が数千円ほどかかる例が多い  専門家にすべて任せると高くつくと思うかもしれませんが、書面の不備を防いで後日トラブルが起こるリスクを減らす意味ではメリットがあるといえます。特に不動産が多い場合や株式が含まれる場合など、複雑になりやすい状況はプロに任せたほうが無難です。 登記・税金 不動産の信託登記時の登録免許税  不動産を信託に組み入れる場合は、法務局で信託登記を実施します。その際に登録免許税がかかり、一般的には不動産評価額の0.4%がかかる形が多いです。例えば、土地や建物の評価額が1,000万円なら4万円程度の税が想定されます。 不動産取得税が非課税になる場合も  家族信託で不動産を受託者名義に変える際、通常の不動産取得税がかからないケースもあります。特定の条件を満たせば非課税扱いになるため、事前に自治体の窓口や専門家に問い合わせると安心です。 相続税・贈与税の基本的な考え方(節税効果は限定的)  家族信託では、財産そのものの所有関係が変わるわけではなく、あくまで管理を任せる形です。贈与にならないよう契約内容を組むことが多いため、節税面でのメリットは期待しにくいです。結果として、相続税や贈与税は通常通りに課される場面が多いでしょう。法定相続人が複数いる家庭だと、早めに全体像を把握しておくと混乱を防ぎやすいです。 実際の相談事例から学ぶ 事例1. 海外在住の娘と90歳の父 背景:父が認知症初期の疑い、すぐに成年後見手続きをしたくない  ご相談者は、海外在住の娘様。高齢の父親が軽度の認知症の兆候を示していたものの、すぐに成年後見制度を利用することには抵抗があるとのご意向がありました。父親の財産管理を家族内で柔軟に行いたいとの希望から、家族信託を活用する方向で検討を始められました。  父親の体力を考慮し、長時間の面談や打ち合わせが難しい状況であったため、娘様が一時帰国中に短期間で信託契約を締結する必要がありました。司法書士と事前に契約書案の準備を行い、公証役場の予約も滞在中に合わせて確保。約1か月の滞在期間内で、契約締結から信託口口座の開設までを目指して計画を立てられました。 ポイント:短期間(1ヶ月)で契約を進める必要/遠方在住の受託者でも管理しやすい体制づくり 短期間での書面づくり 限られた滞在期間の中でスムーズに手続きを進めるため、事前に契約書のドラフトを作成し、公正証書化の日程を確定。父親の体調に配慮し、無理のない時間帯・場所で公証役場を手配するなど、現実的なスケジュール調整が重要なポイントとなりました。 遠方在住者への業務委任 海外に居住している受託者が今後の管理を担うため、日本国内の名義変更や銀行手続きは司法書士・行政書士に委任し、効率的に進めました。契約締結後はインターネットバンキングを活用し、遠隔でも資金を適切に管理できる体制を整えました。 認知症が深刻化する前に行動 父親はまだ契約内容を理解できる初期段階であったため、家族信託の締結が可能でした。症状が進行していれば契約そのものが無効とされるリスクもあるため、本件は「適切なタイミングでの決断」が成功の鍵となった好事例です。 事例2. 認知症の母の資産を兄弟で分けたい 背景:母名義の不動産・金融資産を母存命中に売却・分割希望  認知症を発症した母親の資産(不動産・金融資産)について、兄弟間で協議し、母の介護費用を確保しつつ、残余の不動産を売却して資金を分けたいという希望がありました。  当初は家族信託の活用を検討されていましたが、すでに母親の判断能力が大きく低下しており、契約内容の理解が困難な状態に。最終的には、家族信託ではなく成年後見制度の利用を前提に手続きを進める方針となりました。 ポイント:判断能力がすでに低下している場合は家族信託が難しいケースも/成年後見制度との比較検討 本人の契約意思が必要  家族信託を有効に成立させるには、委託者本人が契約内容を理解し、同意することが前提となります。すでに重度の認知症を発症していた場合、その意思能力が認められない可能性が高く、信託契約は成立しない、あるいは無効となるおそれがあります。 成年後見が適する場合もある  本人の意思確認が困難であり、生前に不動産を売却したいという目的がある場合は、成年後見制度の利用を検討する必要があります。成年後見制度では、家庭裁判所の監督下で後見人が財産管理・売却手続を行うことが可能です。家族信託ではカバーできない「身上監護(介護・医療・施設契約等)」にも対応できるという利点があります。 早い段階からの対策が重要  母親の判断能力が低下する前に家族信託を組んでいれば、より柔軟な資産管理と家族による対応が可能だったかもしれません。この事例は「判断能力があるうちに準備しておくことの重要性」を強く示しています。 家族信託 vs 成年後見制度 他制度との比較・併用方法  家族信託は認知症対策や相続準備に有益ですが、万能ではありません。成年後見制度や遺言書、生前贈与などと併せて検討すると全体像が見えやすいです。それぞれの特徴を理解したうえで、必要な要素を組み合わせるのが好ましい場面も多いです。 成年後見制度:身上監護が必要な場合  成年後見制度では、判断力が低下した人の代理人として後見人が生活面の決断なども担当します。家族信託には身上監護の効力がありません。介護施設への入所手続きや医療契約などを代行してほしい場合は後見制度が有力です。 遺言書:死亡後の財産承継のみカバー、認知症対策は難しい  遺言書は死亡後の資産配分を指定する手段です。生きている間の財産管理や認知症対策は含まれないので、「認知症リスクを回避したい」「売却などの生前行為を調整したい」といった場面には向きません。 生前贈与・遺留分との関係:早期贈与が有効な場合/家族信託だけでカバーできない場合も  生前に子へ財産を贈与してしまえば、委託者の手元財産が減ります。ただし、贈与税や遺留分を巡る問題が絡むかもしれません。家族信託と生前贈与を併用する例もありますが、制度ごとの利点と不利な面を理解しながら進めるのが無難です。 併用のポイント:認知症進行時の身上監護は後見制度、財産の管理は家族信託…など  介護面は成年後見人へ任せ、資産の運用や売却は受託者へ委ねる形もあり得ます。複数の制度を活用する場合、混乱を避けるため書面化が欠かせません。主治医や専門家を交えて話し合う姿勢が大切です。 失敗・後悔しないための注意点 親族間トラブルの防止  家族信託を進めるなら、兄弟姉妹や義理の親族へ詳しい説明をすることが望ましいです。特定の人だけが決めたと見られると、後から「勝手に名義を変えられた」と不満が出る懸念があります。財産管理の方針や最終的な受益者がどうなるのか、見える形で共有すると不信感を減らしやすいです。 説明資料の作成  簡易的な家系図や財産目録を用意して、誰が何を担当するか整理。口頭だけでなく、紙ベースで見せるほうが誤解を防げます。 全員での打ち合わせ  可能なら専門家を交え、親族全員が集まって話す場を設けると納得感が高まります。時間が取れないなら、オンライン会議を活用して意見を確認する方法も考えられます。 受託者の責任とリスク管理  受託者は、預かった財産を管理・運用する義務を背負う立場です。報告を怠ると、ほかの家族から疑念を抱かれる可能性があります。金銭トラブルが大きくなると、訴訟問題に発展する危険も否定しにくいです。加えて、受託者が突然亡くなったり長期入院になったりするケースも考慮が必要になります。 財産管理義務の範囲・報告義務  受託者は、信託財産の収支や残高を定期的に開示したほうが平穏に進められます。書類や通帳を整理し、必要に応じて第三者に監査を依頼するケースもあります。 受託者が亡くなった場合や交代する場合の想定  代替の受託者を契約書で指定しておくと、スムーズに引き継ぎが可能です。後継受託者を一人に限定しないで、2〜3人を候補に挙げる手段も考えられます。 タイミングを逃さない  家族信託の契約が有効になるには、委託者の判断力が確保されている必要があります。認知症が深刻化したあとでは締結できない場面が多いです。突然の入院や病気で判断力が低下するリスクを想定し、元気なうちに動くほうが負担が軽くなります。 認知症の進行具合に注意  医師の診断を受けて軽度の段階と判断されるなら、早めに手続きを検討。本人が十分に理解できる時期が残されていなければ後見申立てに移る流れになりやすいです。 家族全体での早期会議  「いつか必要になりそう」と感じたら、親に遠慮せず情報共有に踏み出す姿勢も大事です。事前に準備した人ほどスムーズに進む傾向があるといえます。 家族信託は自分でやる?専門家に依頼する? 自分で家族信託をするメリット・デメリット メリット:費用削減、家族間で完結しやすい  契約書を独力で作れば、専門家への報酬を減らせます。家族内で意見交換しながら進めるので、ほかの人に詳しく知られずに済むと考える方もいます。 デメリット:契約書の不備リスク、トラブル時の対処困難、手間や時間がかかる  法律的な誤りがあると契約自体が無効扱いになりかねません。親族間で意見対立が生じた時に仲裁を頼む存在がいないと困る場面があります。加えて、書類の作成から公証役場の手続きまでを全て自分たちで進めるのは大変です。 専門家に依頼するメリット スムーズで安全な手続き  弁護士や司法書士は、家族信託の実務や相続のルールに通じているため、最適な条項を提案しやすいです。公正証書化や登記の手続きを円滑に進めるノウハウを持っています。 責任やリスクを事前に最小化できる  契約の不備や親族トラブルの予兆を早期に察知し、修正をすすめる助言が期待できます。費用は高めになりがちですが、後から揉めるリスクを抑えたい場合は専門家が頼もしい存在となるでしょう。 遠方在住・多忙でも実行しやすい  親と受託者が離れて暮らしている場合でも、オンラインで面談を重ねながら段取りする事例が増えています。専門家が書類を取りまとめてくれると、当事者が集まる回数を減らすことが望めます。 家族信託に関するよくある質問(Q&A) Q1. 家族信託は認知症になった後でも契約できる?  契約を理解し、意思表示をする力が残っていれば可能なことがあります。重度になっているなら無効とされる恐れがあるため注意が必要です。 Q2. 家族信託で不動産を売却する場合、受託者だけで進められる?  契約時に処分権限を明記しておけば、受託者のみで売却を実施するシナリオが考えられます。内容が曖昧だと追加書面が必要になる場合があります。 Q3. 家族信託には本当に節税効果がないの?  大幅な節税策ではありません。基本的には通常の相続税や贈与税と同様に処理されるため、家族信託だけで税額が減る場面は少ないです。 Q4. 他の相続人に内緒で家族信託契約されていた場合、どうすればいい?  まずは契約書の写しを取り寄せ、法的に妥当な記載かを専門家へ相談。取り消し要件を満たしていれば、修正や中止を検討する余地があります。 Q5. 成年後見制度や遺言書と、どのように組み合わせたらいい?  介護や医療契約を視野に入れるなら成年後見、死後の承継を明確にしたいなら遺言書と併せるなど、ケースごとに組み合わせが変わります。専門家に相談しながら最適なセットを考えると安心です。 まとめ|早めの準備で安心を手に入れよう  家族信託は、認知症対策や相続トラブルの回避に活用しやすいしくみです。高齢になった親の財産を無理なく管理し、本人の希望を反映する意味でも意義は大きいでしょう。  早めの検討を始めるほど、委託者が冷静に判断できる段階で話をまとめられます。成年後見制度や遺言書などとも照らし合わせ、最適な組み合わせを探すと、より安全に将来を見すえられるでしょう。  最終的には家族間での合意と、専門家の意見がポイントになります。不明点があれば無料相談や専門家検索サイトなどを活用し、疑問を解消することが役立ちます。家族会議を開き、納得できるかたちを探る努力が重要といえます。  家族信託をうまく利用すれば、親族の負担や争いを減らしながら資産の管理を進めやすくなるはずです。親と子が安心して暮らせる道を作るため、早めに情報収集を始めてみてください。 まとめ文 家族信託は、財産管理や相続を家族内で柔軟に進めるための契約 認知症リスクや不動産の共有問題を軽減できる反面、身上監護は含まれない 受託者の責任や初期費用の負担を踏まえ、親族への十分な説明が欠かせない 成年後見制度や遺言書との比較検討が重要で、早い段階から準備を始めるほど安心  まずは専門家への相談や家族間の話し合いをスタートしてみてください。  家族信託を活用すれば、認知症対策や相続トラブルの不安を軽減しながら、大切な資産を守りやすくなります。家族や親族が納得できる形を見つけるためにも、情報収集と早めの検討を意識してみましょう。

2025.08.20

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遺言書の効力は大丈夫?有効な遺言書の書き方と無効例・対処法を解説

遺言書の効力は大丈夫?有効な遺言書の書き方と無効例・対処法を解説

