弁護士コラム

相続に関する様々なトピックを
弁護士が解説

相続問題に関する、当事務所の弁護士によるコラムです。是非ご一読ください

遺産相続で嫌がらせをしてくる兄弟姉妹への対処法

遺産相続で嫌がらせをしてくる兄弟姉妹への対処法

兄弟姉妹間でよくある遺産相続をめぐるトラブルパターン 相続権(相続人となる法的な地位)は、被相続人の親族のうち一定の方にだけ認められる権利です。法は、被相続人の親族に対して順位を設けており、前の順位の親族がいない場合に初めて後の順位の親族が相続権を得ます。その順位は、1位が「子」、2位が「直系尊属(親や祖父母など直列関係で先祖に当たる者)」、3位が「兄弟姉妹」です。 このうち、最も多いのは「子」が相続人となるケース(被相続人に法律上の子がいる場合)です。そして、「子」が複数の場合、つまり兄弟姉妹がいる場合が相続でのトラブルが頻発する典型例です。 具体的にどういったトラブルが起こりがちか見て行きましょう。 【トラブル1】 兄弟姉妹の1人が・・・親の介護を理由に遺産を独り占めしようとする よくあるトラブルの1つが亡くなった親(被相続人)の介護に纏わるものです。他の兄弟姉妹が実家を離れる中、兄弟姉妹の内一人だけが家に残り、親と同居して、親を介護しながら面倒を看ていたといったケースです。 こういったケースでは、親の介護を行っていた方は、他の兄弟姉妹よりも多くの苦労を背負って被相続人(親)の人生に貢献したとして、被相続人の遺産について自分が有利な扱いを受けなければ兄弟姉妹間の扱いとして不公平であると考えることが多いです。こうした心情は、遺産について自身の取り分が増えるべきである、あるいは、遺産はすべて自身がもらうべきものであるといった法的主張となって表れます。 では、こうした主張は認められるのでしょうか。 この問題を考えるには、まず、「親の介護」が相続に際してどのような意味を持つのかを知る必要があります。親の介護は、状況次第で、遺産分割の中で「寄与分」という問題として考慮されます。「寄与分」とは、被相続人の財産の維持・増加に特別の寄与をした者(相続人)が、その寄与を理由として特別に与えられる相続財産への持分です。寄与分は、当然に認められるものではなく、家庭裁判所に対し、寄与分を認める旨の審判を申し出て、裁判所がこれを認める審判が出すことで初めて権利が発生します。寄与分が認められれば、遺産全体から寄与分部分が除かれて寄与者の取り分とされ、残りの部分を遺産分割協議の対象とすることになります。 もっとも、親の介護を理由として「寄与分」が認められるケースは多くありません。理由は、寄与分という制度が本来的に遺産の維持・増加に対する「寄与」を根拠とする制度であるところ、子による介護の有無と遺産の維持・増加の関係は必ずしも明らかでないためです。子の一人が介護に当たったことで、本来支払わければならなかった介護費用が大幅に減った等の明確な事情がなければ、遺産の維持・増加に寄与したものと認められない可能性が高いです。 また、子は本来的に親に対して扶養義務を負っているため、親の介護は扶養義務の履行に過ぎないと評価されがちです。寄与分として財産的利益を受けるには、扶養義務の履行を超えるような特別の寄与、たとえば、親の介護のため会社を退職せざるを得ず、自身の収入を犠牲にして同居の上でつきっきりの介護に当たった等の事情が求められます。 寄与分を認める際の具体的な基準を定めた法律はなく、判例と呼べる程の確立した先例もありません。実際には、寄与分の審判申し出を受けた担当裁判官の裁量による部分が多くなりますが、介護を理由とした寄与分の内容として遺産すべてが寄与者に与えられる事例はかなり少ないように思われます。このことは、遺産の額が高額であればある程当てはまるでしょう。 皆さんの身近に、親の介護に当たられていた兄弟姉妹の方が、そのことを理由として遺産すべてを取得する旨主張されているケースがあれば、法的には妥当でない主張の可能性が高いのでお気を付け下さい。 【トラブル2】 兄弟姉妹の1人が・・・遺産を開示してくれない よくあるトラブル事例として、亡くなった親(被相続人)と同居して、親の財産を管理していた兄弟姉妹の一人が、親の死亡後も遺産の開示を拒むケースがあります。このような場合、その方は、資料を一切開示しないまま遺産の目録を配り、「遺産はこれだけだからこの分割を協議しよう」と言って、遺産分割協議をリードしようとすることが多いです。 こういったケースでは、被相続人の生前に同人の財産を管理していた子の一人が、何らかのやましい行動を取っている可能性があります。具体的には、生前に被相続人から多額の贈与を受け取っていたり、被相続人の財産を勝手に使い込んでいたりしたことを隠す意図が疑われます。 このような場合、他の相続人において遺産の調査を行うことで、真相に近づくことができます。具体的には、被相続人名義の預金の取引明細や、生命保険の契約情報、証券や不動産の情報等を調べることで、生前の被相続人名義の財産に不審な動きがないかを調べることができます。 なお、法的には、被相続人が相続人の一部に多額の贈与を行ったケースと、相続人の一部が相続人の生前に勝手に同人の財産を使い込んでいたケースとで扱いが変わって来ます。前者のケースは、いわゆる「特別受益」の問題として、遺産分割手続の中で贈与相当額を遺産に持ち戻すことができるかという論点になり、後者については、被相続人が使い込みを行った相続人に対する損害賠償請求権(不法行為を理由とするもの なお、不当利得構成も可能が遺産を構成も可能)の問題として扱われます。これらの詳細は、この後の【トラブル3】、【トラブル4】の中で解説します。 いずれにせよ、被相続人の財産を同人の生前に管理していた相続人が、遺産に関する資料の開示を拒む場合、何らかの隠蔽意図があることが伺われます。ご自身で調査することも可能ですが、弁護士に頼めば、心当たりのある財産一式を調査することも可能です。 【トラブル3】 兄弟姉妹の1人が・・・生前に親から多額の援助を受けていた 兄弟姉妹の一人が、生前に親から多額の援助(贈与)を受けていた場合、それが特別受益と評価されれば、遺産分割の場面で調整がなされることとなります。具体的には、遺産分割における各相続人の取分(具体的相続分と言います。)を定める際、被相続人の死亡時に残存していた財産に、被相続人が相続人の一部に対して行った援助(贈与)の額(貨幣価値や物の価格変動している場合は、相続開始時の時点の価値として換算されます。)を持ち戻して遺産を観念します(みなし相続財産と言います。)。例えば、被相続人の間に子が2人おり、その1人に対しては生前に時価1億円の不動産の贈与し、被相続人死亡の時点での財産が預金1000万円しか残っていなかった場合、この1000万円のみを兄弟で2等分するのでは、あまりにも不公平です。このようなケースでは、「婚姻」「縁組」「その他生計の資本として」贈与された財産は、言わば遺産一部の前渡しであると評価され、遺産分割に際して、分割対象となる遺産にその贈与額を持ち戻して計算しなければならなくなります。このような持ち戻しの対象となる贈与のことを「特別受益」と呼ぶのです。先ほどの例では、被相続人の死亡時点で現実に存在するのは預金1000万円だけですが、先だって行われた時価1億円の不動産の贈与は「生計の資本としての」贈与に当たり、特別受益として持ち戻しの対象となります。その結果、持ち戻し後の遺産(みなし相続財産)は、1000万円+1億円で合計1憶1000万円となります。これを2人で等分することになりますので、二人の取り分はそれぞれ5500万円です。特別受益を受けている相続人の具体的相続分は、この5500万円から特別受益額1憶円を控除した額となるので、このケースでは-4500万円となります。他方、特別受益を受けていない方の相続人の具体的相続分は、そのまま5500円となります。この場合、この相続人は、現実の遺産として残されている預金1000万円をまず取得し、不足する4500万円について特別受益を得ている相続人に対して請求できることになります。 ですので、この記事をご覧の方のご兄弟が、生前に被相続人から多額の援助を受けていることが明らかなケースであれば、まずもってこの特別受益の主張を検討されるべきと言えます。 ただし、生前贈与があれば、常に特別受益に当たる訳ではありません。親は子に対して扶養義務を負っているところ、金銭を援助することは扶養義務の範囲内のこととして正当化されることが多いためです(「生計の資本としての贈与」に当たらない、つまり遺産の前渡しとは認められないと理解されることが多いです)。よく問題となるのは、大学の学費です。兄弟のうち一部の者だけ大学の進学費用を親が負担し、他の兄弟は自分で奨学金を得て進学した、あるいは進学せずに就職したという事案において、親による当該学費の支弁が特別受益に当たるとして争われるケースです。これも、確立した判例があるわけではありませんが、下級審判例(主として家庭裁判所)の大きな傾向として、大学の学費は扶養義務の履行の範囲内で行われたものであり特別受益には当たらないと解釈する方向にあります。そこに多少の不公平があっても、昨今の大学の進学率を考慮すれば大学進学の際の親の援助は、扶養義務の履行に留まるものであって、遺産の前渡しとまで評価することはできない(被相続人が遺産の前渡しの趣旨で学費を支払ったとは推測できない)というのが理由のようです。 なお、特別受益による持ち戻しを行うか否かは、被相続人の意思が最も尊重されます。被相続人が持ち戻しを免除する意思を遺言によって明記しているようなケースでは、たとえ特別受益と認められる生前贈与であったとしても、遺産分割協議の中で持ち戻しを行うことは認められなくなります。特別受益による持戻しは、客観的な相続人間の公平性の実現よりも、被相続人の意思を優先させる制度と言えます。 【トラブル4】 兄弟姉妹の1人が・・・生前に親の財産を勝手に使い込んでいた これもトラブル3で述べた遺産の非開示から始まって、事後、遺産の調査を行って発覚することが多い事例です。例えば、高齢になった親(被相続人)の財産を管理していた長男が、親に代わって同人の財産を管理しており、その中で、親の承諾なく同人の財産を使い込み、長男自身やその妻・子の私費に当てているといったケースです。 この場合、「親の承諾を得ていない」という点で、【トラブル3】のような贈与の事例と異なります。そのため、遺産分割における特別受益の問題として処理されることにはなりません。では、このような勝手な使い込みは、法的にはどのように整理されるのでしょうか。 高齢の親の財産が、同人の生前に、本人の承諾なく勝手に使い込まれていた場合、これは、窃盗ないし横領の問題となります。完全な他人が行えば刑事罰の対象となりますが、一定の親族には「親族相盗例」という刑法上の規定が適用されるため刑が免除されます。この場合は、民事上の問題が残るのみです。先ほど挙げた長男が親の財産を使い込んだ事例でも、長男にはこの「親族相当例」が適用されるため、刑事処罰を求めることはできません。しかし、長男は、本人の承諾なく親の財産権を侵害したことになりますので、不法行為を理由に被相続人に対して損害賠償義務を負い、逆に、親は長男に対して損害賠償請求権を有することになります。この請求権は、窃盗・横領行為を行った時点から発生する具体的な金銭債権(財産)です。そのため、その後、その親が死亡した時点で、相続の対象となります。また、この損害賠償請求権は、可分債権(数額的に分割することが可能な債権)であるため、遺言による特別の定めがない限り、遺産分割を待たずに相続開始(被相続人の死亡)と同時に、各相続人が法定相続分に応じて承継することとなります。 例えば、長男が、高齢の母の預金から、本人の承諾なく1000万円を勝手に引き出して長男自身の遊興に当てていたとします。その後、その母が死亡したため、同人を被相続人とする相続が開始します。相続人は長男・二男・長女・二女の4名で、遺言はないため、各相続人たちは4分の1ずつの法定相続分に従って、被相続人の遺産を承継することとなります。この場合、被相続人の遺産には、長男に対する1000万円の損害賠償請求権が含まれますが、この損害賠償請求権は、先ほど述べたとおり可分債権であるため、遺産分割協議という手続を踏むことなく、相続が開始した時点(被相続人が死亡した時点)で自動的に250万円ずつ相続人に割り振られることになります。その結果、二男・長女・二女の3名は、長男に対してそれぞれ250万円ずつの支払いを請求できる権利を得ます(長男本人は混同によって債務が消滅します。)。この場合、長男がおとなしく支払いに応じないようであれば、地方裁判所に対して支払いを求める訴訟を提起し、確定勝訴判決をもって長男の財産に対して強制執行を行うことで支払いを実現することができます。 ここでのポイントは、損害賠償請求は、家事審判事項ではなく、訴訟事項だという点です。遺産分割は家事審判事項であるため、原則としてこの損害賠償請求の問題を扱うことはできません。あくまでも、遺産分割とは切り離された訴訟という手続で解決されることが求められます。もっとも、相続人全員が、遺産分割の手続の中で、この使い込みによる損害賠償請求の問題を取り扱うことを同意した際は、例外的に遺産分割手続の中で同使い込みの問題を議論することが可能となります。 現実には、損害賠償請求する側、される側の双方ともが、家裁と地裁で分けて2つの事件を係属させることを嫌がるため、家庭裁判所で扱う遺産分割手続の中でこれを扱うことに同意し、一回的解決を目指すことが多いです。 兄弟間の相続争いを弁護士に依頼するメリット 兄弟間の相続争いでは、遺産隠しや兄弟間の不公平等、おかしな状況になっていることが多いです。相続の分野は、法律が込み入っており、一般の方々だけでは対処が難しいケースが多々存在します。 泣き寝入りすることがないよう、兄弟間の相続で少しでも悩んだら、当事務所宛にご連絡下さい。