「遺言書ってちゃんと効力があるの?」「親が高齢なんだけど、書いた内容が無効にならないか心配…」 そんな不安を感じて検索している方も多いのではないでしょうか。 この記事では、次のような疑問に答えていきます。 有効な遺言書を作成するために必要なルールとは 無効と判断される典型的なケースとその対処法 自筆・公正証書など、遺言書の種類ごとの注意点 遺言書は、書き方や形式を少し間違えるだけで、法的な効力を持たなくなることがあります。家族のために残したつもりの内容がトラブルの原因になるのは避けたいですよね。 「自分で調べても難しくてよく分からない…」「専門家に相談するタイミングが分からない…」と感じている方もいるかもしれません。 でも大丈夫です。この記事では、法律の知識がない方でも理解できるように、ひとつずつ丁寧に説明していきます。 この記事を読むことで、遺言書を有効に残すための基本的なルールと、将来の相続トラブルを防ぐための準備が明確になります。 まずはここから、一緒に確認していきましょう。 遺言書とは?効力と法的にできる内容・無効になるケースも解説 法的に有効な「遺言事項」とは 遺言書とは、本人の死後に法的な効果を発生させる文書です。 遺言書に書ける内容は、民法であらかじめ決められています。これを「遺言事項」と呼びます。 民法第960条では、「遺言は、民法に定められた方式に従ってしなければ、その効力を生じない」と明記されています。つまり、内容が正しくても形式が不備なら効力が発生しません。法的に有効とされる主な遺言事項は、以下のようなものです。 相続分の指定 遺産分割方法の指定 推定相続人の廃除とその取消し 遺贈(相続人以外に対する財産の付与が典型だが、相続人に対しても行える) 認知(婚外子などの父であると認める意思表示) 遺言執行者の指定 未成年後見人・後見監督人の指定 信託の設定 例えば、「長女に自宅を相続させる」「内縁の妻に預金の一部を遺贈する」といった指定は、いずれも法的効力を持つ内容として有効です。 一方で、「息子には家業を継いでほしい」「親族は仲良くしてほしい」といった希望や感情は、法的な拘束力はありません。こうした内容は「付言事項」として書くことはできますが、法的効果はないと理解しておくべきです。 遺言書が効力を持つには、まずこの「遺言事項」に該当する内容を意識して記載する必要があります。 遺言書とエンディングノートの違い エンディングノートと遺言書は、どちらも人生の終盤に準備する書類ですが、役割はまったく異なります。 エンディングノートは、家族に向けた自分の気持ちや希望を書き残すもので、法的な拘束力はありません。自由な形式で書けるため、病歴や葬儀の希望、SNSの扱い、連絡してほしい人のリストなど、内容は人それぞれです。 遺言書は、相続や財産処分をめぐる紛争を防ぐための法的文書です。前述のとおり、民法で決められた方式と内容に従わなければ無効になります。どれだけ丁寧に書かれていても、エンディングノートに「自宅は娘に渡したい」と書いても、法的な効果は生じません。 以下に両者の違いをまとめます。 比較項目 遺言書 エンディングノート 法的効力 あり(方式に従う必要あり) なし 書き方 民法で定められた方式が必要 自由に記載可能 主な内容 財産分与・遺贈・相続廃除など 葬儀の希望・想い・日常情報など 目的 相続トラブルの防止 家族への意思伝達 家族に自分の思いを伝えたいならエンディングノートも有効ですが、相続や財産の分配を正確に指示したい場合は、必ず法的に有効な遺言書を作成する必要があります。 遺言書でできる主な8つのこと 遺言書で実際に実現できる内容は、以下の8つが代表的です。これは実務でも頻繁に扱う項目です。 相続分の指定(民法902条) 遺産分割方法の指定(民法908条) 遺贈の指示(民法964条) 推定相続人の廃除(民法893条) 認知の意思表示(民法781条) 未成年後見人の指定(民法839条) 遺言執行者の指定(民法1006条) 信託の設定(民法985条以下) 例えば、「自宅は長男に、預金は次男と長女で等分」といった内容は、遺言書で明確に指定することで、将来の争いを防ぐ効果が期待できます。 また、家族ではない第三者に財産を遺したい場合(例えば長年介護してくれた知人など)も、遺言書による「遺贈」という形で実現できます。 これらの項目は、エンディングノートや口約束では実現できません。効力のある遺言書に正確に書き残すことが求められます。 遺言書の効力が及ぶ範囲と発生タイミング 効力の対象となる事項(財産・身分など) 遺言書の効力が及ぶ範囲は、主に「財産に関する事項」と「身分に関する事項」の二つに分類されます。どこまで効力が及ぶのかを理解しておくことは、誤解や無効を防ぐうえで重要です。 民法では、遺言によってできる内容が具体的に列挙されています。代表的なものを簡潔に整理すると、以下の通りです。 【財産に関する事項】 相続分の指定や変更 遺産分割方法の指定 特定の人への遺贈(遺産を相続人以外に与える) 財産の信託設定 担保責任の指示など 【身分に関する事項】 推定相続人の廃除またはその取消し 非嫡出子(婚外子)の認知 未成年後見人や後見監督人の指定 例えば、「全財産を長女に相続させる」と書いた場合、これは遺産分割方法の指定として効力があります。 逆に「長男とは絶縁したい」という記述では、相続廃除の要件(民法第893条)を満たしていない限り、効力は発生しません。 有効な遺言書にするには、こうした「効力が及ぶ内容」と「希望を書いても効力が生じない内容」を明確に分ける意識が必要です。 遺言の効力が発生するタイミングと有効期間 遺言書の効力が実際に発生するタイミングは、「遺言者の死亡時」です。生前には一切の効力を持ちません。これは民法第985条に基づく原則です。 例えば、生前に「遺言書を作ったから、もう自宅は長男のものだよ」と本人が話していたとしても、その時点では法的には何の効力も発生していません。相続人が財産を正式に取得するのは、遺言者の死亡後になります。 また、「有効期間」について誤解されがちですが、遺言書に有効期限は存在しません。何年経っても、死亡時に有効な方式で作成された遺言書であれば効力を持ちます。 ただし、遺言書は後から何度でも撤回できます。新しい遺言書が見つかれば、それが原則として優先されます(民法第1023条)。 よって、古い内容のままで不都合がある場合は、適切な時期に書き直す必要があります。 複数の遺言書がある場合の優先順位 遺言書が2通以上存在する場合、原則として「日付が新しいもの」が有効とされます。これは民法第1023条第2項に定められています。 例えば、以下のようなケースを想定してください。 2019年作成の自筆証書遺言では「長女に自宅を渡す」と書かれていた 2023年に作成された公正証書遺言では「全財産を次男に相続させる」となっていた この場合、後から作成された2023年の公正証書遺言が有効とされ、2019年の内容は撤回されたと見なされます。 ただし、内容が重複していない場合は、両方が併存することもあります。 また、日付が不明確な遺言書があると、無効になる可能性が高くなります。 自筆証書遺言では日付を「◯年◯月◯日」と明確に書く必要があります。 さらに、同一日に2つの遺言書が存在する場合は、方式によって判断されたり、証拠能力や意思の一貫性などが問われたりすることになります。 このようなトラブルを避けるには、古い遺言書の「撤回意思」を明記した上で、新たな遺言を作成するのが安全です。 遺言書の種類とそれぞれの特徴 遺言書には複数の種類があり、それぞれ作成方法や安全性、手続きの手間に違いがあります。どの方式を選ぶかによって、有効性のリスクや費用も変わってきます。 ここでは代表的な3種類の遺言書と、特別な場面で使われる特別方式遺言について説明します。 自筆証書遺言|費用ゼロだが要件に注意 自筆証書遺言とは、遺言者が全文を自分で書いて作成する遺言書です。費用がかからず、自宅でいつでも作成できることが大きなメリットです。 しかし、形式上の要件が厳格に定められており、ひとつでも欠けると無効になるリスクがあります。民法第968条第1項では以下の要件が定められています。 遺言の全文を自筆で書くこと 作成日を自筆で記載すること(例:2025年7月10日) 氏名を自筆で記載すること 押印をすること(認印でも可だが実印が望ましい) また、訂正する場合は、訂正箇所に押印したうえで訂正方法を欄外に明記する必要があります。これも民法968条第2項で定められています。 例えば、「相続人の名前を間違えたので二重線で消して書き直した」という対応は、方式を満たしていない可能性があり、無効とされるおそれがあります。 自筆証書遺言を作成する場合は、できる限り法務局の「自筆証書遺言書保管制度」を利用しましょう。 この制度を使えば、遺言書の原本を安全に保管でき、死亡後の検認手続きも不要になります。 公正証書遺言|最も信頼性が高い方式 公正証書遺言は、公証人が関与して作成される最も安全性の高い遺言書です。 遺言者が口頭で内容を伝え、公証人が文書を作成します。民法第969条に定められている方式で、以下の手順が必要です。 証人2人以上の立ち会いがあること 遺言者が遺言内容を公証人に口述すること 公証人が内容を筆記し、遺言者と証人に読み聞かせること 全員が正確であることを確認した上で署名・押印すること この方式では、公証人が方式や内容をチェックするため、形式不備による無効のリスクがほぼありません。 また、原本は公証役場に保管されるため、遺言書が紛失・改ざんされる心配もありません。 デメリットとしては、作成費用がかかることが挙げられます。相続財産の額によって異なりますが、財産が2,000万円程度であれば数万円の手数料が一般的です。 また、証人が必要なため、完全に秘密で作成することはできません。 それでも、相続人間での争いを防ぐうえでは非常に有効な手段です。 秘密証書遺言・特別方式遺言の活用場面 秘密証書遺言は、内容を誰にも見せずに遺言書を作成したい場合に使われる方式です。遺言書の本文は自筆でもワープロでも構いませんが、民法第970条に定められた以下の手続きが必要です。 遺言書に署名・押印すること 封筒に封をして、印鑑で封印すること 公証人1名と証人2名以上の前で、「自分の遺言書である」と申述すること 公証人がその旨を封筒に記載し、署名押印すること ただし、方式が複雑で、実務ではあまり使われていません。公証人も積極的には推奨していないケースが多く、内容の確認がされないため無効になるリスクもあります。 一方、「特別方式遺言」は、危篤状態や離島・災害時などの特殊な状況下で作成する方式です。例えば、死亡直前で公証人を呼べないようなときに「危急時遺言」として作成することがあります(民法976条)。ただし、特別方式遺言は証人による家庭裁判所への申立てが必要であり、原則として20日以内に検認を受けなければ効力が生じません。 このように、秘密証書遺言や特別方式遺言は、「どうしても事情がある場合」のみに検討すべき方法です。一般的には、自筆証書遺言または公正証書遺言のいずれかを選ぶのが現実的です。 有効な遺言書を作成するためのポイント 遺言書を作成する際に、最も重要なのは「無効にならないように、正しい方式を守ること」です。形式上の不備があると、どれだけ想いを込めて書いても、法的な効力が認められません。 ここでは、自筆証書遺言を中心に、有効と認められるための作成要件や注意点を整理します。 法律で定められた5つの要件(自筆・日付・署名・押印など) 自筆証書遺言には、民法第968条で明確に要件が定められています。以下の5つをすべて満たしている必要があります。 遺言の全文を遺言者が自筆で書くこと 日付を自筆で明記すること(例:2025年7月10日) 氏名を自筆で記載すること 押印すること(認印も可だが、実印が望ましい) 財産目録を添付する場合、目録はワープロ可だが、各ページに署名と押印が必要 特に「日付の記載」は見落とされがちですが、「令和7年7月吉日」のような表現では無効とされる可能性があります。日付は「◯年◯月◯日」と正確に記載しましょう。 署名や押印についても、「フルネームでの署名」および「印鑑の明確性(かすれていない)」が求められます。こうした基本要件を外すと、家庭裁判所での検認手続きの際に無効と判断されるリスクが高まります。 加筆・訂正時の正しい手続き 遺言書を一度書いたあとに、内容を修正したくなる場合もあります。このとき、「訂正箇所に二重線を引いて書き直す」だけでは法律上の方式を満たしません。 民法第968条第2項では、訂正には以下の手続きが必要とされています。 訂正箇所に印を押すこと(通常は訂正印) 欄外に「◯行目の◯字を訂正して△△と書き換えた」旨を記載 その欄外注記にも署名を入れること この手続きは非常に細かく、ひとつでも抜けると無効扱いになる可能性があります。 実際、裁判例でも「訂正方法に不備がある」という理由で遺言全体が無効とされたケースがあります。訂正が必要な場合は、手書きの訂正ではなく、最初から新しい遺言書を書き直す方が確実です。公正証書遺言を利用すれば、誤記や訂正リスクを回避できます。 財産目録の添付と保管制度の活用(法務局) 自筆証書遺言において、財産目録はワープロやコピーでも問題ありません。ただし、すべてのページに自署と押印が必要です(民法968条第2項)。 財産目録の書き方には明確な決まりはありませんが、以下のような内容を記載するのが一般的です。 【財産目録の記載例】 土地・建物:住所・地番・登記情報 預貯金:銀行名・支店名・口座番号 株式:銘柄・保有株数 負債:借入先・金額・返済状況 なお、2020年から始まった「自筆証書遺言書保管制度」を利用すれば、法務局で原本を預かってもらえます。この制度には以下のメリットがあります。 死亡後の家庭裁判所での検認が不要 紛失や改ざんのリスクを防げる 保管したことを家族に知らせる通知制度がある 申請時には、本人が法務局に出向く必要がありますが、制度の利用は全国どこの法務局でも可能です。 遺言書が無効になる5つの原因と防ぐための作成ポイント 遺言書は、作成しても形式や内容に不備があれば無効になります。「書いておけば安心」と思い込んでいた結果、裁判で争いが生じるケースも多く見られます。 ここでは、遺言書が無効とされる代表的な5つの原因と、それを防ぐための具体的な対策を解説します。 遺言能力が認められない場合 まず、遺言者に「遺言能力」がないと判断された場合、遺言は無効です。民法第961条では、「満15歳に達した者は、遺言をすることができる」とされており、年齢以外に精神的な判断能力があることが必要です。 認知症や脳血管疾患などで判断能力が著しく低下していた場合、遺言能力が否定されるおそれがあります。実際の裁判でも、「遺言書作成当時の判断力」が争点になるケースが多く、医師の診断書や日記、面談の記録などが証拠として提出されます。防ぐためには、次のような対策が有効です。 作成時の健康状態を診断書で残す 遺言作成中の様子を録音・録画する 公正証書遺言を選択し、公証人による確認を経る 特に高齢や入院中の方は、法的リスクを避けるためにも、公証人の関与がある方式を選んだ方が安心です。 自筆・日付・押印などの形式不備 前章でも述べたとおり、自筆証書遺言では形式不備があると無効です。以下のようなミスが代表例です。 日付を「吉日」と表現した 押印がない、または不鮮明 署名がフルネームでない 本文の一部がパソコンや代筆による記載だった 例えば、「自宅は長男に相続させる」と内容は明確でも、日付が「令和7年7月吉日」では家庭裁判所で無効と判断される可能性があります。また、署名と押印が異なる印鑑だった場合にもトラブルの火種となります。 このような初歩的なミスは、作成前に民法の要件を確認するか、専門家に確認を依頼することで防げます。 加筆・訂正時のルール違反 加筆や訂正を誤った方法でおこなうと、遺言書全体が無効とされるおそれがあります。民法第968条第2項では、訂正の際に次の3点を求めています。 訂正箇所に押印する 欄外に訂正の内容を明記する 訂正注記にも署名を入れる 例えば、遺言書の中で「次男」と書くべきところを「長男」と誤記し、二重線で消して「次男」と上書きしても、上記手続きがなければ方式違反となり、無効とされます。加筆・訂正が必要になった場合は、できるだけ新しい遺言書を一から作成し直す方法を取りましょう。 公序良俗・遺留分の侵害 遺言の内容が公序良俗に反すると判断された場合、その遺言は無効とされる可能性があります。 例えば、「長男が介護をしなかったため、一切の財産を相続させない」といった、感情的な理由のみを根拠に特定の相続人を排除する旨の記載があったとしても、それが単なる意思表示にとどまる場合には、公序良俗違反に直ちに該当するとは限りません。 しかし、その内容や表現が極端で、社会通念に照らして著しく不相当と評価される場合には、無効とされるおそれがあります。 また、遺留分の侵害にも十分注意が必要です。民法第1042条により、直系尊属・子・配偶者などの「遺留分権利者」は、最低限の財産を確保するための請求権(遺留分侵害額請求権)を有しています。 たとえ「すべての財産を内縁の妻に遺贈する」といった内容の遺言を残した場合でも、法定相続人から遺留分侵害額請求を受ければ、受遺者はその分を金銭で返還する義務が生じます。 なお、かつての「遺留分減殺請求」と異なり、現在の制度では、遺留分の補償は原則として金銭による調整となっており、不動産や預貯金などの現物を直接返還することは想定されていません。 このリスクを防ぐには、 遺留分を侵害しない範囲で分配を考える 分配理由や事情を付言事項に記載する 弁護士と相談しながら調整する といった対策が有効です。 有効に残すために押さえておくべき作成ルール 遺言書を有効に残すには、以下の点を意識することが重要です。 作成方式ごとの法的要件を守る(特に自筆証書遺言) 健康状態に問題がある場合は、証拠を残す 相続トラブルを避けるための文言や遺言執行者の指定を検討する 内容に矛盾が生じないように、定期的に見直す また、「最新の日付の遺言書」が有効になるため、以前の遺言書を破棄せずに保管していると、複数が見つかり混乱を招く可能性があります。作り直した場合は、古い遺言書は明確に破棄したことを記すと安全です。 財産目録・保管制度の活用法 財産の内容や所在が曖昧だと、遺言書があっても相続人が戸惑います。財産目録を明確に記載しておくことで、遺言の実行性が格段に高まります。目録には以下を記載しましょう。 不動産:登記簿からわかる情報、所在地、地番、家屋番号 預金:銀行名、支店名、口座番号 株式:証券会社名、銘柄、株数 借金:金融機関名、借入額 また、2020年から始まった自筆証書遺言書保管制度(法務局)を利用すれば、保管時に形式要件がチェックされるため、無効リスクを大幅に減らせます。検認も不要になるため、相続手続きの負担も軽減できます。 家庭の事情・体調・関係性に応じた遺言作成アドバイス 遺言書は「誰に・どのように財産を残すか」だけでなく、「どのような状況で作成するか」も非常に重要です。高齢・病気・再婚など、家庭の背景や体調に応じて適切な方式を選ばなければ、無効になったり、相続トラブルの原因になったりするおそれがあります。 ここでは、家庭事情や体調別に注意すべきポイントを弁護士の視点でご紹介します。 高齢・寝たきりでも作成できる遺言書とは 高齢や病気で寝たきりの方でも、遺言能力(判断力)が残っていれば、遺言書を作成することは可能です。ただし、身体が不自由な状態での自筆は負担が大きく、誤記や形式不備のリスクも高まります。 このような場合には、公正証書遺言を選ぶのが現実的です。 公正証書遺言では、公証人が病室や自宅に出張してくれる制度もあります。出張の際は、医師の診断書や身分証明書などが必要になりますが、本人の意思が確認できれば、法的に有効な遺言が残せます。公正証書、遺言の出張には2人以上の証人も同席が必要となります。 例えば、2024年7月に脳梗塞で倒れた70代男性が、妻に財産を遺したいと希望し、弁護士の同席のもとで病室にて公正証書遺言を作成したケースでは、適法かつ明確な遺言が成立しています。判断能力が不安な場合には、医師の診断書を取得し、公証人の判断も得ることで、無効とされるリスクを最小限に抑えられます。 子どもがいない/再婚している夫婦の注意点 子どもがいない夫婦や再婚した家庭では、兄弟姉妹や前婚の子どもが法定相続人になるため、意図しない相続が発生しやすい状況にあります。 例えば、夫婦の間に子どもがいない場合、夫が亡くなると、妻だけでなく夫の兄弟姉妹にも法定相続分が発生します(民法第889条第1項3号)。 このような状況で、夫が「全財産を妻に残したい」と考えるなら、遺言書で明確に指定しておかなければ実現できません。 また、再婚で前妻との間に子どもがいる場合、その子どもは法定相続人です。現配偶者やその連れ子に財産を渡したい場合は、「遺贈」として明記する必要があります。 こうした家庭構成では、以下の点に注意してください。 相続人が誰かを正確に把握する(家系図の作成がおすすめ) 法定相続と異なる分配を希望するなら遺言書で明示する 遺留分の侵害にならないように専門家に確認する 複雑な家族関係においては、公正証書遺言+専門家のサポートが特に有効です。 代筆・代理相談が必要なときの進め方 本人が病気や障害などで話せない・動けない場合、家族が代理で相談するケースもあります。ただし、遺言書の作成そのものは代理人にはできません。 遺言は本人の「最終意思」を法的に確認する文書であり、民法第960条の原則に従い、「本人の意思で作成される必要」があります。 代筆も基本的には認められていません。どうしても自書が困難な場合は、次のように対応する方法があります。 口述で作成する→公正証書遺言 出張による作成支援→公証人による病院・自宅訪問 弁護士への同席・事前相談→本人の判断力を確保した状態で進行 本人の負担を減らすには、事前に家族が法務局・弁護士・公証役場に問い合わせをして、必要な書類や流れを確認しておくことが大切です。 高齢や病気など、特殊な事情がある場合の遺言方法 一般的な遺言方式(自筆証書・公正証書)以外にも、「特別方式遺言」と呼ばれる制度があります。これは、死亡が迫っている場合や、公証人を呼べない特殊な事情があるときに認められる方式です(民法第976条以下)。 【特別方式の一例】 危急時遺言:死亡が近く、公証人を呼べないときに口頭で遺言 隔絶地遺言:船舶内や離島での作成など、通信が困難な状況下での遺言 これらの遺言は、一定期間内に家庭裁判所の確認が必要となります(20日以内など)。 方式は限られており、実務でも利用頻度は低いですが、どうしても通常方式が間に合わないときの「緊急策」として理解しておくと安心です。 もめない遺言書にするための工夫 相続トラブルの多くは「遺言書の内容が原因」と言っても過言ではありません。誰に何を相続させるかはもちろん、その理由が伝わっていないことや、形式的なミスが火種になるケースもあります。 ここでは、法律上の有効性だけでなく、家族間での「納得感」も意識した遺言書作成の工夫を弁護士の視点から紹介します。 遺留分や相続人の感情に配慮する 遺言書で「長男にすべてを相続させる」といった偏った指定をすると、他の相続人から不満が出やすくなります。特に、子どもや配偶者には民法1042条で認められた「遺留分」があるため、完全に相続分をゼロにすることはできません。 遺留分を侵害された相続人は、遺留分侵害額請求を通じて金銭の支払いを求めることができます。結果的に、遺言書の内容が裁判で争われることにもつながります。 トラブルを防ぐには、以下のような配慮が有効です。 遺留分を考慮して分配額を調整する 生前贈与や介護実績などの理由がある場合は付言事項で補足する 相続人に事前に内容を伝えておく(できる範囲で) 相続は「公平感」が重視されます。法律の枠組みだけでなく、感情面のケアも意識しましょう。 付言事項の活用と家族への事前共有 遺言書には、法的効力をもたない「付言事項」を記載することができます。 付言事項とは、相続人に向けたメッセージや、相続の意図、家族への感謝などを自由に書ける部分です。例えば、以下のような内容が考えられます。 「長男に自宅を相続させるのは、長年一緒に住んでくれたからです」 「生前、長女には学費の援助を多くしたため、相続では配分を少なくしています」 「家族みんなが仲良く暮らしていけるように願っています」 こうしたメッセージは、相続人が遺言内容を受け入れるきっかけになります。理由が示されていれば、たとえ配分に差があっても「納得」が生まれることがあるからです。 また、事前に「こういう内容で遺言を書いている」と家族に伝えておくことで、遺言書の存在が疑われたり、無効と争われたりするリスクを減らすことができます。 遺言執行者の選任とその役割 遺言執行者とは、遺言書の内容を実際に実現するために行動する人物です。 民法第1006条により、遺言者が自由に指定することができ、指定がなければ相続人の協議または家庭裁判所の選任によって決まります。 遺言執行者には、以下のような役割があります。 相続人に代わって遺産の名義変更・分配を進める 不動産の登記や預金の解約などを代行する 相続税の申告や納付に関わる手続き 遺言執行者を指定しておくと、相続人同士での調整が不要になるため、手続きがスムーズになり、争いを防げる効果があります。信頼できる親族を指定してもよいですが、第三者として弁護士・司法書士を遺言執行者に指定する方法もあります。 相続財産が多い場合や、相続人同士の関係が希薄な場合には、専門家を指定するのがおすすめです。 公正証書を選ぶべき理由とメリット 「せっかく遺言書を残したのに、相続人が信じてくれない」 「無効だと主張されて争いになった」 このようなリスクを避けるなら、公正証書遺言を選ぶのが最も安全です。 公正証書遺言には以下のようなメリットがあります。 公証人が内容と方式を確認するため、形式不備のリスクがほぼゼロ 原本が公証役場に保管されるため、紛失や改ざんの心配がない 遺言者の意思が明確に残るため、無効主張に対抗しやすい 死亡後に家庭裁判所での検認手続きが不要で、相続手続きが早く進められる 作成には証人2人と数万円の手数料が必要ですが、相続人間の争いを防ぐ「保険」としては非常にコストパフォーマンスが高い手段です。迷ったときは、まずは弁護士や公証役場に相談して、公正証書遺言が向いているかを確認してみましょう。 遺言書をめぐるトラブルへの対処法 遺言書が存在しても、相続の現場ではトラブルが起こることがあります。内容をめぐって相続人が対立したり、無効を主張されたりするケースも珍しくありません。 