2022.07.21

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相続問題に関する法改正について

相続問題に関する法改正について

家事部に所属しております弁護士の相川です。 夫婦問題・離婚問題とあわせて、相続問題についても扱っております。 今回は、まだ国会での成立前の段階ではありますが、成立すれば相続問題の処理に影響を及ぼす可能性のある、法律の成立および法改正についてご紹介します。 2021年3月5日政府は「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律」案および、民法の改正案などを閣議決定し、現在国会での成立を目指しています。 今回の新法の成立と法改正の背景としては、土地を所有している人が亡くなり、相続が開始したにも関わらず、遺産分割協議や相続登記がなされずに長期間放置された結果、登記上の所有者が亡くなった人のままになっており、実際の所有者が誰なのかが分からないケースが多いという実態があります。なかには長い年月で相続人が大人数に枝分かれしてしまい、共有者が何百人というケースもあり、国が対策に乗り出しました。利用手段が無く経済的な価値もない土地は、相続が開始しても、相続人が手間や費用をかけて遺産分割協議や相続登記をしてまで欲しがらないため、このようなことになると推察されます。 今回の新法の成立および法改正の骨子としては (1)所有者不明土地の発生を予防する方策(2)所有者不明土地の利用の円滑化を図る方策 以上の2つです。 (1)所有者不明土地の発生を予防する方策としては、 ①土地の相続登記を義務付け、3年以内に登記しないことに過料の制裁を定めたこと②土地の所有者から法務大臣に対して、土地の所有権を国に帰属させるための申請ができること となります。もっとも、土地が数人の共有に属している場合はその全員で申請しなければならないため、大昔に土地の相続が発生し、すでに何百人もの共有の状態になってしまっている土地についての申請は事実上困難かと思われます。また、境界が明らかでない土地や、管理に多額の費用を要する崖があるなどの事情があると、承認下りないなどの問題となりうる条件が散見されますし、実際の運用でも厳しい運用をされてしまうと、結局利用は低調にとどまってしまう可能性もあり、今後の行方を注視する必要があると思われます。 (2)所有者不明土地の利用の円滑化を図る方策としては、現行の民法では、共有者の一部の所在が不明だと管理も処分も困難でしたが、改正により、裁判所の関与の下で、不明共有者等に対して公告等をした上で、残りの共有者の同意で共有物の変更や管理を可能にしたり、不動産の共有関係を解消できる仕組みを創設しました。 いずれも、本当に利用のしやすい制度として根付いていくのか、今後の行方を注視する必要があると思われます。制度の施行後は、所有者不明土地の処理等について弊所でもお手伝いできるかもしれませんので、お気軽にご相談ください。

2021.03.25

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相続の考え方

相続の考え方

生を受けた人間全員にとって唯一公平に与えられているのは、「死」という概念だと思います。人間の世界は、法という目に見えない“磁場”に縛られており、法律の定める条件に触れることで「権利」や「義務」といった目に見えない概念が変動しますが(通常「権利変動」と呼びます。)、人の「死」もまた、法が定める権利変動原因の一つです。 人は「死」によって、権利・義務の一切を失い、他方、その配偶者や子が、死者(相続される人という意味で「被相続人」と呼ばれます。)の権利・義務の一切をそのまま引き受けることになります(「そのまま」という点を指して、「包括承継」と呼ばれます。)。こうした「死」によって生じる権利変動を「相続」と呼びます。 相続は、人の「死」によって発生します。「相続人」という法が定める相続資格者が相続を原因として被相続人の財産(権利・義務)を取得するのですが、誰が相続人の地位に就けるかは、法が細かく規定を置いています(配偶者は常に相続人となりますが、①子・②直系尊属・③兄弟姉妹は、①~③の順で優劣が付けられており、劣後者は優先者不存在のときでなければ相続人となれません。)。また、相続人は必ずしも1人ではないため、人数と性質(配偶者なのか、子なのか、直系尊属なのか、兄弟姉妹なのか)によって遺産の取得割合(相続分)が変わります。 以上のとおり、人が亡くなった場合、その死者の遺産の分配を決めるため、まずは戸籍を集めて相続人が誰なのかを確定し、その後に、各法定相続人の相続分を確認することとなります。次に、この法定相続人の間で死者(被相続人)の遺産をどうやって分割するかを話し合わなければなりません。これが「遺産分割協議」という手続です。遺産分割協議は、必ずしも裁判所等の機関を通じる必要はなく、私的に行えば有効となります。 ただし、私的な話合いでは話がまとまらず物事が決まらないこともよくあります。そうしたケースでは、家庭裁判所に対して遺産分割調停や遺産分割審判を申立て、問題解決のために裁判所の力を借りることができます。 遺産分割協議を経なければ、具体的にどの財産を誰が相続するかが確定しないため、預金を銀行から引き出すことや、法務局で不動産の移転登記を行うことができません。遺産分割協議を行わず、物事をほったらかしにしていると、預金が凍結されたままとなり、古い不動産登記が残ったままとなりますが、そうこうしているうちに、相続人が一人また一人と亡くなり、相続の連鎖によって関係者が複雑多数化し、問題の解決が困難となりがちです。 ある程度の財産をお持ちの方がお亡くなりになった際は、放置せずに速やかに必要な調査や分割協議を進める必要があるのです。