ここでは、トラブル発生時に取るべき対処法と、手続きを進める際の実務的なポイントを解説します。 家庭裁判所での検認とその手続き 自筆証書遺言や秘密証書遺言が見つかった場合、家庭裁判所で「検認」手続きを行うことが義務付けられています。 これは、遺言書の内容を実現するための前提条件であり、民法第1004条に根拠があります。 【検認の流れ】 1.管轄の家庭裁判所へ「検認の申立て」を行う 2.他の相続人に通知される(全員が検認に立ち会うこともある) 3.遺言書の現物を確認・開封し、方式・状態などを記録する 4.検認調書が作成される(遺言の有効性そのものは判断しない) 注意点として、検認は「遺言書が有効かどうか」を判断する手続きではないことを理解しておきましょう。ただし、検認調書の内容が後の相続や裁判の資料として使われるため、書面の内容や押印・日付の記載状況は非常に重要です。 なお、公正証書遺言は検認が不要です。そのため、スムーズな相続手続きを希望するなら、公正証書方式を選ぶメリットは大きいといえます。 遺言無効確認訴訟が必要なケース 遺言書に疑問点があり、「無効ではないか」と相続人が主張する場合、家庭裁判所ではなく地方裁判所での訴訟(遺言無効確認訴訟)が必要になります。よくある訴訟理由は以下のような内容です。 遺言者に遺言能力がなかった(認知症・意識障害など) 内容に矛盾や不合理な点がある 作成日時が不明確、または偽造・変造の疑いがある 他の相続人が強要・詐欺に関与した可能性がある 訴訟になると、診療記録や証人の供述、筆跡鑑定などが証拠として争点になります。 裁判所は遺言者の意思能力や方式違反の有無などを総合的に判断して、有効・無効を決定します。 万が一こうした訴訟に発展しそうな場合は、すみやかに弁護士に相談して、証拠保全や主張整理を進めることが非常に重要です。 遺言書を勝手に開封・悪用された場合の対応 遺言書を発見した人が、相続人や関係者に知らせずに勝手に開封したり、内容をもとに遺産を動かしたりする行為は、重大な問題になります。 民法第1005条では、封印された遺言書を家庭裁判所の検認を経ずに開封してはならないと定められています。 勝手に開封しても遺言書が直ちに無効になるとは限りませんが、他の相続人から不信感を持たれ、トラブルに発展する原因になります。また、内容を改ざんしたと見なされれば、遺言書偽造等の刑事責任(私文書偽造罪など)を問われることもあります。 こうした事態に直面した場合、以下の対応が有効です。 検認を受けていないことを指摘し、家庭裁判所への申立てを促す 弁護士を通じて内容の検証と証拠保全を進める 必要に応じて民事・刑事両面で対応を検討する 最悪の事態を防ぐためにも、「遺言書を見つけたら勝手に開封せず、家庭裁判所に連絡する」ことが基本です。 トラブル回避のための専門家との連携方法 遺言書をめぐるトラブルは、専門知識の不足や手続きの誤解が原因になることが多いです。最初の段階から弁護士・司法書士・税理士などと連携することで、トラブルの芽を早期に摘むことができます。 【専門家に相談すべき典型例】 遺言書の形式が不明確な場合(日付・押印・訂正など) 相続人間の関係が悪く、対立が想定される場合 認知症や脳梗塞など、遺言能力に不安がある場合 相続財産が複雑(不動産・株式・債務など)な場合 他の相続人が不誠実な対応をしている場合 弁護士に相談することで、検認・遺言執行・調停・訴訟まで一貫してサポートを受けられます。専門家との連携は、「防衛」だけでなく「予防」の観点からも有効です。 弁護士・司法書士に相談するタイミングと費用相場 遺言書は個人でも作成できますが、「本当にこの内容で大丈夫?」と不安になる方も多いはずです。誤った形式や内容で作成してしまうと、家族が争う原因になります。 そうしたリスクを避けるために、専門家に相談する判断基準と、費用の相場について詳しく解説します。 専門家に相談すべきケースとは? 次のような状況にあてはまる場合は、専門家への相談を強くおすすめします。 自筆証書遺言を書いたが、形式に自信がない 相続人が複数いて、相続トラブルの不安がある 子どもがいない、再婚している、認知症の家族がいるなど、家庭事情が複雑 遺産に不動産・株式・債務など評価が難しい資産が含まれる 相続人以外(内縁関係者や福祉施設など)に財産を残したい 付言事項の書き方や文言に迷っている 専門家は、遺言内容の合法性や実行性を事前に確認し、無効となるリスクを抑える支援を行います。特に弁護士であれば、将来的な争いが予想される場合にも、訴訟対応まで一貫して任せられる点が強みです。 出張・非対面相談も可能? 体が不自由で外出できない方や、入院中の方でも、公証人や弁護士による出張相談・出張作成支援を受けることができます。このようなサービスは法律上も認められており、公正証書遺言の作成にも対応しています。 【出張相談の対応例】 自宅への訪問 病院・介護施設への出張 寝たきり・車椅子の方への配慮 本人が話せない場合は、筆談や補助器具を使った意思確認 また、初回のヒアリングや家族からの代理相談などは、オンライン(Zoom・電話)で対応している事務所も多数あります。 ただし、遺言書そのものは本人の意思で作成する必要があるため、本人と直接会って意思確認を行う段階では、対面または訪問が必要になります。 費用の目安と無料相談の活用法 相談や作成にかかる費用は、内容の複雑さや依頼内容によって変動します。以下に代表的な費用の目安をまとめます。 内容 弁護士費用(目安) 補足情報 初回相談(60分程度) 0円〜1万1,000円程度 初回無料対応の事務所も多い 自筆証書遺言のチェック 3万〜5万円前後 法的観点からのアドバイスを含む 公正証書遺言のサポート 5万〜15万円前後 公証人との調整・文案作成含む 遺言執行者への就任・手続き代行 30万円〜(遺産額により変動) 遺言執行が複雑な場合は増額あり 出張対応費 5,000円〜2万円程度 地域・距離により異なる 【無料相談を活用するには】 初回無料で対応している事務所に問い合わせる 「相続・遺言無料相談会」など地域イベントを活用する 市区町村の法律相談窓口をチェックする 費用が不安な方でも、最初は無料相談で概要を掴んだ上で、必要に応じて部分的な依頼をするという段階的な進め方が可能です。 まとめ|有効な遺言書を残すために今すぐできること 遺言書は、将来の相続トラブルを未然に防ぐ最も有効な手段のひとつです。 しかし、形式が正しくなかったり、内容に不備があると、その効力は失われてしまいます。 最後に、この記事で紹介したポイントをふまえながら、読者が今すぐ実行できるアクションを3つに絞って整理します。 まずは正しい形式で作成し、家族と共有を 最初の一歩は、「法的に有効な方式」で遺言書を作成することです。 自筆証書遺言であれば、全文自筆・日付・署名・押印の4要素を確実に満たしてください。財産目録を添付する場合は、各ページに署名・押印をすることも忘れずに。 書いたあとは、家族に「遺言書を残した」という事実だけでも共有しておくと安心です。 保管場所や作成日時が不明だと、せっかく書いた遺言書も発見されず、無視されるおそれがあります。 不安がある場合は専門家への早めの相談を 「これで正しいのか分からない」「家族構成が複雑」「相続人が揉めそう」 こうした不安が少しでもある場合は、弁護士・司法書士・公証人などの専門家に相談するのが安心です。費用が気になる方は、無料相談を利用してみましょう。 そのうえで、自分に合った部分だけを依頼する、という柔軟な進め方も可能です。 専門家のサポートを受ければ、無効リスクを大幅に減らせるだけでなく、「相続手続きが円滑になる」「家族が安心できる」という副次的なメリットも得られます。 遺言書は、自分の意思を反映し、家族の相続トラブルを防ぐための大切な手段です。 今回の記事では、遺言書の有効性を保つために押さえておくべきポイントを詳しく解説しました。特に以下のような点が重要です。 自筆・公正証書など形式ごとの違いと正しい作成方法 遺言能力・形式不備・遺留分侵害などによって無効になるケース トラブルを避けるための付言事項や遺言執行者の工夫 弁護士・司法書士への相談タイミングと費用相場 「家族に迷惑をかけたくない」「きちんと準備しておきたい」と感じている方にとって、遺言書の正しい知識は欠かせません。この記事を参考に、まずは有効な方式で遺言書を作成し、必要に応じて専門家のサポートも検討してみてください。 弁護士に相談すれば、形式の確認から公正証書遺言のサポート、相続トラブルへの対応まで一貫して支援を受けられます。 不安を残さず、安心して未来に備えるためにも、早めの準備を始めましょう。

2025.08.20

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遺産調査の完全ガイド|遺産分割トラブルを防ぐ手順・費用・期限を徹底解説

遺産調査の完全ガイド|遺産分割トラブルを防ぐ手順・費用・期限を徹底解説

「遺産調査って何から始めればいいの?」 「自分でやるか、専門家に頼むか迷っている…」 そんなお悩みを持つ方に向けて、この記事では以下のポイントをわかりやすく解説します。 財産の種類ごとの調査方法と漏れなく調べるための流れ 相続放棄や限定承認につながる負債の確認と判断基準 自力と専門家依頼の判断チェックリストと費用相場 相続の手続きは、まず「遺産がどこにどれだけあるのか」を正確に調べるところから始まります。 調査を後回しにしてしまうと、期限が迫る中で判断に迷ったり、後から財産が見つかって手続きのやり直しになることもあります。 調査って手間がかかりそう、できれば早く終わらせたい…そう思いますよね? この記事では、預金・不動産・株式・デジタル資産まで網羅的に調べるコツや、家族間で揉めずに進めるための実践的な工夫も紹介しています。 読むことで、「何から始めるか」「どこまで調べれば安心か」がはっきり見えてきます。 はじめての相続でも迷わず進められるように、さっそく確認していきましょう。 遺産調査の基礎と重要性 相続財産調査の定義と対象(プラス・マイナス財産) 遺産調査とは、亡くなった方(被相続人)が残した財産をすべて把握するための作業を指します。相続手続きの第一歩であり、正確な調査が後の遺産分割や相続税申告の土台となります。 相続財産には、大きく分けて「プラスの財産」と「マイナスの財産」があります。 プラスの財産:預貯金、不動産、株式、有価証券、生命保険金、貴金属、美術品、自動車など マイナスの財産:借金、住宅ローン、未払いの医療費や税金、保証債務など 相続では、このプラスとマイナスを合算した「正味の遺産額」によって、相続税が発生するか、相続放棄すべきかなどの判断を下すことになります。つまり、「何を相続するか」よりも先に、「何があるのか」を正確に知ることが最優先事項なのです。 とくに近年は、ネット銀行や仮想通貨など、目に見えにくいデジタル資産の割合が増えており、調査漏れのリスクも高まっています。調査を怠ると「後から財産が見つかる→再び遺産分割協議をやり直し」といった事態になりかねません。 受取人が指定されている場合、相続財産ではなく受取人固有の財産となります。その場合は受取人固有の財産であり、遺産分割の対象外です。 実施が不可欠な3つの理由 遺産調査が必要不可欠とされるのには、以下の3つの理由があります。 遺産分割トラブルを未然に防ぐ 兄弟間や親族間での「言った・言わない」や、「あの財産は誰のもの?」といった争いは、相続でもっとも多いトラブルの一つです。 事前に遺産を正確に調査し、誰が何をどれだけ相続するのかを明確にしておくことが、争族(そうぞく)を防ぐ第一歩となります。 相続放棄・限定承認の判断材料になる 調査の結果、借金が多い場合は「相続放棄」や「限定承認」といった法的な選択肢を取ることが可能です。ただし、これらは原則として相続開始から3か月以内という期限があるため、早めの調査が必要不可欠です。 相続税申告ミス・追徴課税の回避 相続税の申告義務があるにもかかわらず、調査不足で財産を過少に申告してしまうと、後から税務調査で追徴課税されるリスクがあります。 たとえば、名義預金(被相続人が生前に他人名義で管理していた資金)や未申告の株式などが後から見つかるケースは少なくありません。 調査段階で可能な限り情報を洗い出すことが、安心・安全な相続の鍵となります。 法定期限とスケジュール感 相続放棄3か月・税申告10か月のタイムライン 相続手続きには、法律で定められた「絶対に守らなければならない期限」があります。遺産調査を始めるにあたり、まずはこのスケジュール感を押さえておきましょう。 手続き 期限 内容 相続放棄・限定承認 被相続人の死亡を知ってから3か月以内 借金などを調べた上で「相続するかしないか」を決める必要あり 相続税の申告・納付 被相続人の死亡から10か月以内 申告しないと加算税・延滞税などが発生。期限厳守が原則 名義変更・分割協議 法定期限なし(実務上は早い方が良い) 預貯金・不動産・株式などの名義変更は遺産分割協議書が必要 ポイントは、「調査に時間をかけすぎると、相続放棄や相続税申告に間に合わなくなる」ということです。 特に専門家に依頼する場合でも、着手から資料収集までに1〜4週間は必要となるため、早めのスタートが鉄則です。 調査を始める前の準備 全体フロー:調査→遺産分割→名義変更 相続の手続きは「調査→分割→名義変更→申告」という流れで進みます。 最初にやるべきことは、遺産がどこに・いくらあるのかを正確に把握することです。 調査の進行に合わせて必要な書類を集め、関係者間での確認や合意を取りつけていきます。以下が遺産調査を含めた全体の流れです: 遺産調査の開始(預金・不動産・負債などの把握) 相続人の確認(戸籍で法定相続人を確定) 相続放棄の判断(期限:3か月) 財産目録の作成(一覧表で全体を可視化) 遺産分割協議の実施(相続人全員の合意が必要) 相続税申告・納付(期限:10か月) 各種名義変更(不動産・銀行・証券口座など) ポイント 相続放棄や相続税申告には期限がある一方で、名義変更や分割協議に法的な期限はありません。 ただし、後回しにすると登記義務違反(2024年の法改正で、相続で取得した不動産の登記申請が3年以内に義務付けられました)や利害関係者の変化(死亡や認知症)などのトラブルを招く可能性があるため、速やかに進めることが望まれます。 判断チェックリスト:自力調査か専門家依頼か 「自分でできるか?専門家に任せるべきか?」で悩む方は少なくありません。 以下のチェックリストで、まずはご自身の状況を整理してみましょう。 項目 Yes / No 相続財産に不動産が含まれている □ Yes / □ No 相続人間での関係が良くない/疎遠である □ Yes / □ No 財産の場所・内容をほとんど把握していない □ Yes / □ No 負債の有無が不明で、放棄すべきか迷っている □ Yes / □ No 相続財産が相続税の基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超えそう □ Yes / □ No 書類収集や平日の手続きに時間を取れない □ Yes / □ No Yesが3つ以上なら、専門家への依頼を検討すべき状況といえます。 専門家を使うことで「ミスを防げる」「手続きが早い」「トラブルが起きにくい」といったメリットがある一方、費用が発生するため、必要度や予算に応じて部分的なスポット相談を活用するのも一つの手です。 必要書類&6つのツール 調査開始時にそろえておくべき書類・道具を以下にまとめました。 種類 内容 取得先 戸籍謄本 相続人を確定するために必要 本籍地の市区町村役場 名寄帳 不動産がどこにあるかを調べるため 各市町村の税務課 登記事項証明書 不動産の権利関係を確認する 法務局 預金通帳/取引明細 金融資産の金額・動きの確認 各銀行/オンラインバンキング 信用情報照会書 借金・ローンの有無を確認する CIC・JICC・全国銀行協会 残高証明書 相続税評価に使う金融機関証明書 各金融機関 補足 これらの書類は、1つの窓口で一括入手できるわけではないため、順序よく申請・取得する必要があります。また、各書類には有効期限がある場合もあるため、調査開始後はテンポよく進めることが成功の鍵です。 財産の種類別・調査方法 遺産調査で最も時間がかかるのが、「どこに・どんな財産が・いくらあるのか」を調べる作業です。 ここでは代表的な6つの財産カテゴリについて、調査手順や注意点をわかりやすく解説します。 預貯金・金融資産(全店照会/ネット銀行/証券) 主な調査先 地元の銀行・信用金庫・ゆうちょ銀行 メガバンク(みずほ・三菱UFJ・三井住友) ネット銀行(楽天銀行・住信SBIネット銀行など) 調査方法 被相続人の通帳・キャッシュカードを確認 不明な場合は全店照会依頼書を使って残高の有無を確認 口座が存在した場合は残高証明書を取得 注意点 銀行によっては死亡の届出後に口座凍結され、入出金できなくなります 通帳の履歴は5年分までの取得が一般的 ネット銀行はログイン情報やメール確認が鍵となるため、スマホやPCも調査対象です 不動産(固定資産税通知→名寄帳→登記事項) 主な調査先 市区町村役場(税務課) 法務局 調査方法 被相続人が保有していたと思われる地域の名寄帳(なよせちょう)を取得 該当地番が確認できたら、法務局で登記事項証明書を取得して所有者と内容を確認 不明な場合は、固定資産税納税通知書や地図情報も手がかりに 注意点 名義が古いまま(亡くなった祖父名義など)のケースも多く、登記義務化の観点からも早めの対応が必要です 共有名義の不動産は、他の共有者との連絡や分割協議も想定されます 有価証券・未上場株(証券会社・ほふり・評価方法) 主な調査先 証券会社(SBI・野村・大和など) 証券保管振替機構(ほふり) 調査方法 郵便・メール・スマホアプリなどで証券口座の有無を確認 見つからない場合は「ほふり」へ名寄せ照会を申請 未上場株の場合は、会社に問い合わせる or 税理士に評価を依頼 注意点 未上場株は市場価格がないため、税法に沿った評価が必要です 中小企業経営者の相続では、生前贈与や名義貸しの調査も検討対象になります 借金・負債(信用情報機関・連帯保証) 主な調査先 信用情報機関(CIC・JICC・全国銀行協会) クレジットカード会社・消費者金融 税務署・役所(滞納税・医療費の未納) 調査方法 3機関に個人信用情報開示請求を申請(ネット or 郵送) 書類に記載のあった借入先へ残高照会 支払状況・保証人登録の有無も確認 注意点 本人死亡後でも信用情報は一定期間保管されるため、早めの開示が有効 連帯保証人になっていた場合、その債務も引き継がれる可能性があるため要注意 動産・保険・その他資産(貴金属・自動車・生命保険等) 調査対象の例 自動車(車検証・名義) 生命保険・共済金(契約書・保険証券) 宝石・絵画・ブランド品・現金・金庫の中身 調査方法 自宅・書斎・タンス・金庫の中を確認 保険会社に契約有無の確認依頼(死亡通知+必要書類) 注意点 保険は被相続人が加入していたもののうち、受取人が本人以外なら非課税対象 貴金属類などは資産評価書や写真記録を残しておくと分割協議がスムーズ デジタル・海外資産(仮想通貨・クラウド・国外口座) 主な調査先 仮想通貨取引所(bitFlyer、Coincheck 等) 海外銀行(HSBC・シティバンク等) クラウドストレージ(Google Drive、Dropbox 等) サブスクリプションサービス 調査方法 スマートフォン・パソコンの中を確認(パスワード管理アプリ・メール) 海外口座はパスポート番号や口座番号が鍵 仮想通貨取引履歴は税務申告にも影響するため、履歴を保存 注意点 デジタル資産は相続人にとって存在に気付きにくく、調査漏れになりやすい 海外資産は「国外財産調書」提出の対象となるケースもあるため、税理士と連携を(例:海外預金等が合計5,000万円を超える場合には税務署への国外財産調書の提出義務あり) 全体のまとめ: 遺産調査において重要なのは、「目に見える財産」だけでなく、「気づきにくい資産・負債」を徹底的に洗い出すことです。 調査を怠ると、後の分割協議・申告・相続放棄判断に悪影響を及ぼす可能性があります。 調査をスムーズに進めるコツ 相続の場面では、時間との勝負になることも少なくありません。とくに相続放棄や税務申告には法定期限があるため、遺産調査をスムーズに進めることが重要です。 この章では、効率的に遺産を調べるための具体的なコツを3つご紹介します。 「預貯金→負債→不動産→その他」の鉄板順序 どこから手をつけるべきか迷う方は多いですが、優先順位を間違えると相続放棄の判断が遅れたり、税務処理が間に合わなかったりするリスクがあります。 一般的には、次の順で調査を進めるのが合理的です: 預貯金・金融資産 →金額が大きく、分割・申告に直結。通帳やキャッシュカード、ネット銀行の履歴から着手。 借金・負債 →相続放棄の判断材料に。信用情報機関への開示請求は早めに。 不動産 →市区町村の名寄帳と法務局の登記簿を照会。売却予定なら評価額の算出も。 その他の財産(保険・動産・デジタル資産など) →保険会社への照会や、スマホ・クラウドの中身確認は後回しでもOK。 🔍ポイント まず現金・預貯金の有無で「相続する価値があるか」を判断し、次に借金の有無で「放棄すべきか」を検討します。 この2つが早期に把握できれば、ほとんどの判断は的確に進みます。 保管場所&デジタル端末チェックリスト 被相続人が整理整頓をしていないタイプだと、財産の手がかりを見つけるのがひと苦労。以下の場所は、調査初期に必ずチェックしておきたいスポットです。 紙媒体(物理的な場所) タンス・引き出し(通帳・印鑑・保険証券・地図など) 書斎・本棚(契約書・不動産資料・株式関係書類) 金庫(現金・貴金属・登記関係の書類) デジタル媒体 スマートフォン/PC(ネットバンク・証券アプリ・パスワード管理アプリ) メールアカウント(契約通知・利用明細) クラウドストレージ(Google Drive・Dropbox等) その他のヒント 郵便物(定期的に届く通知や封筒) 玄関や洗面台(鍵やメモが貼られていることも) 補足 故人の私物を整理する際には、「ゴミと思って捨てた紙の裏に通帳情報があった」というケースも珍しくありません。 捨てる前に一度、スキャン・写真で記録を残すのも有効です。 目録の更新・共有方法(クラウド活用) 調査結果をまとめるには、「財産目録」の作成が欠かせません。相続人間で内容を共有しやすくするには、Googleスプレッドシートやクラウドメモを使うと非常に便利です。 目録に記載するべき基本項目: 項目 内容例 資産の種類 預貯金・不動産・有価証券・保険など 金額または評価額 円換算で記載 名義人 被相続人本人か、名義預金か 調査状況 調査済/要確認/不明 備考 保管場所・手がかり情報などをメモ クラウド共有のメリット 離れて暮らす相続人間でも進捗がリアルタイムで共有できる 万が一のデータ紛失を防げる スマホからもアクセスでき、役所や銀行でも確認可能 このように「順序」「保管場所の目利き」「クラウド共有」の3つを押さえることで、時間と労力を大きく削減しながらも、調査漏れを最小限に抑えることができます。 調査後に取るべきアクション 遺産調査がひととおり終わったら、次は実際の相続手続きに移るフェーズです。 ここからのアクションを間違えると、後で遺産分割がやり直しになったり、思わぬ税金が発生するリスクもあります。 この章では、調査後に行うべき3つの重要ステップを順を追って解説します。 負債が多い場合:相続放棄・限定承認の手順 遺産調査で「借金や未払い税金などのマイナス財産」がプラス財産を上回るとわかった場合、相続をしない=相続放棄という選択肢が有効です。 相続放棄とは 相続人が「一切の財産(プラスもマイナスも)を受け取らない」選択をすること。 【期限】被相続人の死亡を知った日から3か月以内に家庭裁判所に申述。 限定承認とは 相続によって得た財産の範囲内でのみ債務を引き継ぐ制度。 【注意】相続人全員で申し立てる必要があるため、家族間の連携が不可欠。 手続き 向いているケース 注意点 相続放棄 借金の方が明らかに多い/財産が見えない 期限厳守・手続き完了までは財産に手を付けない 限定承認 プラスかマイナスか判断できない/不動産は残したい 手続きが複雑。税理士・弁護士の協力が必要 ワンポイント 「何ももらっていないから放棄したつもり」は通用しません。 家庭裁判所への正式な手続きがなければ相続したことになってしまいます。 負債リスクを避けたいなら、必ず書面で申述しましょう。 遺産分割協議〜相続税申告〜名義変更の流れ 相続する意思が固まり、遺産調査も完了したら、財産の分け方(遺産分割協議)を相続人全員で話し合います。 ステップ①:遺産分割協議 相続人全員の同意が必要。合意内容は「遺産分割協議書」として文書化し、全員が署名・押印します。 ステップ②:相続税の申告と納付 遺産総額が基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人)を超える場合、10か月以内に相続税の申告が必要です。 財産評価や申告書作成には、税理士のサポートを受けると安心です。 ステップ③:各種名義変更手続き 預貯金:銀行で解約・名義変更。協議書と戸籍などが必要。 不動産:法務局で相続登記(※2024年から義務化) 有価証券:証券会社へ名義変更手続き 📎実務メモ 名義変更は先に済ませたい気持ちがあっても、協議書が整っていないと進められません。調査→協議→名義変更の順序は厳守しましょう。 税務調査に入りやすいケースと防止策 相続税の申告後、一定の割合で税務署による相続税調査が行われます。 とくに以下のようなケースは「調査対象になりやすい」とされています。 調査対象になりやすい特徴 財産総額が1億円を超えている 生前に多額の贈与があった(名義預金など) 申告書に不明確な評価額が多い(不動産・非上場株など) 家族構成と申告内容に矛盾がある(記載漏れなど) 調査対策 財産目録を正確に残す 生前の贈与・取引についてもメモ・資料を保存しておく 名義預金・未申告財産がないか慎重に確認 不明点がある場合は申告前に税理士にレビューを依頼する POINT 相続税の申告ミスは悪意がなくても追徴課税の対象になります。 万一調査が入った場合でも、「きちんと調べて申告した」という証拠(調査履歴・資料)があれば、軽減措置の対象になる可能性があります。 