2019.04.28

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相続法改正のご紹介

相続法改正のご紹介

昨年よりニュースや新聞等で耳にしたことがある方も多いかもしれませんが、相続分野に関する法律が一部改正され、2019年7月1日から本格的に運用がスタートします。相続分野に関する法律は昭和55年以来大きな改正がありませんでしたが、近年の著しい高齢化に伴い、様々な不都合が生じてきていたことから、この度の大規模改正となりました。以下、改正点の内、特に大きな目玉となっている点について簡単にご紹介させていただきます。 1. 配偶者居住権について 例えば、相続人が配偶者(妻)とお子様3名のケースで、遺産が不動産のみで現預金が殆ど無かった場合、従前は、妻が自宅を取得する為には、自宅評価額の内、自身の法定相続分を越える分に相当する額をお子様に対して「代償金」として支払う必要がありました。 もちろん、配偶者とお子様の関係が良好な場合であれば、お子様が「自分たちは何もいらないから、家はお母さんがもらって良いよ。」という話になるのでしょうが、必ずしもそのような微笑ましいケースだけではありません。特に、妻がいわゆる後妻で、お子様が前妻との間の子である場合はなおさらです。 妻が手持ちの現預金等から代償金を捻出できれば良いのですが、そうでない場合はやむを得ず自宅を売却し、金銭分割するなどの方法で対応せざるを得ず、結果的に自宅を失うという結果になりかねません。 そのような事態を可能な限り避けるべく、今回の改正では、一定の要件を満たした際に配偶者がそのまま当該自宅に住み続けることができる「配偶者居住権」という権利が新設されました。 2. 自筆証書遺言について これまで、自筆証書遺言を作成するにあたっては、財産目録も含めてその全てを自署する必要がありました。もっとも、財産が多岐にわたる場合、作成の負担が大きくなりかねません。何より、これだけパソコン・ワープロが普及した中で、全てを自署させること自体がナンセンスです。そこで、今回の改正では、財産目録に限り自署でなくても良いことになりました(ただし、各頁に署名押印は必要です)。 3. 相続人以外の親族の貢献に関する金銭請求権(特別の寄与) 従前より、介護等で特に被相続人に貢献した者に対しては「寄与分」として考慮がなされていました。もっとも、この制度はあくまで「相続人」が直接貢献した場合を想定しており、例えば長男の妻が介護に熱心に取り組んでいた場合等は考慮されにくいという不都合がありました。そのような不都合を踏まえ、今回の改正では、相続人以外の親族が介護等の「特別の寄与」をしていた場合、相続人に対して直接金銭請求権が認められる場合があることとなりました。

2019.02.25

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成年後見等の終了について

成年後見コラム(9)成年後見等の終了について

1. はじめに 今月号では成年後見等の終了についてご説明させていただきます。なお、今月号で成年後見コラムは最終回となります。 2. 成年後見等の終了事由について 成年後見が終了する事由は、大別すると、成年後見それ自体が終了する場合(これを「絶対的終了」といいます)と、成年後見自体は終了しないものの、当該後見人との関係では成年後見の法律関係が終了する場合(「相対的終了」といいます)とに分けられます。 ここで、絶対的終了事由としては、①本人の死亡、②後見等開始審判の取消しがあります。そして、絶対的終了の場合は、後見自体が終了するので、その後の手続きとして、管理財産の計算、終了登記、終了報告が必要となります。 一方、相対的終了としては、①後見人等の死亡、②選任審判の取消し、③辞任(民法844条)、④解任(民法846条)、⑤資格喪失(民法847条)があります。そして、相対的終了の場合は、まだ被後見人本人のために後見が継続するので、新たな後見人の選任が必要になり、新たな後見人が手続きを行うことになります。 なお、保佐や補助の終了についても、平成11年改正法により、成年後見の終了事由が準用されることになったので成年後見の場合と同様です(民法876条の2第2項、876条の5第2項・3項、876条の7第2項、876条の10第2項)。 3. 開始審判の取消しについて 絶対的終了事由の②後見等開始審判の取消しとは何かについてご説明すると、後見等開始審判の取消しとは、後見等開始の原因が消滅したとき、すなわち、本人の判断能力がそれぞれ成年後見、保佐、補助の制度による保護を要しない状態に回復した場合に、開始審判を取り消すことを指します。これは、成年後見等の制度による保護を要しない状態まで回復した場合には、わざわざ後見等を維持しておく必要がないためです。 4. 資格の喪失について 相対的終了事由の⑤資格喪失とはいかなる場合かについてご説明いたします。 後見人等は、被後見人等の身上に配慮し、財産を管理する義務を負うものです。そのため、後見人等は適正に職務を行うことが期待できる者である必要があります。そこで、このような適格がない者をあらかじめ除外しておくために、欠格事由が定められています。 欠格事由としては、(1)未成年者、(2)成年後見人等を解任された人、(3)破産者で復権していない人、(4)本人に対して訴訟をしたことがある人とその配偶者又は親子、(5)行方不明である人(民法847条、876の2条第2項、876条の7第2項)があります。 そして、後見人等になった後に欠格事由が生じた場合でも、当然にその人は後見人等の地位を失います。したがって、裁判所は後見人等を選任することになり、その結果新たな後見人等が引き継ぐことになります。

2017.11.25

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成年後見人(保佐人、補助人)の 職務について

成年後見コラム(8)成年後見人(保佐人、補助人)の 職務について

1. はじめに 今月号では成年後見人(保佐人、補助人)の職務についてご説明させていただきます。 2. 職務の始まり 成年後見人に選任された場合(保佐人、補助人に選任されてかつ財産管理に関する代理権のある場合)には、まず財産目録を作成して家庭裁判所に提出するとともに、年間の収支予定を立てなければなりません。 特に後見人は、この財産目録の作成が終わるまでは、急迫の必要がある行為しか出来ないことが法律で定められていますので、注意が必要です(民法第854条)。 3. 成年後見人、保佐人、補助人に共通すること 成年後見人等は、本人を法的に保護しなければなりません。具体的には、本人の利益に反して本人の財産を処分(売却や贈与等)してはいけません。したがって、成年後見人等、本人とその配偶者や子、孫、親族が経営する会社等に対する贈与や貸し付け等も原則としては認められない事になります。 本人の財産から支出できる主なものは、本人自身の生活費の他に、本人の債務の弁済金、成年後見人等がその職務を遂行するために必要な経費、本人が扶養義務を負っている配偶者や未成年の子等の生活費等です。それ以外のものについては、支出の必要性、相当性につきより一層慎重な判断が課されることになります。 また、成年後見人等に不正な行為、著しい不行跡その他後見の任務に適さない事由があるときには、家庭裁判所によって解任されることがあります。更に、これとは別に、不正な行為によって本人に損害を与えた場合には、その損害を賠償しなければなりませんし、悪質な場合には、業務上横領罪(刑法第253条)等の刑事責任を問われることになります。 4. 成年後見人の主な職務について 成年後見人は、本人の財産の全般的な管理権とともに代理権を有します。すなわち、成年後見人は、本人の意思を尊重し、かつ、本人の心身の状態や生活状況に配慮しながら(身上配慮義務)、財産を適正に管理し(財産管理義務)、必要な代理行為を行う必要があります。そして、それらの内容がわかるように記録しておくとともに、定期的に家庭裁判所に報告しなければなりません(報告義務)。 具体的には、本人の財産が他人のものと混ざらないようにする、通帳や証書類を保管する、収支計画を立てる等の財産管理をするとともに、本人に代わって預金に関する取引、治療や介護に関する契約の締結等、必要な法律行為を行います。 5. 保佐人の主な職務について 保佐人の主な職務は、本人の意思を尊重し、かつ、本人の心身の状態や生活状況に配慮しながら(身上配慮義務)、本人に対し適切に同意を与えたり、本人に不利益な行為を取り消すことです。特定の行為について、代理権を行使する場合もあります。そして、これらの内容について定期的に家庭裁判所に報告しなければなりません(報告義務)。 6. 補助人の主な職務について 補助人の主な職務は、本人の意思を尊重し、かつ、本人の心身の状態や生活状況に配慮しながら(身上配慮義務)、本人に対し適切に同意を与え、本人の行為の取消権又は代理権を行使することです。また、それらの内容について定期的に家庭裁判所に報告しなければなりません(報告義務)。そして、代理権付与の申立てが認められれば、認められた範囲内で代理権を有し、これに対応した限度で本人の財産の管理権を有することになります(財産管理義務)。

2017.10.25

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申立後の手続の流れについて

成年後見コラム(7)申立後の手続の流れについて

1. はじめに 今月号では申立後の手続の流れについてご説明させていただきます。 2. 面接 申立に特に問題がなければ、基本的に申立人及び後見人等候補者は、詳しい事情を裁判所に対して説明するために裁判所において面接を受けることになります。具体的には、申立人は申立時に提出した「申立事情説明書」に基づいて、申立に至る事情や本人の生活状況、判断能力及び財産状況、本人の親族らの意向等について聞かれます。 他方、成年後見人等候補者は、申立時に提出した「後見人等候補者事情説明書」に基づいて、欠格事由の有無やその適格性に関する事情について聞かれます。 なお、もし裁判所がより確認をする必要があると判断した場合には、後日改めて裁判所に行くことになるか、資料の追加提出をすることになります。 3. 本人調査 成年後見制度では、本人の意思を尊重するために、申立の内容等について本人から意見を直接聞くことがあります。これを本人調査といいます。 本人調査は、本人が直接家庭裁判所に行くか、本人が入院していたり体調が良くない等により家庭裁判所に行くことが難しい場合には家庭裁判所の担当者が入院先等に直接来て調査をされます。なお、補助開始の場合や、保佐開始で代理権を付ける場合には、本人の同意が必要になるため、本人調査の手続の中で同意確認も行われます。 4. 親族への意向照会 本人の親族に対して、書面等により、申立の概要や成年後見人等候補者に関する意向を照会されることがあります。 5. 鑑定 鑑定とは、本人に判断能力がどの程度あるかを医学的に判定するための手続です。申立時に提出する診断書とは別に、家庭裁判所が医師に鑑定依頼をする形で行われます。ただし、親族からの情報や診断書の内容等を総合的に考慮して本人の判断能力を判断できる場合は、鑑定が省略されることもあります。 鑑定を行う場合は、通常、本人の病状や実情をよく把握している主治医に鑑定をお願いすることが多いです。もっとも、事案によっては、主治医に鑑定をお願いすることが出来ない場合や鑑定を引き受けてもらえない場合もあります。そのような場合には、主治医から他の医師を紹介してもらう等して、鑑定をお願いすることができる医師を探さなければなりません。 鑑定費用は、鑑定人の意向や鑑定のために要した労力等を踏まえて決められます。具体的には、主治医に鑑定を依頼する場合であれば、通常、診断書付票に記載されている金額になります。 なお、あらかじめ鑑定費用を納付しない限り鑑定は行われないので、裁判所の定めた納付期限内に納付をしてください。 6. 審理・審判 鑑定や調査が終了した後、家庭裁判所により、後見等の開始の審判が行われて、併せて最も適任と思われる人が成年後見人等に選任されます。複数の後見人等が選任されることもありますし、監督人が選任されることもあります。 また、保佐開始や補助開始の場合には、必要な同意(取消)権や代理権についても定められることになります。

2017.09.25

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申立ての仕方について

成年後見コラム(6)申立ての仕方について

1.はじめに 今月号では申立ての仕方についてご説明させていただきます。 2.申立てをする裁判所について 成年後見等の申立ては、本人の住所地(住民登録をしている場所)を管轄する家庭裁判所において行います。 例えば、鹿児島市に住民登録をしているAさんの成年後見申立てをしようとする場合には、鹿児島家庭裁判所において行うことになり、出水市に住民登録をしているBさんの成年後見申立てをしようとする場合には、鹿児島家庭裁判所川内支部において行うことになります。 3.申立てができる人について 成年後見等の申立てができる人は、本人、配偶者、4親等内の親族、成年後見人等、任意後見人、成年後見監督人等、市区町村長、検察官です。 ここで、「4親等内の親族」とはどこまでの範囲かあまりピンとこない方もいらっしゃるかと思いますので、説明させていただきますと、子・孫・曾孫・曾孫の子・親・祖父母・曾祖父母・曾祖父母の父母・兄弟姉妹・おじ・おば・甥・姪・いとこ・配偶者の親・配偶者の祖父母・配偶者の曾祖父母・配偶者の子・配偶者の孫・配偶者の曾孫・配偶者の兄弟姉妹・配偶者の甥姪・配偶者のおじ・おば等となります。 4.申立てに必要な書類について 申立てに必要な書類については、裁判所のホームページをご覧になっていただければと思いますが、ここで簡単に説明させていただきますと、①申立書、②申立事情説明書、③親族関係図、④本人の財産目録及びその資料(不動産登記簿謄本(全部事項証明書)、預貯金通帳のコピー等)、⑤本人の収支状況報告書及びその資料、⑥後見人等候補者事情説明書、⑦親族の同意書、⑧本人及び後見人等候補者の戸籍謄本、⑨本人及び後見人等候補者の住民票(世帯全部、省略のないもの)、⑩本人の登記されていないことの証明書、⑪診断書、診断書付票、⑫愛の手帳の写しになります。 5.申立ての取下げについて 申立てをした後になって、申立ての取下げをしようとしても簡単に取下げが認められる訳ではないので、注意が必要です。 申立ての取下げをするには家庭裁判所の許可が必要になります。これは、公益性の見地からも本人保護の見地からも、後見等開始の審判をすべきであるにもかかわらず申立ての取下げにより事件が終了してしまうことが相当ではない場合があるからです。 例えば、Cさんが自身が後見人に選任されるつもりで申立てをしたはいいものの、自分が選任されないと判明した途端、それを不満として申立てを取下げる場合は、家庭裁判所から取下げの許可がされない可能性が高いと考えられます。 6.まとめ 以上のとおり、成年後見等の申立ては多くの書類の準備等が必要になりますので、お一人で申立てや手続きを進めていくことに不安を感じる場合には、ぜひ弊所にご相談してください。

2017.08.25

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「任意後見」とは

成年後見コラム(5)「任意後見」とは

1.はじめに 今月号では任意後見制度についてご説明させていただきます。 2.任意後見制度とは 任意後見制度とは、本人が契約締結に必要な判断能力を有している時点で、将来の判断能力低下後の保護のあり方と保護をする者(任意後見人)を、本人自らが事前の任意の契約によって決めておく制度のことをいいます(任意後見契約に関する法律第2条第1号)。 すなわち、まず、本人の判断能力が低下する前に、本人と任意後見人にする予定の人とが任意後見契約を締結します。ここでいう「任意後見契約」とは、本人が、精神上の障害(認知症・知的障害・精神障害等)により判断能力が不十分な状況になったときに、自己の生活、療養看護及び財産の管理に関する事務の全部または一部の代理権を任意後見人に付与する委任契約です。 そして、本人の判断能力が不十分になった後、本人、配偶者、四親等内の親族または任意後見受任者の請求により、家庭裁判所が任意後見監督人を選任し、その時から「任意後見契約」の効力が生じることになります。 なお、任意後見契約は、公証人の作成する公正証書により締結しなければなりません(任意後見3条)。これは、公証人が関与することによって適法かつ有効な契約が締結されることを担保するためです。任意後見契約の公正証書が作成されると、公証人が法務局へ登記を嘱託し、任意後見契約の登記がなされます。そのため、本人や任意後見受任者等関係者が登記の手続きをする必要はありません。 3.援助者(任意後見人)の権限について 任意後見人は、同意権・取消権はなく、任意後見契約に基づく代理権のみが付与されます。 4.任意後見監督人の職務等 任意後見監督人は、その名前のとおり、①任意後見人の事務を監督します(任意後見7条1項1号)。 その上で、②任意後見監督人は、任意後見人に対し事務の報告を求め、または任意後見人の事務もしくは本人の財産の状況を調査して(任意後見7条2項)、家庭裁判所に対して定期的に報告しなければなりません(任意後見7条1項2号)。他にも、任意後見監督人には、③急迫の事情がある場合に、任意後見人の代理権の範囲内において必要な処分をすること(任意後見7条1項3号)や、④任意後見人またはその代表する者と本人との利益が相反する行為について本人を代表すること等の職務があります(任意後見7条1項4号)。 5.任意後見契約の解除について (1)任意後見監督人選任前の場合 本人または任意後見人受任者は、いつでも、公証人の認証(公証58条以下)を受けた書面により、任意後見契約を解除することができます(任意後見9条1項)。必ずしも公正証書による必要はないものの、当事者の真意による解除であることを担保する趣旨で、公証人の関与が必要とされています。 (2)任意後見監督人選任後の場合 本人または任意後見人は、正当な事由がある場合に限り、家庭裁判所の許可を得て、任意後見契約を解除することができます(任意後見9条2項)。このように家庭裁判所の関与を必要としたのは、本人の保護を図るためです。

2017.07.25

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「補助」とは

成年後見コラム(4)「補助」とは

1.はじめに 今月号では法定後見の3類型のうちの「補助」について詳細にご説明させていただきます。 2.保佐とは 補助とは、正確に申し上げるならば、①精神上の障害により②事理を弁識する能力が不十分である者を対象とする制度のことをいいます(民法第15条)。 先月号でご説明させていただいた保佐制度が、①精神上の障害により②事理を弁識する能力が著しく不十分である者を対象とする制度であることと比較すると、保佐制度よりも判断能力が認められる者を対象としていることがわかっていただけるかと思います。 補助の制度は、成年後見制度ができる以前は保護の対象とされていなかった軽度の認知症・知的障害・精神障害等の状態にある者を対象としたものであり、本人が一人で重要な財産行為を適切に行えるか不安があり、本人の利益のためには誰かに代わってもらったほうが良いと思われる人を対象にしています。 3.援助者(補助人)の権限について 援助者(補助人)は、本人が望む一定の事項についてのみ(同意権や取消権は民法第13条1項記載の行為の一部に限る)、保佐人と同様に同意や取り消しや代理をして、本人を援助します。 ここで、注意していただきたいこととしては、二点あります。 まず、一点目は、補助開始の場合には、その申立てと一緒に、必ず同意権や代理権を補助人に与える申立てをしなければならないことです。 次に、二点目は、補助開始の審判をすることにも、補助人に同意権又は代理権を与えることにも、本人の同意が必要ということです。 4.まとめ 今までご説明させていただいた法定後見の3類型(後見、保佐、補助)を開始する審判手続の違いや成年後見人、保佐人、補助人に与えられる権限の違いをまとめると、以下のとおりとなります。 対象となる人(本人) 後見 判断能力が全くない人 保佐 判断能力が著しく不十分な人 補助 判断能力が不十分な人 申立てができる人(申立人) 後見 保佐 補助 本人、配偶者、親や子や孫等直系の親族、兄弟姉妹、おじ、おば、甥、姪、いとこ、配偶者の親・子・兄弟姉妹等 申立てについての本人の同意 後見 不要 保佐 不要 補助 必要 医師による鑑定 後見 原則として必要 保佐 原則として必要 補助 原則として不要 成年後見人等が同意又は取り消すことができる行為 後見 日常の買い物等の生活に関する行為以外の行為 保佐 重要な財産関係の権利を得喪する行為等 *1 補助 申立ての範囲内で裁判所が定める行為 *2 *3 成年後見人等に与えられる代理権 後見 財産に関する全ての法律行為 保佐 申立ての範囲内で裁判所が定める特定の行為 *3 補助 申立ての範囲内で裁判所が定める特定の行為 *3 民法第13条1項記載の行為 民法第13条1項記載の行為の一部に限る 本人の同意が必要