費用・期間・専門家選び 遺産調査は、専門家に依頼することでスムーズかつ正確に進められますが、「どこに頼めばいい?」「費用はどれくらい?」と悩む方も多いはずです。 この章では、調査にかかる費用や期間、専門家ごとの違いと選び方のポイントを解説します。 自力調査の実費一覧(証明書・手数料) 自力で遺産調査を行う場合でも、各種証明書の取得には一定の費用がかかります。 項目 概算費用 備考 戸籍謄本(1通) 約450円 相続人1人につき複数通必要なことも 名寄帳 約300〜400円 不動産がある市区町村ごとに取得 登記事項証明書 1通600円 法務局で取得可能 残高証明書 1通500〜1,000円 金融機関によって異なる 信用情報開示(CIC等) 1回1,000円前後 借金・ローンの有無確認 ✅POINT これらの書類を漏れなく・期限内に取得するには、役所・法務局・金融機関を複数回訪問する必要があり、時間的コストも大きくなります。 専門家別の報酬相場と特徴 弁護士/司法書士/行政書士/税理士/信託銀行 専門家に依頼する場合は、相談内容や範囲に応じて報酬が発生します。以下は一般的な相場と得意分野の比較です。 専門家 報酬相場 得意な業務 向いているケース 弁護士 10万〜30万円前後 遺産分割トラブル/調停/訴訟対応 相続人同士でもめている 司法書士 10万〜20万円前後 不動産登記/遺産整理代行 不動産が含まれている 行政書士 数万円〜 書類作成のみ(協議書など) 自力で調査済・費用を抑えたい 税理士 遺産総額の0.5〜1.0% 相続税申告/生前贈与確認 相続税の申告義務がある 信託銀行 100万円〜(一式) ワンストップ手続き代行 すべて任せたい/相続人が高齢など 📌アドバイス 初回相談は無料または5,000円前後で受けられる事務所も多いため、複数の専門家に見積もり・相性を確認するのが失敗を防ぐコツです。 平均期間と短縮するポイント 平均的な所要期間の目安 手続き 自力調査 専門家依頼 遺産調査 約1〜2か月 約2〜4週間 相続放棄・限定承認申立 約1〜2週間 約1週間(専門家申請) 相続税申告書作成 約1か月〜 約2〜3週間(資料が整っていれば) 短縮のポイント 書類を一気にそろえる(戸籍・名寄帳・残高証明など) 家族でタスク分担・進捗共有(Googleスプレッドシートなどで) 専門家に早めに相談し、判断を仰ぐ ⏱️注意 調査が長引いて申告期限(10か月)や放棄期限(3か月)に間に合わないと、延滞税や加算税の対象になるだけでなく、借金もすべて引き継いでしまうことになりかねません。 まとめ 「費用を抑えたいから全部自分でやる」も、「忙しいから丸投げしたい」も間違いではありません。 重要なのは、状況に応じた“部分依頼”や“段階的な活用”で、コスパと安心感を両立させることです。 ケーススタディ(一次相談例から学ぶ) ここでは実際に寄せられた遺産調査に関する3件の相談事例をもとに、「どんな悩みがあったのか」「どうやって解決したのか」をご紹介します。 どれも相続においてよくあるケースであり、あなたの状況と重なる部分があれば、解決のヒントがきっと見つかるはずです。 Case1:妹が遺産を開示しない兄弟対立 相談内容 被相続人(叔母)の財産を、妹(相談者の二女)がすべて管理しており、他の兄弟に対して通帳や不動産の内容を一切開示しないまま、葬儀やその他の手続きが進められていました。 旅館の土地・建物などの不動産については、名義が被相続人名義のまま残されており、相続人間の関係も不仲な状況でした。 そのため、遺産分割の前提となる「財産の全体像」が不明なままとなり、相談者は「そもそも自分たちが遺産の中身を調査することは可能なのか」と大きな不安を抱えていました。 対応・解決の流れ 弁護士を通じて、妹に対して相続人としての開示義務があることを正式に通知 不動産については法務局で登記事項証明書を取得し、旅館の名義が被相続人であることを確認 市区町村役場で名寄帳を取り寄せ、ほかの土地資産がないかを洗い出し 封鎖された口座については全店照会を使い、金融資産を第三者から調査 ✅ポイント 遺産調査は「代表者だけが進めるもの」ではなく、すべての相続人に共有されるべき情報です。 情報を出し渋る相続人がいる場合でも、法的なアプローチで透明性を確保することが可能です。 Case2:口頭での遺言?兄の財産隠匿疑惑 相談内容 相談者の母が亡くなった直後、兄からは「財産は一切なかった」と説明を受けました。 しかしその後、銀行や保険会社からは「相続手続きにあたり、妹(相談者)の印鑑が必要である」との連絡が入り、相談者は違和感を抱きました。 実際には兄が母の財産を把握していたことが判明し、「母から口頭で『すべてを自分に任せる』と言われていた」などと主張して、書面での合意や遺産分割協議もないまま、手続きを進めようとしていた状況でした。 対応・解決の流れ 被相続人名義の通帳を再調査し、残高証明書と取引履歴を取得 保険会社に契約確認を行い、受取人が相続人であることを証明 弁護士を介して、協議が成立しない限り分割や手続きは進められない旨を正式に通知 結果として、財産目録を作成のうえ遺産分割協議がスタートし、相続人全員が合意する形での調整に成功 ✅ポイント 「遺言がある」と言われても、それが書面(公正証書や自筆証書)で存在していなければ法的な効力はありません。 曖昧な主張に流されず、通帳・保険・財産目録など“証拠”をもとに対応することが肝心です。 Case3:株1億円減少—生前贈与の検証 相談内容 父の死後、相続財産として確認できたのは、通帳に記載された約2,200万円相当の株式資産のみでした。 しかし、かつて父が「1億円ほどの株式を保有している」と話していたことを記憶していた相談者は、財産の減少に強い違和感を覚えました。 父と同居していた妹が、生前からすべての通帳や資産管理を担っており、父の死後には「これは生前に父から譲り受けたもの」と説明しましたが、その根拠を示す書面等は一切提示されていない状況でした。 対応・解決の流れ 証券会社に開示請求を行い、取引履歴を確認 株式が現金化されたタイミングと、妹の預金口座への振込のタイミングが一致していることを確認 税理士を通して「贈与税の申告履歴がないこと」「被相続人の意思が曖昧だったこと」を整理し、生前贈与ではなく遺産の一部として遺産分割対象であることを主張 結果として、株の売却分も含めて公平な割合で分割協議が成立 ✅ポイント 相続トラブルの多くは、「いつ・誰が・どの財産を受け取ったか」が不明確なまま進んでしまうことが原因です。 特に生前贈与と相続財産の境界線は曖昧になりやすいため、金融履歴の証拠が極めて重要です。 法律上、生前贈与があった財産は原則遺産分割の対象外となります。ただし特別受益として各相続人の取り分を調整する仕組みもあります。 読者のあなたへ これらの事例のように、調査段階で「おかしいな」と思ったら、専門家への早期相談がトラブル回避の近道です。 弁護士は、「揉める前」に相談した方が費用も少なく、スムーズに進められる可能性が高まります。 よくある質問(FAQ) 遺産調査に関するご相談では、「この場合どうしたらいいの?」「手続きを始める前に確認しておきたい」といった具体的な質問が数多く寄せられます。 ここでは、特にご相談が多い代表的な4つの質問について、専門家の視点からわかりやすくお答えします。 口座凍結中の公共料金はどうなる? 被相続人名義の銀行口座は、死亡届の提出や金融機関への連絡によって凍結されるのが原則です。 凍結後は、その口座から自動引落しされていた公共料金やサブスクリプションサービスも停止されることになります。 対処方法 凍結前にある程度の残高があれば、引落しは継続される場合もあります(金融機関による) 継続利用が必要な場合は、名義変更または相続人の口座に支払い先を変更しましょう 水道・電気・ガスなどのライフラインについては、死亡の事実を伝えたうえで、一時的な名義変更や支払猶予を依頼できるケースもあります 調査途中で負債が判明しても放棄できる? 原則として、相続放棄は「被相続人の死亡を知った日から3か月以内」に家庭裁判所に申述しなければなりません。 調査中に借金や連帯保証などのマイナス財産が判明した場合、この期限内であれば相続放棄が可能です。 対処方法 放棄を視野に入れる場合は、調査中でも家庭裁判所に「熟慮期間延長の申立て」をすることができます(認められれば3か月以上に延長可能)※延長申立ては熟慮期間内(=原則3か月以内)に家庭裁判所へ行う必要があります 調査に時間がかかることが予想されるなら、早めに弁護士へ相談し、申立て準備を進めることが望ましいです 注意 一部でも相続財産を処分(使ってしまうなど)してしまうと、「単純承認」とみなされ、放棄できなくなる場合があります。 判断がつかない段階では、財産に手をつけないことが鉄則です。 海外在住でも手続きを完結できる? 相続人が海外在住の場合でも、遺産調査および相続手続きを進めることは可能です。 ただし、日本国内での手続きが中心となるため、代理人の設定や必要書類の郵送手配がカギになります。 対応手順 日本にいる親族や専門家を代理人に選任(委任状の作成) 海外で作成・取得した書類には、その国の公的機関によるアポスティーユ(認証)を付与してもらうことで、日本国内でも法的に有効な書類として認められます。 書類のやりとりは、クラウド共有や国際郵便、DHL等で対応 Zoomなどでオンライン相談・協議も可能(近年では対応できる専門家も増加) POINT 実家が遠方であっても、弁護士・税理士など専門家にオンライン対応を依頼すれば、帰国せずに調査や申告・分割協議まで進めることが可能です。 隠し財産を見つけた場合の対処法は? 後になってタンス預金・名義預金・未申告の不動産などの「隠し財産」が判明した場合、すでに協議が終わっていても、原則として再協議・追加分割の対象となります。 対応の流れ 財産の存在を示す証拠(通帳履歴・契約書・受取通知など)を集める 相続人全員に連絡し、遺産分割協議のやり直し(再協議)を提案 合意が得られなければ、調停や審判手続きで主張・立証する よくある例 名義預金(故人が生前に子や配偶者名義で管理していた口座) 故人の自宅に保管されていた現金・貴金属 知らされていなかった証券口座やデジタル資産(ビットコインなど) 注意 「知らなかった」で済まされないのが相続の世界。協議書を作成する際には、財産目録を全員でチェックし、第三者(司法書士・弁護士など)の目を通しておくと安心です。 遺言書がある場合の遺産調査 「遺言書があるなら、わざわざ遺産調査なんて必要ないのでは?」 このように考える方は少なくありません。 しかし実際には、遺言書があっても遺産調査は不可欠です。ここではその理由と注意点について詳しく解説します。 遺言書があっても財産は“全部”書かれているとは限らない 遺言書の内容は、たいてい被相続人が自分の知る範囲で書いたものです。そのため、以下のような状況はよく見られます。 書いた時点で把握していなかった新たな財産(例:投資信託・保険)が後から見つかる 一部の資産(ネット銀行・仮想通貨など)が記載漏れ 借金や保証債務が書かれていない 遺言書に記載がない財産については、法定相続人全員で遺産分割協議を行う必要があります。 よって、遺言書があっても遺産調査を怠ると、漏れた財産が後々のトラブルにつながりかねません。 公正証書遺言・自筆証書遺言どちらでも調査は必要 遺言の種類 法的効力 財産調査の必要性 公正証書遺言 強い(原本が公証役場に保管) 原則調査は必要。記載財産以外があれば分割協議が必要 自筆証書遺言 有効だが形式不備に注意 財産の記載ミスや漏れがあるケースが多く、調査必須 特に自筆証書遺言の場合は、「◯◯銀行の預金すべてを長男に相続させる」といったあいまいな表現になっていることもあります。 また、記載された財産がすでに処分済みで存在しない場合もあるため、現状を正確に把握するための遺産調査が欠かせません。 遺留分への配慮も必要 たとえ遺言書があっても、それによって特定の相続人の取り分がゼロになっている場合は、「遺留分侵害額請求」が発生することもあります。 その際、財産の総額を正確に把握しておくことが、請求の可否・金額判断に直結します。 結論:遺言書は“道しるべ”、遺産調査は“地図と照らす作業” 遺言書があっても、それだけで完璧に遺産を把握できるとは限りません。 あくまで遺言書は被相続人の「意志」を記録したものであり、実際の財産の状況とは食い違っていることもあるのです。 POINT 特にデジタル資産・仮想通貨・海外口座など、被相続人が書き残していなかった財産を調査で見つけるケースも少なくありません。 正確な遺産調査があってこそ、遺言書の内容も真に活かすことができます。 生前対策:家族信託・口座集約で遺産調査をラクにする方法 相続が発生してから初めて「遺産の把握ってこんなに大変なんだ…」と実感する方は少なくありません。 ですが、相続が始まる前=生前の段階から備えておけば、遺産調査やその後の手続きは格段にラクになります。 この章では、特に効果的な2つの生前対策「家族信託」と「口座集約」について解説します。 家族信託で“調査不要”な財産管理を実現 家族信託とは? 家族信託とは、本人(委託者)が財産の管理・運用・処分を信頼できる家族(受託者)に任せる制度です。 生前から財産の管理権限を移すことで、本人の判断能力が低下しても、相続人がスムーズに財産を管理・把握できます。 こんな方におすすめ 認知症対策をしたい高齢の親を持つ方 不動産や預貯金を複数持つ親の管理を一括したい方 兄弟間のトラブルや遺言書の限界に不安がある方 メリット 財産の“実質的な所有者”が明確なので、相続時に調査が不要になる 遺言書と違い、生前から運用・名義変更ができる 成年後見制度より柔軟でコストパフォーマンスが高い 💡POINT 家族信託は、税理士や司法書士と連携して組成します。 事前に設計書(信託契約書)を作成し、信託口口座を開設することで、「このお金は信託財産」「その他は個人のまま」など区分けが明確になります。 銀行口座・証券口座の集約で“調査時間”を大幅短縮 被相続人が複数の銀行・証券会社に口座を持っていると、調査にかかる手間は倍増します。 しかも、通帳や印鑑が別々に管理されていると、それだけで名義変更や残高証明の取得に数週間を要することもあります。 対策方法 生前のうちに使っていない口座は解約・統合してもらう 給与振込・年金受取口座・証券口座などは1〜2社に集約 銀行・証券会社名・支店名・口座番号を一覧表やエンディングノートに残してもらう 家族の協力がカギ 親に「口座を減らしてほしい」と伝えるのはハードルが高いかもしれませんが、「将来、手続きで困りたくないから今のうちに一緒に整理したい」と前向きな伝え方をすると、協力してもらえる可能性が高まります。 生前対策で“調査そのもの”を減らせる 遺産調査の難しさは「情報が散らばっていて見えないこと」。 家族信託や口座集約によって、“事前に見える状態”をつくっておくことができれば、相続開始後の混乱やトラブル、そして費用まで大幅に抑えることができます。 まとめ & 行動促進 遺産調査は、相続におけるすべての手続きの出発点です。 ここまでの内容を振り返りながら、遺産調査をスムーズに・正確に進めるための「5ヵ条」と、今すぐ行動を起こすための一歩をご紹介します。 遺産調査を成功させる5ヵ条(要点総括) 「何がどこにあるか」を見える化せよ 調査の第一歩は、財産・負債の“全体像”をつかむこと。紙媒体・デジタル情報を問わず、もれなく拾い出し、目録にまとめることで混乱やトラブルを未然に防げます。 優先順位をつけて調査せよ すべてを同時にやろうとすると、かえって遅れや抜けが発生します。まずは「預貯金→負債→不動産→その他」の順で調査しましょう。 書類は“まとめて”申請・取得せよ 戸籍、名寄帳、残高証明書などはセットで取得する方が効率的。役所や金融機関への訪問回数も削減できます。 期限は“逆算”して動け 放棄の3か月、申告の10か月――期限が過ぎてから「間に合わない」と気づいても遅いのです。とにかく“早く着手する”ことが最大のリスク対策になります。 迷ったら“無料相談”を活用せよ 弁護士・司法書士・税理士などの専門家による無料相談を活用すれば、「これ以上進めていいのか?」「自力で続けられるか?」が明確になります。早めの相談は、結果的に時間とお金の節約につながります。 最後に 遺産調査では、プラスの財産とマイナスの財産を両方把握する必要があります 相続放棄や相続税申告には期限があるため、早めの調査が重要です 調査は「預貯金→負債→不動産→その他」の順で進めると効率的です 隠し財産・名義預金・未登記不動産など見落としやすい資産にも注意が必要です 専門家に依頼するか、自力で行うかは状況に応じて判断し、部分的な活用も有効です 遺産調査は相続の出発点であり、調査結果がその後のすべての判断に影響します。 この記事で紹介した内容を参考に、まずは「何があるか」「どこにあるか」を洗い出すところから始めてみてください。 分からない点や不安な部分があれば、無料相談を活用することで、判断の材料が得られます。 相続をスムーズに進める第一歩として、今日からできる準備を始めてみましょう。

2025.08.20

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ここを間違えると無効に?遺産分割協議書を自分で書く際の注意点と文例

ここを間違えると無効に?遺産分割協議書を自分で書く際の注意点と文例

「遺産分割協議書って、自分で書いても大丈夫なの?」 「どこまで書けば有効になるのか、正直よくわからない…」  相続手続きに直面した際、多くの方が最初に戸惑うのが「遺産分割協議書」の作成です。  この記事では、以下のようなポイントについて、具体的に解説いたします。   遺産分割協議書の基本的な意味と必要になるケース 自分で作成する場合の書き方と文例、注意点 自作と専門家依頼、それぞれのメリット・判断基準  遺産分割協議書は、相続に関する各種手続きにおいて、欠かせない重要書類の一つです。内容に不備があると、不動産の登記や預貯金の名義変更といった手続きが滞る可能性があるほか、親族間のトラブルにつながるおそれもあります。  もっとも、誰に相談すべきかわからなかったり、費用面で不安を感じたりすることもあるでしょう。   また、親族から「自分で書けばいい」と言われ、かえって悩んでしまうというご相談も多く寄せられています。  この記事をお読みいただくことで、遺産分割協議書を自作する際の基本的な知識や注意点、専門家に依頼するかどうかの判断軸が得られます。  迷っている時間を減らして、スムーズに相続手続きを進めましょう。 遺産分割協議書とは?まずは基本を押さえよう 遺産分割協議書とは  遺産分割協議書とは、相続人同士で話し合い、誰がどの財産を相続するか決めた内容を文書にまとめたものです。不動産や預貯金の名義を変更するには、必ずこの書類が必要になります。  書類には、協議の内容だけでなく、被相続人の氏名、死亡日、財産の内訳、各相続人の署名と押印なども記載します。 法的に作成の義務はある?  遺産分割協議書は、法律で義務づけられている書類ではありません。  しかし、金融機関や法務局などの手続きで提出を求められる場面が多いため、実質的には作成が必要になるケースがほとんどです。  例えば、不動産を相続する場合は、法務局で名義変更をするために遺産分割協議書の提出が求められます。また、相続税の申告時や、銀行口座の解約にも必要です。 必要になるケース・不要なケース  以下のように、状況によって必要かどうかが異なります。 状況 遺産分割協議書の必要性 相続人が複数いる 必要 不動産や預貯金などを相続する 必要 相続人が1人(単独相続) 不要なことが多い 被相続人の遺言書がある 内容に不備がなければ不要なことがある  「必要ないと思っていたけど、実は手続きに必要だった」というケースもあります。迷ったら早めに専門家に相談しましょう。 相続開始から協議書作成までの流れ  遺産分割協議書は、相続開始後すぐに作成するのではなく、一定の準備を経て作成します。以下が基本的な流れです。 1.被相続人の死亡 2.相続人の調査(戸籍を取得) 3.相続財産の調査(不動産・預金・株など) 4.相続人間で分割方法を協議 5.協議内容を文書にまとめる(=遺産分割協議書) 6.相続人全員が署名・実印を押す 7.登記や相続税の申告などに使用 作成のタイミング・期限はいつ?  遺産分割協議書の作成そのものに期限はありません。ただし、手続きには以下の期限があります。 手続き 期限 相続放棄の申述 死亡を知ってから3か月以内 相続税の申告 死亡から10か月以内 不動産の名義変更 従来「明確な期限はないが早めに」とされてきましたが、2024年4月1日から相続登記が義務化されました。相続開始から3年以内に登記申請をしないと、10万円以下の過料(罰則)が科される可能性があります  相続税が発生する可能性がある場合は、死亡から10か月以内に作成しておくとスムーズです。 あなたに合った遺産分割協議書の作成方法は?タイプ別に解説 まずは「自分で作りたい」人  費用をかけたくないと考える人にとって、自作は現実的な選択肢です。雛形や文例を活用すれば、自宅のパソコンでも作成できます。ただし、書き方や形式に不備があると、登記や銀行で受理されないおそれがあります。少しでも不安があるときは、「あとからチェックしてもらう」選択肢も検討しましょう。 「少し不安だけど挑戦したい」人  自分である程度作りたいけれど、法的に通用するか不安を感じている場合は、一度雛形を使って作成し、その後に弁護士や司法書士にチェックを依頼する方法が適しています。この方法なら、費用を抑えつつ、ミスによるトラブルも防げます。「自作+プロの確認」は、慎重派の人にとって合理的な選択です。 「最初からプロに任せたい」人  時間がない人、家族や親族に対して「間違いがない書類を作った」と説明したい人には、最初から専門家に依頼する方法が向いています。  書類の作成はもちろん、相続人の確定や財産の調査、押印の順序などの手間もすべて任せられます。 遺産分割協議書が必要な手続きと活用場面 不動産の名義変更  不動産を相続する場合、法務局で名義変更(相続登記)の手続きが必要です。このとき、遺産分割協議書は「誰がどの不動産を取得するか」を明記した証拠になります。  協議書がないと、法定相続分に従って登記するしかありません。特定の相続人が単独で相続する場合などは、協議書の提出が必須です。  不動産の表示は登記簿謄本どおりに正確に記載しましょう。所在地や地番が一致していないと、法務局で受理されません。 預貯金の解約・名義変更  銀行口座の解約や名義変更にも、遺産分割協議書が必要です。銀行ごとに手続きの細かい違いはありますが、原則として全相続人の同意が書面で求められます。  協議書には「〇〇銀行××支店の普通預金口座を◯◯が相続する」といった形で、口座の情報と取得者を明記します。  金融機関によっては、銀行所定のフォーマットが求められることもあるため、事前に確認しましょう。 相続税の申告  相続税の申告では、遺産分割協議書の提出が求められる場合があります。特に、配偶者控除や小規模宅地等の特例を使うときは、財産の分割内容が明らかである必要があります。  協議書がなければ、相続税申告書に添付する「財産の帰属を示す資料」として不十分となることもあります。結果として税務署に否認されるリスクを避けるためにも、協議書の作成が推奨されます。 株式の名義変更  被相続人が所有していた株式も、相続人が引き継ぐには名義変更の手続きが必要です。証券会社や発行会社に提出する書類として、遺産分割協議書が必要になります。  協議書には「〇〇株式会社の株式△△株を◯◯が相続する」といった明確な記載が必要です。株式の場合、名義変更の期限が設定されている会社もあるため、早めに対応しましょう。 自動車の名義変更  故人名義の車を相続する場合、陸運支局での名義変更手続きが必要です。この手続きでも、遺産分割協議書の提出が求められます。協議書には「普通自動車〇〇(車台番号●●)を◯◯が相続する」といった文言を記載します。  車検証に記載された内容と一致させるようにしましょう。 その他の提出先(税務署・法務局・運輸支局など)  以下のような機関でも、遺産分割協議書の提出を求められることがあります。 税務署(相続税関係書類の添付資料として) 法務局(不動産登記の申請) 銀行・証券会社(口座名義変更や払戻し手続き) 運輸支局(車両の名義変更)  いずれの手続きでも、「誰が、どの財産を相続するか」が協議書で明確にされていることが前提になります。 自分で書く?専門家に頼む?作成方法と判断ポイント 自分で作成するメリット・デメリット  遺産分割協議書は、自分で作ることも可能です。インターネット上には雛形や文例もあり、手順に沿って作成すれば、費用をかけずに進められます。 【メリット】 作成費用がかからない 自分のペースで進められる 内容を細かくコントロールできる 【デメリット】 書き方を誤ると受理されない 相続人全員の署名・押印に時間がかかる 不備があれば、再度全員から押印を集め直す必要がある 形式や文言の法的有効性に自信がもてない  費用を抑えたい気持ちは自然ですが、不備が発覚して二度手間になると、かえって負担が増えます。 専門家に依頼するメリット(費用対効果/失敗リスクの回避)  専門家に任せる最大のメリットは、「確実な書類が早く手に入る」点です。必要な情報を伝えるだけで、書類一式を整えてもらえるため、作成ミスによる再提出や家族間のトラブルを未然に防げます。 【専門家に依頼するメリット】 法的に有効な書類が手に入る 相続人間での調整も任せられる 抜けや誤りのリスクを避けられる 自分の正当性を家族に説明しやすくなる  たとえば、兄弟姉妹の中に「後から文句を言いそうな人」がいる場合でも、「専門家に確認してもらったから大丈夫」と堂々と説明できます。時間をかけて自分で作っても、不備があって再作成となれば、その労力と費用は二重になります。 「一度自作してチェックを依頼する」方法のすすめ  費用を抑えつつ、内容の正確さも確保したい人には、「自作+専門家チェック」という方法が向いています。まずは雛形を使って協議書を作成し、完成した後に弁護士や司法書士に確認してもらう流れです。