2017.06.25

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「保佐」とは

成年後見コラム(3)「保佐」とは

1.はじめに 今月号では法定後見の3類型のうちの「保佐」について詳細にご説明させていただきます。 2.保佐とは 保佐とは、正確に申し上げるならば、①精神上の障害により②事理を弁識する能力が著しく不十分である者を対象とする制度のことをいいます(民法第11条)。 3月号でご説明させていただいた後見制度が、①精神上の障害により②事理を弁識する能力を欠く③常況にある者を対象とする制度であることと比較すると、後見制度よりも判断能力が認められる者を対象としていることがわかっていただけるかと思います。 では、保佐制度で対象となる人はどの程度の判断能力を有しているのかというと、「日常の買い物くらいはできるが、民法13条1項に列挙されているような法律行為(例:訴訟行為をすること、借財又は保証をすること、贈与、和解又は仲裁合意をすること等)を単独ではできない」程度になります。 したがって、保佐の制度では、基本的に保佐を受ける人(被保佐人)は自ら法律行為を行いますが、本人保護の観点から、民法13条1項で列挙された法律行為については、援助者(保佐人)が保佐する、ということになります。 3.援助者(保佐人)の権限について 援助者(保佐人)には、民法13条1項に列挙されている法律行為について同意権(同意なき行為についての取消権・追認権)及び代理権が付与されています(民法13条、120条、876条の4)。 ここで、注意していただきたい点が、二点あります。 まず、一点目は、援助者(保佐人)は、民法13条1項に列挙されている法律行為以外の行為についても、保佐人の同意を必要とするものがある場合には、一定の要件を満たした者からの家庭裁判所への申立てにより、同意権の範囲を拡張することができるということです(民法13条2項、11条)。 次に、二点目は、援助者(保佐人)には代理権が当然には付与されていないということです。援助者(保佐人)が保佐を受ける人(被保佐人)に代わって代理で法律行為をしようと思った場合には、家庭裁判所において代理で行いたい法律行為について代理権を付与される手続きを行う必要があります。これは、保佐を受ける人(被保佐人)の意思を尊重して、なるべく自分でできることは自分でしてもらうという自己決定権尊重の観点と、代理権は本人に代わって法律行為ができるものであり、本人の利害に大きな影響力をもつため、権限濫用されて本人が不利益を被らないようにという本人保護の観点から、このような定めになっています。 4.まとめ 以上のように、保佐を受ける人(被保佐人)は、後見を受ける人(被後見人)よりも判断能力が認められることから、保佐を受ける人(被保佐人)自らが法律行為を行う場面が多くなります。 そのため、保佐人になる人は、後見の場合以上に保佐を受ける人(被保佐人)との意思疎通を十分に行い、保佐を受ける人(被保佐人)の状況の変化に対応し、適宜保佐の範囲を拡張しつつ、保佐を受ける人(被保佐人)の意思を尊重しながら保佐事務を行う配慮が求められることになります。

2017.05.25

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「後見」とは

成年後見コラム(2)「後見」とは

1.はじめに 先月号のコラムにて、法定後見はさらに判断能力の不十分の程度によって、後見、保佐及び補助の3類型に分類されるとご説明させていただきましたが、今月号ではこの3類型のうちの「後見」について詳細にご説明させていただきます。 2.後見とは 後見とは、正確に申し上げるならば、①精神上の障害により②事理を弁識する能力を欠く③常況にある者を対象とする制度のことをいいます(民法第7条)。 堅苦しい言葉の羅列で、わかりにくいと思いますので、一つ一つの言葉を簡単に説明させていただきますと、まず①「精神上の障害」とは、身体上の障害を除いた全ての精神的障害を意味します。具体的には、認知症、知的障害、精神障害、疾病・事故等による脳機能障害を原因とする精神的障害等を指します。次に、②「事理を弁識する能力」とは、法律行為(例えば物の売買や、住居の賃貸借等)をするに際して、自分にとって利益になるか不利益になるかを判断する能力をいいます。さらに、③「常況」とは、一時的に事理を弁識する能力を回復することはあっても、大部分の時間はその能力を欠いている状態が継続していることをいいます。 すなわち、後見制度は、精神障害により、法律行為をする際に自分にとって有利か不利かを判断する能力がほぼ常に欠けている人を対象とする制度、ということになります。 3.後見制度を使うためには ご家族の方で、精神障害により、法律行為をする際に自分にとって有利か不利かを判断する能力がほぼ常に欠けていると思われる人がいて後見制度を使いたい場合には、そのご家族につき後見開始の審判の申立てを裁判所に行うことになります。そして、裁判所が、後見にあたると判断して初めてそのご家族は「成年被後見人」、すなわち後見制度の対象者になることができることになります。 ここで、後見にあたるかどうかの判断はどのようにされるのか疑問に思われたかと思いますが、後見にあたるかどうかは、明らかな場合を除き、基本的には鑑定、すなわち裁判所の命令によって鑑定人という専門家が医学的に判定する手続によって判断されることになります(家事事件手続法第119条1項)。 4.援助者(成年後見人)について ご家族の方が後見制度の対象者である「成年被後見人」にあたることになった場合には、裁判所がその成年被後見人のために「成年後見人」、すなわち成年被後見人の援助者を選任します(民法第8条、第843条)。 この選任は、成年被後見人の心身の状態並びに成年被後見人との利害関係の有無、成年被後見人の意見その他諸々の事情を考慮してなされますが、現在では、法人を選任することも複数人を選任することも可能になりました(民法第843条4項)。 5.援助者(成年後見人)の権限について 成年後見人は、包括的な代理権及びこれに対応する財産管理権と、日常生活に必要な範囲の行為以外の法律行為に関する取消権が付与されています(民法第120条1項)。 すなわち、成年後見人には、遺言や婚姻等の一身専属的な行為(本人が行わなければ意味がないもの)以外の本人の財産に関する法律行為について成年被後見人に代わって行う権利と、成年被後見人の日常生活に必要な範囲以外の行為を後から取り消す権利が認められており、非常に重要な権限を付与されることになります。

2017.03.25

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成年後見制度の概要

成年後見コラム(1)成年後見制度の概要

1.はじめに 今月号より、最近話題になっている成年後見の分野について、連載で執筆させていただきます。成年後見は誰にとっても自分の問題になり得るものですので、少しでも皆様に関心を持っていただいて、また理解の一助となることができればと考えております。 今回は初回ですので、成年後見がどういった制度なのか、制度の変遷と制度の大枠についてご説明させていただきます。 2.成年後見制度の変遷 今までの民法では、成年後見制度に該当するものとして、「禁治産・準禁治産制度」がありました。この禁治産・準禁治産制度は、判断能力が不十分な人の個々の状況に合わせることが難しいばかりか、戸籍に記載されること、手続きに時間や費用がかかる等の問題点が指摘され、近年はあまり利用されることはありませんでした。 しかし、高齢化社会になっていく中で、判断能力が不十分になった高齢者の財産を悪徳商法や他の犯罪行為から守ることや、介護保険制度をはじめとする福祉サービスが措置から契約に基づく利用へと移行し、契約に必要な判断能力に欠ける人への支援が必要になったこと、障害者福祉の充実といった観点等から、実情に即した利用しやすい制度が必要になりました。そこで、2000(平成12)年4月から現在の成年後見制度が施行されることになりました。 3.成年後見制度とは そもそも、成年後見制度は、精神上の障害により判断能力が不十分な成年者を保護するための制度です。そして、現在の成年後見制度は、これまでの「禁治産・準禁治産制度」と比較して、後述するように補助類型や任意後見制度が新設されたことにより、より判断能力の不十分な人の個々の状況に合わせることができるようになり、また戸籍への記載が廃止され、登記制度が導入されたことが大きな特色です。 ここで、成年後見制度は、大きく分けて法定後見と任意後見に分類されます。 まず、法定後見は、申立権者が家庭裁判所に後見等開始の審判の申立てをして、家庭裁判所が適任者を選任する形で行われます。そして、法定後見はさらに判断能力の不十分の程度によって、後見、保佐及び補助の3類型に分類されます(詳しくは次回ご説明させていただきます)。 一方の任意後見は、本人と任意後見受任者との間であらかじめ決めた任意後見契約の内容に従って、任意後見契約発効後に任意後見人が本人の財産管理を行う制度です。 4.任意後見と法定後見の関係 任意後見と法定後見はどのような関係にあるのか疑問に思われたかと思いますが、基本的には、任意後見契約が登記されている場合には、本人の意思を尊重するということで、任意後見が法定後見に優先します。ただし、例外的に、家庭裁判所が本人の利益のために特に必要があると認めた場合には、法定後見開始が任意後見に優先することになります。 要は、よっぽどのことがない限りは、本人の意思を尊重しようということで、任意後見制度が優先されると理解していただければと存じます。

2017.02.25

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預貯金は遺産分割の対象となるのか

遺産分割の諸問題(8)預貯金は遺産分割の対象となるのか

さて、今回は番外編です。2014年12月号の家事コラム「遺産分割と遺言」~事前の準備が大切です~の回で、「預貯金等の金銭債権は、遺産分割協議を待つまでもなく、相続開始とともに当然分割され、各相続人に法廷相続分に応じて帰属するとされており(判例)、遺産分割の対象財産とはなりません」と記載させていただいたことを覚えていますか。 全国ニュースや新聞(全国紙)でも取り扱われていた為、ご存知の方もいらっしゃるかもしれませんが、この度、上述の判例(以下「旧判例」といいます)が最高裁判所において変更されました(最高裁判所平成28年12月19日大法廷決定、以下「新判例」といいます)。 新判例は以下のように述べています。 「遺産分割の仕組みは、被相続人の権利義務の承継に当たり共同相続人間の実質的公平を図ることを旨とするものであることから、一般的には、遺産分割においては被相続人の財産をできる限り幅広く対象とすることが望ましく、また、遺産分割手続を行う実務上の観点からは、現金のように評価の不確定要素が少なく、具体的な遺産分割の方法を定めるにあたっての調整に資する財産を遺産分割の対象とすることに対する要請も広く存在する」。そして、「預貯金は、預金者においても、確実かつ簡易に換価することができるという点で現金との差をそれほど意識させない財産である」。このような「各種預貯金債権の内容及び性質をみると、共同相続された普通預金債権、通常貯金債権及び定期貯金債権は、いずれも、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることなく、遺産分割の対象となるものと解するのが相当である」。 そもそも、旧判例による「預貯金が遺産分割の対象とならない」という取り扱いの方が、一般の方には理解し難いところだったのではないでしょうか。多くの方の場合、不動産を除けば預貯金が相続財産の多くを占めることとなり、預貯金を遺産分割の対象としないのであれば、一体何を分割すれば良いのかということになりがちです。通常は、相続人全員が、預貯金を遺産分割の対象とすることに同意の上、相続人間の調整をしていくのですが、稀に同意が得られない場合、預貯金を遺産分割の対象から外し、その余の遺産についてのみ分割協議をしていくこととなります。 特に旧判例では、共同相続人の1人が、被相続人から生前に多額の生前贈与を受け取っていたとしても、同相続人が預貯金を遺産分割の対象とすることに同意しなければ、法定相続分に応じた預貯金を当然に取得することができます。その結果、他の相続人からすると、著しく不公平な状況になるのみならず、同じ被相続人の財産でありながら、預貯金とそれ以外の遺産で取り扱いや手続が異なることとなり、過大な負担を強いられることとなります。 この点、新判例によれば、そのような状況下でも、当然に預貯金が遺産分割の対象となる為、上述の事例でも、場合によっては生前に多額の贈与を受け取っていた相続人は、預貯金を一切受け取れないといった処理も柔軟に取られることとなります。 以上のとおり、新判例は今後の遺産分割実務の進め方を大きく変えていくことになる画期的なものとなっております。遺産分割を有利に進めていく為には、このような変わりゆく判例の情報を常に仕入れ、アップデートしていくことが不可欠です。 預貯金の遺産分割でお悩みの方は、最新の判例事情にも明るい当事務所に一度ご相談ください。