この方法のメリットは以下の通りです。 雛形や文例を使って自分で進められる 専門家に相談する内容が明確になる チェックの費用だけで済む可能性がある 完成後に不備がないか確認できるため安心  特に、「本当にこれで通るのか不安」「親族からの指摘に備えたい」という方にとって、コストと安心のバランスが取れた方法です。 遺産分割協議書の書き方【実務編】 基本の構成と記載項目一覧  遺産分割協議書には、最低限押さえておくべき構成があります。正しい形式で作成しないと、法務局や金融機関で受理されません。 【基本構成】 1.タイトル(例:「遺産分割協議書」) 2.被相続人の情報(氏名・死亡日・本籍) 3.相続人の情報(氏名・住所・続柄) 4.相続財産の内容(不動産・預貯金・その他の財産) 5.財産の分割内容(誰がどれを相続するか) 6.相続人全員の署名・実印押印 7.協議日付  情報に不足があると、無効扱いになるおそれがあります。不動産や口座の表記も、公的書類に記載されているとおりに正確に書きましょう。 記載例①:法定相続人全員で均等に分ける場合  例えば、相続人が2人で、財産を2分の1ずつ分ける場合の文例は以下の通りです。  被相続人●●(令和〇年〇月〇日死亡)の遺産について、相続人全員で協議した結果、以下の内容で分割する。 不動産:●●市△△町〇番〇 土地 持分1/2ずつ 預金:〇〇銀行××支店 普通預金(口座番号:1234567) 持分1/2ずつ  上記内容に相違ないことを証するため、本協議書を作成し、相続人全員が署名・押印する。 相続人が多い場合は、一覧表形式でまとめても問題ありません。 記載例②:一人が全財産を相続する場合  たとえば、兄弟3人で話し合いをした結果、長男が全財産を相続することになった場合は、以下のように記載します。  被相続人●●(令和〇年〇月〇日死亡)の遺産について、相続人全員で協議した結果、相続財産のすべてを長男◯◯が単独で相続することで合意した。 不動産:●●市△△町〇番〇 土地・建物 預金:〇〇銀行××支店 普通預金(口座番号:1234567)  相続人全員がこの内容に同意したため、本協議書を作成し、各自署名・押印する。  この形式で記載すれば、不動産登記や預金の手続きも問題なく進められます。 記載例③:不動産のみ特定の相続人に相続させる場合  不動産は長男に、預金は次男に、というように分ける場合の例です。  被相続人●●の遺産のうち、以下の不動産は長男◯◯が相続する。 ●●市△△町〇番〇 土地・建物  預金については、〇〇銀行××支店 普通預金(口座番号:1234567)を次男◯◯が相続する。  相続人全員が協議の上、上記のとおり分割することに合意した。  こうした分割内容を記載するときは、財産ごとに取得者を明確に示しましょう。 数次相続や代襲相続がある場合の文言の注意点  相続人の一人が先に死亡していた場合や、代襲相続人(子の子など)がいる場合は、文言に注意が必要です。 【記載例】  被相続人A(令和〇年〇月〇日死亡)の配偶者Bはすでに死亡しており、その法定相続人は子Cおよび代襲相続人D(Cの子)である。  相続人CおよびDは協議のうえ、以下のとおり分割することで合意した。 後日判明した財産の扱いをどう記載するか  相続財産の中には、協議後に発見されるものもあります。あらかじめその取り扱いを明記しておくことで、再協議を避けることができます。 【記載例】  本協議書に記載のない財産が後日発見された場合には、改めて相続人全員で協議し、分割方法を決定するものとする。  この一文を入れておくと、協議書の有効性が保たれます。 作成形式の注意点と提出前のチェックリスト パソコンで作成してもOK?手書きでもいい?  遺産分割協議書は、パソコンで作っても問題ありません。手書きも可能ですが、文字の読みづらさや修正の難しさを考えると、ワープロソフトでの作成が推奨されます。パソコンで作成しても法的効力に違いはありません。ただし、署名だけは全相続人が自筆で記入し、実印を押す必要があります。 作成日付の記載/被相続人と相続人の明示  文書には必ず、作成日付を記載しましょう。  日付がないと、登記や銀行手続きで受理されないことがあります。  また、被相続人については以下のように明記します。 氏名(フルネーム) 死亡日 最後の本籍地  相続人については、以下の情報を記載します。 氏名(住民票と一致) 現住所 続柄(長男・長女など)  これらの情報が正確に記載されていないと、手続き先で補正を求められます。 署名・実印の必要性  相続人全員が、署名し、実印を押す必要があります。認印やシャチハタでは受理されません。印鑑登録証明書の提出も求められるため、署名・押印は印鑑証明書と一致する氏名で行うことが大切です。署名は代筆不可です。全員が直筆で署名してください。 複数ページにわたる場合の契印のルール  協議書が複数ページになる場合、契印を忘れずに押してください。契印とは、ページとページの間にまたがるように押す印のことです。 【契印の方法】 各ページのつなぎ目にまたがるように実印を押す 左端をホチキスで留めてから押す 契印は1名の印でも可だが、全員分押すとより確実  契印がないと、後から改ざんされたと疑われる可能性があります。 人数分の正本を作成する必要あり  遺産分割協議書は、相続人の人数分+提出先の数だけ正本を用意しておくと安心です。  例えば、相続人が3人で、不動産登記と銀行解約をする場合は以下のように準備します。 相続人分:3部 登記提出用:1部 銀行提出用:1部 計:5部  コピーではなく、全て署名・押印済みの正本を用意してください。 縦書き or 横書き/片面印刷の可否と体裁の正解  書式に明確なルールはありませんが、以下の形式が一般的です。 項目 内容 書式 横書きでも縦書きでも可(横書きが増えている) 用紙 A4サイズ推奨 印刷 片面印刷(裏面は白紙)でも問題なし 綴じ方 左綴じ(ホチキス)またはクリップ留め 公的書類と同じ感覚で作成すれば、トラブルになりにくくなります。 ホチキスの位置や綴じ方にルールはある?  ホチキスの位置や綴じ方に厳密なルールはありませんが、以下の形式が無難です。 A4サイズを左綴じでホチキス留め 複数ページある場合は契印を忘れずに 白紙ページが出る場合もそのままで問題なし  製本やファイルに綴じる必要はありません。相続人全員が同一の原本を持てるよう、扱いやすい形式でまとめておきましょう。 遺産分割協議書が無効になるケースとリスク 相続人全員の合意がない  遺産分割協議は、法定相続人全員の合意があって初めて成立します。  一人でも欠けた状態で作成された協議書は無効です。  例えば、疎遠な兄弟が連絡不通のまま協議から除外された場合、他の相続人が全員合意していても、その協議書は使えません。登記や銀行手続きも進まなくなります。  「連絡が取れないから省略した」は通用しないため、相続人調査は丁寧に行いましょう。 成年後見が必要な相続人が手続きをしてしまった  相続人の中に認知症の方がいた場合、その人が単独で協議に参加することはできません。  このような場合には、家庭裁判所で成年後見人を選任する必要があります。  後見人を立てずに協議書を作成すると、その協議は最初から無効となります。  後日トラブルが起きる前に、判断能力が不十分な相続人がいないかを確認しましょう。 財産の表示ミスや文言の誤り  不動産や口座情報の記載ミスも、無効や訂正の原因になります。  例えば、不動産の地番や種類が登記簿と一致していない場合、法務局で補正を求められます。誤記があると「本当にこの財産を指しているのか」が不明になり、受理されない可能性があります。  以下の書類を見ながら、正確に記載してください。 登記簿謄本(不動産) 通帳または銀行明細書(預金) 車検証(自動車) 署名や押印の不備  署名が自筆でない、押印がシャチハタや認印であると、手続きで拒否されます。  また、印鑑登録証明書と押印が一致しない場合も、やり直しが必要です。  署名はボールペンで、必ず自分の手で書いてください。  押印は実印を使い、印鑑登録証明書も添えて提出しましょう。 記載内容と現実の分割が異なっている場合  協議書の内容と実際の相続状況が異なると、手続きが進みません。  たとえば、「長男が全財産を相続する」と書いてあるのに、実際には一部を他の相続人が受け取っていた場合、その協議内容は疑義ありとされます。金融機関や法務局は、協議書に書かれた通りの処理しかできません。内容は正確に、事実と一致させて記載しましょう。 よくある質問(Q&A) 何部作ればいい?  遺産分割協議書は、相続人全員の署名・押印が必要な正本を、それぞれの提出先ごとに用意します。目安としては以下のとおりです。 相続人の人数分(各自が1部ずつ保管) 不動産登記用に1部 銀行提出用に1部 その他提出先(税務署、証券会社、陸運支局など)  例えば、相続人が3人で、登記と銀行手続きがある場合は最低5部用意します。  コピーではなく、すべてに実印を押した正本を作ることが基本です。 各相続人が署名した原本を持っていてもいい?  相続人ごとに正本を1部ずつ持つのが一般的です。全員の署名・押印がされたものを「正本」とし、各人が同じものを保管することで、後々のトラブルを防げます。署名や押印がバラバラになっていると、「これは本当に全員分の合意か?」と疑われる可能性があります。 必ず全ページ、全相続人の署名・実印がそろった状態で製本しましょう。 署名は直筆じゃないとダメ?  署名は必ず本人が自筆で書く必要があります。代筆は認められません。たとえ内容に合意していたとしても、本人が書いていない署名は無効となることがあります。誤字があった場合も、二重線と訂正印で対応してください。  署名は消せるボールペンや鉛筆ではなく、普通の黒インクのボールペンで書きましょう。 不動産・現金・債務などが混在している場合の記載方法は?  協議書には財産ごとに、誰が何を相続するのかを明記します。混在している場合でも、次のように分類して記載します。 【記載例】 不動産:〇〇市△△町〇番〇の土地建物を◯◯が相続 預貯金:〇〇銀行××支店普通預金(口座番号1234567)を◯◯が相続 債務:〇〇への借入金を◯◯が負担  記載に迷った場合は、項目ごとに見出しを設けて整理すると読みやすくなります。 一部だけを後で分割したいときはどうする?  協議書に「後日判明した財産の取扱い」を明記しておきましょう。例えば以下のような表現がよく使われます。本協議書に記載のない遺産が後日判明した場合は、相続人全員で協議し、別途取り決めるものとする。こうしておけば、追加の財産が見つかったときも再協議だけで対応できます。  再協議が必要になることを想定し、最初の協議書でその余地を残しておくことが安心につながります。 専門家に依頼するときの費用相場は?  専門家への依頼費用は、相続人の人数や財産の種類によって異なります。  目安としては以下のとおりです。 依頼先 費用の目安 弁護士 10〜20万円前後(書類作成のみの場合) 司法書士 5〜15万円前後 税理士 相続税申告に合わせて対応(別途費用) 自分で作ってから弁護士に見せても大丈夫?  自作した協議書をチェックしてもらうだけの依頼も可能です。そのようなご相談は増えており、「費用は抑えたいけど、内容に自信がない」という方に多く選ばれています。  雛形をもとに書いた協議書でも、法的な有効性や記載漏れの有無を確認するだけでも価値があります。不安がある場合は、提出前にチェックを受けておくと安心です。 どのタイミングで専門家に相談するのがベスト?  以下のような状況になったら、早めに専門家へ相談することをおすすめします。 相続人が多数いる 連絡が取れない相続人がいる 不動産が複数ある 代襲相続・数次相続など複雑な構成になっている 相続税の申告も控えている  書き始める前でも、相談しておくと進め方がわかり、無駄な手戻りを避けられます。 無料相談ではどこまで見てもらえるの?  当事務所の無料相談では、以下のような内容を対応しています。 相続人の調査方法 財産の洗い出し方 雛形の使い方 書き方の基本チェック 専門家に依頼するべきかどうかの判断  いきなり依頼を前提にしなくても大丈夫です。「まずは相談だけしてみたい」という方もお気軽にご連絡ください。 まとめ|遺産分割協議書は「正しく・確実に」作ることが最重要  遺産分割協議書は、相続人全員の合意を形にする、大切な書類です。不動産の登記や銀行の手続き、相続税の申告など、実務に直結する場面で提出が求められます。  自作で対応する方法もありますが、形式の不備や記載ミスがあると手続きが止まってしまうため、正しい知識と慎重さが必要です。  一方で、「時間がない」「失敗したくない」「親族に後から指摘されたくない」といった事情がある場合には、専門家に任せる方が結果的にスムーズです。  雛形や自作で挑戦された方の「チェックのみのご依頼」も歓迎しています。初回のご相談は無料ですので、迷っている方も、まずは一度ご相談ください。確実な協議書を用意して、相続手続きを円滑に進めましょう。

2025.08.20

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