2017.01.25

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実際の遺産分割協議の進め方②

遺産分割の諸問題(7)実際の遺産分割協議の進め方②

さて、前回から実際の遺産分割協議の進め方についてお話させていただいております。前回は、裁判所を利用せずに当事者同士、又は弁護士を通じて遺産分割協議を行っていく方法についてお話させていただきました。 一般的に裁判所に申立てをすることは心理的なハードルも高く、出来ることなら裁判所を利用せずに穏便に協議で話をまとめたいと考えられている方が殆どでしょう。もちろん、当事者が少なく、かつ、当事者がいずれも協力的である場合は協議でまとまる可能性も高く、比較的迅速に解決することもあります。 しかし、実際には協議で行う場合は、相続人の人数に関わらず、相続人全員が協議内容に合意し、遺産分割協議書に署名捺印をしなければ解決にいたりません。例えば、20人の相続人の内、19人が同意していたとしても、最後の1人が反対しているような場合は協議がまとまらないことになってしまいます。このような場合は、いたずらに時間が経過することとなり、時にはその間に相続人の誰かが亡くなることで更に相続人が増えていくといった事態も考えられます。 その為、相続人が多い場合や、相続人の一部が非協力的である場合などは、早々に遺産分割調停を申し立てることをお勧めします。遺産分割調停は、他の調停と同様、調停委員を通じて裁判所で行うお話合いです。しかし、お話合いが成立する見込みの無い場合は、それまでに提出された資料等に基づき、裁判所が「審判」という形で最終的な解決方法を提示されます。その為、調停を行ったにもかかわらず、何も決まらなかったという事態は殆ど生じません。多くの遺産分割に関わる問題は、このような遺産分割調停・審判の中で解決されていくことになります。 もっとも、何点か遺産分割調停・審判の中でも解決できない問題があるので注意が必要です。典型的なのは、使途不明金がある場合です。相続人の内の誰かが被相続人が亡くなる前後に預貯金等を引き出していた場合は、「不当利得返還請求訴訟」という形で通常の民事訴訟の中で解決を図らなければなりません。 また、遺言が作成されていた場合は、状況に応じていくつかの訴訟を使い分ける必要があります。認知症等によって意識が不明瞭な際に作られた遺言がある場合は「遺言無効確認訴訟」を、遺言無効を争うことは難しいが遺言で遺留分が侵害されている場合は「遺留分減殺請求訴訟」を提起しなければいけません。その他、遺言で不動産の相続が共有となっている場合は「共有物分割訴訟」という訴訟を提起することになります。 以上のように、当事者間の協議のみによって遺産分割が解決しなかった場合、多種多様な手段を検討し、状況に応じて最も適切な手段を選んでいかなければなりません。その為、非常に高度な専門知識と経験が不可欠となります。 当事務所では常時多数の遺産分割案件を扱っており、多くのノウハウが蓄積されております。当事者間での遺産分割協議に限界を感じられた方は一度当事務所にご相談ください。

2016.11.25

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実際の遺産分割協議の進め方①

遺産分割の諸問題(6)実際の遺産分割協議の進め方①

さて、これまで複数回にわたり、「遺産分割の諸問題」と題して、遺産分割手続が問題となった際、特に頻繁に問題となる点について理論的な部分を説明させていただきました。しかし、実際に理論的な部分のみでは、いざ遺産分割の問題が発生したとしてもどのように進めて良いのか、どのぐらいの時間を要するのか等については全く分かりません。今回からは、実際の遺産分割手続の進め方について、当職が普段業務に当たっている中で感じていることや、実際の感覚についてお話させていただきます。 まず、相続が開始した際に最初にすべきことは、相続人を確定することです。実際にどなたが協議の当事者となるのかが明らかとならなければ、どなたと協議を進めれば良いかも分かりません。 例えば、親が亡くなり、相続人が子である兄弟のみという場合は比較的簡単に相続人がどなたか定まります。しかし、被相続人が再婚されていた場合や、養子縁組が為されていた場合、子ではなく兄弟姉妹や甥姪が相続人となってくる場合は、相続人が数十名に及ぶことや、行方不明者が多数でてくる場合も珍しくありません。そのような場合は、戸籍や住民票を一つずつ取り寄せながら、いわばパズルのように正確な相続関係図を作り上げていく必要があり、時には相続関係図を完成させるのに数か月程度要する場合もあります。 また、相続人の確定と並行して、分割の対象となる遺産の全体像を確定していく必要があります。もちろん、自分以外の相続人が管理しており、全く見当もつかないという場合もあります。それでも、金融資産については金融機関の取引履歴や保険証券を取り寄せ、不動産については名寄帳(所有不動産の一覧が記載されたもの)を取得し、その上で登記を取得することなどによって少しずつ遺産の全体像を特定していくことになります。遺産に漏れがあると、せっかく苦労して遺産分割協議が成立したとしても、新しい遺産が発覚した際に再び大変な協議を繰り返さなければいけない場合もあるので要注意です。 相続人と遺産の範囲が確定すれば、後はその分割方法について協議を開始していくことになります。当事者間の話合いで協議がまとまるのが一番ですが、当事者同士の場合、どうしても感情的な対立が激しく、協議が思うように進まないこともあります。そのような場合は早い段階で弁護士を介入させることで、冷静に遺産分割を進めていけるような状況を作っていくことが不可欠です。 協議を開始すると、一方が遺産に含まれると思っていたものに対して、他方が遺産には含まれないと反論してくる場合があります。また、既に当コラムでも取り上げた特別受益や寄与分についても各当事者から主張されることになるでしょう。弁護士は、そのような各当事者の様々な主張を一つずつ取り上げながら、時に法的根拠や証拠に基づき、時には感情的な対立を解きほぐしながら譲り合える点を探り、落としどころを見つけ、最終的に遺産分割協議書に全当事者から署名捺印を取り付けていきます。 遺産分割協議は、関係人や協議すべき事項も多く、当事者間での解決が困難になる場合も多いです。遺産分割協議を始めたい方は、遺産分割協議を多数扱っている当事務所にご相談ください。

2016.09.25

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遺留分減殺請求とは

遺産分割の諸問題(5)遺留分減殺請求とは

さて、前回は遺言能力と遺言無効確認の訴えについてお話させていただきました。一部の相続人の意に反する遺言が存在する場合、当該遺言の無効を主張していくものです。しかし、実際には、遺言能力の欠如を裏付ける資料を揃えていく必要があり、裁判になった際には必ずしも容易なものではありません。 では、例えば法定相続人であるにもかかわらず、遺言で自分に対する相続財産が定められておらず、また、遺言能力の欠如を裏付ける資料もない場合、全てを諦めなければいけないのでしょうか。もちろん、そんなことはありません。民法によれば、相続人保護の見地から、「遺留分」という形で、たとえ遺言が存在した場合であっても、一定の持分的利益が認められています。 では、具体的にどなたがどのような割合で「遺留分」を権利として有しているのでしょうか。被相続人の配偶者、子、直系尊属が遺留分権利者であり、基本的には被相続人の財産の2分の1が遺留分割合と定められています(直系尊属のみが相続人である場合は3分の1)(民法1028条1号2号)。他方、被相続人の兄弟姉妹は遺留分権利者ではありません。 例えば、法定相続分が2分の1である配偶者の遺留分が遺言によって侵害されていた場合、同配偶者の遺留分は、相続財産全体の4分の1となります(1/2×1/2=1/4)。 遺留分減殺請求を行うにあたって何よりも気を付けなければいけないのは、同請求の行使期間が制限されていることです。民法には、遺留分権利者が、相続の開始及び減殺すべき贈与又は遺贈のあったことを「知った時から1年」(民法1042条前段)、又は「相続開始時から10年」(同条後段)で遺留分減殺請求権が消滅すると定められています。 その為、遺言の内容を認識したとき等、当該贈与や遺贈が減殺すべきものであることを知られた際は大至急、何らかの手段を取る必要があります。具体的には、内容証明郵便などで遺留分減殺請求権を正式に行使したり、訴訟を提起したりする必要があります。厳密にはどのような形でも遺留分減殺請求権を行使すれば良いのですが、後々、遺留分減殺請求権を期限内に行使したかどうかで争いにならないようにする為には上記2つの方法がベストです。 遺留分減殺請求の協議または調停・訴訟等の法的手続が始まれば、後は具体的に遺留分をどのような形で支払うのか(不動産等の現物なのか、現金で支払うのか等)について話を詰めていくことになります。この時、被相続人が生前に他の相続人に贈与を行っていた場合は、贈与が為された時期や、贈与が為された際の被相続人の認識によってはこれらも遺留分算定の基礎に加算されていくことになります。他の相続人には繰り返し生前贈与が為されていた挙句、最後に遺言でもご自身の遺留分が侵害されることとなった場合、遺留分が具体的にどの程度になるのかは非常に難しい問題です。 いずれにせよ、遺留分は法律上、本コラムでご紹介できなかった多くの難しい点を含んでいます。のみならず、期間制限がある為、可能な限り早く動き始める必要があります。納得のいかない遺言の存在が明らかとなった際は、一度、当事務所にご相談ください。

2016.07.25

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遺言能力と遺言無効確認の訴え

遺産分割の諸問題(4)遺言能力と遺言無効確認の訴え

さて、前回までは、遺言が無い場合を前提とした一般的な遺産分割の過程で生じる諸問題についてお話させていただきました。しかし、実際はそのようなケースばかりではなく、遺産分割の協議を始めたところ、思わぬところから被相続人の作成した遺言が発見されるケースがあります。自分にとって有利な内容の遺言であればともかく、得てしてそのようなケースでは、自分の相続分が一切無いように定められた遺言であるケースが殆どです。今回は、そのようなケースで具体的にどのような手段を取ることができるのかについてご説明させていただきます。 まず、遺言の種類は大きく2つあります。遺言者が、遺言の内容の全文、日付、氏名をすべて自分で記載し署名の下に押印するだけでよい「自筆証書遺言」と、公証役場で公証人に作成してもらう「公正証書遺言」です(その他、秘密証書遺言や特別方式の遺言もありますが、殆どの遺言は自筆証書遺言と公正証書遺言の2つです)。 そもそも、遺言をする際には、遺言能力が必要とされています(民法963条)。そして、「遺言能力とは、遺言者が遺言事項の意味内容、当該遺言をすることの意義を理解して、遺言意思を形成する能力」(横浜地判平成22年1月14日)とされています。したがって、遺言能力が無い方が作成した遺言は無効となります。 そこで、遺言者が遺言能力を失っていたと思われる時期(例えば認知症が相当程度進んでいた時期等)に遺言が作成されていた場合、当該遺言は遺言能力を欠いた者によって為されており無効であるということを主張することができます。具体的には、裁判所(管轄は家庭裁判所のようにも思えますが、実際は地方裁判所に提起することになります)に対して「遺言無効確認の訴え」という手続を取ることになります。 裁判を有利に進める為には客観的証拠の存在が不可欠となります。遺言能力について争う場合は、カルテ、診療記録その他各種医療記録について揃えていくことが必要になります。あくまで裁判では、遺言の無効を主張する側がこれらの証拠を揃える必要がある為、非常に大きな負担を課されることになります。 特に、公正証書遺言の場合、公証役場という国の機関が作成したものである為、それが無効と認められる為には、「誰が見てもこの時期にこのような遺言を作るなんてできないだろう」と考えるような証拠が不可欠です。実際、いわゆる長谷川式簡易知能評価スケールだけでは足りないと判断されることも多く、より踏み込んだ内容の医師の所見等が必要となる場合も多いです。 このように、遺言無効確認訴訟は、いざ裁判となったときに慌てて証拠を揃えようとしても困難な場合が多く、その結果、裁判を有利に進めることが難しくなりがちです。したがって生前に認知症等の問題が生じた際は、あらかじめ成年後見人を選任することはもちろん、可能な限り係りつけのお医者さんともやり取りをするなど、早めの対策が不可欠となります。 いずれにせよ、遺言無効確認の訴えは、法律上多くの難しい点を含んでいます。当事務所は先日も相続人20人を超える複雑な遺言無効確認の事件を解決しており、豊富な経験と実績を備えております。ご親族が認知症に罹患している方、内容に納得のいかない遺言が出てきた方は、一度、当事務所にご相談ください。

2016.05.25

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不動産の評価と分割方法

遺産分割の諸問題(3)不動産の評価と分割方法

遺産分割の際に皆さんが一番苦労されるのが不動産です。現金や預貯金だけであれば、各相続人の相続分に応じて分割するのはそれ程難しいことではありませんが、不動産を単純に相続分に応じて分割することは容易ではありません。今回は、遺産分割において不動産が分割の対象となる際にしばしば問題になる点について解説をさせて頂きます。 まず、不動産を分割するにあたっては、当該不動産の金額をいくらと評価するかが問題となります。現金や預貯金と異なり、不動産は、評価する時期や方法によって金額が大きく異なる場合があります。 不動産の評価方法については、通常、当事者間において形成された合意に基づいて評価することが一般的です(なお、合意が形成されない場合は、最終的に裁判所を通じて正式に不動産鑑定を行います)。もっとも、不動産評価の資料には、①固定資産評価額、②相続税評価額(路線価方式、比準方式)、③公示地価、④基準値標準価格などがあり、必ずしも一つの資料に基づいて判断されるものではありません。各資料によって特徴が異なっており(例えば、一般的に固定資産評価額は公示地価の約7割、路線価は公示地価の約8割などと言われています)、当該当事者の立場や、当該不動産の状況に応じて、提出すべき資料については厳密に検討する必要があります。 以上の経緯を踏まえて不動産の評価額が定まったとしても、次に当該不動産をどのように分割するかが問題となります。遺産分割の方法には、①個々の物を各相続人に取得させる「現物分割」、②ある相続人にその相続分を超える遺産を現物で取得させ、代わりにその相続人に、相続分に満たない遺産しか取得しなかった相続人に対する債務を負担させる「代償分割」、③遺産を売却してその売却代金を分割する「換価分割」、④遺産の全部又は一部を、具体的相続分に応じた共有によって取得する「共有分割」の4種類があります。 不動産の場合、相続分に応じて①現物分割ができることは困難である為(相続人の取得する遺産の価額とその具体的相続分とで過不足が生じる為)、②代償分割の方法によることが多いです。もっとも、代償分割をするには、債務負担を命じられる相続人に資力のあることが要件となる為(大阪高決平成3年11月14日・家月44巻7号77頁)、資力に問題がある場合はこの方法を取ることが出来ません。その際は、③換価分割の方法(任意売却又は競売)によりますが、土地の状況(田畑、山林等)によっては売却が極めて困難なケースもございます。以上①乃至③の分割方法を検討した結果、それでも分割が困難な場合は、やむを得ず④共有分割の方法によりますが、同分割方法は、後に共有物分割の手続が行われたり、多重相続により持分権者が増加し、解決が困難になるというリスクがあります。 いずれにしても、不動産の分割においては、評価方法や分割方法の点で非常に専門的な判断を必要とします。後悔のない分割を行う為にも、不動産の分割を伴う遺産相続でお悩みの方は、遺産分割案件を多数取り扱っている当事務所にご相談ください。

2016.03.25

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生命保険金と遺産分割

遺産分割の諸問題(2)生命保険金と遺産分割

「相続対策に生命保険を利用しませんか?」というキャッチコピーを聞いたことがある方は多いのではないでしょうか。皆様の大切な財産を次世代に繋いでいく方法として生命保険を利用するケースが多数ございます。では、「生命保険金」が遺産分割の場面でどのような扱いをされているのかご存知でしょうか。今回は、「生命保険金と遺産分割」というテーマをご説明させて頂きます。 そもそも、「生命保険契約」とは、特定の人の生死を保険事故とし、その保険事故の発生した場合に、保険者が保険金受取人に対し、約定の一定金額を支払うことを約し、保険契約者がこれに対し保険料の支払をもって酬いる契約のことを言います。 一見すると、生命保険金も被相続人の財産のように感じられる為、当然に遺産分割の対象に含まれるように思えます。しかし、保険契約者が自己を被保険者(被相続人)とし、相続人中の特定の者を保険金受取人と指定した場合、指定された者は「固有の権利」として保険金請求権を取得するので、遺産分割の対象とはなりません。 その結果、「会社の後継者となる長男に株式を譲渡する際の買い取り資金を準備してあげたい」、「二男が障害を抱えているので、生活費として援助してあげたい」、「長女が自分の介護を担ってくれたので、その恩に報いたい」などといった被相続人のご意向を、柔軟に叶えることが出来るようになります。 もっとも、生命保険金は、上述のとおり、被相続人の財産を不平等に分配する形になる為、生命保険契約において受取人と指定された一部の相続人が生命保険金を受領した場合、これが「特別受益」(なお、特別受益については本紙22号コラム「遺産分割の諸問題①~特別受益と寄与分~」をご参照ください)となるかが問題となります。 結論から申し上げますと、最高裁判所は、原則として「保険金受取人とされた相続人が取得する死亡保険金請求権又はこれを行使して取得した死亡保険金は民法903条1項に規定する遺贈又は贈与に係る財産には当たらない(特別受益には当たらない)」という判断を示しています(最決平成16年10月29日・判例タイムズ173号199頁)。 ただし、上記判断において、最高裁判所は、同時に「保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生ずる不公平が民法903条の趣旨に照らし到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存する場合には、同条の類推適用により、当該死亡保険金請求権は特別受益に準じて持戻しの対象となる」と判断しており、一定の場合に特別受益に当たる場合があることを認めています。上記「特段の事情」の有無については、保険金の額、この額の遺産の総額に対する比率のほか、同居の有無、被相続人の介護等に対する貢献の度合いなどの保険金受取人である相続人及び他の共同相続人と被相続人との関係、各相続人の生活実態等の諸般の事情を総合考慮して判断されることになります。 いずれにしても、生命保険金と遺産分割の問題は法律上の専門的な問題が複雑に絡んできます。今後、相続対策として生命保険を検討される方は、遺産分割案件を多数取り扱っている当事務所にご相談ください。

2015.12.25

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特別受益と寄与

遺産分割の諸問題(1)特別受益と寄与

相続に際して遺言が存在しない場合、各相続人が法定相続分(民法900条)に応じて遺産を相続するのが原則です。しかし、各相続人が生前、被相続人から受けた利益の内容や程度(特別受益)、又は、被相続人に対して寄与した内容や程度(寄与分)によっては、相続の段階において相続分が修正される場合があります。 まず、「特別受益」は、共同相続人の中に、被相続人から遺贈を受けたり、生前に贈与を受けたりした者がいた場合に、相続に際して、当該不公平を調整する制度です(民法903条)。もっとも、生前に為された贈与が全て「特別受益」と判断されるわけではありません。あくまで当該贈与が「相続財産の前渡し」と評価されるか否かを基準として判断されることになります。なお、被相続人が事前に当該贈与を、相続に際して調整することが不要と考えている場合は、その旨を遺言その他の方法で明らかにしておけば、「特別受益」による修正をする必要が無くなる場合があります(持ち戻し免除の意思表示)。 次に、「寄与分」は、共同相続人の中に、被相続人の財産の維持又は増加に特別の寄与をした者がいた場合に、相続に際して、当該寄与度を調整する制度です(民法904条の2)。もっとも、相続人の寄与が全て考慮されるわけではなく、「通常期待される程度を超える貢献」をした場合に限られています。当該相続人が、被相続人に対し、医療費や施設入所費等の金銭等を出資していた場合は「寄与分」に該当すると判断されやすいですが、いわゆる療養介護の場合は、被相続人の状態や、介護の度合いによって大きく異なってきます。 「特別受益」と「寄与分」に関する典型的な事例として、相続人の一人(相続人A)が被相続人の介護を一身に担っている一方で、被相続人から使途不明金が度々流出している(おそらく相続人Aが引き出していると思われる状況)というケースがあります(以下「本事例」といいます)。他方の相続人(相続人B)は、「相続人Aは被相続人より多くの特別受益を既に得ている。」と主張しますが、相続人Aは「使途不明金ではなく、被相続人の療養看護費として使用されたものである。むしろ、自分は長期にわたって被相続人を介護していたのだから『寄与分』を貰えるはずだ。」と主張する場合が度々あります。 もっとも、本事例のような場合、使途不明金の部分が「特別受益」に該当すると評価されることは難しいことが多いです。前述のとおり、「特別受益」はあくまで「贈与」として為されたものである必要がありますが、本事例においては、被相続人が相続人Aに対して財産を「贈与」したわけでは無い可能性が高いからです(あるいは「贈与」したことを立証することが困難なことが多いです)。その為、遺産分割の手続ではなく、上記使途不明金を取り戻す為には、別途不当利得返還請求訴訟等を行う必要があります(その際も、立証の問題は避けられません)。他方、相続人Aの「寄与分」についても、相続人の要介護度が余程高かった等の事情が無い限り、認められない場合が多いです(一般的に要介護度が2以上になると寄与分が認められやすくなる傾向があるようです)。 いずれにしても、遺産分割は法律上の専門的な問題が複雑に絡んできます。何か不明な点があれば、遺産分割案件を多数取り扱っている当事務所にご相談ください。

2015.10.25

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相続と生命保険

相続と生命保険

弁護士の茂木です。 先月、2回程、保険代理店様向けに相続に関するセミナーをさせて頂きました。 遺言や遺留分の話から、特別受益や寄与分のお話まで、幅広くさせて頂きました。 特に、今回は生命保険を取り扱っている方が相当数いらっしゃいましたので、相続と生命保険の関係についてもお話させて頂きました。 生命保険は遺産相続の対象となるのか? 答えはNOです。 生命保険はあくまで保険契約に基づく固有の権利として受取人に指定されている者が保険請求権を行使することが出来ます。 この取扱いを利用して、保険代理人側においても色々と営業に生かすことが出来るようです。 内容が気になる方がいらっしゃれば、当事務所までご連絡下さい。

2015.06.01

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遺留分

遺留分

弁護士の茂木です。 突然ですが「遺留分」という言葉をご存知ですか。 遺留分制度とは、被相続人が有していた相続財産について、その一定の割合の承継を一定の法定相続人に保障する制度です 簡単にいうと、被相続人が遺言等によってAという相続人に全ての遺産を相続すると定めていたとしても、Bという相続人は一定の割合について遺産から遺留分を承継することが出来るという制度です。 被相続人が亡くなった後、遺言を開けてみてビックリ仰天、「自分には何も相続させないことになっている。」そんなときは慌てず、遺留分の請求をする方法が考えられます。 自分の相続分が全く無いと思ってしまっている方は、まずは一度当事務所にご相談下さい。

2015.03.18

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寄与分

寄与分

弁護士の茂木です。 前回は相続に関して「特別受益」という点を御説明させて頂きました。今回は「寄与分」について御説明させて頂きます。 「自分は親の近くにいて最後まで親の面倒を見てきたんだから、他の相続人よりも多く取り分があるはずだ。」 このような御相談を受けることがあります。法律上は「寄与分」の主張にあたると考えられます。 民法904条の2第1項は寄与分について以下のとおり定めています。 「共同相続人中に、被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から共同相続人の協議で定めたその者の寄与分を控除したものを相続財産とみなし、第900条から第902条までの規定により算定した相続分に寄与分を加えた額をもってその者の相続分とする。」 法律上、寄与分の主張が認められる為には「特別な寄与」である必要があります。 「特別の寄与」とは、被相続人と相続人の身分関係に基づいて通常期待されるような程度を超える貢献である必要があるとされています。 つまり、単に身内として介護しているだけでは足りないと判断される傾向にあります。 遺産分割手続きにおいて寄与分を主張される場合、あるいは相手方が寄与分を主張してきている場合は、一度、当事務所に御相談に来られてはいかがでしょうか。

2015.03.03

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特別受益

特別受益

弁護士の茂木です。 遺産相続の問題を取り扱う際、よく問題となるのが 「相手方が被相続人の預貯金等を、被相続人の生前に勝手に引き出している」 という問題です。 遺産分割協議や遺産分割調停においては、このような引出行為がいわゆる「特別受益」に当たると主張することが多いです。 しかし、特別受益は、法律上、 「遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた」ことが必要となり、これらに該当しない場合は特別受益と判断されません。 実際、裁判所において特別受益の主張を行ったとしても、余程の証拠や、遺産の総額と比べて極端に不公平な取り扱いが為されていない限り、特別受益の主張は認められない傾向にあります。 最終的に、このような使途不明金については遺産分割調停ではなく、不当利得返還請求訴訟で争わざるを得なくなりますが、証拠が不十分な場合が多く、困難な闘いを強いられることが多いです。 後々、このような争いにならない為にも、被相続人の生前にしっかりと意思を確認し、事前に遺言等を準備しておくなどの供えをしておくことをお勧めします。 弁護士法人グレイスでは相続についても集中的に取り扱う家事チームがございます。 ご心配な点がある際はいつでもお電話ください。

2015.02.12

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「遺産分割と遺言」~事前の準備が大切です~

「遺産分割と遺言」~事前の準備が大切です~

主に家事事件を担当している弁護士の茂木佑介です。家事事件は、大きく分けて離婚・離縁等の親族に関する事項と、相続に関する事項があります。今回は経営者の皆様が特に懸念されている相続にまつわるお話です。 被相続人が死亡した際、被相続人が死亡時に有していた財産(遺産)について、個々の相続財産の権利者を確定させる為に、「遺産分割」という手続をする必要があります。遺産分割手続を行うにあたっては、そもそも、何が「遺産」に含まれるのか、「遺産の範囲」を確定する必要があります。 不動産や現金が遺産分割の対象財産となることには異論がありません。その他、不動産賃貸権、損害賠償請求権、株式、社債、知的財産権(著作権、工業所有権、商号権等)や特定可能な動産等も遺産分割の対象となります。 他方、預貯金等の金銭債権は、遺産分割協議を待つまでもなく、相続開始とともに当然分割され、各相続人に法廷相続分に応じて帰属するとされており(判例)、遺産分割の対象財産とはなりません。その他、生命保険金、死亡退職金、遺族給付金等も原則として遺産分割の対象財産とはなりません。 その他、投資信託、貸付信託、ゴルフ会員権等、その実態によって遺産分割の対象財産となるか否かの判断が分かれるものもありますので、詳しくは当事務所にご質問ください。 被相続人が事前に何らの定めもなく死亡した場合、どの財産をどのように分割するかについて紛争となるケースが数多くあります。そのような事態を防ぐ為、事前に遺産分割の対象とする財産と遺産分割の方法を定める手段として、いわゆる「遺言」があります。 一般的によく利用される遺言の種類としては、遺言者が、遺言書の全文、日付及び氏名を自分で書き、押印して作成する方式の「自筆証言遺言」と、遺言者が遺言の内容を公証人に伝え、公証人がこれを筆記して公正証書による遺言を作成する方式の「公正証書遺言」があります。いずれの遺言も、方式と要件を具備している限り有効ですが、後々の紛争のリスクを抑える為には、「公正証書遺言」の方がより適切であると考えます。 以上のとおり、遺言によれば、各相続人の「遺留分」を侵害しない限り、遺産分割の対象とする財産と遺産分割の方法を自由に定めることができます。 もっとも、遺言者が認知症に罹患している場合等は、後に遺言の有効性について争いとなることがあります。そこで、遺言を作成するにあたってどのような準備をすべきか、事前に当事務所にご相談ください。皆様の財産が皆様のご希望に沿う形で分割されるよう、当事務所は最適なアドバイスをさせて頂きます。

2014.12.25

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婚外子の相続分に関する違憲判決について

婚外子の相続分に関する違憲判決について

弁護士法人グレイスの古手川です。 非嫡出子(婚姻していない男女の間に生まれた子)の相続分を、嫡出子の半分とする民法の規定について、最高裁判所が憲法違反という判断をしました。 過去に同規定の合憲性が争われた際は合憲と判断されていたわけですが、今回判例変更がなされました。 もともと、活発に議論がなされていたテーマですが、現代の価値観においては時代に合わない規定だと思っていましたので、最高裁判所が時代の流れを汲んで判例変更したことは意義深いと思います。 今後も、人々の価値観や生活のあり方が変わるにつれて、法律や判例が変更を迫られるケースが増えてくるかも知れません。

2013.09.06

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